〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
「……で、申し開きは?」
「ありません……。この度は誠に申し訳なく、面目次第もありません……」
妹、彩葉とかぐやちゃんの前でそれはそれは美しい姿勢による土下座を決め込む私こと酒寄結葉、今年二十一歳。
額をアパートの床に、それはそれは強く擦り付けています。
「なんといいますか……、身体が勝手に動いたと言いますか……。かぐやちゃんに対して『結婚』とか言ってるお兄ちゃんの姿に堪えられなくなったと言いますか……」
いや、ほんと。今ではなんで私自身、あんなふうに暴走してしまったかがわからない。確かに今でも兄のあの言動にはむかっ腹が立つが、人様に迷惑かけてまであんな行動をするなんて信じられないと言うか。
「まー、かぐや的には嬉しかったから良いんだけどね~? 結局KASSEN中の帝、ずっとカッコつけてたから『でもさっきあんなに焦ってたじゃん』って煽れたし」
私は結局あの後配信の続きが見られないまま自室で「やらかした、やらかした、やらかした!」と自責の念に駆られながらお布団をかぶり続けていたから配信の詳細を知らないからなぁ。
KASSENの試合の結果とか、ヤチヨカップの結果自体は流石に知っているけども。
「彩葉も煽ってたよね? 『偉そうに、素人にうっかりキルされそうになったプロゲーマーが!』って。ね~~?」
「いやっ、アレは作戦って言うか、相手の意表を突く意味でやったというか……。あくまで感情的な煽りじゃなくて、戦略だったっていうか……」
「え~、絶対ウソ! あの時の彩葉、めちゃくちゃムカついた顔してたし!」
「いやいやいや……」
そんな、あり得ない、と頭をフリフリして否定する彩葉とその顔を覗き込んでニマニマするかぐやちゃん……の姿を妄想する私。あくまで妄想、見てはいない。だって土下座しているからね。
……あの後、帝の卑怯な番外戦略によってノックダウンされた真美ちゃんの代わりにヤチヨが彩葉とかぐやちゃんのチームに参加しての試合になったらしい。
流れとしてはヤチヨが暴走した観客、つまりは私の対策の為に現れたが、そしたらこちらのチームメンバーに欠員が出ていることを発見。
真美ちゃんの代わりメンバーになりそうな私は問題行動でアウトを食らっていたため補充も難しく、配信に滞りがありそうなことに気が付き、よければ……、と提案してくれたのだとか。
重ね重ね、ヤチヨには大分迷惑をかけてしまったらしい。今度、菓子折りをもって謝りに行かなければいけないだろうか。どこに住んでいるんだろう。
試合自体の決着としてはギリギリのギリギリまで相手を追い詰めたらしいが、最後にプロゲーマーとしての意地、用意周到さにやられ……と言った風に纏まったらしくどちらにも見せ場があり配信自体も成功だったという。
もう少し詳しく言えば、二本先取制の最大三試合のゲームにおいてプロに舐めプされつつ蹂躙される一戦目、かぐやちゃん主導の奇策で反撃の二戦目。
そして彩葉とかぐやちゃんによる帝の討伐劇と最後は設置爆弾による隙を突かれたプロの意地による逆転劇が詰め込まれた三試合目のてんこ盛り構成。
なんでもこれらを一つの配信、一つの試合に詰め込まれていたことから界隈によっては屈指の名試合であるとも言われているらしい……、というのは今は関係ない話だ。
「はぁ……。お姉ちゃん、なんで私が怒ってるかわかる?」
「それは……。二人の配信の邪魔をしちゃったし、他の人にも迷惑かけたからで……」
「それもそうだけど、違う」
呆れたような彩葉の声。
いや、呆れ以上にその声に含まれているのは……。
「せっかく。せっかくさ、ヤチヨカップを優勝できたのに……。ここまで一緒にやって来たお姉ちゃんが、優勝発表の場に居なかったことに怒っているの」
「彩葉……」
悲しみだ。彩葉の声に含まれている感情は、悲しみ。
――そう、KASSENの試合自体には確かに彩葉たちは負けてしまったが、彼女たちはヤチヨカップには優勝している。
帝とのコラボ配信で大勢の注目を集めた彩葉とかぐやちゃんは、その配信の中でも星のように輝き、大勢のファンを獲得した。その結果がヤチヨカップでの優勝につながった、ということだろう。
あくまでヤチヨカップは期限一か月の間に獲得した新規ファンの数を競う企画。KASSENの勝ち負けはヤチヨカップには直接的には関与をしない。
今思えばあのコラボ配信自体、お兄ちゃんなりの応援であったのだろう。お兄ちゃんは私や彩葉がかぐやちゃんとのつながりを持っていることに気が付いている節があったし。
もちろん、ただ身内だから甘やかしたって訳ではなくって、あくまでそれを踏み台にして跳ねることができるか。輝くことができるか。そういったチャンスを与えてくれていた……、ということだろう。
そもそもヤチヨカップの終了ギリギリにコラボ配信の予定を組む必要なんてない。期間中ずっと、ヤチヨカップ不動の一位の座を離さずにいたのがBlack OnyXだ。何もしなければ、そのまま時間がやって来て優勝もBlack OnyXのものとなっていたはず。
たしかにお兄ちゃんのメッセージの『結婚』まわりの文言の問題やなんやはある。けれど、それ以上にあったのは多分、私たち姉妹への……、応援だったはず。と、冷静になった今はわかる。
そして、だからこそ……。
「ごめん……。ごめんね」
結局のところ私がイチバン子供であった。そう言うことだったのだろう。
兄は家族への不器用ながら確かな愛を示してくれて。彩葉はその兄が用意した踏み台を確かに踏み込み、自身の殻を破ってさらなる飛躍を遂げて。かぐやちゃんは私なんかが守らなくっても自分で嫌なことは嫌だと言えるくらい強くて。
私は少し深く考えることもできなくて、結局暴走しただけ。
「お姉ちゃん……」
「ゆい姉……」
そして二人を唯々悲しませた。本当ならヤチヨカップ優勝という一か月の悲願を遂げて、幸福に包まれるであろう二人から、その幸せを奪い取ってしまった。
何が、お姉ちゃんだ。お姉ちゃんであること自体に酔って、暴れて、傷つけて。姉という肩書を得ただけで舞い上がって。何も持っていないから、何かになりたいってコスプレを始めたのと一緒。
本当に、私は昔から、変わらない。一人だけ愚図の、役立た……。
「えっ?」
「まったく、お姉ちゃんってば……。誰に似たのか」
「彩葉も人のこと言えないとかぐやは思うよ~?」
瞬間、全身が暖かさに満ちる。柔らかく、優しく、甘く、そしてやっぱり温かい。
二人の声が近い。すごく、近い。耳元から直接、蜂蜜を流し込まれているように質量を持って流れ込む。
「お姉ちゃん。今回私たちはすっごく悲しかったです!」
「そうそう! ヤチヨカップ優勝っていう、ハッピーエンドの瞬間で悲しかったんだよ! ゆい姉が居なかったせいなんだからね?」
(ごめんね。お姉ちゃんが……。うぅん。私が、一人空回りしちゃったから……)
つぅ、と頬に何か冷たいものが走った気がする。実際は、わからない。わかりたくもない。
きっとそれを流す資格があるとしたら、私なんかじゃなくて、台無しにされた二人なんだから。
ぎゅう、とさらに全身を包む温かさが強まる。太陽に抱きしめられているようなほどに、暖かい、暖かい、暖かい。
「だからね、次」
「そう、次!」
冷え切った私の心が強制的に温められる。着こんでいた衣、あの日から被っていた自室の布団を強制的に心から剥がされて……。
「次の私たちのハッピーエンドには絶対居てもらうからね! 次も不参加とか、絶対、許さないから!」
「そうだよ! 次こそ三人で最高のハッピーエンドを迎えるの! ゆい姉だけ居ない、ってのは無し!」
「それは……。でも……」
――いいの?
私が、そこに居ても。二人を傷つけた、悲しませた私がまだ一緒に居ても。
役立たずな私は、やっぱり居なくても……。
更に全身を包む温かさは強くなる。もはや暖かいと言うよりも、熱いといったレベルまで火力が上がる。
「当たり前でしょ?」
「かぐやたちはお姉ちゃんが居ないの、寂しいよ。――だから」
恐る恐る、頭を下げてから今日初めて顔を上げる。
さっきまで怖くて、土下座を言い訳にしてみようともしなかった二人の顔を、今度はどうしても見たくなって……。
あぁ……。あぁ……っ。
「「一緒にコラボライブ、やってくれるよね? お姉ちゃん」」
本当にごめんね、二人とも。
そして、……ありがとう。
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