〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
唐突だけれども彩葉とかぐやちゃんが引っ越しをすることとなった。
理由としてはかぐやちゃんの配信で使う小道具に対して今までの彩葉の部屋が小さかったこと、配信活動を行うには壁が薄すぎたこと、すっかり有名人となった女の子が住むにはセキュリティが不十分だったこと……、といろいろとある。
というか、今までにしても女の子一人暮らし用の部屋としてはあの部屋は不十分だったのだ。私としてはいつ強盗なんかに襲われないかと、気が気でなかったし。いくら忠告したり、ルームシェアなんかを提案しても首を縦には振ってくれない子だから。
と、いう訳で今回の引っ越しについては私としても全面的に大賛成なわけだけれども……。
「はぇ~……」
おっきいなぁ、と目の前の建物を見上げる。
その高さはいったいどれほどなのか、具体的な数字は分からないけれども見上げれば首が痛くなるくらい、と言えば伝わるだろうか。
たぶん、上の方は雲とか突っ切ってると思う。わからないけど。パッと見て、このあたりでもトップクラスに高い建物だし。
タワマンって、そういうものじゃないっけ。住んだこと無いから知らないけど、タワーってついてるくらいだし東京タワーとかスカイツリーくらい高いはずだ。
「まさかあのアパートの次がタワマンとは……。これがアメリカンドリームならぬ、ツクヨミンドリーム。恐るべし……」
目の前の悠然とした建物の佇まいに気おされ、仰け反る。無機物のくせしてなんという迫力だろうか。まるで王様や巨人を前にしたような気分で落ち着かない。
というか実際問題、立地や建物の大きさ的にこの付近では賃貸の王様みたいな立ち位置なんじゃなかろうか。お家賃とか、恐ろしくてまだ聞けてないよ……。多分聞いたら卒倒するって言うか、お姉ちゃんも幾らか出そうか? みたいな余計なこと絶対言っちゃうし。
今やトップライバーの仲間入りをしたと言ってもよいほどの人気を誇るかぐやちゃんなら、その配信の収益もすっごいらしいしこのタワマンの家賃の支払いも問題ないんだろうけどもね。
普通に働くだけじゃ、ちょっと厳しそう。私には多分一生縁がない建物だろうね。
「……っと、こんなことしている場合じゃないよね」
あぁ、と今更ながらに約束の時間が近いことに気が付く。腕を翻し、身に着けた時計を確かめれば十時まであと十分程度しかない。
そもそも今日ここに来たのは二人だけでは引っ越し作業が大変だから、と手伝いに来たのだ。大学も夏休み――まぁそもそも私はずっと夏休みみたいなものではあったが――になったし、一日かけてお手伝いできるって提案して……。
自分から言いだしておいて、遅れました、だなんてダサいにもほどがある。遅刻系お姉ちゃんは何時の時代も需要なんて無いのだ。
……だけれどもね?
「知ってはいる、知ってはいるけどさぁ……」
(タワマンって入るの勇気いるんだよな~……)
でっかい入り口と、そこに並ぶセキュリティの為に設置された遠隔による来客確認装置。ドラマとかで見た感じ、あそこのベルを鳴らして守衛さん的な人につながるんだと思うけども……。
(住む世界が違い過ぎてぇ……。こわいなぁ……)
「ゆい姉、全然来ないと思ってたら入り口でビビってたの~~?」
「いやいやかぐやちゃん、タワマンとか今まで縁もゆかりも無かったしさぁ。やっぱ怖いって!」
「私はお姉ちゃんの言ってることわかるけどね。内見に来た時とか、私もビビったし」
「やっぱそうだよねぇ?」
むしろ一切物怖じをしていないかぐやちゃんの方が凄いと思う。感覚としては今まで平民だったのに、急に王族の仲間入りしたようなものじゃないの?
これが大物ってことなのだろうか。配信者として成功したのも、当然の帰結だったのかも……。そう言えばかぐやちゃん、赤ちゃんの頃からだいぶ大物オーラは出てたしなぁ。
てか、かぐやちゃんが赤ちゃんだったのってまだ一か月ちょっと前の話なの? 時間過ぎるの早くない? ……こわぁ。
「でも帝もビビって無かったよ?」
「アレも別枠! ったく、保証人になってくれって言っただけなのに、しきりに『部屋自体買わなくていいのか?』とか聞いてくるし。あの成金鬼め……。どこで覚えた、あの金銭感覚。数年くらい前まで同じ家に住んでたってのに……」
ギリギリッ、と歯を食いしばりながら苦々しそうにそう零す彩葉。
伝え聞きなんだが、なんでもヤチヨカップで敗北したお兄ちゃんはKASSENコラボ配信でのルールを捻じ曲げて、彩葉の願いを聞くと言ったという。
かぐやちゃんが配信活動を続けるうえで引っ越しはマストであると彩葉も思っていたらしく、渡りに船だと引っ越し時の保証人になってほしい、とお願いしたらしいけども……。
返ってきたのは『部屋ごとくれ、じゃなくていいの?』といったトンデモ発言だったらしく、それに彩葉はご立腹とのこと。たぶん、子ども扱いされているのが嫌なんだろう。
まぁお兄ちゃん的には子ども扱いってか、特別扱いしているつもりなんだろうけども。それとも無自覚だろうか。あの人、身内には大分甘いし。
私としては引っ越しの相談とかもしてほしかったんだけれどもね。
ただいくらコスプレイヤーとしてそこそこの収入を得ているとはいえあくまで私の身分は学生。賃貸契約の保証人になんてなれないし、彩葉もそれがわかっていたから相談したくても出来なかったんだろう……。
いや、そうだよね? 私が頼りなかったから言ってくれなかったとかだったらちょっとへこむけど。
「まぁ、ヨロっと始めようかねぇ……」
「そだね、早くしないと終わるの、夜になっちゃうし」
「え~~、まだいいんじゃな~い」
そう言って私がまず部屋の隅にある段ボールに向かい、次いで彩葉が向かいだすが、かぐやちゃんはまだ乗り気じゃないらしく、引っ越し直後特有の何も置いていないまっさらな床に大の字で転がる。
「こーして何もない、ひろーい部屋を堪能できるのは今だけじゃん? もちょっと楽しまないと……、的な、さ?」
「んなこと言って、面倒なだけでしょ?」
「えへっ……、バレた~?」
「バレバレだっての……。かぐやの考えてることくらい、わかるってば」
うんうん、仲良きことは美しきかな。
二人してえへへ、あはは、と笑っている感じ、今の会話に何かしらのネタとか、二人だけの秘密のワードとかがあったのかもしれないと考えるとちょっとだけ寂しいけれどもね。
やっぱり同じ部屋で短くない時間を一緒に生活してきた二人の関係は私との間のそれよりも強く、確かなモノなんだろう。
「まぁでも、この荷物のほとんど全部がかぐやのよくわからないモノだから後で地獄を見るのはかぐやだけだけどね?」
「げぇっ!? 彩葉ぁ、手伝ってくれないの……?」
「始める前から助けを求めるヒトの手伝いはしません!」
「うえーんっ、イジワル! イジワル彩葉ぁ!」
……ただまぁ、それはそれとしてね。二人の相性が良すぎるがあまりに、放っておくとえんえんと二人で漫才モドキをしてしまったりするのも問題、なのかな?
よろしければお気に入り登録、感想、評価などいただければ幸いです
彩葉が通っていた学校のモデルが国分寺高校だと知ってビビっています どうしよう、芦花と真美のことを落ちこぼれ扱いしちゃったよ……
これで酒寄の実家もタワマンでした、とかにならないことを祈ります