〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
今月中の本編完結を目指しています
「はいっ、いち、にっ、さん、しっ! ごー、ろく、しち、はちっ!」
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃ~!!」
「ほいっ、よいさっ、とうっ!」
パンパン、パンパンと室内に肉と肉とがぶつかり合う音が鳴り響く。えっちな意味じゃなく、拍手的な意味合いで。
本日、ヤチヨカップ報酬のコラボライブに向けての練習中であったのだが……。
「お姉ちゃん、動きにキレがなくなってきてるよ! 本番は歌いながらなんだから、息も乱さない! かぐやは遊びすぎ!」
「うぅ……、そんなっ、こといっても、っねぇ! お姉ちゃんっ、運動とかもうっ、何年もやって、っ……、ないんだよぉ! ふひゃっ!」
「おー、ゆい姉すっごい声~……。あ、よいしょっ!」
二十歳までは成長で、そこから先は老化だなんて誰が言ったのだっただろうか。
コスプレイヤーとしての減量、体型維持以外にこれといった運動をしてこなかった自分自身が恨めしい……。
こんなに激しい運動はもうかれこれ何年もしていない自分にとって、短時間にエネルギーを使い切るような動きは厳しいものがある。
体重は減らすモノじゃなくて増やさないモノ。体型は日々の積み重ねがモノを言うから、落とそうと思ったときにはすでに自認よりも底に居る、というのが私の持論だ。
痩せたいときに十キロ走るより、毎日百メートル走る方が断然いい。あくまで数字は適当なモノだけれども、イメージはこの感覚。そもそも運動だけで痩せるなんて土台無理で、日々の食事への配慮も重要だし。
ただもちろんその考えはスタイルの維持、という点では重要な働きをしてくれるのだけれども……。
持久力などの運動素質を養う意味合いでは、ほとんど役に立ってはくれないのが悲しいけれども現実であり、遅効性の毒針としてたしかに今の私に突き刺さっていたのだった。
「ってかなんでっ、彩葉は問題なくっ、踊れるのぉ!? 若さかっ、これが若さかあっ!?」
「若さって……。お姉ちゃんも私も大して年齢変わんないでしょ。私はなんだかんだ言って学校で体育とかあるし、運動が日常と結びついてるからさ」
「学校の体育受けてるだけでっ、歌って踊れるならっ、世のアイドルは養成所行かないと思うなぁッ!?」
こんの、天才め! お姉ちゃん知ってるんだぞ! 彩葉は体育も音楽も成績は最高評価で、体力測定なんて満点なんだってこと!
「かぐやちゃんもっ、つい最近までっ、っふぅ、赤ちゃんだった、じゃんっ! 不公平だぁっ!」
「いやぁ、かぐやは今までも歌って踊って、てのはライブでやってたしね~? 純粋な努力パワーだよ?」
「そりゃあそうだっ! 言いがかりごめんねっ!」
「いえいえ~、お気になさらず~」
そうだったよ。自分も後ろで着ぐるみきながら参加していることも多かったから忘れていたけど、かぐやちゃんはライブ中ずっと歌って、踊ってってやってきたんだった。
……て言うか、それを提案したの私じゃん! 焼肉の時だったかにマイケルおススメしたじゃん! そんでもってかぐやちゃんは言われた通りにそれを真似てみたんじゃん!?
今の、ホント酷い言いがかりだったな。
「というか、かぐやとしては帝相手にあんなズバズバっ、てやてやっ! って斬りつけてたゆい姉が踊れないって方がふしぎー。絶対あっちの方が難しいって」
「アレはっ。自分でもよくわかんないって言うかっ、自分が自分じゃないみたいな感じだったし!」
あの時全身を包み込んだ全能感はなんであったのか。今ではただの錯覚であったんじゃないかと思いもするし。
あの後、かぐやちゃんの『ゆい姉、すっごく強かったよね? もう一回見てみたい!』とおねだりされ、同じくKASSENにて日本刀を腰に据えて動いてみたんだけれども……。
『あれっ、あれぇっ!?』
あの時の軽やかさはどこへやら。腰に据えた刀を抜き出すのにさえ一苦労してしまうし、抜いたら抜いたでその刀身の長さに振り回されるような始末。
火事場の馬鹿力、と言うヤツだったのだろうか。
まぁ理由ははっきりとしなかったけれど、確かな事実として今の私はあの時のように自身の身体の一部の様に日本刀を扱うことは不可能となっていた。
「まぁ、あの動きが出来たからってライブができるとも限らないしね。別に演舞をするわけじゃないし。……っと、そこ。お姉ちゃん、動きが甘いよ」
「ひぃっ! 彩葉がすっごく厳しい!」
「当たり前でしょ。せっかくのヤチヨとのライブで、失敗なんて許されないし」
あっ、彩葉の瞳が燃えているぞ。
私、あの目、知ってるなぁ……。半年ちょっと前に見た気がするなぁ……。
具体的に言うと、ヤチヨのコスプレするって言ったあたりで見た気がするなぁ……。
「今回のコラボライブはヤチヨにとっても初めてのもの。それを台無しにするなんて、一人のオタクとして万死に値するわけ、わかる?!」
「う゛ぇ~~、出たよ彩葉のヤチヨオタクモード! まったくさぁ、すぐ近くにこんな可愛いかぐやちゃんが居るって言うんだから、ヤチヨなんて放っておいてかぐやを推しなよ!」
かぐやちゃんの言葉を受け止め彩葉はピタリ、と身体を止める。先ほどまでリズムをとるために刻まれていた手拍子も鳴りを潜めた。
彩葉は頭だけをぐりん、とかぐやちゃんの方へ向ける。
じっくりと上から下へと視線を移し、舐るようにその全体像を何回も視界に収めて……。
「ヤチヨより、かぐやを推す……?」
「そーそー! お得だよ~? 推しと一緒に暮らす生活なんてオタクがイチバン夢見るヤツだし!」
「――はっ」
「あーーっ! 彩葉が良くない笑い方したぁ! ちょームカつくぅ!」
ダン、ダンッ! とその場で強く地団太を踏むかぐやちゃん。恐らく引っ越し前であったらこの大声と言い、余裕で壁ドン案件であっただろう。ラブコメ的な意味ではなく、御近所問題的な意味で。
「ねぇ聞いてたゆい姉? 彩葉ってば酷くない!?」
「ちょっと、お姉ちゃんに泣きつくのは違うくない!?」
「へへーん、早いモノ勝ちだもんね~! そしてこの場では多数決の法則から、ゆい姉を味方に付けた方が勝つ! かぐやちゃんってば天才! そして~、彩葉の負けぇ!」
「こんの宇宙人が、悪い地球の文化ばっかりを覚えて!」
「あのぅ、できれば揺すらないでもらえると……。そのっ、あの……」
彩葉とかぐやちゃんとの言い合いの決着役として認定されてしまったからか、二人の間で互いに引っ張られ合う。右でかぐやちゃんに引っ張られたかと思ったら、次いで彩葉に左から引っ張られ。
右に、左に、右に、左に。
繰り返されるこの作業に揺れ動く私の脳みそは危険エラーを吐き出し続ける。ついさっきまでのダンス練習でも実は三半規管が死にかけていたって言うのに……。
ボクシングでノックダウンした後に上からマウント取られて容赦なくパンチを食らっているようなものだ。
――つまり、何が言いたいかと言いますとですねぇ、
「うぷっ……」
決壊寸前、って。訳ですねぇ。お恥ずかしながら。
「やばっ、ゆい姉破裂寸前だっ!? 彩葉、袋っ、何か袋ない!?」
「はぁっ!? ちょっとお姉ちゃん、もうちょっとだけ我慢しててね! すぐリビング行ってゴミ袋持ってくるから!」
あとちょっと、って、どれくらいだろう。一分、二分、三分?
それって私の後ちょっとと、どっちが長いのかな……。
「……ッ」
「ヤバいヤバいっ、ゆい姉の顔、真っ青通り越して真っ白だ! 彩葉、早く来て~! 間に合って~!!」
――結局その後どうなったのか。爆発したのか、しなかったのか。爆発はしても、爆散はしてないのか、それともしてしまったのか。
乙女の尊厳として、完璧なる黙秘を求めさせていただくことをココに宣言させていただきますのでした。
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間に合ったかどうかは、皆様のご想像にお任せいたします