〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
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……ずっとヤチヨを避けてきたせいで台詞が難しい
「う~、緊張する」
「私なんてごはんが喉通らなかったよ……」
「あらら、彩葉もゆい姉もひっどい顔してる」
いつもの如く時間が過ぎ去るのは早いもので、気が付けばヤチヨとのコラボライブ当日となってしまった。
現在は楽屋にて私、彩葉、かぐやちゃんの三人で開演までの時間を待っているのだけれども。これからいったい何万人の前に出るのかと、そう想像するだけで吐きそうなほどに緊張が込み上げてくるのだ。
「ゆい姉はコスプレ活動で大勢の前に出るのって慣れてたりしないの?」
「うぅ……。コスプレしてる時はコスプレしてるキャラになり切ってるつもりだからあんまり気にならないんだよぉ。酒寄結葉として人前に出るのなんてほとんど初めてでぇ……」
それにいくらイベントでも自分を見ている人の数が万を超えることは稀だし。公式番組とかに出ればそう言うのもあるんだろうけども、流石に就活をついこの間までやっていた大学生がそういった番組に出るのは問題かなって思ってだいたいは断ってきてたし。
「「うぅ……」」
「おぉう、こうしてみると彩葉とゆい姉ってばそっくりだ」
そりゃあ、まぁ、血の繋がった姉妹だからなぁ。私と彩葉はお母さん似、お兄ちゃんはお父さん似、って感じの遺伝したからね。昔からいろんな人に、双子かな? って言われたくらいにはそっくりらしい。
今でこそ二人とも成長したから間違えられることもないけれども。
「彩葉も年取ったらゆい姉みたいな感じになるのかなぁ」
「その言い方だと私、すっごいおばあちゃんみたいだなぁ」
彩葉の加齢バージョンって、それは褒めてくれているのか、それとも貶しているのか。多分褒めてくれて入ると思うんだけどもね。かぐやちゃんの中で『彩葉』って言葉は最上級の誉め言葉に分類されてるっぽいし。
多分、私も彩葉も歳を重ねたらたどり着くのはお母さんみたいな感じだと思うけれどもね。あの人、年齢に対してめちゃくちゃ若いし、いつかの自分があんな感じになれるならそれは喜ばしい事なのかもしれない。
「そもそも、彩葉がいっくら今から成長してもゆい姉みたいな感じにはならないよね~」
「……まぁ、かぐやに同感。なんでウチの家系からお姉ちゃんが生まれたのかが謎だし」
そう言って二人してこちらを……。正確にはこちら側の一点を見つめだす。
「ゆい姉って、おっきいよねぇ。背も、胸も……」
「多分お姉ちゃんは酒寄家の突然変異種だと思う」
「突然変異って、今度は珍種扱いかぁ……」
中学卒業までは今の彩葉と本当にそっくりだったんだけどねぇ。急に成長期が来たのか、そのあたりから一気に体が成長しだして……。気が付けば、こんな感じですよ。
ちょうどその頃から他人から彩葉と双子って勘違いされることも無くなったし。
というか私が中学卒業する頃って彩葉がまだ小学生だったはずだよね。今になって思うけど、当時の私ってそんなに幼く見えたのだろうか。それとも彩葉が大人びていたのか。
できれば後者が嬉しい。中学卒業するころの自分が小学生とそっくり、ってなんか恥ずかしいし。
「私としては彩葉が羨ましいよ……。ザ、黄金比って感じでさ~?」
昔ほど偏見って言うのは減っては来ているけども、それでも女の子で背が高いとやっぱり目立つし、珍しいモノを見る目で見られるんだよねぇ。高身長を売りにするタイプのモデルさんもいるけど、そういった売り方ができるかっていったらそうでも無いくらいの微妙な高身長だし。
胸とかも大きいと運動の邪魔になるし、肩こり酷いし、可愛い下着が少ないしでいいことないし。
その点、彩葉はめちゃくちゃ女の子の理想形って感じの体型してて羨ましい。今更ながらに思うけど、昔はそっくりだったって言うなら、今でもそっくりでいて欲しかったよ。
あの頃は今以上にコンプレックスが酷くって、彩葉にそっくりって言われるのが嫌だったから成長し出したのが嬉しかったんだけどさ。失って初めて気が付く大切なモノ、ということなのだろう。
「……まぁ、ライブ前に下世話なお話はやめとこ?」
「それもそだね……。なんかお腹空かない?」
「急だな、オイ」
そういってお腹の辺りをわざとらしく抑え込むかぐやちゃん。『アイム・ハングリー』のポーズなのだろうか。もしくは『お腹、ペコペコ』のポーズなのかもしれない。
どちらにしても、ライブ前に空腹を感じるだなんてやっぱりかぐやちゃんは大物なんだなぁ、と思わさせられる。
「うーん、でももうライブも始まるし今からご飯食べるのは無理だよねぇ。時間も時間だから身体にも悪いし……」
「食べてすぐ三半規管刺激したら吐いちゃうでしょ? 我慢しなさい」
「えぇーっ」
バターン、とかぐやちゃんが後ろに倒れ込む。頑張ればカップラーメンくらいなら食べられるかもだけどもね。流石にライブ直前に食べて本番でリバースとか、問題も大問題だし。
今私たちが居るのは〈ツクヨミ〉の楽屋だけれども、リアルにある身体は引っ越したばかりの彩葉の部屋だからなぁ。流石にそこで吐かれるのはヤバい。
「まぁまぁ、かぐやちゃん。今すぐは無理だけどさ、明日、今日の打ち上げにどこか美味しいモノ食べに行こ? かぐやちゃんは何食べたいかな?」
「マジで?! さっすがお姉ちゃん! ならかぐや、パンケーキ食べたい!」
「パンケーキね、オッケー」
ちょっと前から思っていたけども、かぐやちゃんは割とパンケーキが好きみたいらしい。
パンケーキで言うと彼女を拾ったばかりの頃のパンケーキ事件を思い出すけども、あの時も一瞬にしてパンケーキを大量に食べたらしいしね。
彼女にとって、パンケーキって言うのは特別な……
「いーなぁ、パンケーキ。ヤチヨも食べたいなぁ……」
「ぬわぁ!?」
「出たな、ヤチヨ!」
先ほどまでのグロッキーな声とは打って変わって何段階も高い叫び声を放つ彩葉。その声はオタクな友達が度々解き放つそれと同じもので、酷い既視感がある。
いわゆる、オタク限界化の咆哮、といったものだろうか。よく推しアニメの放送後なんかにSNSに文字として掲載していたり、イベント会場での供給過多にリアルで叫んでいたりするアレ。
まさか妹の口から出るトコロを目の当たりにするとは……。
「なになに、パンケーキがどうしたの? ヤッチョにも教えて?」
「何って……、今日の打ち上げにゆい姉が連れてってくれるんだって。良かったらヤチヨも来る?」
「およよ……。お誘いは嬉しいのだけれども、ヤチヨは電子の海の乙姫なので行きたくても行けないのです……」
そう言って涙のエフェクトが出現するヤチヨの目元。二つのフラスコが揺れ動くようなその演出は傍から見ているとシュールである。
彩葉は突然の推しの出現に魂が抜けてしまったのかその場で固まっているし。これから彼女とライブをするって言うのに、大丈夫なのだろうか。
まぁ、長年の推しが目の前に急に出てきたらこういう反応も致し方ないのかもしれないけども。
……と、観察はここまでにしておきまして。私は私で彼女に用があったのだ。
結局、この前の件から話をすることは無かったから……。
「その……。この間はごめんね、ヤチヨ。迷惑かけちゃって」
件のKASSENへの乱入の件では、それはそれはヤチヨに迷惑をかけてしまった。
直接謝りに行きたかったんだけども、そもそも大人気な彼女に会おうと思って会えるものでもないし、じゃあメッセージで謝ろうにも、メッセージで済ませるには事件が大きかったし……。
それで結局なにも言えないまま今日まで来てしまった。我が事ながら、二重の意味で恥ずかしい。
「いえいえ、お気になさらず~。ヤッチョもあくまでアレはお仕事でしただけだからね~」
そんな私の謝罪の念は届いてくれたのか、どうなのか。
それを確かめる術は私には無いけれど、彼女はこちらの眼を一度ジッと見つめた後、私にそう言ってくれた。
朗らかに、優しく、暖かく。いつか彩葉に見せられた配信画面上の彼女のように、正しく多くの人間を虜にするお姫様みたいに……。
「今日はライブ、よろしくね。ゆい姉……、さん?」
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今話で本作の伏線的部分はすべて登場したので、今後の展開を予想してみてもらえると嬉しいです