〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
今話の詳しい話は次回
今はもはや記憶も薄い、遠い昔の話。自分自身でさえ意識して思い返すことはできない頃の話。
私の夢はこっぱずかしいことに、アイドルでした。テレビの中で踊り、歌い、輝く彼女たちの姿がどうしても脳裏から離れなくて。
いつか私も、あんな風になりたいなって……、そう思っていたのです。
幸いと言うべきか、私の生まれた家は音楽に対してだいぶ寛容な家であったため私のそんな夢も馬鹿々々しい、と笑われることなく、むしろ「がんばれ。いつか夢がかなうよ」と、そう言われて育てられてきました。
愛されていたんだと思います。きっと。
そんな分不相応な夢を抱いていた私でしたが、妹が居たのです。名前を酒寄彩葉と言いました。
彼女は様々な才能を示すいわゆる天才でしたが、そんな彼女が当時熱中していたのがピアノでありました。ヒマさえあれば自宅にて電子キーボードを取り出して、演奏に熱中するよう日々。それはそれは楽しそうに演奏をしていて、私はそんな妹の笑顔を見ることが好きでした。
そして彼女の興味は演奏だけに及ばず、次第に作曲の方面へと伸び始めたのですが……、これも幸運と言うべきでしょうか、私たちの父はその手の知識への造詣が深かったのです。
作曲に興味を示した彩葉、そんな彼女を支え、そして共に楽曲を創り上げる父。それを後ろから幸せそうに見つめる母と、好きなサッカーに勤しむ兄、そして私。
楽しい日々でありました。
そんな日々を送っていた中、幼い私は思いつきました。私はアイドルを目指している。妹は曲を作っている。
それはすごく短絡的な思考でしたが、当たり前の帰結であったとも思います。
『いつか彩葉がお姉ちゃんのために曲を作ってね?』
何のつもりもない言葉でした。ただの思い付きのような発言でした。アイドルには歌が必要だから、ちょうどよく歌を作る妹に作ってもらうのがいいじゃん! くらいの考えでした。
――しかし、そんな何てことの無い発言こそが私のそれまではただの憧れでしかなかった想いを、明確な将来の夢へと押し上げたのです。
妹の作った曲でアイドルになる。それが当時の私の夢となったのです。
……ですが人生というものは幸福が続き続けるものではありません。山があれば、谷がある。上昇すれば、下降する。それが世の常というものでしょう。
父が急逝しました。
当時の私は幼かったことから、人の死というモノを完全に理解はしていませんでしたから父が死んだと言われても、ピンとはきませんでしたが、二度と父と話すことができないのだと浅く事態を理解した時、涙が止まらなくなりました。
母からは葬式場で泣くな、とそう叱られたような気がしますが、それでも涙が止まることはありませんでした。その時に聞えた母のため息は、今でもしっかりと思い出せます。
それから私たち家族の在り方は変容しました。
母はそれまでのように穏やかな人ではなく、ツンケンとした針のようになりました。
今になって思えば女手一つで三人もの子供を育てる、そしてその子供三人ともに強い子に育ってほしいと言う想いがあったのだろうと察することはできますが、当時の幼い私には優しい母が急に鬼へと転じたようにしか思えませんでした。
母は強さを尊ぶような人でした。結果を尊ぶような人でした。
その強さとは人間としての能力、技能は言うに及ばず、精神的なものも含まれていましたし、結果とは絶対的な順位を指していました。
恥ずかしいことながら私は兄や妹に比べて出来が悪く、よく母に叱られていました。
今日はテストの点数が低い、今日は運動会の成績が悪いなんて感じで、毎日のように怒られて。怒られない日の方が少ないくらいで。
上の兄ならこれくらい出来た。下の妹でもこれくらいはもう出来る。なのになんでお前は出来ないのか、とそう日々詰られていました。
要領のいい兄は母の勘に障るであろう部分はカバーして、天才な妹はその能力をいかんなく発揮して。それでも叱られるときは叱られていましたが、それでも私ほどではなかったと思います。
……そんな二人のことが、私は次第に嫌いとなっていきました。いえ、嫌いと言うのは違います。
ただただ、羨ましく、嫉妬するようになったのです。同じ家族なのに、兄弟、姉妹であるのになんで私だけ、こんな……。と今となっては恥ずかしい気持ちですが、兄と妹に向けるべきでない感情を抱くようになっていきました。
しばらくして兄は私や彩葉のために大好きであったサッカーを止めました。母に怒られている時の私や彩葉の間に挟まれるよう、出来るだけ家に居れるようにしてくれたのだと思います。
……ですがやはり当時の私は兄に対してあまりよくない感情を抱いていたので、常に家に居る兄の存在が疎ましく思ってしまっていました。
妹も妹で、前まではあんなに好きであったピアノに触れることすらなくなっていました。それは父のことを思い出す、ということもあったのでしょうが、おそらく母との衝突も原因の一つであったのでしょう。
結果を重視する母に対し、音楽を楽しむことを是としていた妹のスタンスは水と油のように弾き合うしかなかったのです。
対して私ですが……。私は何かを止めた、なんてことはありません。だって、そもそも私は何もやっていませんでしたし、何も持っていませんでしたから。
やはり、兄や妹とは違ったのです。自分の柱となるものを持っていなかったから、捨てることもない。
ただ日々、母に叱られたくないと勉強に勤しむだけ。時間だけはありましたから。やはり何も持ってはいなかったので。
ですが、何も捨てていない私でしたが、たった一つ。
たった一つだけ、見失ったものがあります。
それは……、そう、夢。ただの幼い日に見た夢。
妹の作った曲でアイドルになる、なんて馬鹿げた夢を……。
それこそ夢の中ですら思い出すことはなくなっていたのです。捨てたわけでは無くて、見失っただけ。やはり私だけ、三兄妹の中で不出来であったのです。
そんな私も時間が立てば見た目だけは成長をします。
中身は昔と変わらない出来損ないでも、周りから見れば大人の一員へと向かっていく。
私は大学生となりました。
母に苦手意識を抱いていた高校時代の私は、できるだけ母の下を離れたいとそう思っていたので東京の大学へと、早々にAO入試を使ってまで進学先を無理に決めたのです。
受かってしまえば、推薦である以上自己都合による入学拒否は通りませんから。受かったと、そう後報告すればいいのではないか、と思ったのでしょう。当時の私は。
自分のことながら、あの頃は殆ど反射的に生きていたので、自分の思考すら思い出せませんから、多分、としか言えませんけども。
私は大学進学をしてすぐにコスプレ、というものにハマりました。
それはきっと、醜い願いでありましたが、ただ私は……。
特別な何か、になりたかったのです。兄や妹のように、特別な何かに。何の取柄もない、人の記憶にも大して残らない、そんなつまらないだけの人生で幕を閉じることに漠然とした恐怖を抱いたのです。
そんな私の歪んだ願いを叶えてくれたのがコスプレだったのです。
架空の、空想上のキャラクターになり切って。自分が自分でないように振舞って。
普段の冴えない自分ではなく、物語の中で綺羅星のように輝く何かに成れる……。そんなコスプレへとハマっていきました。
……情けない話ですけれども、こんな酷い過程でハマったコスプレのおかげで今は大分コンプレックスや兄妹への嫉妬は収まってくれました。
別のキャラクターになり切ることで改めて、酒寄結葉と言う人間の醜さを目の当たりにしたからです。私と言う人間のくだらなさに、第三者視点となることで初めて気が付けた。
そしてそれは自分と言う人間を初めて、諦められた瞬間でもあったのでしょう。
どんなに特別に憧れても、酒寄結葉では役者不足。ただの石を磨いても、ダイヤモンドには遠く及ばない。それに気が付いただけ。
……しかし、ですが。この時の私も覚ったつもりで居て、結局大事なことには気が付けていなかった。
あくまで私が気が付いたのは父が亡くなり、母に怯えるようになってから得た強迫観念と妄執の醜さだけ。後から身体に纏わりついてきた泥を、ようやく振り落としたに過ぎない。
そうではなくて。私が……。酒寄結葉と言う人間は、もっと気が付くべきことがあったというのに。それに気が付かず、見て見ぬふりをして過ごしてしまった。
それは……、私の原点。
私と言うくだらない人間が抱いた唯一にして、最大の夢。
幼いあの日に、幸福な家族の中で勝手に誓っただけの将来の約束。
(そっか、私は……。ただそれだけが、願いだったんだ)
舞台に光が差し込む。この場にはたった二人だけの姿が在るだけ。
まったく同じ格好をした二人の月のお姫様思い思いに、背景で流れる音楽に身を任せて踊り狂い、歌い狂う。
その場に向けられる視線は無数で、きっと累計したら数十万人へと昇り詰めるだろう。
歌う、歌う。踊る、踊る。
それこそ遥か昔に抱いた夢の……、アイドルのように全身を使って表現をする。
惜しむらくは、私が表現をしているのはあくまで酒寄結葉と言う人間ではなく、かぐや姫のドッペルゲンガーとしてという点だけれども。
それでも文句は言うまい。言えるはずもない。
――今日こそが私の絶頂期だ。
歌が流れる。涙が流れる。古い記憶が脳裏を流れる。
私は叶えた。願った形では無かったけど、確かに叶ったのだ。古い夢の誓いを。
(彩葉……、ありがとう)
愛しい妹の一人が作り上げた最高の音楽を前にして、ようやく私は思い出せた。
きっとそれは遅すぎたのだと思う。この数か月、なんども彼女の曲を聴く機会はあったというのに、思い出したのはこの土壇場だ。
やっぱり私は出来が悪い。
(……これなら私は。私は私を諦められる)
古い記憶を思い出せた。いつかの約束を叶えてもらった。分不相応の夢も遂げてしまった。
これ以上は望み過ぎだろう。満腹な私が貪欲にこれ以上を腹に詰めていい道理はない。そこから先はすべて余分だ。
――だから、
「逃げてね、かぐやちゃん。どこか遠くに、遥か遠くに。無理なようでも、きっとあなたと彩葉なら大丈夫だからさ!」
ここから先を望んでいる可愛い妹のためならば、この身を奉げたっていい。
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今話は主人公である酒寄結葉というキャラクターについての話でした
以下に簡単にですがまとめておきます
・結葉の夢の原点は彩葉と父が作った曲でパフォーマンスをするアイドルでした 二人が曲を作って、私が踊る そんな、どこにでもある幼い少女の夢
・しかし父の急逝により母は豹変、日々優秀な兄や妹と比較され続け、二人に嫉妬を抱くようになりそんな夢も忘れていきます
・漠然とした残り火になった彼女の夢は前記の嫉妬により歪められ、特別な何かになりたいという想いへと変貌
・結果としてコスプレイヤーとして、自分ではない特別な何かになりきることで自身を慰めていた
……みたいな感じです