〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
視点が入り乱れますので、ご注意を
※なんか普通にかぐやの引退ライブ回に入りましたが、そこら辺の会話は彩葉とかぐや間でのみ行われたと脳内補正していただければ……
「ねぇ……」
「ん、どした?」
かぐやの引退ライブ当日。開演の時刻を待っていた私は近くに居た兄へと声をかける。
「お姉ちゃんの作戦って、うまくいくかな?」
少し前、〈ツクヨミ〉にてかぐやを月の奴らに連れ去られないための作戦会議を行った私たちであったが、そこで姉である結葉は最後に特大級の提案をしてきた。
それは戦力として不安定であるから、という前提ではあったが、とはいっても明らかに常軌を逸しているというか、はっきり言って大分頭のおかしい作戦で。
それがどうしても気にかかる私は不安で、だからきっと近くに居た兄に尋ねたのだろう。少しでも安心したいから。
「あ~、まぁ。どうだろうな……。勝率がないってわけじゃないけども。ゼロじゃあないけど、高くはない、って感じじゃないか?」
「そっか。そうだよね」
今この場に居るのは私と兄、兄のグループのメンバー二人と芦花と真美の計六人。ヤチヨは宣言通り今日は裏で〈ツクヨミ〉の維持を行うらしいので当然不参加。そして唯一あの場に居ながらここには居ない姉は……。
「ま、上手くいけば儲けモンって感じの作戦だしな。そもそも、オレ等が敵を全部倒しちまえば関係ねぇし」
そう言いながら私の背中をバンバン、と強く叩く兄。恐らく、鼓舞のつもりなのだろう。
痛い痛い、と言い返しながら私は背中に確かに灯る熱を感じる。本来の兄ならば決してやらなそうな行動だというのに、私に流れ込んでくるこの暖かさは確かに兄の熱。そんなアンバランスさに、なんだか笑ってしまいそうになる。
「それよりもオレとしては、アイツが無茶しないかの方が心配だわ」
「無茶? それって?」
しかし兄は何か気にかかることがあるのか、その表情は真剣そのもの。私たちが隠れる舞台裏から、本日のステージとなる天守閣の方向をキッと睨んだ。
「アイツは昔っから自分を軽んじるって言うか、見下しているって言うか……。何か変なタイミングが合ってしまえばそれこそ……」
「……?」
兄の見つめている先、その言葉の向かう先が誰だかは当然分かる。その瞳に誰が映っているかなんて、尋ねる必要もない。
だけれども、私の中でのあの人の像は今しがた兄が下した人物評とは異なると言うか……。たしかに近いところはあるけれども、そこまで致命的だとは思えなくて。
その違和感から、どうしても同じ人物を思い浮かべているとは思えなかったのだ。
だからそれが、彼女。自身の姉である酒寄結葉なのか、と確かめようと口にして……
「いや、悪ぃ。オレの思い違いかもな」
そんな風に、曖昧な笑みを浮かべる。
私はその不出来な口の端を吊り上げただけの笑顔モドキをどうしてか、心配に想いながら見つめてしまうのであった。
私の引退ライブまであと数分もない。ステージに上がる準備はもう終えたし、発声の練習も何回も行った。
私はそんな中、これまでの短いけれどもとっても楽しかった毎日を振り返る。
最初は赤ちゃんとして彩葉に拾われたのが始まりであったか。その後は彩葉が緊急要請としてゆい姉を呼び出して。
二人がかりで幼いかぐやを育ててくれた。今でも彩葉がミルクを与えてくれたあの日、ゆい姉がオムツを交換してくれたその日の記憶は根強い。
そんですぐ私はしゃべれるくらいまで成長して……。
彩葉たちとお話ができるようになって、それで私の地球での人生は始まった。
かぐやが我が儘を言って怒る彩葉。かぐやを甘やかしてくれたゆい姉。
嫌だって最初は言ってても、かぐやがおねだりしたら結局折れてくれた彩葉。しっかりしているようで、どこか抜けていたゆい姉。
お母さんとは仲があんまりよくない彩葉。実はこっちもお母さんに苦手意識のあるゆい姉。
自分を責め立てちゃう彩葉。自分を責め立てちゃうゆい姉。
二人は顔もそっくりだったけど、その性格もそっくりで。かぐやはそんな二人が大好きで。
そんな大好きな二人と一緒に暮らせたことが嬉しくって、嬉しくって、嬉しくって。楽しくって、楽しくって、楽しくって。
それに二人だけじゃなくって、彩葉の友達の芦花や真美とも友達になって、いろいろな所に遊びに行った。海や学校、テーマパーク。彩葉はやっぱり最初は嫌そうにしていたけど、でも最後は折れてくれて、一緒に来てくれたんだ。
ヤチヨカップがきっかけで始めた配信活動も楽しかったな。
最初こそヤチヨに嫉妬しちゃって始めたことだったけども、気が付いたらそれがかぐやの当たり前になっていたんだ。
配信でオタクのみんなとお話するのは楽しいし、配信のネタだって言い張ってゲームしたり、料理したり、花火したり、ロケット飛ばしたり。
思いつく限りの面白い、をやってくるのに、ライバーって言うのはまさに完璧の選択だったなって、今になって思う。お金の使い方にうるさい彩葉も、配信を言い訳にすればある程度許容してくれたし。
帝たちとは……、直接的な想いでって感じのは無いけど。それ関連で言うとKASSENはすっごく楽しかったな。知らない人と対戦する、って言うのも楽しかったし、知っている人とレートを上げる為に潜るってのもまた違う楽しさがあった。
でもやっぱり一番は、彩葉とヤチヨの二人とチームを組んだあの日のKASSEN。
試合の結果こそ負けで終わっちゃったけどもね。あの日から、私と彩葉は本当の意味でパートナーってなれたんだと思う。「かぐやの考えてることなんてわかる」だなんて、彩葉ってばかぐやのコト好きすぎ、なんて、ね?
それで言うとその時のリベンジができないままって言うのは、ちょっと残念かな。帝のヤツには今度こそ、土をつけてやりたかった。
あとは、やっぱり……うん。ライブのことは欠かせないよね。
最初はホント偶然、かぐやが彩葉の電子キーボードを引っ張り出したことだったけども、まさかそこから彩葉が私の為に曲を作ってくれるようになるだなんてさ。思っても見ていなかった……。
なんてウソ、いつか絶対彩葉にかぐやのための曲を書いてもらう! だなんて、思っていたし。
やっぱり彩葉は忙しくって、一からオリジナルで曲を作るってことは難しかったけども。逆に昔の彩葉が作った曲から彩葉を感じるのが楽しかった。ここのフレーズは、すっごく彩葉っぽいな、なんてさ。
そういうのを見付けてはいつもテンション上がっちゃった。
――本当、毎日、毎日が宝石のように楽しかった。
いつか私は彩葉に、月に帰っちゃうかぐや姫のお話はバッドエンドだって言ったけどさ。それはたぶん、間違ってたんだよね。
だってかぐやは、今日までずっと楽しかった。一分一秒、全部が全部、超っ楽しかった!
赤ちゃんとして目を開いたあの時から、今日、今ここに至るまでがずっと幸福で。そんでもって、これからもうちょっとの時間は最高が続いて。
そんでもって、最後は、月に……、帰る。
じゃあそれってつまり、かぐやは地球に居る間はずっと最高だったってことで、かぐやの地球での物語は完全無欠のハッピーな物語だったってことじゃん。
そんでもってハッピーな物語の終わりはやっぱり、ハッピーなエンドしかないし。
これから私たちが迎える結末も、それはきっとハッピーに満ちた、最高の結末なんだよ。……きっと。
この名残惜しさも、口惜しさもいつかはきっとハッピーを飾る装飾品になってさ。甘過ぎよりも、ちょっぴり塩味が入った方が全体の完成度は高い! みたいな。
終わり。終わり、終わり、終わり。物語の終わり。
決して来てほしくはなかったけども、来てしまった以上は致し方ない。この結末を十分なハッピーエンドって言えるくらいには、かぐやの毎日は幸せだったから。
ゆい姉がいた。芦花が居た。真美が居た。ヤチヨが居た。帝が居た。他にもいっぱいいて……。
そんでもって、やっぱり……。彩葉が、居たなぁ、って。
どうしても地球で関わった人たちの顔を思い浮かべようとして、結局気を抜いたら思い浮かべるのはたった一人だけの顔。
目を閉じて〈ツクヨミ〉から一時的に離脱して、リアルの感触を強く感じる。
私の横でいつものように、一緒に座ってくれている彼女の存在を。温かさを。柔らかさを。
それだけで私は勇気が持てるのだ。
「よし……ッ」
時間になる。引退ライブの幕が開く。
引退って言うのは寂しいけれど、悔いはないような配信を心がけてきた。今日、迎えが来ることを知ったあの日から、やりたいことリストなんて作ってまで消化していったし。
あとは今の時点でハッピーなエンドを、最後の最後に特大花火で飾って、完全無欠のパーフェクトハッピーエンドにしちゃうだけ。
あぁ、花火と言えば……
(彩葉と見た花火、綺麗だったなぁ。――もう一回)
もう一回は、無い。だから考えない。考えるのは今日のことだけ。今日のことさえ考えれば、私は良いのだ。
――そうして今度こそ、かぐやの引退ライブが幕を開く。
「……えっ?」
自身の目を疑う。
まさかこれは空想か、妄想か。はたまたこれは現実か。眼を何回かパチクリと瞬きするが、疑念は掻き消えない。
かぐやはライブ開演時刻となりライブステージとなる天守閣に現れたのだが……。
その城下に見慣れた人影を見付けたのだ。
あれは……
「彩葉っ!」
それに、他のみんなも! あんな、あんな……。KASSENの時のように武装をして、かぐやの居る城を守るように並び立って。
いや、違う。ように、ではない。これは守っているのだ。かぐやを、みんなが!
「もし勝っちゃったらさぁ!」
あぁ、聞こえる。あの大好きな声が。大きな声を出す時に、一度息を吸い込んでから吐き出すように響かせるあの美しい声が。
あの声で、彼女に着けてもらったこの名前を呼ばれるのが何よりもうれしかったから、間違えようがない。
「パンケーキ! 作って食べよう!」
あぁ。あぁ――、あぁッ!
それだけで私は十分だ。それだけで脚の震えが掻き消えて、背筋がピンッと伸びてくる。
(あぁ、ダメだ――。ハッピーエンドに涙は、ダメ)
気を抜いたら涙がこぼれそうで、気合で耐え忍ぶ。幸せな結末に重要なのは一に笑顔で、二に笑顔。そしてやっぱり三も笑顔だから。
――最初の楽曲のイントロが流れ始める。最後の時間が始まってしまう。
(来たんだね……)
それと同時に遠くの方に、今では見慣れた格好の人たちが見えてきた。つい最近まですっかり忘れていたんだけど、今となっては見覚えしかない彼ら。
私が仕事を残してきてしまった、月の人たち。
そのことに申し訳なさを感じながら、それでもやっぱり抵抗だけはさせてもらう。
かぐやはやっぱりかぐや姫だったから。
わがままなお姫様だったから――、最後の最後まで欲深怪獣でいさせてもらうんだ。
そして歌い始めようとして……。まだ敵影が遠くにあるからって、きっと気を抜いてしまっていたのだろう。
「えっ――?」
こちらに伸びてくる、白い腕に捕まれてしまった。
(これで、終わり……?)
あぁ、そんな結末ってあんまりじゃないだろうか。期待させるだけさせといて、ラストはこれってさ。
まだ一曲も歌ってないのに、捕まっちゃうなんて……。
苦し紛れに無礼にも腕をつかんできたヤツの顔を睨む。変身ヒーローの変身シーンに攻撃をしていいわけがないってのに。月の奴らに地球のお約束は通じなかったのか。
一言くらい、文句をいったって罰は当たらないだろう。
――しかし私はその腕を掴んできたヤツの顔を見て、言葉を失ってしまう。
「それ……、は」
そこに立つのは一人の亡霊。
ホラーゲームの中から出てきたような巫女服に身を包んだ、能面の怪異。手には鈴まで持っていて、まさに、って感じのそんないで立ち。
きっと何も知らなかったら私は勘違いしていただろう。
その恐ろしい見た目と、白を基調とした見た目は月の住人とそっくりだったから。私の知らない、新種でも生まれたんじゃないのかなって。
でも、違う。その見た目は、違う。絶対に違う。
だって、だって、だってだってだって――!
「そのお面は――!」
私が初めて、〈ツクヨミ〉に来た時に買った――!!
瞬間、能面の怪異は右腕を顔面へと向け……。その面を剥ぎとり、懐に仕舞い入れる。
周囲にあふれ始める白い煙。モワっと立ち込めるそれは朝方の霧の様。
その中心に一人分の人影がすぐさま現れてきた。
「これでも私、タヌキですから……」
びゅう、とどこからともなく強い風が吹き込み始め、霧はドンドン晴れていく。
「一度くらい、化けてみないと……。でしょ?」
煙は晴れ、人影は影から像へと実体を獲得しだす。
そこに立っていたのは……。
「ゆい姉!?」
「ノー、ノ―。今夜限りは私は酒寄結葉じゃなくて……」
私のコスプレをした……。
「もう一人のかぐや姫だよ!」
ゆい姉であった。
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ようやくここまで来れました この二次創作を始めた理由がようやく書けます
今夜中にもう一話投稿したいと思っています