〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
なんでも本編は今月中に終わりそうとか言ったバカがいるそうですが、全然そんなこと無さそうで焦っています
今回は独自解釈多め
かぐや引退ライブから翌日の夜。私たちは再度〈ツクヨミ〉に集合していた。
集まったメンバーは私とお兄ちゃんたちBlack OnyX、そして芦花と真美の六人。ヤチヨは昨日の復旧作業、および人気ライバー引退の穴埋め作業がまだ残っているとのことで不参加。かぐやは万が一〈ツクヨミ〉にログインして、奴らに捕まったら目も当てられないからお留守番である。
「……で、結葉の部屋に行ったがもぬけの殻だったと」
「うん」
あの後、すぐにわたしとかぐやはお姉ちゃんの住むアパートへと向かった。
私たちが住む部屋からお姉ちゃんの住むアパートはそこまで遠いわけではなく、電車をつかえば三十分くらいで移動できる距離。夜の遅い時間帯ではあったが、終電前で助かった。
移動途中は生きた心地がしなかったが、かぐやが私の手を握ってくれたことでなんとか正気を保てていた。きっとかぐやも気が気でなかっただろうに。
電車移動の後からは徒歩を使い、お姉ちゃんの部屋の前に着いた私たちはあらかじめ貰っていた部屋の鍵を使い、中へと入ったのだけれども……。
「あったのは電源のついたままのパソコンと……、服」
「服……?」
震える手を抑え込みながら、なんとか鍵穴に鍵を差し込み回してロックを解除。室内の電気は付いたままで、夜遅くだが明るかった。
だから私たちは苦労することなく、玄関で靴を脱いでリビングへと向かったのだけれども……。
室内にあった目立ったものは部屋の中心に置かれた立ち上がった状態のパソコンと、不自然な状態で脱ぎ捨てられていた衣服たち。
「あれは、まるで……」
その場から、人間だけが消え去った様な。そんな、脱ぎ捨てられ方……。
「……」
私からの報告を聞いてお兄ちゃんは眼をつむり、腕を組んで黙り込む。その顔には何の表情も浮かんでおらず、何を考えているか分からない。
結局あの日は、なにがあったのか。かぐやが言うには、
『突然ゆい姉が私にお面を付けてきて、それが全然外れなくて……』
そして彼女に『私と逃げろ』とだけ伝えて月に連れていかれたという。まったくもって、何が何だか分からない。
だが、兄は何か思い当たるものがあるらしく、閉じていた瞳を開き、話を始めた。
「多分、肝となったのはかぐやちゃんが付けていた能面と、ヤチヨちゃんだな」
「能面と、ヤチヨが?」
能面は分かるけれど、なんでそこにヤチヨが関わってくるのか。彼女はあの時、あの場には居なかったけれども。
「〈ツクヨミ〉の世界は一見してリアルと見間違ってしまうほどに精巧だけれども、それでもその本質はVR。つまりは電子の世界だ」
「そーだね。オレらレベルでログインしてると、ホント区別がつかなかくなるくらいには視覚はトントンって感じ」
そう言った乃依さんは「まぁ、味覚とかはまだ全然だけどねぇ」と付け加える。
確かにこの世界は現実ではありえないようなSFチックかつ、和風と言う世界観で構成されているが、それぞれのオブジェクトやプレイヤーアバターの完成度は同分野の中でも群を抜いている。
それが若者のリアル離れ、と言われるような現象を起こしてしまっているのも事実ではあるが、我々一般ユーザーとしては何の違和感もなく〈ツクヨミ〉世界で生活できることはありがたい事であった。
「そして電子の世界における情報はすべて0と1との二つの数字で表現される。それはどんなものでもであり……。つまり、オレ達の存在自体もだ。みんなも、これくらいは聞いたことあるだろう?」
「はい……。コンピューターの授業で少しだけですが」
「あんまり興味なかったからちゃんと聞いて無かったけど、それでも二進数がどうこう、って言うのは聞いたことあります」
芦花と真美は互いに眼を見合わせて、自身の知識を擦り合わせるようにして口を開いた。そしてその内容には私も確かに聞いた覚えがある。
学校の授業で、情報科目が追加されたというのは久しい話だが、その中では簡易的だがコンピューターの仕組みも教えてもらっている。
0と1の数を用いた表現やビット数、なんていうのは現代社会に生きる人間ならば、きっとどこかで聞いたことあるだろう。
「仮にかぐやちゃんの情報を00、結葉の情報を11としよう。そしてアイツら月の奴らはその数字から相手を識別していたはずだ。そうだよな、彩葉?」
「うん、多分。かぐやも〈ツクヨミ〉と月は凄く似ているって言ってた。月でのことを思い出した時に、感じたらしい」
二人で花火を見上げたあの日、彼女は自身が月からやって来た理由を思い出したと言った。月での生活がつまんなくて、地球に遊びに逃げてきたのだと。
だから今ならかぐやに月の話を聞いても答えてくれるだろう、と今朝、かぐやに尋ねてみたのだが……。いろいろと擬音の多い説明で要領が掴みづらかったが、要約すると『月の世界と〈ツクヨミ〉は近い。だからあいつらは〈ツクヨミ〉にかぐやを迎えに来ているんだと思う』とのこと。
ここで大事なのは、月と〈ツクヨミ〉が近いという点だ。電脳世界である〈ツクヨミ〉と近い世界が月であると言うのならば、それはおそらく……。
「月も電脳世界、もしくはそれに準しているはず」
「あぁ。――そしてその場合、当たり前の話だがかぐやちゃんと結葉を見間違えることになんてならない」
そう言う兄は自身の身にまとう鬼の衣装を指先で引っ張る。これを見て見ろ、と言った風なジェスチャーだ。
「例えば結葉がかぐやちゃんの服を着ていたとしよう。それはかぐやちゃんになるか?」
「ならないな。当たり前の話だが、それはあくまでかぐや嬢の衣裳を身にまとった結葉女史となる」
「あぁ、雷の言うとおりだ。これじゃあ月の奴らから見て結葉は結葉のままだろう」
兄がパッ、と引っ張った衣装を放つ。そして今度は代わりにドン、と自身の胸を叩いた。
「だがここで介入してきたのがまず第一に能面。コイツはどうやら顔に着けるだけでスキンが置き換わるみたいだが……。要は内部データの書き換えを行っているんだろう。仮に能面巫女のデータが01だとするのならば、00だろうが、11だろうが関係なく。着用したらそいつは01だ。少なくとも、月の奴らからはそう見えることになる」
「……つまり月人にとって、能面を被って変身した姿が真の姿に見えるってことですか?」
「あぁ、恐らく。ご丁寧に着用時に煙幕まで出てくれるしな。煙が晴れたらかぐやちゃんである00から、能面巫女の01へと移り変わっているが、そもそも00から01へ変わったこと自体を奴らは視認できない」
あくまで仮定だが、奴らが電子的な生命体であって、数字の羅列を第一としているのならば……。その時は、奴らにとって能面をつけたかぐやはもはや、かぐやですらないことになる。あくまでさっきまでかぐやであった存在だ。
けれどこの仮説の場合、もう一つ疑念が浮かぶ。それは……、
「その場合、逆に何でアイツらはお姉ちゃんをかぐやと勘違いしたかが問題になる」
確かに姉はかぐやのコスプレをする、とは言っていたが、あくまでコスプレはコスプレ。相手本人になり切るのではなく、似せるだけ。内部の情報だなんて……
「あぁ、彩葉の言う通りこの仮説には穴がある。この仮説が正しかったとして結葉がかぐやちゃんに能面を付けさせ、自身がかぐやちゃんに扮していてもそこにあるデータは01と11だけであり、00は存在しないはずだ」
かぐやを示す数字は00。かぐやが00から01に変貌しようが、お姉ちゃんが11であるのは変わらない事実となるはず。しかし今の理屈では、月人は11を00と勘違いして月へと連れて行ったこととなり、それでは矛盾が生じるのだ。
――だが。そんな矛盾を兄は切り裂いた。
「しかしアイツらは一切迷うことなく、結葉を連れて行った。それはなぜか……。簡単だ。アイツらには本当に結葉がかぐやちゃん、つまりは00に見えたんだ」
「そんなことってあり得るの……? 確かに、そう考えれば話は通るけども」
あいつらにお姉ちゃんが、真にかぐやに見えるようになるだなんて、そんな事は……。
と、そこで。私は一つ、あることに気が付く。それは、兄が初めに出していた名前で、確かに彼女なら。いや、彼女でなければそんなことは不可能で。
この〈ツクヨミ〉において人を別の人間へと変貌させるような、そんな神の様な御業が使える存在は――。
「ヤチヨ……か」
「そう。本来ならありえないこの変動だが、唯一可能な人物がいる。この〈ツクヨミ〉の世界を統括するヤチヨちゃんなら、データの書き換えだって不可能ではないだろう?」
あぁ、そうだ。確かにヤチヨなら出来るだろう。情報データの書き換えなど、〈ツクヨミ〉のサーバーに触れる権限を持つ彼女なら、お茶の子さいさいだ。
そして、確かに私たちは姉がヤチヨと交流しているのをこの目にした。
それはちょうど、かぐやを守るための作戦会議を行った日。珍しく姉が自分から『提案がある』といい、ヤチヨにも助力を求めていたことで……。
「なるほど。あの作戦会議の場で彼女がヤチヨにコスプレの手伝いを頼んでいたが……。あれはこの時の為に……」
「あぁ。遠くからだからはっきりとは見えなかったが、ぱっと見で結葉とかぐやちゃんの身長が同じように見えた。だが本来なら背の高い結葉とかぐやちゃんとでは差が出てくるはずだ」
詳しい姉とヤチヨとのやり取りはしらない。それはあくまで二人の間であったはずの会話であり、その内の一人は連れ去られ、もう一人はこの場には不在であるから。
しかし推定は容易だ。
「確かにお姉ちゃんは陽動のためなんだから背丈までそっくりじゃないと、とか言ってたけど……」
「あぁ。そう言う意味もあったんだろうが、それ以上に自身のデータをかぐやちゃんの数値と同値へ転写させることが目的だったんだ。一つ一つ、人力で結葉のデータをかぐやちゃん風に調整するより、既にあるかぐやちゃんのデータをコピーして貼り付けた方が何倍も速いしな」
あくまで姉が申し出てきたのはかぐやのコスプレをすることによる、敵のかく乱。その作戦において、姉がかぐやの姿に近ければ近いほど効力は増す、という話は納得のいくものであったが……。
そのために本来なら調整不能な身長などのパラーメータをかぐやと同じにする。そうヤチヨに伝えて、自身のスキンの情報データをかぐやのものと同じものにさせたのだ。
わざわざ、身長はどれくらいで、骨格はこのような感じで、スリーサイズはどんなで、モーションの癖は……、なんてかぐや風のアバターを作るよりも、既存のかぐやデータをサーバーからダウンロードして、それを使った方が何倍も楽だ。
しかし、そうなるとお姉ちゃんは……。自分から私たちも、ヤチヨのことも、欺いていたって――。
「じゃあお姉ちゃんは今回のことを……」
「あぁ、見越してたんだろうよ。勝てなかったとき、自分が身代わりになれば二人が逃げるための時間稼ぎくらいにはなるんじゃないか、ってな」
「そんな――」
あのお姉ちゃんが……。
がくり、と身体から力が抜けさり、その場にへたり込む。もう、何が何だかわからなかった。
「まとめるとだな。結葉はヤチヨちゃんを誘導して自身の内部データをかぐやちゃんと同一のものとし、かぐやちゃん本人のデータは能面で隠ぺいした。結果月の奴らは結葉をかぐやちゃんだと勘違いして連れてったってわけだ」
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