〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~   作:すっごい性癖

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たけのこの如くⅰ

 

 翌朝、昨夜に引き続き彩葉の部屋を訪れた私、酒寄結葉 with ベビー用品たち。両肩からひっさげた大きな袋に可能な限り詰め込んでやって来た訳なのだが……。

 

「だーかーらーっ、私が払うって言ってるでしょ!?」

「いいって言ってるじゃん。あくまでコレらは、貰いものなんだって」

「ベビー用品の貰い物なんてあるわけないでしょ!?」

 

 予想の通り、猛反発であった。

 

 がおー、っと咆哮するかの如く朝から元気に声を張り上げる妹、彩葉。その手にはスマホを持ち、画面には決済アプリ、ふじゅ~が立ち上がっているのが見える。

 

「いやぁ、ホントに偶然? 就活で知り合ったOGの方で子供が大きくなってきた、って話していた人が居たから、昨日連絡してみたんだよ。もしよろしければ譲ってもらえませんか~、って」

「絶対ウソ、都合がよすぎる!」

「嘘じゃないって~。お姉ちゃん、就活頑張ってよかったな~」

 

 あはは~、と笑って彩葉の追及を躱す。趣味とは言え、これでもコスプレイヤーの末端を汚させてもらっている身。表情管理は得意なつもりだ。

 

「だって、これ! オムツとか開封されてないし!」

「いっぱい買い込んでたんだって~」

 

「子供服とか、まったく汚れてないし!」

「大切に使ってたんじゃないかな~?」

 

「コレとか、値札ついてるし!」

「買ったはいいけど、使わなかったんだね~」

 

 あれや、これやと言い訳をつけて、のらりくらりと逃げまくる。結局のところ、これら全部は嘘でしかないことは、私自身が一番知っていることではあるのだが、それは所謂悪魔の証明。

 

 証明するには何事にだって証拠が必要で、その証拠を下手人である私が全て隠してしまえば、第三者にできることなんてほとんどない。彩葉がどんなに天才で、私よりも断然頭がいいと言っても、反撃するための武器をすべて私は奪い去っている。

 

 この場に来る前時点で、私は勝利しているのだ。

 

「まぁ、ラッキーだったって思いなよ」

「むう……」

 

 彩葉も勝ち目がないと思ったのか、悔しそうにしながら口をふさぐ。伊達にこちとら姉を何十年もやってはいない。この子の弱いところも、少しは知っているのだ。

 

 それこそ東京に独り身やって来た時なんか、すっごい意固地で大変だったのだから。

 

 ……さて、それよりも。

 

「あのさ、彩葉?」

「……何?」

 

 わぁ、すっごく不満そう。ぶすぅ、とそれはそれはふてくされているよ。ほっぺを膨らませるような真似はしないけど、唇はとんがっている。

 

 自立に拘る彼女は、こうやって他人に施されるような真似をされるのをとても嫌がる。お金が絡む話は、特に、嫌がる。

 

 この件に関して、そこまでの責任感を持っていること自体お門違い、というか、自責の念に囚われすぎていると思うのだけれども。

 

 まぁ彼女のそう言う考え方をここで指摘しても、すぐさま改善されるわけではない。長い目で解決すべき問題は横に置いておいて、今は目の前の、短い目で解決すべき問題に集中することにしよう。

 

 というか、だね。長い目、短い目、とかそんな私には合わない、難しい考え方こそ置いておいて。

 

 気のせいでなければ、そのぅ……。

 

「その赤ん坊、なんか大きくなってない?」

 

 昨夜私が見たのなんて、それこそ短い時間であったのだけれども。それでも見間違い、記憶違いでなければもう一回り、二回りくらい小さかったような……。

 

 具体的に言うと、一歳くらい成長したような……。

 

「やっぱり、そう思う?」

 

 きっとこんなのは私の勘違い。そう思っての、なんとはなくの発言であったのだけれども。あっはは、まっさか~、と否定されて終わる話題だと思っていだのだけれども。

 

 眉を下げ、困惑しながらこちらを見つめる彩葉の姿を見るに、どうやら彼女もそう思っていたらしく。

 

「マジ……?」

「――マジ」

 

 マジ、らしい。あぁ、マジなのかぁ。見間違いじゃ、無いのかぁ。

 

 しかし信じがたいけれども、昨晩からずっと一緒にいた彩葉の発言だということを踏まえると、疑うことは出来ないし。

 

 この赤ん坊、一晩でどうやら成長したようだ。

 

「男児、三日会わざれば……、とはよく言うけども。まさか一晩で……」

「だよね……。この子、女の子だけど」

「マジで!?」

 

 本日二度目の驚きである。

 

 いや、男の子だと思っていた、とか、そういう訳ではないのだけれども。未確定の情報が急遽、確定の情報になったということ自体が驚き、というか。

 

 なんでそんなことを知っているのか。剝いてみない限り、知りようもない情報だろうから気になった私は彩葉に尋ねる。

 

 すると返ってきたのは……、

 

「……今朝、起きたら布団が、濡れてて」

「あぁ、なるほど」

 

 どこか遠い方向を眺めるようにしながら、カタコトでそう呟く妹から放たれる哀愁感。よくよく室内を見てみれば、布団が部屋の中央でしっとりとしているように見える。

 

 つまりは、まぁ、そう言うことなのでしょう。南無三。

 

「それでかぁ、持ってきたオムツを一目散に持ってったの」

 

 がちゃり、と玄関の扉を開いたのが三十分ほど前だろうか。『オムツとか、色々持ってきたよ~』、と言いながら掲げていたら、

 

『後でお金払うから!』

 

 と叫んだかと思うと、私の手からオムツを掻っ攫って。

 

 いったい何事だ!? と、玄関で驚き、呆然として突っ立ってたら暫くして彩葉が戻ってきたから、何をしていたのか私は知らなかったのだけれども。

 

 私が棒立ちしていた間に、どうやら妹は一つ大きな戦いをしていたらしい。南無三。

 

 しかし……、

 

「こんなに奇妙なことが重なるとなると、やっぱりこの子、普通の子じゃないよね?」

 

 この早すぎる成長もそうだし、彩葉が言っている赤ん坊を拾ったというゲーミング電柱もそう。

 

 どれもこれもが、ただの捨て子、置き子と呼ぶにはふさわしくないほどに異次元だ。ロッカーに、段ボールに、ゴミ捨て場に、だなんて胸が痛むような事件は数々起こって来たけれども、こんなぶっ飛んだ案件は、私が知る限り存在しない。

 

「だよね。これじゃあ、親御さんを探したり、交番に行ったとしても……」

「あんまり、良い成果は得られなそうだねぇ」

 

 超常的な事件に、常識的な対処法を行ってもいい返事が返ってくるとはどうにも考えられない。

 

 いったい、どうしたものか……。

 

 そう悩んでいると、

 

「う、うぅ……ッ!」

 

 どかん、と爆発したかのような音量の炸裂。人間が、理性と引き換えに失う原初の権能。私も、彩葉もきっとそういったことをしていたのだろうが、一切記憶にない慟哭。

 

 ――すなわち、

 

「赤ちゃん泣いちゃった!?

「またぁ!?」

 

 わんわん、びえびえと泣き喚く赤ん坊の姿にしどろもどろ。いったい何事か、私たちの声が五月蠅くて気に障ったのだろうか。それとももう一度おもらし? はたまたお腹が空いたとか?

 

 子育ての経験がない私には、それがまったく分からない。

 

 彩葉もそれは同様で、いったいなんで!? と目を白黒とさせている。

 

 けれども私のように一歩も動けない、といった風ではなく、寝ていた赤ん坊に近づいてあやそうとしているあたり、昨晩からの付き合いの時間の差が如実に表れている様子だ。

 

 なんだろう。この歳で、妹に子育て経験の差で負けてるって、すっごく複雑。

 

 ――結局のところ、これからの三連休は姉妹二人、慌てふためきながら赤ん坊の世話焼き、ご機嫌取りに終始し、親御さん探しや、交番へ行くことなど、忘れ去ってしまうのだけれども。

 

 ――そんなことを知らない今の私は、ミルク用にお湯を沸かし、人肌まで下げようと四苦八苦するのであった。

 

 ――お母さんって、難しい。

 




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〈幕間〉あったかもしれない会話

「あ、彩葉さ。明日から学校で、バイトもあるんでしょ? 私、もう大学行く必要ないから、日中は私がこの子の面倒見ておくよ」
「いや、そんな。悪いよ、私が頑張るから」
「もうっ、またそんな無理言って!」
「無理じゃないし……」

「ただでさえギリギリなんだから、これ以上一人で抱えない! 彩葉がパンクして困るのは、彩葉一人だけじゃないんだよ!」
「……」

「とにかく、これも乗り掛かった舟! この子の代理母その2として、親権は彩葉だけに譲りませんからね!」
「親権って……、もう」

「ごめんね、お姉ちゃん」
「謝らないで、彩葉。彩葉は何も悪くないんだからさ?」

「――うん。ありがとう、お姉ちゃん」
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