〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
彩葉視点を書くとなぜか百合成分が強くなる
私は結局、姉が言い残した通りかぐやを連れてどこか遠くまで逃げるべきか。それとも、なんとかして姉を連れ戻す為に奮い立った方が良いのか。
それがまだ、わからないでいた。きっと動くなら早い方が良いと言うのに、私は未だに決断ができない。
そんな、半ば脳死的に日々を送っていたある朝。姉が消えて数日が経過した日の朝、かぐやが私の部屋まで走り込んできた。
「いっ、彩葉!」
「どしたー? 朝っぱらから」
私は寝起き眼を擦りながら起き上がる。ふわぁ、とあくびを一回。最近、弛んでいるのかもしれない。前までの私なら、起きてすぐ目を覚ませていただろう。
そう自信を心の中で律しながら、かぐやの話を聞こうと身体を向けて……
「月から連絡があったの!」
「はぁッ!?」
そして特大の爆弾が投げ込まれたことにより、朝とは思えない大声を放つこととなった。
「……で、月からの連絡ってことだけど」
私は寝ぼけたままの頭では駄目だ、とかぐやを自室に残してからシンクへと向かい顔を洗ってきた。おかげで目はパッチリと覚め、頭も先ほどと比べ何段も冴えている。
「あっ、うん。それね……。まずどうやって連絡が来たのか何だけどさ」
「ふむふむ――」
なになに。朝起きて、携帯のメッセージを確認したら知らないアドレスからの通知があったと。
「よくあるスパムかなぁ、とも思ったんだけどさ。なんとなぁく気になって開いてみたら」
「いや、開かないでよ、スパムかと思ったんならさ。あぁいや、この場合開いたからよかったのか?」
いや、今はそこら辺は置いておくか。ネットリテラシー的には大問題だけれども、事実こうして月からの連絡をかぐやは察知できたのだ。もしかしたらその何となく、というのも宇宙人特有の第六感的なヤツかもしれないし。
「――それで、なんて書いてあったの?」
「それが……。あのね?」
かぐやはそう言うと私の方まで駆け寄り、スマホの画面をこちらに向けてくる。そのまま読み上げればいいのに、とも思うのだけれども、私は送られてきた連絡の内容が気になりそのまま画面に視線を移して――
「なっ――!?」
そして絶句した。
『次の満月の日。酒寄結葉と交換で月からの逃避者の身柄を明け渡し願う』
「なんなの、これ!?」
文面の意味は分かる。大した日本語じゃないし、むしろ月からのメッセージが日本語であることの方が驚きだ。
だが、そんなことはどうでもいい。この内容は……
「月からの逃避者ってのはつまり……」
「うん。かぐやの、コトだね」
お仕事、放ってきちゃったからさ。そう言いながら気まずそうに頬を掻くかぐやの顔が見ていられない。その口角は上がっているのに瞳は泣いていて、ムリに笑っていることがわかるから。
「次の満月ってことは、あと……」
一般的に満月の周期と言うのは一か月弱だ。あのかぐやの引退ライブからおおよそ一週間が経過したことを考えると、残っているのはおおよそ三週間。
それは長いようで、しかして短い期間……、
「でもよかったね、彩葉!」
「えっ……」
私の思考はネガティブな方向へと落ち込みそうになる。だがその前にかぐやのやけに明るい声に意識を拾い上げられた。よかった、っていうのは、
「だってさ、ゆい姉とかぐやの交換ってことはゆい姉は無事! ってことでしょ?」
「それは……。そう、なんだろうけども」
言ってしまえばお姉ちゃんは人質のようなもの。人質が死んでいては、交渉も何もない。相手だってそんなことは当然分かっているはずだ。
「彩葉。言っておくけど、かぐやは絶対この条件を飲むからね」
「そんな……、なんで」
なんで、だなんて。本来なら言ってはいけない言葉だ。
だって賭かっているのは、血の繋がった姉の身柄。この言葉はそんな大事な存在を天秤にかけてしまっているもの。
でも思ってしまうのだ。かぐやに居なくなってほしくない。ずっとここに居てほしい。どこにも行ってほしくない。
姉が自身の存在を賭けてまで勝ち取ったのが今の僅かな時間だ。その想いを継がず、簡単にこんな交換条件を飲んで本当にいいのか。それは姉の想いを踏みにじる行いなんじゃないか。
もしかしたらこんなメッセージ、無視してどこか遠くへ逃げてしまった方が良いんじゃないか。月の奴らなんか無視しちゃって、かぐやと二人で、どこか遠くまで……。
全部、全部甘い考えだ。
私は今になってまだ、思ってしまっている。
かぐやにはどこにも行ってほしくない。けど姉には帰ってきてほしい。願わくば少し前までの、三人でずっと笑っていられるようなそんな毎日が過ごせれば、どんなに幸せかって。
あぁ……。私は弱くなってしまったな、と今になって実感した。もしくは、ずっと前から弱かったのかもしれない。
前までの自分ならば口先だけでも「ハッピーエンドは要らない」だなんて言っていただろう。「普通のエンドでいい」なんて強がって、自分一人で立っていることに固執して。
けど、今の私はどうしても……。ハッピーエンドが、欲しくてたまらない。
「結局さ」
「――え」
ぎゅう、と突然感じた圧迫感に顔を上げる。全身に感じる圧と熱。そして耳元に届く、愛らしい声。
「結局、今回の件は私がお仕事を放って地球まで来ちゃったのが原因じゃん? 全部、かぐやが悪かったの」
「そ、れは……」
違う、とは言えなかった。
言えるはずがなかった。だって、それは確かに的を得ている。得すぎている。
たしかに今回の件、かぐや関連の騒動の発端はかぐやのわがままであったのは紛れもない事実であり、それは誰にも覆せない。月の奴らだって、勝手に逃げたかぐやを連れ戻しに来なければなかった理由があるのだろう、とくらいは察せる。
察せてなお、返したくないから私たちは抗ったのだ。
「かぐやが地球に来ちゃったのが原因で、それでゆい姉が酷い目に合うかもしれないってのはさ……。ダメだよ。それは、ダメ。ゆい姉はずっと、私たちの為にって言ってくれてたのにさ」
「かぐ、や……」
「そんなのはハッピーエンドじゃないもん。ゆい姉を犠牲にした笑顔なんて、嘘っぱち」
そう呟く彼女の表情から目が離せない。
彼女は確かに泣いている。涙を流して、悲しそうな表情に顔をゆがめている。眼は充血し、頬は赤く、口元は震えて。
それでも、その顔はなんて――
(綺麗――)
それはさ、ズルっこじゃん。
そんな顔されたら私は、我が儘が言えないよ。かぐやに残ってほしいって、言えない。かぐやとずっと一緒に居たいって、言えないよ……。
「ねぇ彩葉?」
その声がたまらなく愛おしくて私は自信を抱きしめるかぐやを、同じくらい、いやそれ以上の力で抱きしめ返す。いつか失ってしまうなら、今、この時だけは絶対にどこにも行かせないって、そう願って。
「なぁに、かぐや?」
「一つだけ約束、いい?」
こくり、と頷く。断る理由なんて何一つない。今ならかぐやのどんな願い事だって叶えて見せる。
そんな私の様子が気に入ったのか、「うれしいなぁ」と。そう小さく呟いたかぐやは、
「それじゃあ、約束。私の分も、ちゃんとゆい姉を叱ってよね?」
ん! と。
抱き合った身体を離し、かぐやはこちらにピースマークの様にした左手を指し伸ばしてくる。
私は右手を同じような形にして、互いの人差指と中指とをくっつけた。
「へへっ」
こんなこっぱずかしいハンドサイン、いつ始めたのだったか。最初の頃はかぐやの勢いに流されて、といった感じだったけれども。今では私も嫌ではない。
仲良しのヤツ、だなんていったかぐやの言い方は今でも照れてしまうのだけれども。
「約束、だね」
「うん約束! かぐやと彩葉、二人だけの!」
私たちは互いの指を絡め合った。
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夜の間にもう一話出したいと思っています