〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~   作:すっごい性癖

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本日一話目です

今さらですがこの二次創作は原作視聴を推奨しています


ヤチヨとかぐやとたけのこと

 

「ヤチヨ!」

「え……。いろ、は……。なんで、ここに……?」

 

 FUSHIに促されるまま、謎の部屋の中で〈ツクヨミ〉へとダイブした私とかぐや。いつものように瞳を閉じて異世界へのログイン。

 

 私たちがたどり着いたのは見晴らしがよい木造の部屋であった。

 

 その造りは時代劇なんかで見るお殿様が居座るような場所で、明かりは行燈が炎を揺らす。こんな場所が〈ツクヨミ〉に存在していただなんて知らなかったのだが……。

 

 そんな部屋の中央で、ヤチヨは一人静かに佇んでいた。

 

「ヤチヨ、大丈夫ッ!?」

 

 姉が住んでいるアパート、その一室になんでこんな部屋があったのか。それは未だにわからないが、今はそんなことはどうでもいい。

 

 そんなことよりも今はヤチヨだ。

 

「いやぁ、やっぱりヤチヨ案件でしたか。FUSHIが来るんだし、そりゃそうって感じだけどね~」

「FUSHIが……?」

 

 まさにビックリ、といった顔で驚くヤチヨ。視線を右に、左にと向けて何かを探している。恐らく、FUSHIを探しているのだろう。

 

「うん。私たち、部屋に急にFUSHIがやってきて、ついて来いって言われてさ。それで着いてきたら……」

「ココにたどり着いた、と。……なるほどねぇ」

 

 そうか、そうかと鷹揚にうなずくヤチヨ。その仕草は普段配信で見るヤチヨのもののようで、何も問題がなさそうで安心できる筈のもの。

 

 けれどなぜか私はそんな彼女を見て、心配がさらに増してしまっていた。

 

「あのさ、ヤチヨ? 最近、配信もあんまりやってないみたいだけど大丈夫? 体調が悪かったりするんだったら、私たちも何か手伝うよ」

 

 根拠はない。根拠は無いのだけども、今のヤチヨはどこか無理をしているように見えるのだ。その愛らしい笑顔の裏側で、歯を食いしばって、脂汗をかいているようにしか目に映らない。

 

「手、伝う……」

「うん。かぐやたち、ヤチヨにはすっごいお世話になったからさ! もうなんでも、任せてよ!」

「あはは……。手伝う、かぁ」

 

 そう言って俯くヤチヨの手を取るかぐや。かぐやは普段のように太陽のように明るい笑顔で、ヤチヨを照らしヤチヨはその顔をまるで羨むように眺めている。

 

 それはまるでワガママを抑え込んだ子供のような表情で、今にも泣きだしてしまいそうに私は見えてしまって。

 

 いったいなんでそんな顔をしているのか。なんでそんなにかぐやを羨ましそうに見ているのか。

 

 私は何にもわからない。

 

 だけども私はそんな何も分からないヤチヨのことが、どうしてだか全てわかる気がしてしまっているのだ。ヤチヨとの付き合いだなんて、ヤチヨカップからのもので、それまでは一方的な推し活でしかなったと言うのに。

 

 それでも本当に何故だか、今の彼女の考えていることがなんとなく伝わってきて心が苦しくなる。

 

「……かぐやには――」

 

 ヤチヨはそう口にして、そしてすぐさま自身の口を閉じる。これ以上喋っていたら、余計なことを言いそうになったのだろう。それを自分自身の精神で、なんとか抑え込んでいる。

 

 ――私はその仕草を知っている。彼女が今、何を言おうとしていたのかがわかってしまう。

 

 だって、その言葉は私が過労で倒れたときに、かぐやに私が言いそうになってしまった言葉だったから。

 

 言ってしまったらきっと私もかぐやも両方後悔するって。

 

 そう思ったから心の中に思い留めた言葉。結局、かぐやには何を言おうとしていたのかバレていたらしく、花火の日に指摘されてしまったけれども。

 

 たったそれだけ。それ以上の理由なんかも無いし、こんなこと自体理由とも言えやしない。

 

 ただそんな、何気ない仕草に私はどうしても既視感を覚えてしまって……。

 

 俯くヤチヨと、そんな彼女に近づくかぐやの顔が重なって見えて――。

 

「……ヤチヨは、かぐやなの?」

「え……っ!? 彩葉、それって……?」

 

 自分自身でさえ意味の分からない言葉を口にしてしまう。

 

 まさか、そんなはずがないと言うのに。かぐやは確かに目の前に居るのだから、ヤチヨがかぐやだなんてそんな馬鹿げた話があるはずがないっていうのに。

 

 それでも私はどうしても、彼女の姿がすぐ隣のかぐやと重なってしょうがないのだ。

 

 その容姿が異なるものであったとしても、そのふとした仕草、表情、視線の動かし方。それらすべての節々にかぐやが宿っているように見えてしまう。

 

 私の質問とも呼べない疑念に、かぐやは驚愕の表情を浮かべこちらとヤチヨを交互に見つめる。

 

 そして当事者であるヤチヨはというと……

 

「……わかんない」

「わかんない、って。それはどういう――」

 

 本当に辛そうな。今にも泣いてしまいそうな表情で、下を向きながらボソリと溢した。

 

 あぁ、やってしまったな。そう私は後悔するが、そんなものは既に遅い。

 

「わかんないんだよっ! 私は、私が誰かがわかんないの!」

 

 ヤチヨは一度、大きく息を吸い込んだかと思うと、ため込んでいたであろう想いと一緒にそれらを吐き出す。

 

 それは、長い間彼女を追いかけていた自分であっても聞いたことがないものであった。

 

「私はっ、早く彩葉に会いたい一心で安全確認もしないで地球に戻ろうとしてッ! それでっ、隕石にぶつかって八千年前に戻ったかぐやなんだってずっと思ってた!」

 

 一度破壊された堰は元に戻ることなく、多量の水を吐き出し続ける。私とかぐやは一言もしゃべれず、ただそんなヤチヨを見ていることしかできない。

 

「だけどっ、だけどっ!!」

 

 それが私はもどかしい。さっきまで何かをするつもりで、ヤチヨを助けるつもりでここに来たくせに。今の私はどうだ?

 

「かぐやは結局、事故も何にもなく地球に帰ってきて! 今もそこで彩葉の横で笑ってて!」

 

 ヤチヨの口から放たれる知らない情報、わからないIFを聞いてただ困惑しているだけで何も言えていない。一歩も動けていない。

 

「ねぇっ、それなら私はいったい誰なの!? 八千年前に戻ったかぐやのつもりで居た、ただの関係ない人間なのッ!?」

「ヤチヨ……」

 

 一歩、後ずさる。ヤチヨの迫力に私は押されてしまった。

 

「私は……。私は、誰なの……?」

 

 かたん、と。電池の着れた人形のように再度肩を落とすヤチヨ。

 

 最後の言葉は、彼女の中から解き放たれた激流。その余りを絞りに絞ってどうにか外に出したようであった。

 

 私は……。私は何もできない。でき、ない……。

 

 いや、――いや、違う。何もできない、だなんてそんなハズがない。

 

 私に手足に鎖があるのか? 私の首に枷が付いているのか? 私の四肢は捥がれてしまっているのか?

 

 そうじゃないだろう。ならば何もできないだなんてことは無いのだ。いつであったか、真美と芦花に言った事があった。『五体満足で産んでくれただけで感謝』だと。

 

 あの時は道徳的な、一般倫理的な観点での発言であったのだが。しかし今更になって、私はようやく、私自身の言葉の意味を真に理解できた。

 

 私たちは本来、自由なのだ。何をするにも、何を成すにもすべては自由。ただそこには責任が付いてくるだけ。責任は後からついてくるもの。だから行動前の私たちを妨げるはずがない。

 

 ――動くだけなら、こんな私にだって出来るのだ。

 

「信じるよ」

「え――?」

 

 あぁ、私は間違えてしまっていた。つい先ほど、彼女の迫力に押されて後ろに後ずさってしまったのが大間違いだ。

 

 確かに彼女の声は大きく、気迫が籠っていたけれども。そこに込められていた想いは『哀しみ』であったのだから。一歩動くのであれば、それは後ろではなくむしろ前。

 

 だから今度は、後ろに下がってしまった分も多く、二歩だけ前に進むのみ。

 

「ヤチヨが自分を信じられないなら、私が信じる。――ヤチヨは、かぐやだよ」

「なんでッ……。なんでそんなことが言いきれるっていうの!?」

 

 さらに前へ。もっと前へ。一歩一歩、近づいていくのだ。目の前で泣いている子がいるのだから、慰めねば。 

 

 幸い、あの女の子が泣きぐずっている時にあやした経験はある。

 

「なんでって、言ったはずでしょ?」

 

 よくよく考えると、ここ数が月はわからないことばっかりだった。光る電柱から赤ちゃんを拾って、頼る相手が居なかった私はお姉ちゃんに連絡して。

 

 その赤ちゃんが急に成長して、配信者になんかなっちゃって。推しの開催したイベントを優勝する、って豪語したかと思ったら本当に優勝しちゃって。

 

 四人でライブもして、月の住民何かとも戦争をして。

 

 姉が月につれていかれたかと思ったら、今度はパートナーが月に帰って。

 

 そして今は推しが私のパートナーと同一人物のはずであったと言っている。

 

 ほんと意味が分からないことばっかりだ。きっとこんなこと、去年の私が聞いても信じないだろうし、今の私でも半分くらいは信じられない。

 

 けれどもそんなわからない日々の中でもわかるようになったことが二つだけある。

 

 一つ目はさっきも思ったけど、私たちは自由であるってこと。あくまで責任は未来に生じるもので枷ではなく、動きたいなら動けばいいと言うたったそれだけのシンプルな話。

 

 関係ない話だけれども、きっと今の私なら母とも仲直り――は、無理でも折り合いくらいはつけられるだろう。未来の展望も、もうちょっとくらいはマシなものになるはずだ。

 

 そして二つ目の理由なんだが……。ちょっと、恥ずかしいのだけれども――

 

「『かぐやの考えていることくらいわかる』……って」

「……あ」

 

 それはあのKASSENの日、突飛な作戦を思い付いたかぐやに向かって言った言葉。まさかこんな恥ずかしい台詞を二回も言うことになるだなんて思っていなかったけれども……。

 

「かぐやの考えていることが私にはわかるから……。ヤチヨがかぐやだってことも信じられる。たとえヤチヨが自分を信じられなくっても、私はヤチヨがかぐやだって信じられる」

 

 あぁ、自分自身も言って初めて気が付いた。私が先ほどから感じていた既視感はこれであったのだ。

 

 まるで不出来な3D映画を見せられているような、二重に見えた彼女の建前と本心。私なんかにわかるはずがないヤチヨの言葉の裏側が、どうしてだか覗き見えてしまっていた要因。

 

 ……いや、こんな理屈もめんどくさいな。私は昔っからこういう理屈っぽい部分があってしまう。

 

 そもそも私が彼女を信じる理由なんて簡単だろう。

 

「推しのことを疑うファンは居ない……、って。それじゃ、ダメ?」

「あはは……。なんだ、そりゃ……」

 

 私はようやく、もしくはやっとのことでヤチヨの元までたどり着いた。そのままその場で腰を下ろし、彼女を抱きしめる。

 

 触感だとか、温度だとか。そういった機能は〈ツクヨミ〉には未実装の機能であるのだけれども。それでも私は彼女を温めたいな、とそう思ったから。

 

 ――彼女の顔は不自然なように雫で濡れているから、きっと雨に降られたのだ。ならば風邪をひかないように温めてあげたいとそう思うのは、おかしな話ではないだろう。

 

「私は……。私も、かぐやでいいの?」

「当たり前でしょ? 私がそう信じるって言ったんだから、ヤチヨは疑う必要なんてない」

 

 そう言ってさらに強く抱きしめる。途中から横で驚いていたかぐやも輪に入ってきて、私たちは三人、お互いがお互いに自身の体を抱きしめ合った。

 

 それが私たちの物語の結末。

 

 最後には涙があってしまったが、きっとこれからの笑顔で一粒の涙が上書きできるはず。

 

 試しにお姉ちゃんも呼んで、四人で配信でもしてみようか。

 

 あぁ、いやそう言えばかぐやは引退ライブをしてしまっていたんだったか。まずは配信者として復活するために、投げ銭の返還とかからだろうか。

 

 なんとも締まらない終わりで始まりだけれども、そういうのもきっと私たちらしいのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、だよ。ハッピーエンドにはまだ、一歩足りない」

 

 しかし、どうやら神様は私たちにそう簡単な物語の終わりを許してくれないらしい。

 

「――ッ、誰!?」

「待って、嘘……」

「そんな、なんで……?」

 

 三人で抱き合う城内に、更なる四人目の乱入者が現れた。私たちは皆、来るはずがないその人物に驚き、目を見開いてしまう。

 

 だってここはFUSHIに案内されてやってきた部屋であって、それ以外の手段でやってくる方法何てないはずなのに。

 

 それだというのに、なんで……。

 

 たとえそれが……。同じアパートの一室で会ったとしても、知る由などあるはずがないのに……。

 

「お姉ちゃん!?」

「あはは、不法侵入ごめんね~」

 

 事態はさらに一転する。私たちがあずかり知らぬ未知の世界が、こちらに顔を現れだした。

 

 かぐやが驚愕したたけのこっぽい何か。ヤチヨの言葉の節々に現れる違和感。姉が月へと向かった真の理由。

 

 『酒寄結葉など知らない』と言った言葉の真意。

 

「独りよがりのハッピーエンドに拘った妹には、お姉ちゃんがお説教しないと……、ね?」

 

 どうやらハッピーエンドへの階段は、もう一段だけ残されているらしい。

 

 




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次回、だいたいの伏線を回収する(予定)
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