〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
過去一長いですが、今までの要素の回収だと思って付き合ってください
それに気が付いたのは、言ってしまえばただの偶然であった。
お兄ちゃんたちとのKASSENでの暴走、ヤチヨとのコラボライブでの斬り合い。二度あった自分が自分ではないような、そんな錯覚さえ覚える程の万能感。
あの感覚が自分自身に憑りついたかのように沸いて出てきたのではなく……。
湧きだす。そう、まるで掘り当てた油田や温泉のようにとめどなく湧き出てくるものであると、そう偶然気が付けたからこその違和感。
私は凡人だ。これは昔っからの変わらぬ、自分自身への評価だ。私は兄や妹のように特別になれる人間じゃなくって、社会のパーツの一つに慣れたら御の字といったただの凡夫。
けれども人は私のことを優秀だ、なんだと誉めそやしてきた。私自身は全然そんなつもりがないのに、振り返ってみたら確かに結果だけはいっちょ前であったから。これも古くからの違和感の一つであった。自己評価と、他者の評価との乖離。
そうした幾つもの違和感が重なり合って、本当に偶然辿り着けた視座で……。私は一人の少女を発見した。
その少女の、名前は……。
「酒寄彩葉」
これが、最高のハッピーエンドには足りていないもう一人の名前である。
それはとある世界でのお話。
かぐや姫は愛する少女のもとに戻ろうとお仕事をそれはそれは頑張り、全ての引継ぎを終え地球へと再来しようとした時のこと。
彼女は安全確認も放って、一秒でも早く少女の下へと向かおうとして……。悲しい事故に遭いました。
地球と月との間に存在した隕石になんと気が付かなかったのです。
その時の事故が原因でかぐや姫は少女の下にたどり着くはずが、彼女の生まれる八千年も前の時代の地球へと不時着。
さらに不時着の影響で肉体を失い、自身の従者の肉体に移り住む形でのみの辛うじての生存を余儀なくされました。
かぐや姫は嘆きました。それはそれは嘆きました。
いくら寿命が長い月の住民であっても、八千年という時はあまりにも長すぎる。そもそもその時の彼女は、自身が目的の時代の何年前にさかのぼってしまったのかも知りません。
つまり、自分の求めた時代がいつの未来なのか。何秒先か、何日先か、何年先か。まったくもって不透明であったのです。
結果としてかぐや姫は八千年もの長い時代を、出会いと別れ、幸福と嘆きを繰り返しながら乗り切り……。
ようやく愛する少女と再会することが叶いました。
そしてその時代の、幼かった頃の自分は自分と同じように月へと戻っていくところを眺めてこう思いました……。
――あぁ、あの自分も、同じように八千年前の時代に戻って、そして今を迎えるのだろうと。
永遠の輪廻の輪っかのように、鶏か卵かの問題かのように。どこがスタートで、どこがゴールなのかもはや誰にもわからない輪にかぐや姫は組み込まれてしまったのです。
そしてかぐや姫と再会した少女は自身の類まれなる才能をいかんなく発揮し、八千年を過ごしたかぐや姫と、八千年前のかぐや姫。その両方を幸せにすることに成功し、二人の……、いや、三人の物語はこれ以上ないハッピーエンドへと到達したのです。
……したはず、だったのです。
ですが少女は思いました。
――かぐや姫を八千年もの孤独に置くのはダメだ、と。
何度も重ねて言いますが、少女は類まれなる天才でした。主に理工方面の学術知識においては、一人で時代を百年分以上進めたとさえ呼ばれる程の逸材。
そんな少女の手に掛かれば……。月の超技術である時間跳躍も再現にはそう、苦労しなかったのです。
少女はまず、自身自身を創り上げました。分身、と言う意味ではありません。まさに自分自身です。どこかが劣っている、とか、どこかが優れている、なんてことはありません。あくまで等身大の自分を一人、創り上げたのです。
次に少女は可能な限りの事前調査を行いました。当時の研究で判明しているその土地の歴史、その総てから……、果てや自身の家系のルーツまで。それらの一切を脳内に保存しました。もちろん、もう一人の少女の方に。
最後に彼女が行ったことは……、覚悟でした。彼女たちがたどり着いたハッピーエンドに、自身がこれから投げる一石はそれらを破壊しかねない劇物であったからです。下手をすれば世界は大きく変革してしまうほどの、大きな岩。
けれど少女は決断しました。自身の愛するかぐや姫のためならば、自身は世界にこの岩をも投げつけようと。
――そうして、彼女は自身の分身体を八千年前の地球へと送りました。今度は事故ではありません。あくまで、狙ってのことでした。
まずこの点が世界を大きく揺るがす第一の特異点。この時点で世界は大きく別のモノへと変貌することが絶対的と定まりました。
もしくはこの世界は本筋からは外れた、IFの世界として確立されたのかもしれません。
そこら辺のことは、少女にはどうでも良かったのです。だって……
――見つけた。
少女は、八千年前の地球で泣いている、愛するかぐや姫を発見できたのですから。
それからかぐや姫と少女はともに、八千年の時間を旅しました。
時間跳躍には膨大なエネルギーを使用するため、もう一度、今度は二人で現代へ戻る、なんてことは叶わなかったのです。そもそも、二人で使用することを前提とされていないため、彼女たちにそんな思考はありえませんでした。
少女も、あくまで彼女は本体ではなく人工物。彼女の知識と技術を用いれば、長期運用も不可能ではありません。
人の肉体を失ったかぐや姫と、人ではない少女だからこそ送れる、それはそれは長い旅路。
結果としてかぐや姫は正史よりも幸福な八千年を過ごせました。それも当然でしょう。だって、本来ならば居なかったはずの愛する人と、こうして再会できただけでなく、一緒に楽しく旅ができたのですから。
自分が笑えば、彼女も笑う。彼女が笑えば、私も笑う。
孤独など、どこにもなかった。少女の抱いた憐憫は、たしかに解消されたのです。
しかしそんな幸福も八千年の時の経過後、崩れ去ってしまいます。
――そんなっ、どうして!?
突然、少女がかぐや姫にお別れを告げたのです。
――この世界に本当の私が生まれる。その時、同一の存在が居たら世界はきっと狂ってしまう。
はっきり言ってしまいましょう。これは少女の真っ赤な嘘でした。彼女が存在しているからって、この世界の彼女と干渉し合うなんてことはあり得ません。
それは他ならぬ、かぐや姫自身が証明していることでした。聡明な少女にしては、下手な言い訳です。
しかし少女は気が付いていまっていたのです。
自身も、かぐや姫も八千年という長い時代を共にしてきたせいで、互いに依存してしまっていると。二人とも、自分たち以外へと向ける目が狭まってしまっていると。
今ならまだ引き返せる。そう判断した少女は、一度かぐや姫の前から姿を消した方が良いと思いました。
また、これは彼女の口からは漏れ出ませんでしたが……。
自身はあくまで創られた存在であり、本物がこれから生まれるのであれば自身はもう要らない。自分の役割はかぐや姫を八千年の孤独から救うことと、そして……。
来る九月の戦のみでしたから。
愛する少女を失ったかぐや姫は結果として依存的な思考を克服して、〈ツクヨミ〉と呼ばれる仮想世界を生み出しました。
その時の彼女の心情は測りかねますが、それはまるで世界の修正力が働いたかのように、予定調和へとたどり着いたように見えました。
一方、姿を隠した少女でしたが……。彼女は、自身が時を渡る前に得た知識を使ってとある工作をしていました。
それは……。とある家庭への赤ん坊としての潜入です。
なんと自身の家系のルーツを覚えて過去へと渡った少女は、自身の祖父母の代からの親交を深めたのです。
そして少しずつその家系とも距離を縮めて行き……。最後には様々な手法をとって、一人の赤ん坊として入り込みました。
彼女はもとより、人間の体では無かったのですから。時代が進み、義体の作成も不可能ではない時代へたどり着いたことから、赤ん坊の義体へと自身の意識を移したのです。
そして彼女は赤ん坊への転身と同時に、自身の記憶も封じ込みました。
今、こうして赤ん坊となった自身がかぐや姫に発見されれば、全ては無駄になると悟っていたからです。彼女は、彼女が思い描いたハッピーエンドの為に、心を鬼にしていました。愛するかぐや姫でさえ、欺くことを決心していたのです。
そしてその少女の記憶だけが封印され、肉体だけが少女のものと同様となった赤ん坊には名前が付けられました。
――その名前を、『酒寄結葉』と言います。
その肉体に生じた精神、酒寄結葉はとても平凡的なものでした。天才である少女から生じた精神とは思えない程に普通。
けれどその肉体だけは少女のモノであったため、なまじ結果だけは人並み以上のモノで。それが彼女にとっては逆に苦痛でした。
暫くして少女には妹が生まれました。名前を『酒寄彩葉』と言います。
彩葉はとても優秀な女の子で、姉である結葉をも簡単に追い抜いて行ってしまいました。気が付けば、結葉は彩葉にコンプレックスを抱くようになったのです。
そのコンプレックスは日に日に増大していきました。
特に彼女の心を傷つけたのは、自身と妹との容姿が酷く似ていることでした。
おんなじ見た目をして居るって言うのに、中身は全くの別物。それがどうしても恥ずかしかったのです。
そんな結葉の心に気が付いた少女は一度、目を覚まします。幼き日の自分が、新しく生まれた自我である結葉を苦しめていることに心を痛めたからです。
少女は、結葉のために新しい義体を創り上げました。それは今までの、自身の過去の成長をなぞった様な義体の変更ではありません。
まったく新しい、別の人間としての義体です。あくまで血縁関係はあるもの、と顔はそっくりになっていますが、その肉体は大きく異なります。身長や、胸の大きさなどをかつての自身とは離れたものとしたのです。
結果としては、その日から徐々に彼女のコンプレックスは収まっていきました。
きっと精神に引き続いて、今度は肉体の自己を獲得したからなのでしょう。
さらに時間は僅かに経過し、結葉はとうとうこの時代のかぐや姫と合流します。
この時点で、八千年もの時間を過ごしたかぐや姫と少女とは全く異なる物語が始まるのです。
……なんて、ことはありませんでした。
少女は結葉に、眠りながらでもある程度の思考の誘導は行えました。今夜の夕ご飯は○○を食べろ、などの具体的なものは不可能でも、明日は家を出ない方が良い、くらいのおおざっぱな指令ならば余裕なのです。
少女はあくまで、歴史の改変を事故の手中内で収められるよう、結葉が彩葉とかぐや姫との物語に干渉することを最小限とさせました。
ここでの想定外としては、結葉がかぐや姫を早々に自身の妹として認め、溺愛することとなったことでした。
自分からかぐや姫たちに関わろうとする結葉の行動を全て妨げられるほど、少女の指令は強くはなかった。結果として、結葉は少女の想定以上に彼女たちに関わっていきました。
さらに時がたち、とある夏の日。少女は飛び起きました。
それは八千年越しに、自身の兄が愛するかぐや姫に求婚している姿を見せつけられたからです。
普段は結葉の裏で眠る少女も、自身の兄の行動は目に余り……。結果として、普段は押さえつけられている少女本来の肉体性能が発揮され、また、結葉の思考も少女に先導され暴力的なものへと変貌しました。
――これは少し後の、かぐや姫二人によるコラボライブでも同様のことが生じます。
愛する人の腕が掴まれそうになった少女は耐え切れず、再度表に出てきてしまった。
このことの結果として、結葉は自身の内に眠るもう一人の妹に気が付くのですが……。それは、もう少し後のお話に関わってきます。
そしてとうとう迎えた運命の時。
かぐや姫が月へと帰る日です。運命の循環は、とうとうこの日に追いつきました。
――少女にはこの時、二つの狙いがありました。
その狙いと言うのは、両方とも本質は同じもの。一つ目はこの時代のかぐや姫を幸せにすることで、もう一つは過去へと渡るかぐや姫を幸せにすることです。
かぐや姫が過去へと渡ることはもはや世界にとっての既定路線であり、これが防がれれば世界は全くの別物へと変貌してしまいます。
それは当然の話でしょう。今まで二つの世界の話をしましたが、ともに過去に戻ったかぐや姫の存在だけは共通していました。言ってしまえば、これらの世界をつなぎ留める、柱のような存在となってしまっている。
これが失われれば、世界は全くの別の世界に進んでしまうか……。もしくはもはや、世界そのものが崩壊してしまう。
だから、かぐや姫の事故は起きなければならないものだったのです。
けれども一方で……。
そんな世界の運営の為に、自身の愛する人が八千年もの孤独を与えられなければならないなど。そんなふざけた話もまた、少女は許せませんでした。
ですので少女はとある策を練っていたのです。それこそ、八千年の時を渡る前から。
それは……。
――私と同じように、まったく同一の自分を作ればパラドクスは生じない。
そう。月へと帰ったかぐや姫に着いていき、月でかぐや姫をもう一人増やしてしまえば、地球から強制送還されたかぐや姫が地球へと無事戻ることも、もう一人のかぐや姫が過去へと戻ることで矛盾なく成り立つのです。
少女はあくまで義体に眠る思考体であり、言ってしまえばデータそのもの。月への移動には、むしろ適した状態なのでした。
――ですがその作戦は一人の行動で狂わされます。
酒寄結葉です。彼女がなんと、月へ強制送還されるかぐや姫の身代わりとなったのです。これは少女にとっても意外な結末でした。
それは、結葉は自身の中に眠る彩葉に先日の一件で気が付いていたからの出来事です。
たしかに結葉はかぐや姫に逃げるための時間を与えるためにも行動しました。彼女たちならば、どこかに逃げられるのではないかと言う自己犠牲を行った。それは、確かです。
ですが、彼女はどこまで行っても姉であった。
たとえそれが……。自身と言う精神を生み出した肉体の持ち主であり、八千年もの時間を過ごしていたとしても。
それでも、酒寄結葉にとって酒寄彩葉は妹であったのです。
だから結葉は見過ごせなかった。一人、遠い月へと向かい、無茶をしようとしている妹を許せなかった。だから彼女は、臆病でありながらも身代わりになることに抵抗がなかったのです。
羽衣をかけられた結葉の記憶は一度、消去されました。
もちろん裏で少女が保護しましたが、一度表層から消されたことでその意識はさっぱりとしたものとなったのです。
月へと到着してすぐ、月の住人たちは驚きました。なんと、自分たちが連れてきたのは強制送還予定であったかぐや姫ではなく、ただの地球人であったからです。
ですが、気が付いたときにはもう遅かった。
表の意識である酒寄結葉が消えたことで、その裏側に眠る少女。
八千年を生きた酒寄彩葉が目覚めたのです。
――あんた達と戦うのはコレで二回、三回? いや、四回目だっけ。まぁ、そこら辺はいっか。
――そっちも仕事だってことはわかってるよ。こんなの、こっちが一方的に悪いってさ。
――それでも、かぐやとヤチヨのためだから。今回こそは、完全勝利で行かせてもらうよ。
それは、戦闘と呼ぶにはもはや蹂躙でした。
万能とも称された酒寄彩葉、その八千年もの時間のほとんどを費やして磨き上げた剣の技術。それに敵うモノはだれ一人おらず。
数日後には彼女は単身で月を平定し、月人たちに契約を持ちかけました。それは……
『一つ。月へと呼び戻したかぐや姫に、自身が提供する義体を用いてもう一人のかぐや姫を生み出すこと』
『一つ。生み出した方のかぐや姫は指定した日に地球へと放つこと』
『一つ。元のかぐや姫はその日より、一か月後に地球へと放つこと』
これら三つが月を平定した少女の要望でした。月人たちも、これらに反目するつもりはなく、契約自体はつつがなく締結されます。
暫くして本物のかぐや姫との身柄の交換が済み、地球へと帰還した少女と結葉たち。少女は保存しておいた結葉の意識を再覚醒させ、またその裏側へと眠りに行きました。
唯一の違いとしては……。少女はもう二度と、目覚めるつもりがなかったことです。
なぜならば、月へと向かい世界の矛盾をもクリアした今、少女が残っている理由も無かったから。
あとはこの時代に居る、幼い自分が二人のかぐや姫を幸せにして。そしていつか、自分と同じように過去へと自身の複製を送れば、この世界独自のループは完成する。
もう、彼女の出番は無いのだと。本気でそう思っていたから、彼女は目覚めるつもりはありませんでした。
これが八千年生きた少女の思い描いたハッピーエンドの真実です。
――それは、なんてひどい独りよがりなハッピーエンド。確かに完成度だけは高いのでしょう。無駄に円は綺麗に描かれ、乱れるべきパラドクスも抑えられている。まるで綺麗にヤスリでこすったみたいにピカピカで。
擦り落した欠片たちに、目をくれてはいない。
八千年の時間を共に過ごした少女を失ったかぐや姫の嘆きを無視している。勝手に幼い彩葉がいるから、自分はもう要らないよね? と消えるなど、許されていいはずがない。
そもそも、そもそも……。
「八千年、幸せにしようと努力していた『彩葉』が勝手にフェードアウトしてハッピーエンドだなんて! そんなの、お姉ちゃん、絶対認めないからね!」
だから……!
「このハッピーエンドにはまだ一人足りていないの!」
姉である自分が動くのだ。ここで動かないで、いつ動く! 私は、酒寄結葉は酒寄彩葉の姉なのだから!
「隠れてないで、出てきなさい彩葉! あなたがしてきた八千年分のご褒美とお説教には、まだまだ足りていないんだから!」
私は自身の胸を剣で貫いた。
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恐らく、次回本編は最終回
〈本編長いから簡単に纏めるよ! のコーナー〉
原作時空の彩葉が八千年を過ごすヤチヨを憐れみ、自分の複製体を作って過去へと飛ばしたことで生じたIF世界がこの二次創作でした
結葉は複製体の彩葉が、月人の襲来まで身を隠すために作った人格であり、その身体は人間のモノではなく義体
その後は満足して八千歳彩葉は隠居しようとしてお姉ちゃん激おこ!