〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~   作:すっごい性癖

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本日一話目 本編最終回です


超かぐや姫Z!

 

 そう、勢いよく私は日本刀で胸を貫く。

 

 ……はずだったのに。

 

「はぁ……。いくらVR世界だからって思い切りよすぎない?」

「これくらいしないと出てきてくれないでしょ? お姉ちゃん、知ってるんだから」

 

 刀身の先端が胸の間に突き刺さろうとするその瞬間、突如現れた人影が私の腕をつかみ取る。刃は私に触れる一ミリ手前でとどまり、プルプルと震えていた。

 

「お姉ちゃんって……。あなたは私の肉体に生まれた人格ってだけで……」

 

 そう、吐き捨てるように呟く人影。

 

 その顔立ちは確かに成長して愛らしい少女から美しい女性へと変貌を遂げているが、面影は残り続けたまま。

 

 私はパッ、と両手に握っていた日本刀から手を離す。刀は地面へと落ち、カランと冷たい音が辺りに鳴り響いた。

 

 ……まったく、この子は八千年経っても頑固なままで。ほんと、しょうがない。

 

「それでも、私はお姉ちゃんだから……ね?」

 

 ――彩葉?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って。待って、待って!?」

「ゆい姉が急に出てきたと思ったら自分を刺そうとしてっ! かと思ったら、今度は彩葉がもう一人出てきて!?」

「ウソ……。ウソ、だよ……」

 

 そんな私たちのドタバタを遠くで見ていただけの彩葉、かぐやちゃん、ヤチヨの三人はみな驚愕した表情をこちらに向ける。

 

 いや、私が来た時点でみんなそれはそれは驚いていたのだけどもね? 今はもっとすごい。眼を見開く、というか目が零れ落ちそうなくらいだ。

 

 特にヤチヨの反応は強い。そりゃあそうだろう。二十年以上も前に姿を消したパートナーが唐突に出てきたんだからね。

 

「ちゃんと見てる、彩葉? あなたのしでかしたことは、そういうコトなんだからね?」

「いや……。私の立場上、言い返せないけども。ヤチヨ以外の二人は主にあなたのせいだと思う……」

 

 いやいや、まさかまさか。アレは全てが大団円に終わりそうだった場に乱入してきた姉への驚きの顔、じゃなくて、唐突に現れたもう一人の彩葉って存在の方に驚いているのだ。きっと、多分。おそらく、メイビー。

 

「まぁさっきは流れでお説教、って言ったけどもね。当たり前だけど、その役割は私のモノじゃない。それは出てきた彩葉も分かっているでしょ?」

「……」

 

 彼女たちの物語はつい先ほど、ハッピーエンドに到達しかけていた。三人が抱き合い、笑顔で締めくくられそうとなっていた。

 

 けれどそれは一人の少女が自身の身を投げ捨てて、流れた血で書き上げた物語。

 

 誰かが仕組んだ物語。

 

 きっとそのお話が、彼女達三人と、描き手の四人だけのモノであったのならば問題は生まれなかったのだろう。三人はその犠牲に気が付かず、描き手は一人ニヤリと満悦に浸ってすべては閉じる。

 

 けれどそんな四人を眺める第三者、観客である私は許容できない。そんな血なまぐさい物語を、ハッピーエンドだって言い張られたらスクリーンに向かってポップコーンを投げつけてしまう。

 

 私が見たいのはみんなの笑顔だ。四人の笑顔だ。三人の笑顔と、一人の笑顔を別々に見たいわけじゃない。あくまで一緒に。四人一緒に。

 

 そのために必要なのは……

 

「ほら、ヤチヨ? こっち来て」

 

 彼女とヤチヨの仲直り。

 

 ただ、それだけ。

 

 そんな難しい事じゃないのだ、ハッピーエンドをさらに飛躍させるのなんて。あくまでさっきまででもハッピーエンドだったんだから。これからやるのは外付けパーツでプラスアルファ加えるだけでいい。

 

 そもそも拗れていたのは全部、彩葉が全部を一人で背負おうとしたからだしね。

 

 全部を自分でこなそうとして、ヤチヨの下から消え去って。代わりの自分が居るから良いだろうって、相談もしないで。

 

 ……ヤチヨは最初、こちらの様子をうかがう様にしながらもゆっくりと近づいてくる。その瞳には信じられない、といった感情がありありと浮かんでいて……。

 

 それでもその視線の先は唯一つ、私の腕をつかむ彩葉に注がれていた。

 

「ほら、彩葉? 怒られてきなさいな」

 

 怒られて、叱られて、すっきりして。描き手という役職も降りればいい。そんな仲間外れは寂しいだけでしょうに。

 

「……」

 

 彩葉は少しの間逡巡して、そして私の腕から手を離す。

 

 きっと彼女自身、少しは寂しかったのだろう。そうでないのならば私が呼んでも出てこなければいいのだ。私の呼びかけも無視して、ずっとだんまりを決め込んで。

 

 いやそもそも、それ以上に月に行く必要すらなかったのだ。本来、彼女は。

 

 だってあくまで彼女が過去に送り込まれたのは『過去に一人送られるヤチヨに寄り添う』ため。

 

 その任務は八千年経過した時点で終わっていたのだ、本来。それ以降はこのループでの彩葉が生まれるのだから、彼女の弁に従うのならば消えてしまっても問題がなかった。

 

 そうすればあくまでこれまでのループとの差異はヤチヨに付添人が居た、ということだけになる。八千年前から二十年前までは未来から来た彩葉が、そこから先はこのループの彩葉が居ればどの時代のかぐやちゃんも寂しくなんて無いんだから。

 

 けれども彼女は無駄にも私と言う存在を生み出し、隠れ蓑とし月へと向かう計画まで立てた。

 

 それは何故か……?

 

 簡単だ。

 

「ヤチヨと……。貴女にとってのかぐやちゃんと、別れたくなかったんでしょ?」

 

 消えるだけで話は簡単に纏まったと言うのに、無駄に話を難しくしたのはただそれだけ。月へ行く、とか、月を平定する、とかそんなのは後付けの理由だ。

 

 自分の役割が終わって、消え去るだけになったのが寂しかった。もう自分が居なくてもヤチヨは大丈夫だと、そう思ってしまったのが嫌だった。これから先は、このループの彩葉が居るから良いと本当は思いたくなかった。

 

 だから自分が残れるだけの理由を作って、隠れていた。自分にはまだ仕事があるから、理由があるから消え去らないんだって自分に言い聞かせていた。

 

 ホント、昔からずっと頑固なんだから……。

 

「自分で消えなきゃ、って思って。それで自分で消えたくないとも思って。それで出来上がったのがこの独りよがりのハッピーエンド。違う?」

「それ……、は……」

 

 俯く彩葉。そんなあの子を最後に見たのは、いったいいつであっただろうか。幼い頃であっただろうか。

 

 昔はよく、お母さんに叱られてはあの顔をしていたっけ。

 

「……っと。これ以上話していると私がお説教しちゃいそう。それはヤチヨのお仕事だって、さっき言ったばかりなのに」

 

 ごめんね? とヤチヨに誤れば、彼女はゆっくりと顔を横に振った。よかった。仕事を奪ったけれども、怒ってはいないようだ。

 

「じゃ、今度こそ……。二人に任せるね?」

 

 そう言って私はヤチヨの来た方向に残る、こっちの世界の彩葉とかぐやちゃんへと向かって歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、彩葉? なんでこんな、勝手なことしたの? 私、寂しかったんだけど」

「……ごめん、かぐや。私は……」

「急に居なくなって、裏で勝手なことをして……。私の幸せを勝手に決めつけて……」

「……ごめん」

 

 

 

「あぁもう、泣かないでよ彩葉。可愛い顔が台無しじゃん!」

「でも……、私は……」

「ねぇ彩葉? 笑ってよ。泣いてないで、笑って。だってさ、こうして私たちが触れ合えたのは、八千年ぶりなんだよ?」

「……」

「八千年前、私が一人時代も場所もわからなくって、心細かったときに。彩葉が来てくれて、私、本当にうれしかったの」

「かぐや……」

 

 

 

「でもさ、私は事故のせいで身体がなくって。ずっとウミウシになった犬DOGEの中に入ってて。せっかくやってきてくれた彩葉と、手を繋ぐこともできなかった」

「……」

「私はそれがすっごく悲しかったの。大好きな人がいるのに、触れないなんてこんなことある!? ってね。――でも」

 

 

 

「今こうして、八千年ぶりに私たちは触れ合えてるの。手も繋げるし、腕も組めるし、抱きしめることもできるんだよ? だからさ、ほら。笑ってよ、彩葉」

「…………」

「ね? 彩葉、笑おう?」

 

 

 

「……かぐやはさ、怒らないの? 私のやったことは、その……」

「うーん……。本当は怒りたかったんだけどもね? やっぱり私は怒れないや」

「なんで……。私は、かぐやを悲しませて……」

「うん、まぁ。悲しかったのは悲しかった。すっごく悲しかったよ? なんてったって、八千年も一緒に居たのに、自分勝手に消えちゃってさ?」

 

 

 

「でも怒んない。私は怒んないよ。だって――」

「…………………」

 

 

 

「だって、最初に彩葉の方が私のわがままを聞いてくれたんだもんね。こっちの世界だと私のわがままは結葉に吸収されちゃったけど。あっちの世界だと、いっぱい彩葉に迷惑かけちゃった」

「でもそれは、後で……」

「後でお金を返してもらった、とか言わないでよ? わがままを聞いてもらったのには違いは無いんだからさ」

 

 

 

 

「だから今度は私が彩葉のわがままを許してあげる番。最初は私のわがままで、次は彩葉のわがまま。これでおあいこ、でしょ?」

「かぐや……」

「ほら、おあいこ?」

 

 

 

「でも、二回目は無いんだからね? あくまでこれでおあいこだから。二度目は許さんぞ? いい?」

「……うん。うん、ごめんね……、かぐや。ごめんなさい――」

「もうっ、だから違うって彩葉……。昔っから、変わらないなぁ」

 

 

 

 

「謝らないでさ……。笑ってよ、彩葉? 私はずっと、彩葉の笑顔が大好きだったんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に日差しが差し込む。私は机に向かうかぐやちゃんに問いかけた。

 

「な~に書いてんの?」

 

 せっせと紙に何かを描くかぐやちゃん。色鉛筆を使って色とりどりに、絵や文字を使って何かを作って。これは……絵本? 

 

「ん~? かぐやたちのお話!」

「あ~、そう言えばそんなの書いてたっけ。あっちのかぐやも」

 

 机に向かうかぐやちゃんを右から私が覗き込み、反対側の左の方から覗き込むのはイロこと八千年を過ごした彩葉。どっちも彩葉呼びではわかりづらい、と決めたあだ名だけど、本人も割と気に入っているらしいのはここだけの話。

 

 彼女の肉体は博士となった彩葉が作ったものなのだが……それはまた別の話でいいだろうか。

 

「全部が丸く収まった後、かぐやがせっせと何かを書いてた気がする。なんだったっけ。えーっと……」

 

 イロは覗き込みながら少し頭を悩まし、そして「あぁ、思い出した」と言う。

 

「『超かぐや姫!』ってタイトルだっけ。かぐやらしいなぁ、って思ったから覚えてたわ」

「う゛ぇ゛!? 私が付けようとしていたタイトルと一緒じゃん!」

 

 パクリかよ~、と机にうなだれるかぐやちゃん。パクリって言うか、なんというかそう言うのじゃないと思うのだけども。生みの親本人だし。

 

「別にこの世界にはそんな本無いからいいんじゃない?」

「え~~、オリジナルがいい~!」

 

 オリジナル……。オリジナル? これもオリジナルだと思うけども。いっくら別の世界の自分でも、同じタイトルは嫌なのか。かぐやちゃん道は難しい、とあの兄ならば言うのだろうか。

 

「ふ~ん……。んじゃ、これでいいんじゃない?」

「ちょっと、イロ!?」

「え~、ダサくない?」

 

 どうしよう、どうしようと頭を悩ませるかぐやちゃんに見かねたのか、イロは近くに置いてった色鉛筆を持ち上げ、タイトル箇所に一字を追加した。

 

 それを見た私は思わず「うげぇ」と声を漏らす。はしたないながら、許して欲しい。

 

「あっちの私たちの物語との違いって、やっぱりこれだけでしょ?」

「まぁそっか~。ゆい姉が増えた分、タイトルを盛らなきゃだよねぇ」

「私としては、私要素をそのアルファベットで表現されるのはだいぶ遺憾なのですが……」

 

 いったいいつから弄るんですか、そのネタは。もうだいぶ前の話でしょう、それ。私の配信上の名前を決めるときからずっと弄って……。

 

 あぁ、そう言えば彩葉もあの時だいぶツボっていたからなぁ。彩葉が気に入っていたなら、イロも当然そりゃあ気に入るか。同一人物だし。

 

 と、まあ。私としてはとっても遺憾なタイトルですが。それが定まったことでかぐやちゃんも完成のめどが立ったのでしょう。

 

 素早い動きで色鉛筆を動かし、完成へと駆けつけて……。そして、ペンを置いた。

 

 

 

 

「よっし完成! タイトルは――!」

 

 

 

 

 

 

 

 




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〈蛇足部分〉


「ところでお姉ちゃんさ、せっかく月に行ったのに観光とかもできなかったの?」
「まぁ、記憶消されてたしね~」
「じゃあ骨折り損だったってこと?」
「いやいや、実はそんなことないのよ。それがさ~」



「げぇっ!? それって、かぐやと同じ!」
「いやぁ、一回肉体と情報体とに変換したからなのかなぁ? 私の体、月人エディションになっちゃったのよ。髪色も肌色も自由自在! コスプレし放題!」
「ゆい姉ちゃん、ってば昔のかぐやみたいだね~。あれって外から見ると大分奇妙なんだ、知らなかった~」
「いやぁ、ずっと羨ましかったんだよねぇ、この能力。棚から牡丹餅ってこういうことかなぁ」
「はぁ……。なんなの、この蛇足感」
「まぁそれも、私たちらしいってことで、ね?」

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