〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
本編が一時的に暗くなりそうだから明るい番外編を持ってきました
「かぐやもコスプレしてみたい!」
事の始まりは、いつもと変わらない我が家の好奇心プリンセスのそんな発言であった。
「うるさっ。何急に、大声出して……」
「だからっ、かぐやもゆい姉みたいにコスプレしてみたい! あと、コミケ? ってヤツにも行ってみたい!」
「う~ん、お姉ちゃん的にはあの空間にかぐやちゃんを連れて行くのはちょっと憚られるなぁ」
良くも悪くも、アングラレベル百、みたいな場所だし。昨今ではサブカルの一般化で昔ほどのアングラ感は薄まってきてはいるが、それでもかぐやちゃんみたいな根っからの陽キャには厳しいところがあると思う。
「え~でも、かぐやのオタクたちがみんな『冬はかぐや本が濃厚かなぁ』とか『オレはいろかぐを書くぜ!』、『ならばこちらはゆいかぐだ!』、『甘いな、玄人はいろゆいを書く!』ってSNSに投稿してたし~。気になるよ~」
「自分のファンをオタクって……、いや、別にそいつらはオタクで何ら問題ないな。ってか、明らか後半変なのばっかだったけども」
「ほとんど配信に出てない私たちを本にするって辺りが、ザ・オタクって感じだねぇ。需要があるかは分かんないけど、書きたいから書くってあたりが。私の知り合いの先生もそんな感じだなぁ」
大勢にウケるか、よりも、自分がウケているか、を最優先にする完璧同人マインド。商業では決して許されない考え方だ、って本人も大笑いしていつも言っているけども……。こうして実際自分が書かれる側になると、恥ずかしいってよりも先に「なんで私たちを書こうと思ったの?」的な困惑の方が強い。
「彩葉もゆい姉も、帝とのKASSENでアバターの顔出ししてたからね。あれから度々コメント欄で二人は出ないの? って聞かれるし」
「それにしてもナマモノでカップリング本を出すもんかね、普通。特に、私とお姉ちゃんとはリアル姉妹であることがほとんどバレてるし」
「多分、アバター越しだからあんまりガチ姉妹感ってのが伝わってないんだろうねぇ。キツネとタヌキで、ぱっと見だと全然違うフォルムだし」
それと同じで、あくまで自分自身ではなく、自分のアバターで書かれることになるであろうから抵抗感が少ないんだろうか。素顔ではなく、〈ツクヨミ〉のスキンをかぶせた状態だから自分を自分だと思わない、的な。
「……というか、なんでそんなに知ってるの? 二次創作ってあくまで本人の眼に入らないトコロでやるものだし、作者の人たちはかぐやちゃんの眼に入らないように告知してそうだけど」
ブロック操作やなんやかんやの機能を使って、その手の投稿が届かないようにするのは昔から続く礼儀作法の一つ。あくまでアバターなんかであっても、人によっては自身のもう一つの姿が創作の題材、場合によっては性的に描かれることが苦手だって人もいるし。
ナマモノを扱う上で、トップ級の重要事項だと思うのだけれど……。
そう思う私であったが、かぐやちゃんから返ってきた答えは斜め上のモノであった。
「ん~? なんか隠してそうだったから、ちょちょっと弄って表示されるようにした!」
「はぁッ!?」
「ありゃりゃ、……ガチ?」
それってつまりは……、ハッキングだよね?
そう言えばかぐやちゃんって犬DOGEを作ったりしてたし、プログラム系にメチャクチャ強いみたいだけど……。まさかそんなことまでできるなんて、思ってもいなかった。
しかし、なるほど。新刊ついての同人作家たちの話題、そのいくらかがかぐやちゃんの前まで漏れ出て、興味を持ってしまい彼女はSNSをハッキング。そして冬コミの存在を知ったと。うぅむ。
「かぐや達で本を書いてくれるなんて嬉しいよねぇ~。だからかぐやも『頑張ってね!』ってみんなにリプ送っちゃった!」
「みんなって……。アホッ、あんた何やっちゃってんの!?」
「それはまた、ご愁傷さまに……」
それってつまりは公式からの『お前を見ているぞ』に他ならない発言だし。同人作家にとってはメチャクチャ怖いことだよ。何か気に入らないことがあったら、速攻で訴えられても文句が言えないからね。『お前、私を題材に勝手に本書いて! 気に食わんから告訴!』って感じでさ。
まぁそんな人たちばかりじゃなくて、あくまで本人から勧められた、認められたと思って活動に励むファンもいるだろうけどもね。
「……というか、それはかぐやがコミケに興味を持ちだした理由でしょ。もともとはコスプレがしたいって話だったじゃん。アレは、どうしてなの?」
「あ、そーいやそうだったわ。忘れてた、忘れてた」
「確かに話題が外れてたねぇ」
というか、これ以上あんまり深く踏み込みたい話題じゃなくなってたね。
世界最大手のSNSハッキング事件とか、同人作家疑似恐喝事件とか、『いろかぐ』、『ゆいかぐ』、『いろゆい』なる単語たちとか。考えれば考えるだけ頭が痛くなる。
……というか今年の冬コミ、この流れだといつも仕事を貰っているサークルさんもウチのチャンネルの本を書かないだろうか。言っては何だけど、今年トップクラスでバズったのが『かぐや・いろPチャンネル』だし。
え、その場合の私、妹か自分のコスプレするの? 自分と妹たちとの本を売るために?
ちょっと今年の年末は仕事選びをした方が良いかもしれない。
(……っとと、また思考が逸れていた)
「ほら、ヤチヨカップ優勝するためにゆい姉が私のコスプレして踊ってみたをとってたことあったじゃん?」
「あ~、あったね。あの際どい恰好」
「あれ見てさ、『あっ、かぐやもやりたいな~』って思ったの。で、そこにコミケの情報を知ってさ? 乗るしかなくない、このビッグウェーブ?!」
「乗るも何も、あんたがや私が生まれるよりもずっと前からコミケはこの国のビッグウェーブだから」
あのイベントが始まったのって大分前のことらしいし、お母さんよりもコミケの方が年上とかじゃなかったっけねぇ。
しかし、私もコスプレイヤーの端くれ。かぐやちゃんみたいな可愛らしい子がコスプレに興味があると言っているのを見ると、どうしても疼くものがある。
こう、真っ白のキャンバスを前にした画家の様な……。
「ねぇ、彩葉もいっしょにコスプレしよ~? きっと楽しいよ~?」
「絶対に嫌だ! そもそも、コスプレってだけで嫌なのに、冬コミってガチの年末じゃん! バイトも一番そのあたりが忙しいんだから、ムリに決まってるって!」
「え~~。そんなぁ、彩葉ぁ……?」
「うっ……。そ、そんな顔してもダメったらダメ!」
上目づかいで彩葉のことを見上げながらおねだりするかぐやちゃん。その姿はまさに小動物のような愛らしさ。自身の顔の良さを知らないとできない、神の一手だ。
一方、それに押し切られそうだと感じた彩葉は眼を閉じ、そっぽを向いている。私から見たら、そこまでやったら負けみたいなものに見えるのだけれども、きっと本人からしたらまだ綱渡り状態なのだろう。
『このまま彼女を見ていたらお願いを聞いてしまいそう』っていう意思表示に他ならないと思うのだけれども。
「ねぇねぇ、イイでしょ? 私が彩葉のコスプレするから、彩葉は私のコスプレしてさ。 んで、ゆい姉は帝のコスプレ!」
「えっ!?」
私、お兄ちゃんのコスプレするの?! アレ、……アレを!? 女で!?
あのドセクハラスタイルの上半身ほぼ全裸の上着を!?
「いっ、いやぁかぐやちゃん……? 流石に私もアレは無理って言うかぁ、あんなんほぼ丸出しだしさぁ?」
「えっ……。ゆい姉もかぐやとコスプレするの、嫌?」
それはズルじゃんかぁ……。
「いやいやいやっ!? 嫌ってわけじゃなくって、その……、さすがに私が警察にお世話になっちゃうって言うかさぁ!?」
さすがに私もまだ、人生を捨てたくない。大学卒業も、就職もそう遠い話ではないんだ。露出で捕まるわけにはいかないよ。
「……というか、私もかぐやのコスプレするの嫌なんだけど。お姉ちゃんのコスプレ見てたけど、アレ、リアルでやるには恥ずかしすぎるし」
「ちょっと彩葉ぁ!? あの時、やっぱりそんなこと思ってたの!? お姉ちゃんの姿を見て恥ずかしいって思ってたの!?」
たしかに〈ツクヨミ〉でのかぐやちゃんの服装はだいぶ際どいけどもさ。とくにお腹のあたりの月のスリットはヤバいけども。
まさか実の妹に恥ずかしい、と思いながら見られてたのかぁ。お姉ちゃん、引退も視野に入れた方が良いかなぁ。立ち直るの、難しいぞぅ。
――なんて、夏の間にあった何気ない会話。三人が、その時には特に価値も見出すこともなかった惰性の応酬。
――冬が、何事もなく今の地続きで訪れると三者三様で勝手に思っていた時の話。
その冬がどのような形で訪れるのか。まだこの時の三人は知る由も無かった。
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