〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
本編を書いていた頃には書き溜めなんてなかったのに、本編後の話は五話くらい積んである恐怖
話は少々前に巻き戻ります。
かつての私は愚かにも妹様のお作りになられた楽曲に既視感を覚え、盗作疑惑を働かせたことがあるのですが。その時の私は汚い大人よろしく、お金の力、もとい焼肉パワーで乗り切らせていただきました。
その後もまぁ、私はいろいろとやらかしまして……。お次は回るお寿司屋さんへと二人を連れていく約束していたのですけれども。
いやぁ、なんと言いますかね。ほら、いろいろあったじゃないですか。ヤチヨカップ優勝してからコラボライブに引退ライブ、月関連にイロ関連と多種多様のイベントが。
だからその約束がずっと果たされることなく今日まで来てしまいまして。これはお姉ちゃんとしての沽券にかかわるな、と私は思ったわけですよ。妹のお手本になるべき姉が、まさか約束を破るだなんて……。
と、言う訳で今回、ようやく念願のお寿司屋さんにやって来たわけなのですけれども……。
どういう訳か、回るお寿司屋さんに行くはずだったのに気が付けば、回らないお寿司屋さんに来ちゃっているんですね、これが。
いや、どういう訳か、と言いますか理由はわかっているんですけどもね? 私がポロっと先日、お仕事関係で連れて行ってもらったお寿司屋さんの話をしちゃったのが問題でしたし。
と言うか、回転すしの約束もそれで思い出しちゃったみたいな節もありますけれども。
それにタイミングもよかったというのもあって。かぐやちゃんの引退撤回ライブとか、イロとヤチヨの仲直り記念とか、そういったのも諸々ありましたし……。
まぁ、つまりは……。
「お姉ちゃんのおごりだから好きなだけ食べなさい、べらぼうめぇ!!」
私はそう言ってガリを下品だけれども頬張るように口に含んだ。硬めの触感としょうがの風味が強くておいしいのが若干悔しかったです。
「いやぁ、ゆい姉ってこんなお店の予約が取れるくらいの人脈あったんだね~。コスプレイヤーってすご~」
「まぁ私が凄い、ってよりかはお世話になってる作家さんが凄いって感じかな~。その人は出版社のお偉い方と来たツテらしいけど」
今や同人から商業、という流れも当たり前のモノとなっているらしく、その時につれてきてもらったらしいお店が本日のお店。つまりは出版社さんから作家さん、作家さんから私へと二重に伝手をたどってきたのですが。
ダメもとで電話をしてみたら予約をとっていただけであの方には頭が上がりません。今度またお礼にお菓子でも持って伺わないと。
「……大丈夫なの、お姉ちゃん?」
「ん~、まぁ来ちゃったものはしょうがないしねぇ。今日は清水の舞台から飛び降りたつもりで頑張っちゃうさ」
有り余ってる、と言うほどじゃないけれどもおかげさまで普通の大学生よりは稼がせていただいているし。今日一日で破産、なんてことにはならない……はず。
「彩葉も今日は気にせず好きなの頼みな~。こんな機会、滅多にないぞ?」
「お姉ちゃんがそう言ってくれるなら……。ありがとう」
うんうん。もうお店に入った以上、このまま帰るわけにもいかないしね。二人にも腹をくくって好きなものを食べてもらった方が私としても嬉しい。
それに人づてで予約を取ってもらったのに、それでケチケチした頼み方してたらあの人たちの顔に泥を塗るような事にもなっちゃうし。
「ほらほら彩葉は何食べたい~? 玉子か、やっぱ玉子か? 昔好きだったよね~」
「いくつの時の話なの、それ」
いくつだっけねぇ。お父さんが生きてた頃だから……、五歳くらい? あれからもう十年くらいたっているのかぁ。時間が立つのは早いなぁ。
「はいはーい、かぐやはやっぱり大トロいきたいで~す!」
「おー、行っちゃえ行っちゃえ!」
「よっしゃぁ!」
遠慮がちな彩葉とは変わって、かぐやちゃんはおねだり上手だ。あんなに可愛らしくお願いされちゃったら誰だってノーは言えない。「大将、大トロ三貫お願い!」とイメージ通りの白い割烹着らしきアレを着ている板前さんに注文した。一度行ってみたかったんだよね、コレ。
対象も気前よく笑みを浮かべながら「あいよっ」と答えてくれた。ノリがいい人なのかな。厳格な雰囲気も好きだけど、こういう食べ手も作り手も笑顔な雰囲気もやっぱり良い。
「ほーら、彩葉もかぐやちゃんを見習って好きなの頼みぃ? 時期的には白子が美味しいぞぉ……。車エビもプリップリだし、ノドグロはなんかすっごい美味しい!」
「表現が大雑把な割に高級なネタばっかり勧めてくるのはなんなの?」
何って、吹っ切れた人間ですけども。もう散財するって決めたから、いっそのこと支払い最高金額を狙っていますが?
なんか、よくない成金的思想になっていそうだけども今日くらいは許して欲しい。可愛い女の子二人を連れてザギンでシースーとか、成金そのものですし。お金、燃やして「ほら明るくなったろう」と言ってみましょうか。……やめておこう、お金以上に私が燃えちゃうし。
「ヘイ、大トロお待ち!」
「わ~っ!」
そんなやり取りをしているうちに先ほどの注文の大トロがそれぞれの前に提供された。
「美味しそ~!」
その身は赤と言うよりもピンクと言った方が良いほどに鮮やか。全体的には白みがかっており、その身が持つ脂が一目で見て取れる。表面も魚が持つ脂でテカテカと輝いていて、まるで宝石のよう。
一方シャリの方はと言うと、一般的な白いそれではなく黒い色をしている。コレは前来た時に聞いたのだけども、なんでもシャリに混ぜている酢の色らしい。
機械で握っては再現できない、ふわりと包み込むようにして作られたシャリは遠目から見てもなぜ形を保っているのかが疑問なほどに空気を孕んでいて脆そうだ。しかしその上にはしっかりと大きなネタが乗っているのに崩れはしない。
まさにそれは、職人の技術の粋とも呼ぶべき逸品だった。
「……っ」
「あはは~、彩葉ってばすごい顔しちゃってる」
そんな食品で出来た宝物を前にした反応は三者三様、十人十色。
かぐやちゃんはその瞳を目の前の宝石と同じくらい、もしくはそれ以上に輝かせて嬉しそうに。
彩葉はこんなものが存在していいのか!? みたいな目で、前に置かれたそれを凝視している。……が、その食欲は隠し切れず、顔が捕食者のものとなっていた。
この子、顔立ちはお母さん似だからどっちかというとこういう顔の方が似合うんだよね。多分この顔を見ちゃった人はころりと彩葉に落ちちゃいそう。……まぁそれがお寿司に向けられているって言うのが彩葉らしいけれども。
「……それじゃあ、いくよ?」
「おうともさっ」
「おっけ~」
一度互いに合図もせずに、しかしどこかでつながり合っていたのか顔を見合わせ、うんと頷く。そのまま彩葉が合図の音頭をとった。
すっ、と三人がともに前に置かれたお寿司に手を伸ばす。昨今は手が汚れるからとお箸を使ってお寿司を食べる人もいるらしいけれど、個人的にはやっぱりお寿司は手づかみ一択だ。
文化への尊重、大事。だから私はラーメンは音を立ててすするし、乾麺のパスタは折らずに茹でます。でもナポリタンはどうか許して欲しい。たまにあのバターとケチャップ塗れの麺が食べたくなる時もあるのです。
掴んだお寿司を醤油には浸さない。すでに大将さんが刷毛で塗ってくれているから、これ以上はお醤油過多だ。塩辛いのは味を損なう。
と、いうわけで形が崩れないように慎重に、しかし早く食べたい気持ちを抑えきれずやや素早くと口元まで運んだお寿司は既に口の前。
後は、口に含むまでであり。それは、もう、待ちきれない……!
「せーのッ!」
そう言って三人一緒にお寿司を口の中に放り込んだ。
…………。
「なにこれ、うますぎ……」
「それな……」
「な~~」
三人共に、語彙力を失ってしまった。
全身に幸福感が満ち満ちる。最上級の味、美味しい脂、一級の技術でしか達しえない食の幸福に皆浸り続ける。食べたのはお寿司、たった一貫だけだと言うのに全身がすでに力に満ち溢れている気さえする。
三人とも、最初の言葉以外に話そうとはしない。
それは、その美味しさにノックアウトされて失った語彙力ではこの幸福感を表せないという理由でもあったのだけれども、それ以上に……。
ただこの口内に残る幸福感を最後まで楽しもうと、各々が咀嚼を止められずにいただけであった。
そうしていること暫く。もう口内の幸福感も消え去り出したころ。
「――」
奥の席でかぐやちゃんがこちらを見ながら、動き始めた。
その動作は凄く単純なもので、語彙力を失った私でも簡単に形容できる。彼女はただ、指を。人差指を一本だけ、すっ、と立ち上げたのだった。
「…………」
「…………」
それを見ただけで、私も彩葉も彼女の言いたいことをすぐさま感じ取る。お互い、思っていることは同じだったのだろう。
彩葉もこちらを見ながら指を一本、すっと立ち上げた。私も同じように一本、指を立ち上げた。
合計して三本、指がこの場に立ち上がった。
それはつまり……
「大将、大トロもう三貫良いですか……?」
「あいよ、大トロ三貫ね」
お代わりの合図なのであった。
さっきまで金額がどうとか考えていたけど、食べてしまえばこうなってしまうだなんて人間、やっぱり欲には勝てないのだ。美味しいモノには誰も勝てない。
まぁこの中で純粋な人間て彩葉だけなんだけども。あとは月人なかぐやちゃんと人工生命体的な私だし。
それじゃあ美味しいは人間特効じゃなくて生命体特効なのかも。だなんて、くだらないことを考えながら口元の涎を私は拭った。
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ちなみに以下は本編に入れたかったけど入れられなかった会話です
〈実は一緒に来ていた二人たち〉
「ねぇねぇ、ゆい姉? ヤッチョは鯖が食べたいな~」
「鯖かぁ、渋いねぇヤチヨちゃんは~。いいよ~、好きなだけお食べ!」
「イエーイ!」
「よかったね、ヤチヨ?」
「……事情を知っている私たちが見る分にはアレだけど、傍から見るとスッゴイ映像だねぇ」
「お姉ちゃんの身体は人工物だからヤチヨやイロも入れるってのはわかってるけども……」
「ね~? 一人三役で話してるヤバいヤツにしか見えない」
「ほらほら、イロもヤチヨも好きなの頼みな! 今日はお姉ちゃんが奮発しちゃうからね!」
「それじゃあウニ行っちゃおうかな~! イロは?」
「私は別にこれってのは……。ヤチヨが好きなのを食べな? 八千年ぶりの味覚でしょ?」
「も~、イロってばいつもそうやって遠慮するんだから。ねえゆい姉、イロは寒ブリがお気に入りって顔してたよ~」
「ナイスタレコミ、ヤチヨ! 大将っ、鯖とウニ、あと寒ブリも一貫ずつお願い!」
「あいよっ」
「……逆にあのゆい姉を前にして一切ブレない大将さんって何者なのかな」
「……さぁ?」