〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~   作:すっごい性癖

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本日は一話だけです


かぐや姫の難問

 

「舐めてた……。東京から草津の距離を舐めてた……っ」

「お~、ゆい姉グロッキーだ」

 

 苦節運転すること三時間。やってきました草津の町。立ち込める硫黄の匂いが鼻腔をくすぐり、たしかに温泉街へやって来たのだと身に染みる。

 

「運転するにしても基本、都内から出たこと無かったから何時間も運転する辛さを舐めていた……ッ」

「だから途中、サービスエリアとかで休憩したら? って言ったのに。お姉ちゃんってば言うこと聞いてくれないし」

 

 いやぁ、サービスエリアとかってさぁ止まるかどうか悩むんだよ。

 

 高速乗ってすぐの辺りは「まだ乗ったばかりだしいいか」って思うし、ある程度走ったら「まぁ、次も近いしそこで休もうかな?」って思う。そんでもって中盤以降は「もうそろそろ到着するから、まぁ別にいいか」って思っちゃって。

 

 結果生まれるのはゴールまでのノンストップ運転。誰もトイレ休憩を要請しなかったこともあって家の前で車に乗ってから、草津で初めて降りましたとも。

 

『だから途中で私が運転、代ろうか? って聞いたのに。カッコつけちゃってさ』

 

 そう脳内でイロが囁く。運転途中もグロッキーな私を気遣って何度か運転手交代を提案してくれていた彼女なんだけども……。彩葉は前の世界でなら免許を取得済みであったとのことだし。

 

 けれど流石に妹に助けて~、なんてお願いするのもカッコ悪かったしねぇ。そもそもこの旅行自体、私とかぐやちゃんのゴリ押し的な側面は否めないし。

 

『年齢的にはヤッチョも運転免許、取れる側なんだけどね~。自動車学校行ったこと無いから、ごめんね~?』

「んーん、ヤチヨもありがとうね。――はぁ、妹たちのやさしさが私の痛んだ腰に染みるよ……」

 

 彩葉、かぐやちゃん、イロ、ヤチヨ。計四人の妹たちの優しい言葉が披露した私の体を癒してくれる。具体的に言うのならばHPが回復アイテムでぎゅーん、と巻き戻る感じで。数値にして数パーセントくらいだけども。

 

 多分今は無理だけど、そのうち癌にも効くようになるね。私、身体は細胞で構成されてないから遺伝子異常の癌細胞とか生じないだろうけどさ。

 

 ……と、いつまでも駐車場でコントをしているのも時間がもったいない。

 

 何度も重ねて言うがここは草津、日本でも有数の温泉郷。せっかくの旅行できたのだから、こんなくだらないことに時間を浪費していてはもったいない。私一人の時間じゃなくて、妹四人分の重みも乗ったトータル五倍の時間浪費だ。万死よ、万死。

 

「……チェックイン、しよっかぁ」

 

 私はその場からゆっくりと、腰をいたわるようにして立ち上がり宿へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ~~ッ! イメージ通り、ザ・温泉宿って感じだ~~!!」

「あぁもう、コラッ、かぐや! 部屋の中で走り回らないの!」

「え~~っ、彩葉も一緒に探検しようよ! ひっろいよ、この部屋~!!」

 

 そう言うや否や、宿泊部屋の出入り口で靴を脱ぎ捨て駆け出すかぐやちゃんと、それを諫めようと追いかける彩葉。複数ある障子で区切られている部屋をピシャン、と開くことで一つの大部屋へと変えていく。

 

『いや~、幼い自分の振る舞いをこうしてマジマジと見せられるってのは、中々に来るものがあるですな~』

『そう? ああいった天真爛漫さがかぐやの良いところだと私は思うけど』

『ん~~? イロはお婆ちゃんなヤッチョを捨てて、若いかぐやちゃんの方が良いのかにゃ~~? 浮気……、かなぁ?』

『同一存在に浮気もなにもないでしょうに……』

 

 一方で脳内ではいつものようにイロとヤチヨとがワイワイと盛り上がっていて、こちらはこちらで楽しそうだ。なんかちょっとこの二人はシットリする時があるけども、今日は割とカラカラしていて聞いてるこちらも気分が軽い。

 

「うんまっ!? 机の上に置いてあった饅頭、メチャクチャうまいんですけど!」

「部屋の中走り回ったかと思ったら急に饅頭食べ出して、ほんと自由なヤツ――ってホントだ。これすっごい美味しい……」

「でしょ~? ねぇゆい姉! これお土産のとこで売ってるかな~? 芦花と真美にお土産として買っていきたいんだけど!」

「ん~、多分宿の中にお土産売り場もあったからそこで売ってるんじゃないかなぁ」

 

 そう言いながら彩葉とかぐやちゃんへと近づいていく。もちろん、机に近づいたら忘れず、置かれているお饅頭を一個取ることを忘れずに。そのまま手早く包装紙を剥がし、口の中に放り込んで咀嚼した。

 

 瞬間、口の中に広がる優しい餡子の風味。これは……、つぶあんではなくこしあんのようだ。しっとり、舌触りが良くて嫌味がない。丁寧に餡子が漉されている証拠だろう。

 

 もちろん私は自身の味覚をヤチヨとイロとに共有することも忘れない。こういった、美味しいと言った感動は共有してこそだしね。

 

『わ~、甘くて美味しいね~♪』

『ホント、私これ好きかも……』

 

 そう言う二人もだいぶこのお饅頭はお気に入りらしい。つまりはこの場に居る五人、全員の心をつかんで離さなかった魔性のお饅頭と言う訳ですか。恐ろしいですね、この美味さは。

 

 みんな気に入ったのならかぐやちゃんの言う通り、お土産として売っていたらいくらか買い込んでいこうと思う。この味なら芦花ちゃんや真美ちゃんもきっと喜んでくれるだろう。餡子が苦手じゃなければだけども。

 

「ね~、ゆい姉~?」

「ほいさ、なんでしょうか~?」

 

 一人、心の中のメモ帳にこの想いを書き込んでいると、今度は部屋の奥の方からかぐやちゃんの声が聞こえてくる。

 

 どうしたどうした、とそちらの方を向くと……

 

「このスペース、なに~?」

 

 メインの部屋の横にひっそりと備え付けられた、狭い、面積にして一畳程度のスペースに彼女はいた。

 

 ただでさえ狭い空間の中央には小さく、背の低い机。その机を挟むようにして設置された、簡易的な安楽椅子。その片方に彼女は体を預け、ゆらゆらと揺られている。よく見ればその反対側には彩葉が陣取って揺られていた。

 

 しかし困った。困りにに困ったぞ。なんと困ったかぐや姫の超難問。かつて求婚されたかぐや姫が男たちに放ったという無理難題をもきっと超える、最上級のクエスチョン。

 

 その答えをきっと人類は知らない。

 

 ……いや、人類は言い過ぎかもしれないけども。少なくとも人類の九割は知らないのでは?  いや、やっぱり九割五分は知らないはず。もしかしたら九割九分かもしれない。

 

 まぁいつもと同じく、ノーマルレアな私は少なくともその中の一人であり、あくまでマジョリティー側であって、マイノリティーでは決してないわけでして。

 

 つまりは……

 

「――さぁ、なんなんだろうねその空間?」

 

 私は、その謎のスペースの存在意義や名称など、一切知らないのであった。

 

 ――ほんと、なんなんでしょうねぇ。温泉旅館の謎スペースって。

 

 普段は超天才かつ経験豊富なイロや、ネット界の生き字引であるヤチヨが脳内で答えを囁いてくれると言うのに、今日は静かなまま。うんともすんとも言わない。

 

 私はそんな二人が答えてくれないならわかるはずもないかぁ、なんて自身の無知さの責任を明後日の方向へと放り投げる。わからないものは、わからないのだから仕方がない。

 

 ただきょとん、とした顔をしているかぐやちゃんへと出来る限りの満面の笑みで返して誤魔化すのであった。

 

 




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ようやくイロとヤチヨのキャラがつかめてきた……
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