〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
それは唐突の発覚であった。
「そういえば……。かぐやの戸籍ってどうなってるの?」
「はえ……?」
とある休日のお昼ごろ、彩葉がポツリと溢した疑問の言葉。それは当たり前のこと過ぎて忘れ去ってしまっていたが、確かに重要な事柄である。
「いや、だってかぐやって電柱で拾ったわけだから戸籍ってないじゃん?」
「あー、まぁ、そうだねぇ」
今では遠い昔のような話だけども、最初の最初は彩葉が赤ん坊をゲーミング電柱なるものから拾ったという珍場面からであったという。言ってしまえば彼女は拾い子であり、国籍や戸籍なんてあるはずがない。今まで私たちは持っていることが当然すぎて疑問にすら思っていなかったが、そう言えばそう過ぎる。
「チャンネル収益の口座とか、そこら辺はかぐやに任せてもロクな目にならないって思ってたから全部私が管理してたけどさ」
「配信者チャンネルの作成は〈ツクヨミ〉のアカウントを使えばなんとでもなるしねぇ。今までかぐやちゃん名義で戸籍をどうこう、っていうのはしてこなかったのか」
「ほぇ……?」
コレも言ってしまえば時代の進歩の弊害か。全てがわかりやすく、簡単な方向へと進化してきたせいで本来なら躓くべき障害に今日の今日まで気が付かないでいた。
アレやコレやとなんでも、手元のスマホやパソコンデバイス一つで全てが行えるくらいに縮小化が成されてしまっていて、求められる個人情報の最低限も日に日に下げられている世界は気が付いたときに牙をむいてくる。
「でも今更なんで急に……?」
「いや、私もホントいま気になったんだけどさ? このまま行くと私たち……」
そこですぅ、と一息だけ彩葉が吸い込む。まるで自身の跳ねる心臓を無理矢理、落ち着かせるように強い吸引。自ずとこちらも緊張をしてしまう。
しかしいつまでも息を吸えるわけもなく。吸った後は吐くもので、彩葉はゆっくりと口を開き……
「私たち……、脱税することにならない?」
「――あっ!?」
「ぬぇ――??」
そして特大級の爆弾が知らず知らずのうちに、爆破寸前であることを突き付けるのであった。
現在かぐやちゃんはインターネット上で活動を行っている配信者であり、それらの視聴者による投げ銭、広告収益、グッズの売り上げなどで収入を得ている。
これらの活動を始めるうえでの第一歩であったチャンネルの立ち上げは〈ツクヨミ〉のアカウントを用いれば他に身分証明に必要なものは一切なくスルスルと流れるように成功。私たちも気が付いたら彼女がデビューしていた、みたいな素早さであったことを思い出す。
続いての収益化に関してだが、これらには幾つかの行程を経たがこれもインターネットと言う電子の世界での事柄だからだろうか。形式上、上の立場となるプラットフォーム様に身分を明かす、という必要性が通常のアルバイト就職なんかよりも薄くてここもクリア。
これは恐らく、配信者と言うモノは一種の個人事業主扱いになるためプラットフォーム側が国に支払うべきお金の問題も出ないのが大きかった。配信サイト側はこちらのことをあまりよく知らなくても、サイトに収益を生んでくれればその幾らかをこちらに還元するだけで良い。それ以上に深くかかわる必要がない以上、こちらに深く干渉することもないのだ。だからここでも問題とはならなかった。
そして次にサイト経由で振り込まれるお金だけれども……。
こちらは彩葉の持つ銀行口座の一つを使っていた。そもそもが急速な収益化で、彩葉は日々学校とアルバイトに追われ銀行に口座の作成に向かう時間などない。では一方でかぐやちゃんを一人銀行に向かわせる、というのも怖かった。
今となっては私がかぐやちゃんに着いていって、かぐやちゃん用の口座作成を手伝えばよかったって話になるのだけど、あの頃はかぐやちゃんに私がいろいろと買い与えていた頃。彩葉が私にこれ以上、迷惑をかけるのは嫌だと言っていたから言い出せなかったのだったと、当時のことを思い返す。
なんて種々なやり取りや想いの交錯はあったが、結果だけを引き抜けば単純な話で、配信の収益は全て既存の口座に入り込んでいる。
つまり国の法律、および口座情報上ではかぐやちゃんの配信の収益は全て、彩葉の収益となっている。
いやもちろん、正確に言えばそれらは彼女たちの生活に用いられているから彩葉が独り占めしている、とかそう言う話ではないのだけれども、あくまで、第三者目線、法の番人的な目線で見ればそうなる。
しかしまあ許される程度の弁明で言うならば流石に彩葉の独占ではなく、『かぐや・いろPチャンネル』の収益は二人共有の口座に蓄えられている、と言っても差し支えはないはずだ。彩葉が元から持っていた口座を配信用に二人で用いている、と見なせば法的にはギリギリセーフ……のはず。多分。弁護士の娘として言い切るには自信がないけども。いや、こういう言い訳って会社立ち上げない限りダメな気もするけど……。
というか、この言い分が認められないと私たちは一つ犯罪をしていることになるし。彩葉名義の口座をかぐやちゃんが用いている、とか口座の譲渡は完全なるアウト。犯罪オブ犯罪である。真っ黒、イカ墨以上に黒い。
しかしこれが彩葉の収益と見なされたとして何か問題があるか? と言われたら、それ自体にはあまり問題はない。むしろ、彩葉の収益と見なされた方がいろいろと楽であったからこんなことになってしまっているし。
年間収入が一定額を超すと扶養から外れる、とか、所得税やなんやがかかってくる、というのも彩葉とお母さんに降りかかるだけになるからすごく話は単純化するからだ。
だがまぁ、今日までのアレコレ自体は以上までなんだけども……。ここまでなら今日まで問題なく過ごせたように、ギリギリのギリギリでセーフではある。実際のところ、法の抜け穴と、人の眼の節穴をついて生き延びているようなものであるけれど、それでも捕まってはいない以上セーフと言い張らせてもらう。
しかしこの後、具体的に言うと数か月先の年度末に明らかな問題が浮かんできたのが問題なのだ。
ここまでは詭弁に重ねる詭弁で犯罪から逃げてきたけれども……。
しかしこれだけは避けられない。
重ねて言うがかぐやちゃんは個人事業主となっている。個人事業主として配信で生計を立て、収益を獲得し、日々を生活している。これ自体はなんら動きようのない事実であり、それは口座の動きやなんやでも証明されている。
ならば……。ならば……ッ! ここに一つの最大障壁が生じる。相手は眼を付けた相手は必ず逃さない、我が国が誇る最強の部署の一つ。
年度末にすべての事業主を泣かせる年に一度のお祭り。
その名を――
「かぐやちゃんの確定申告しないと税務署に眼を付けられちゃう!!」
そう。確定申告こそ、我々の最大の敵なのだ。
「今年一年、ヤチヨカップ開催中や引退ライブと世間でもトップクラスで目立ってるし!」
「そんなライバーが一切税金を修めなかったら絶対バレるよね!?」
断言するが、今年一年はかぐやちゃんの年であった。少なくとも、インターネット上で彼女の話題が尽きたことはない。
まず初めに頭角を現しだしたのはヤチヨカップの超新星として。オリ曲の踊ってみたは別プラットフォームでもバズりにバズり、テレビでも紹介される程に。そしてプロゲーマーかつ超人気配信者であるBlack OnyXとのコラボ。ここまででも大分やっている。
しかしまだまだ、これだけではない。ヤチヨカップ優勝後はあの超人気AIライバーである月見ヤチヨとのコラボライブを実施。その人気を不動のものまで押し上げる。
さらにさらにデビューから一か月ちょっとで宣言された引退ライブ! からの引退撤回、投げ銭返還ライブ! これもまたまたニュースに取り扱われてテレビに出ていた。
そして今日だ。ここまで人前に出る機会に今年一年恵まれた人間、他には居ない。だからことしはかぐやちゃんの年だと言って差し支えない。
そんな彼女が税金を納める気配がなければ、絶対国のお金の動きを見張っている人たちが見逃すはずがないのだ。納めるべき金額が金額だからなおさらで。
つまり今日までなぁなぁ、で何とかなってきたけども。今回、年度末を何も対策せずに迎えてしまったら――
「脱税がバレて速攻アウトじゃん!?」
「そうだよっ、やばっ、ヤバすぎる!!」
「はぇ~~??? 二人が何言っているか、かぐや、まったくわかんない……」
あぁ、やばいやばいやばい。そこで税務署に眼を付けられたら次に洗われるのはかぐやちゃんの戸籍情報やなんやになる。そうなれば一巻の終わりだ。そもそもが存在しない情報を調べられても、無いモノは無い。
そうなれば国籍を持たないかぐやちゃんは一気に不法滞在者にもなる。この国に定住していること自体が問題だ。
つまり、要約すると、マジでガチのガチガチにヤバい。
「どうする!? これは流石にどうにもならなくない!? だって元からない情報なんだから仕方ないし!?」
「だよねぇ! だって本当に電柱で拾った赤ちゃんがすぐにおっきくなったんだから、戸籍も何もなかったしねぇ!?」
二人でこれ以上ないほどにパニックになる。想像できる未来が最悪過ぎて落ち着いてなんて居られない。
「ねーねー、つまりどういうこと? かぐやだけさっきから置いてけぼり」
「あー、もうっ! つまりは超、超、ちょーーーッバッドエンドってこと!! 逮捕されてバイバイならまだましで、かぐやが宇宙人だってバレるかも!!」
「エーーーっ!? バッドエンドやだーーーッ!!」
そして狂乱に参加する三人目。更に自体が最悪に進んでいく。女三人寄れば姦しい、とはいうが、これは女関係なくうるさくなるとも。出来ることならば姦しさよりも、三人寄ったんだから文殊の知恵が欲しい。
「えっ、マジでどうしよう!? これ捕まる!? 捕まったら……、もしかして弁護はお母さんとか!? それはマズイ、マズイ、マズイ!!」
しかし文殊様は降臨しない。降りてくるのは先ほどから変わらず、最悪の展望だけ。絶望の未来と、バッドエンドの足音が訪れてくる。
――だがしかし。捨てる神あれば拾う神ありとはよくいったもの。
最悪の未来が下りてきてしまってはいたが、それと同時にか細く、しかし確かな強さを持った救いの糸も天からもたらされる。
『ふっふっふ』
「その声は!?」
突然、リビングのモニターが付き画面に人影が浮かぶ。その声には皆聞き覚えがあり、三者三様で振り返るとそこには――
『その問題。見事ヤッチョが解決して見せよう――』
両腕を組んでこちらを見回す月見ヤチヨの姿。その姿がただでさえ乙姫ライクで神々しいと言うのに、今はさらに輝いて見える。後光とか、さしていそうなくらいに。
「でも助けるってどうやって……?」
『よくぞ聞いてくれましたぞよ、彩葉よ』
もったいぶるように画面内を動くヤチヨ。その表情は自信満々の笑みであり、先ほどまでの私たちの狂乱も嘘のように落ち着き始めた。
そしてヤチヨはまるで「宣言するならここ!」と言った風に、ベストポジションを見定めるとこちらを向き、すぅ、と息を吸って吐き出す。
『今からかぐやの国籍、戸籍、口座情報、その他もろもろを捏造するよ!!』
――それはもう、脱税が犯罪とか、不法滞在が犯罪、とか、そう言う次元の話ではないけれども。けれども今回は特別も特別、月から来た宇宙人への対応を法律として確立していない現代の日本国に問題があるのだと。
そう割り切ることにする。
あぁ、そうだ。あくまで刑罰は、法律として定まるまでは存在しない。罪刑法定主義の視点から『月から来てしまったお姫様を叱る』ための法は存在していないから、見逃して欲しい。
私たちに石を投げていいのは、宇宙人の家族を国に犯罪者として突き出した愛国者だけなのだから……。
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……割と真面目に原作ではこの辺り、どうやって凌いでいたんでしょうね