〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
可能なら今日中にもう一話投稿します
↑突如体調不良に陥ったため、本日は一話のみとさせていただきます
「……なにアレ?」
遠くに見えた謎の影に眉を顰める。雪舞う〈ツクヨミ〉の景色をバックに、小さな黒い点の様なものが複数、遥か彼方に存在していた。
それらは時間経過とともにどんどん大きく、大きくなっているように見えて……。
いや、確かに大きくなっている。これは見間違いではない。
アレは明らかにこちらに向かってきている。
「イロ?」
「わかってる……」
ゆっくりと腰を上げながら私は手元に武器を出現させる。KASSENで使用しているピアノ型のブレード、その持ち手を突く握って遥か先にある点を睨んだ。
イロも私の声かけなんかよりも先に気が付いていたのだろう。もうすでに件の日本刀を出現させ、その場で構えをとっている。
しかしいったいアレは何なのだ。ここはオープンされた電子世界〈ツクヨミ〉の中にあるクローズとの領域。プライベート空間とはその名の通りで私たち以外に干渉は不可能な領域だ。
誰かが近づいてくるなど、本来あり得ないのだが。
この場の異常さを再確認し、さらに武器を握りこむ手に力が入り込む。思い過ごしであればいい。それならば私とイロが恥をかいてその場で笑いものになって終わる話だ。
だがしかし、どうしてもあの影を見ると私は落ち着けない。私はアレをどこかで見て……。
そして敵視していた気がするのだ。
私は刻一刻と大きさを増していく影をジッと見つめて――。
「あれは……」
「――ッ、嘘!?」
そしてその場で驚愕した。声を聴く限り、イロも同様らしい。
しかしそれも当然だ。いや、ことこの場合に限れば私なんかよりも彼女の方が驚愕の度合いで言えば大きいだろう。
「えっ、嘘でしょ!? あれって……!」
「っ、かぐやはどこかに隠れて――!」
「えっ、ちょっとヤチヨ!?」
次いで私たちの異常な反応に気が付いたかぐや、ヤチヨ、お姉ちゃんの三人が遠くの影を見定め、そして現状を把握した。
その反応は三者三様。しかし三人共に変わらないのは、この事態が私たち全員にとって限りなく負の出来事であることだ。
お姉ちゃんはその顔を驚愕に染め上げ、ヤチヨは気を利かせかぐやを後ろに隠し、かぐやはそんなヤチヨの行動に押されている。
――あぁ、そうだ。どこかで見たことがある、なんかじゃない。敵視をしていた気がするだなんて話じゃない。
私は勘違いしていた。降り注ぐ白く美しい雪のせいで黒い影に見えてしまっていたが、あれらは黒と呼ぶよりはむしろ白い。雪が自然色としての美を兼ね備えた白だとするのならば、アレは人工的な発色を携えた汚い白。
近づいてくる、近づいてくる。黒くなく、白い奴らが寄ってくる。
もはや目を凝らさなくても肉眼で把握可能な距離だ。バーチャルの世界で肉眼と言うのは変かもしれないが、まぁいい。
「――ッ」
今まで以上に武器を握る力を増していく。もはや私の腕は武器と一体化したのではないか、と錯覚するまでに身体と武器とを同期させる。
懸念、疑問は確信へと変わった。あの影は違和感や思い過ごしではない。私やイロの勘違いではない。
アレはまごうこと無き……、敵だ。
「なんでまた来たの……ッ!」
――月人!
私とイロは合図を合わせることも無く、同時にその場から奴らの元まで駆け出した。
「――っふ、ハァッ!!」
握り締めた武器で月人の首を断つ。これでいったい何体目か、もう数え飽きたくらいには刈っただろうが未だに数は減らない。
あの後、奴らの元までたどり着いた私とイロであったがそのまま開戦となった。移動中、もしかしたら話に来たのでは……、とも思っていたのだがそんなことは無かった。
奴らはこちらの存在を確認するや否や、ミサイルのような攻撃をしてきやがった。威嚇や振りなんかじゃない。アレは明らかにこちらのことを照準に合わした軌道であった。
私たちはそれを開戦の合図だと受け取り、現在の混戦となっている。
私はこの手にもつ武器を、イロは日本刀を手に持って近くに居る月人を切り刻むのみ。
しかし切り刻むのみ、と言いつつもあの日、かぐやの引退ライブでの戦績でも自明なのだが私の戦闘技術では奴らを圧倒、といった戦いは出来ない。
前回の戦闘、その経験値と今日まで度々受けていたイロの技術指導のおかげでなんとか押し負けてはいないが、ギリギリもギリギリだ。
一対一ならなんとなかるが、多対一になると油断一つで命取り。意識して一対一の陣形になるように移動しながら、自身が得意な機動で剣先の軌道を描き続ける。
一方、イロの方は……
「いったいなんのつもりかと思ったけど……、烏合は烏合のままッ!!」
まさに圧倒、の二文字でしかない。
まるで擬人化した竜巻のように、周りに立つ月人を全て切り伏せている。彼女の周りのみ月人の密度は何段階も下がっており、ぱっと見だけで彼女の異常さが際立つ。
まるで舞のような優雅さで、しかし私の何倍も素早い動きで刀を振るい、払い、また振るう。月を単身で平定したというのは冗談でも何でもなかったのだ……、と。そう思わせるだけの説得力が今の彼女にはある。
イロも自身ももとは同じ酒寄彩葉だというのに、こうも違うと歯がゆくなる。この差は彼女が歩み、研鑽してきた八千年の違いであると解ってはいるのにどうしても気にしてしまう。
しかしそんな彼女のことを羨んでいても現状は何も進まない。今は私は私で、敵を打ち倒すのみ。
「ハァッ――!!」
返す刃で月人の身体を袈裟切りにし、身体を捻った。
幸いと言っていいのか、ここはあくまで電子の世界。武器の摩耗、体力の現象、肉体の損傷による機動力の低下、などなどを考える必要はない。あくまで考えなければならないのは敵をどれだけ早く打ち倒すかだ。
だけど……
(本当に減らないな、コイツら――!)
もう二十、三十は私だけでも切り捨てたというのに一切相手の数は減っていないように見える。
いや、実際にきちんと数えれば倒した数だけ相手の量は減っているだろうけれども。しかし私は鳥としての、俯瞰的な視点を持っているわけではない。私が持っているのは戦場で武器を振る、戦武者としての視点だけ。
敵が何体から始まり、そして今は何体なのか、だなんてことはわかるはずがない。わかっているのは敵が数えるのも嫌になるほどに大量にいて、そして確かに数を減らしているはずなのにその影響が見て取れないという嫌な現実だけ。
今はまだいいのだが……。
イロはともかく、私は油断一つが命取りだ。ギリギリを綱渡って今の戦況を保っている私では、数を減らしているように見えない今は精神衛生的に良くない。どれだけ内心で気丈を振舞っても、心のどこかで疲れが湧いてしまったら……。
いや、今はそんなことを考えることが弱さにつながる。
私は一度首を振って、先頭に集中しようと……
「おーい!!」
「――ッ!?」
集中しようとして、右手方向から声が聞こえ振り返る。まるで聞くものすべてを虜にするような美しい声。ここ数年、聞かない日は殆ど無かったと言っていいほどに私の生活に深く根付いた、歌姫の美声。
この声は……
「ヤッチョ達を置いていくとは何事だ~!」
「そーだ、そーだ! お姉ちゃん、ちょっと怒ったぞ~!」
空から星が降ってくる。ひゅー、っと音を立てながら先ほどまで私たちが居たプライベートルームより尾を引いて、私たちの元まで。見知った声を二人分孕んだ、綺麗な星が。
勢い早く、まさしく星が落ちる速度でこちらに一直線に――って、嘘!?
「ヤバッ……!」
「ウソでしょっ、あの二人!?」
勢いよく、そう、勢い落とすことなくこちらまで一直線に落ちてくる星のかけら。このままこの場で戦闘していては私たちが星に貫かれてしまう、と急ぎその場から遠のき――
そして光瞬き、地が爆ぜた。
「うっわ、あそこに残ってたら味方にキルされるとこだった……」
「前々から思ってたけど、あの二人絶対混ぜちゃダメだ! 何しでかすか分かったものじゃない!」
避けるのが一秒でも遅かったら今の私はきっとここには居ない。
そう思わさせられるほどの爆風が私たちの頬を撫ぜて通り過ぎていく。足元近くまでは星の衝突の衝撃で抉れたであろうクレータの跡が見えていた。
いったい、どれほどの威力であったのか……。考えるだけでゾッとする。
イロも言っていたが、ヤチヨとお姉ちゃんの組み合わせはダメだ。かぐやの身代わりをやった件に関して言えば、お姉ちゃんがヤチヨを騙す形で行われたが今回は二人ともの同意ありきだろう。
昔から変なところで思い切りのいいお姉ちゃんと、この〈ツクヨミ〉の世界では神の如き管理者権限を振るえるヤチヨとの組み合わせは本当の意味で災害になりかねない。
今回の件がいい例過ぎる。
いったいどこの世界に、自分自身が隕石になるだなんて発想をする人間がいると言うのだ? 自分自身を星に降り注ぐ岩の塊と見なして、敵を一網打尽にするなど。
しかもあの異常な速度はどう考えてもヤチヨが噛んでいるし。おそらく管理者権限で二人のアバターの持つ速度、加速度を異常なほどまでに上げての衝突であったのだろう。
簡単な計算でしかないがこの世界、威力を出すには速度を上げるのがイチバンだ。エネルギー論的に見てもチート、無法すぎる。無償で無限に上げられる速度など、無限にエネルギーを獲得することと何ら変わらないのだから。
とまあ、二人の無法さについてはとりあえず置いておくとして……
「二人のおかげでだいぶ数は減ったね」
「まぁあのくらい、時間の問題であっただろうけども……。と、幼い私には厳しかったかな?」
「なっ――、ふん! 八千年生きて、性格がだいぶ捻くれたみたいですねぇ!」
「はっ、元からだと思うけど?」
「そんなわけないでしょ!?」
あぁもう、ホントむかつく。しかも自分自身だから二倍ムカつくな、この態度。そりゃあ私はさっきまで力不足であったことは事実とは言え、それをあげつらう必要はないでしょうに。
過去の自分を馬鹿にして逆に空しくならないのでしょうかね、この酒寄彩葉なる人間は。推しであるヤチヨと普段イチャイチャしてることも合わせて十倍ムカつく女ですよ、ホント。
私はこのイラつきを発散するため、手に持っていた武器を一度地面にわざとドンと叩きつけて発散。もうこの件は掘り起こさないでいよう、と自身を律する。
改めて周囲を見回す。
そこらには自分たちが切り捨てた月人たちと、先ほどの衝撃で倒れ伏す月人ども。ついさっきまで無限に居たように思えた奴らも、今の一撃でかなりの数を減らしたのかかなり視認性が良くなっている。
後残るはおおよそ……、百体くらいであろうか。これくらいならば、時間の問題であろう。
その残党も今は遠い位置に居る。当たり前だが、私たちの当たり一帯は衝撃波で月人が皆倒されてしまったからだ。生き延びているのは今の衝撃を受けないほどに遠くに居た奴らだけ。
私たちはとりあえず、一度、今落ちてきたヤチヨとお姉ちゃんと合流しようとクレーターの中心地に向かって走り出し――
「――ッ、ぐぅ!?」
「ッ!? なんだっ、コイツ!?」
そして突如現れた謎の大柄な月人に無防備な体勢のまま、岩をも砕きそうな怪力で殴り飛ばされてしまったのであった。
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