〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
「なに今の――ッ!!」
突然の衝撃に吹き飛ばされながらもと居た場所を睨む。
周囲に敵が居ないと油断してしまってはいたが、確かにあの場には私とイロしかいなかったはずだが。
だというのに突然現れて、更には私たちを殴りつけてきただなんてにわかには信じがたい。しかし実際、私もイロもそいつの攻撃を受けて同じ方向に吹き飛んでしまっているのが事実だ。
いったい何が現れたのか……、って
「なんだアイツ!?」
「――月人に新種とかいるのッ!?」
空中で自身の正気を疑う。何度か目を閉じては開くも、しかし写す像に変わりはない。私の精神も目も、なんら異常はない。
アレは、いったい……?
ついさっきまで私たちが居た場所に立つアレは……
「巨大な……月人?」
先ほどまで私たちが立っていたヤチヨとお姉ちゃん隕石によるクレーター、その際に立つ巨大な人影。
和風をはき違えたような、それともあれこそが和風であるかのような神道チックないでたち。高さにして四メートルはありそうな、大柄な月人と比べてもさらにもう一段は大きい図体。恐らく私たちを今攻撃したままであろう拳を振りぬいた体勢と、そして顔に着けた白い無表情の面。
それらを一目で見て取り判断を下す。あれは確かに身体こそ大きいが、それ以外の特徴の一致から月人の一つであると見ていい。というか、少なくともこちらへの攻撃を行った時点で敵に変わりないのだ。
「――っ」
意識を再度引き締め直し、空中で身体を旋回。武器を構えながら無防備に浮かんでいた状態から、突進の構えに移行。今はまだ無理だが、地に足着いた瞬間、奴の元まで駆けるために。
見た感じあの大柄な体躯と言い、戻さない体勢と言い、パワー型の月人と見ていい。一発限りの超大技、撃ち抜いた拳が正しく必殺となるそんなタイプ。
惜しむは一度に私とイロ、両方を撃破しようと欲張って威力が分散したであろうことだ。二兎追うモノは一兎も得ず。私もイロも未だバーチャルの身体は健在だ。
であれば恐れることはない。言ってしまえばヤツは砲弾を撃ったばかりの大砲のようなもの。弾丸補充の前に一秒でも早く近寄り、首を断てばいい。
そしてそれはイロも同様の判断の様で、アイツも私と同じように空中で武器を構えヤツに身体を向けている。細まった瞳には既に次の獲物しか映していない。
――タンッ。
そして待つこと数秒も無く、私とイロは地に足を付けた。
あたりに響く接地の音色。それが図らずも私たちにとっての開始の合図となる。
「――ッ!!」
「――ハァっ!!」
足裏が地面に着いた瞬間にダッシュモーションへと移行し、すぐさま加速。右足の踏み込み動作で生み出せる最高の加速を成し、次いで左足で同様の加速を行う。イメージは一歩ごとにギアを上げる要領で。
足裏に爆薬でも取り付けているかのような爆発的な加速を行い、空中から索敵したヤツの喉元へ一秒でも早く駆けつける為に。
(――早っ!)
内心、一人呟く。当然その言葉の向かう先はもう一人の自分に。
開始は全くの同時、よーいドンの合図は一緒であったはずなのにグングンと引き離されていくアイツの背中。一歩ごとに加速しているはずなのに、その距離の差から自身だけ減速しているのではと錯覚させられるほどの絶望的な違い。
いや、実際にはアイツと私との間に速度出来な差は殆ど無い。あくまで電子世界の統率取られたシステムで獲得できる速度データに大差などあっていいはずがない。そんなのは唯のバグだろう。万人に開かれた〈ツクヨミ〉でそんな差別があっていいはずがないのだ。
だからこの差、この距離は速度ではなく――私とヤツの技術の差だ。
身体の運び方、抵抗を生む風との接し方、速度を上げるインパクト時のタイミングの取り方。
纏めてしまえばただの走行技術。それだけの純然たる実力の差がここで如実に表れているだけ。
あくまでゲームを趣味の一環として行っていただけの女子高生な私と、八千年という気が遠くなる時間を研鑽につぎ込んだことによる技能レベルの差がこの距離。
私は必死に置いて行かれまいと、必死に手足を振って速度を上げようと試みて……
(クソっ、乱れた――!)
しかし今まで積み上げてきた感覚を投げ捨てたモーションは却って邪魔となり、速度の低下を招く。普段無意識の呼吸を意識しだした途端行えなくなるように、私はどう走っていたのかを一瞬だけ忘れてしまった。
(――ああっ、もう! 意識しないってさっき決めたでしょ!)
差があるのは当たり前。あいつが私自身だからと言って、過ごした時間が違うんだから僻んじゃいけない。そう決めたはずなのに、ここにきてまだ私は引きずっている。
私は頭を三度ほど振って意識を変える。本日何度目かも覚えていない意識のリセットだ。
しかしそうしている間にも私と、そしてイロと巨大な月人との距離はゼロへと近づいてくる。私とヤツとの差が二十メートル程度として、イロとアイツとの差は十メートルもない。
先ほどまでは遠距離であったから俯瞰的にサイズを見て取れたが、この程度までの距離となるとヤツの大柄さが身に染みる。遠目で五メートルほど、と目測していたが目の前に五メートルの大柄が立つとまるで木を相手にしているかのようだ。
一歩ごとに遠近法が無に帰していき、奴の首を見定めていた私の視線は自ずと上へと向いていく。
そして――、
「――でやッ!」
先にヤツの足元までたどり着いたイロは武器を構え、地を蹴りその場から飛び上がる。まるで鳥が飛び立つように華麗に伸び行く軌跡を描きながら浮かんでいく。
当然アイツが狙っているのも月人の首だ。静かな瞳に移したヤツの太い首を冷徹に見定めながら上昇を続けて待つ。
身長五メートルほどの巨体、その首ともなると四メートル強の跳躍が必要だ。ウサギのように跳ね上がっても、その地点に到達するまでに幾らかの空白は生まれる。
本来ならば月人はその間に回避行動や外敵排除のための攻撃に移行するべきだが……。
やはりヤツは私たちの読み通り体勢を変えない。
いや、正確には動いてはいるのだが動きが緩慢すぎる。威力よりも速度を重視する私たちの戦闘スタイルに対してヤツの行動速度は止まっていると言ってなんら差し支えない。
どこかで巨体は身体の維持のために素早く動けない、と聞いたことがあったがどうやら奴もその手の類らしい。とんだこけおどしだ。見た目こそ巨大でも、相性が私たちとは最悪であった様子。
(――決まったな)
私はゆっくりと防御態勢に移行しようとする月人と、既にヤツの首元の位置まで到達し、刀を振り抜こうとしているイロとを視界に収めヤツの討伐を確信した。
「見た目でビビらせんな、デカブツ!!」
刀の先端がヤツの無防備な首を見定める。奴の首に対し、水平に刃が吸い込まれるように近づいていく。
距離残り五十センチ、四十、三十――。もはや一種のゾーンとやらにでも入ったのかスローモーションに見えるイロの太刀筋の軌跡。イロの攻撃を弾こうと振り上げ途中の腕は未だに胸当たりの高さで、どう頑張ってももはや間に合わない。
そしてたった今、当然の帰着のように刃の筋がヤツの首に添えられ、スパンと断ち切る――
「――なッ!?」
「え……?」
己の目を疑う。いったい今、何が起きたのか。自分の眼で見ていたはずなのにまるで信じられない。まさかハイになり過ぎて幻覚でも見てしまっているのか?
そんな風に自身の脳みその機能を疑う。人並み程度には使えてきた脳みそだと思っていたが、今日に来てバグでも起こしてしまったのか。
だがしかし、どんなに疑ってもこの場ではなんら意味はない。私のこの両目が見定めた光景は一つだけで、それはどんなに理屈を練ろうが変わりはない。
どんな手品を使ったのか、どんな魔法を駆使したのか。そのカラクリは一切分からないけれども。
だけれども今たしかに、たしかに……
「イロの刀を弾いたッ!?」
アイツは……、月人は間に合うはずのない防御を間に合わせ、自身の首とイロの刀の間に腕を刺しこんできたのだ!
「――ッ、面倒だな!」
突然入るはずがない防御に姿勢を崩し、思わず武器を離してしまうイロ。後方十メートルほどの位置に日本刀が深く突き刺さる。
苦し紛れにイロはダメージを少しでも残そうと空中ながら身体を捻り、素手で攻撃を試みるもあれだけの巨体相手では素手ではダメージが通っていない。むしろ攻撃した方がダメージを負う始末だろう。
イロもそれは承知したのかすぐさま攻撃を止める。そしてこちらに振り向いて――
「武器を投げて――!!」
「え……? あっ――」
そう、こちらに叫び要請。私は一瞬何を言っているのかわからず立ち止まるが、イロの必死な表情から意図を読み取り、自身が持つブレードを投げつける。
「ありがとっ! ――さて、コイツを使うのは八千年ぶりだけども……」
回転しながら十メートル先のイロまで届いた武器をノールックでキャッチし、構えるイロ。八千年ぶり、などと言いながらもその立ち姿は堂々と、私なんかよりもよっぽど様になっていた。
私はそれを横目に見ながらも、今度は自身が無手になったので弾き飛ばされたイロの武器を拾いに向かい、手に取った。
(日本刀とか、ほぼ使ったこと無いんですけど――!)
しかし泣き言を言っている暇はない。私はすぐさま、記憶の中にあるイロの構えを真似て武器を握る。出来ることならすぐ、イロと武器の再交換をしたいのだけども……
「ハァッ――、ッ。くらっ、え――ッ!!」
「――ッ!!」
どうやらそれどころではないらしい。私が武器を拾い上げたこの僅かな時間で戦闘の火蓋は切られていた。
流れる様な動作で私が投げ渡したブレードを振るうイロ。かつての持ち主――という言い方は適切ではないけども――らしく、その戦い方に迷いはない。
一方、先ほどまでのノロさは何処かへと消え失せた巨大な月人はイロが振るう神速の太刀筋に一切怯えることなく応戦している。
イロが一太刀振れば奴も打ち合い、月人が蹴りを放てばイロはカウンターに切り上げる。
まさしく一進一退の戦いだ。二人の実力は拮抗していると見て問題ない。
どうやら私たちの先程までの見立ては大間違いであったらしい。あの巨大な月人の戦闘力は、私たちの想定を大幅に上回っていた。簡単に討伐できる、だなんてとんだ思い上がり。
むしろ私はいったい、どうやればあの戦闘に貢献できるのか……
「二人とも大丈夫――、ってなんだアレ!?」
「あんな月人、ヤッチョも知らないよ!?」
そんな風に頭を悩ませていると遠方にいたお姉ちゃんとヤチヨが走って合流してきた。
二人ともイロと互角以上に渡り合っている月人に驚愕している様子だ。それも当然だろう、私だって信じられない。イロの戦闘力の異常さは私たちがイチバン良く知っているのだから。
いやむしろ、驚愕度合いで言えば二人の方が私よりも大きいはずだ。八千年という時間をイロと共にしたヤチヨは当然として、イロの力をその身で何度も実感したお姉ちゃんにもイロの規格外さは身に染みているだろう。
私だって何度かアイツにつけられた修行的なあれでアイツの強さは知っているつもりだし。だからこそ今の光景は信じがたい……。
「――あぁもうっ、面倒だなッ!」
キィン、とひと際甲高い音を立てて弾け合ったブレードと月人の腕。大きく距離を取るように後ろに跳んだイロは私たちのいる場所まで下がり、その場で息を整える。
時間にして数分もない戦闘であったのに酷い消耗だ。先ほどまでの月人戦で一切の疲れを見せなかった彼女がココまで疲弊するなんて、とヤツの評価を更に一段階繰り上げる。
「イロッ、大丈夫!?」
「――あぁ、ヤチヨか。うん、大丈夫。どこも怪我はしてないよ」
「イロ、アイツヤバくない? 私、戦闘とかはからっきしだけどもアイツが強すぎるってのはわかる」
ヤチヨとお姉ちゃんの二人がイロに寄るのを尻目に私は私で敵を睨む。
どうやらアイツもイロ同様に消耗しているのか今すぐこちらに突っ込もうとはしていない。
いや、これは慢心か。さっきも適当な判断を下して痛い目を見たんだ。ヤツがこちらに近づいてこない今は幸運によるものだと思っておこう。ヤツが消耗している、というのはこちら側の願望に過ぎないのかもしれない。
「というか、アレはどういうカラクリ? アイツ、明らかに動きが一部おかしかったけど?」
私はイロに思ったことを直球に尋ねる。
実際に戦っていたわけでは無いが、それでもかなりの近距離から二人の戦いを眺めていた身分だ。どうやって戦闘に挟まろうか、と観察していれば幾らかの違和感だって気が付く。
「アイツ、基本性能が高いってより急に加速したりパワーを増してない?」
ヤツがイロの初撃を弾いたのもそうだ。届きそうにない攻撃に、急激に加速した腕が介入したことで防がれたあの一撃。
一瞬にして防御速度が百倍や千倍にまで跳ね上がったかのような無理のある機動を私は目の当たりにした。
二人が切り結んでいる時もアイツは滑らかな高速移動ではなく、不格好な加速と減速とを繰り返すようにしてイロと対峙していた。
基本速度はイロが早いのに、一撃が決まる直前で加速してヤツはイロを速度で大きく上回り攻撃を弾いて成されていた戦闘風景。違和感を抱くな、と言う方が無理がある。
それがどうしても気になった私はイロに原因がわからないか? と聞いてみたのだけども……。
「チート……」
「……え?」
ぼそり、と呟かれた一単語。広い戦場に響く冷ややかな言葉。
しかしその言葉がまさかこの場で聞くことになるだなんて夢にも思わず、私は何かを聞き逃したのでは、と聞き返した。
が、現実はやはり変わらない。
「アイツ、バカみたいにチートを使ってる」
イロはそう断言する。
アイツの無理のある機動の根本にある、ズルの正体を……。
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本編で結葉、今の中編で彩葉をフォーカスしてるのでいつかイロを中心にした話を書きたい……
過去編……、いります?