〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
中編とは関係なくただのイロとヤチヨの過去話なので気軽に読んでください
虹色に光る光帯の中を駆け抜けていく。
幾つかの学説では時間の跳躍には光の速度を超えることが必要となり、もしタイムスリップを行う者が居たとしたら、その人間は歴史上誰も見たことの無い景色を目の当たりにすると言われていたか。光で外界を認知する人間にとって、光を超越した世界は未踏の領域であるから当然の話かもしれないが。
その答えがこの七色の光景であるというのならばなんとロマンある話であろうか。
人の歴史、知識に技術、そして想いの積み重ねで到達した一つの極地たる『光速』の果てには我々人類を祝福するような美しい光景が待ち受けていただなんて。
一人の技術者としてその事実に感動を抑えられない。学問を究めるにつれこの世界の構築法則の美しさに神の存在を実感する研究者も少なくはないが、このような祝福を用意してくれる神が居るのだとするのならば、その神はきっと善神なはずだ。
まぁ私は生まれてこの方、神様だなんて存在を信じたことは無いのだけれども。私が今まで信じてきたのは推しの存在だけで、崇めて神棚を作ったのも推し様だけ。
けれども、そうだな。うん。
もし善なる神様が居るのだとしましたら、どうか神様、私の願いを叶えてください。都合がいいかもしれませんが、それでも聞いてほしいのです。神様にとっては虫のように小さい生命かもしれませんが、それでも矮小ながらも私の人生の大半をかけてたどり着いたこの景色。決して無駄になってほしくはないのです。
駆け抜ける、駆け抜ける。虹色の光帯を駆け抜ける。
理論を考慮すればあの光はきっと私たちにとって過去の情報群だろう。光帯の中に入り込んでからの時間を概算すれば、あれらは江戸やそこらの情報群か。歴史学者からすれば喉から手が出るほどに羨ましいデータかもしれない。歴史書からは得られない、真実の過去があそこにはある。
だがそれらの情報の一切は私には無価値に等しい。どこのお殿様がどこのお姫様を娶っただとか、どこの足軽がどこのお殿様の首を断ったとか、そんなことはどうでもいい。
だってそこには彼女は居ない。いや、探せばいるのだろうがきっとその彼女は私が探す彼女ではない。寂しさを覚えた彼女じゃあ、この潜行に意味が生まれないのだ。
江戸時代など近代も近代。たった四百年ちょっと前の話だ。私が向かうのはその二十倍は先の世界。まだまだ旅は始まったばかり。
目指すは八千代の果て。この国の歴史が紡がれだすよりもさらに向こう、もっと向こうの世界を見つめて進むのだ。
そこに彼女が待っている。一人見知らぬ土地に放り出され、膝を抱え込み孤独に涙する彼女が。
だから行く。行かねばならぬ。いや、私が私であるのなら行かないのならば死んでしまえ。
あの子に涙は似合わない。あの子に孤独は相応しくない。あの子に絶望は許さない。あのお姫様には笑顔とたくさんの友達、そして幸せがイチバン似合うのだ。
月からやって来た太陽の様なお姫様は、やっぱり楽しそうにしている時が一番魅力的で私はそんな彼女が大好きだから。私のお姫様に不幸が訪れるだなんて許せない。
だから――。
(待っててね、かぐや……)
私は時間潜行舟の中から、外の光帯を眺め続けた。
現代よりも明るい日差しが差し込む海岸で私は片手で影をつくる。何もしないと目が焼き付いてしまいそうで大変だ。当分、この身体のメンテナンスは不可能だろうから出来るだけ大切に扱わないといけない。
……とか言っておいて真っ先に海来てるのはどうなんだろう、って話だけども。機械の潮風の相性の悪さなど研究者なら全員知っている話だけれども。
しかしまぁ、コレも仕方がない話。だってこの場所こそ、私が得た彼女の八千年の想い出の開始点なのだから。
「ん~と……、おっ、いたいた」
私は影を落とし見やすくなった視界の中で、砂浜に居る愛らしく見覚えのある姿を発見する。私はそれに向かって歩みを進めた。
この地はいったいどこなのか。
……わからない。
今がどの時代なのか。
……わからない。
私はどうなってしまったのか。
……わかりたくもない。
何もかも、考えたくない。思考を働かせたくない。思いを馳せたくなんかない。
酷く落ちた視野の高さも、自由度の落ちた身体能力も、一切見覚えのない海の景色も、人っ子一人見つけられないこの地の状況も、何もかもが嘘であると言ってほしい。
私が何をしたと言うのか。たしかに一回目は仕事を放って地球に逃げちゃったし、そりゃあそれは悪い事だろう。その時にバチが当たるって言うのならば私だって首を何度だって縦に振って頷くよ。そりゃあ私が……、かぐやが悪いよねって。
でも今回は違うじゃん。今度はちゃんと仕事も終わらせたしさ、引継ぎだってちゃんとしたもん。全部ちゃんと終わらせて、それで地球に戻ろうとしたんだからこんどのかぐやは何にも悪くないよね。
いったい何だって言うのさ。本当にやめてよ……、やめて。
悪いことをしちゃったときは運命の人に出会えたって言うのに、良いことをしたらこの仕打ちってさ。そりゃあないじゃん。神様って言うのはイジワルなの? そんなんじゃあ人間みんなグレちゃうよ。悪いことをしたらその時は叱って、良いことをしたら褒めてってさ?
子育て、下手過ぎじゃないかな。神様なんかよりもよっぽど、彩葉の方が子育て上手だったよ。
それともアレなのかな。一回、私の中の大切ができてからそれを奪い去ることで罰にしているとか? だとしたら神様って言うのはイジワルを通り越して、性格悪すぎじゃんね。子育てきっと向いて無いから、やめなよ本当に。
あぁ子育てと言えばそうだ。彩葉は大丈夫かな、お母さんと。たった数か月の付き合いだったけど、それでも彩葉とお母さんとの間の問題は嫌と言うくらいに知っている。
私としてはどう考えても、宇宙人的に見ても激ヤバお母さんだと思うけども、優しい彼女は嫌いになれないって言うし。できれば一発くらい、ドカーンとやっちゃってもいいんじゃないかな? とか思っちゃったりもするけど、きっと出来ないだろう。
まぁそこら辺は私なんかよりも、ゆい姉あたりがどうにかしてくれるか。もしくは帝とか。
あとは、そうだな。お金もそうだよね。
配信者活動で稼いだお金を全部、彩葉に渡しちゃったけどもよくよく考えたら私、だいぶゆい姉にも迷惑かけちゃってたし。そこら辺の配分とか全然考えないで、彩葉に全部渡しちゃった。
きっと彼女のことだ。「アンタは大雑把すぎるの!」だなんて怒った様な、それでいて優しく大好きな声でそう言ってくれたのかな、私がそこに居たら。
居ないから、聞けないけど。聞けたら良かったなぁ、だなんて思っちゃったり、思わなかったり……。
思ったり。
あとあと、そうだ。彩葉が――って。
……あはは、ダメだな私。
(彩葉、彩葉って。そればっかりじゃん……)
何も考えたくないとか、何も思い起こしたくないとか言っておいてさっきからずっと彩葉のことばかり考えてしまっている。ダブスタも良いところだ。
暇があればずっと彼女のことばかり考えてしまう。お別れは綺麗に出来たし、月でのことも考えればもう何十年も前の話だっていうのに。
……あぁ、もう、やだなぁ。
やっぱり、会いたい。会いたいよ、彩葉。また一緒に暮らしたい、笑いたい、抱きしめたい。
怒りっぽいようですっごく優しくて、冷たいようですっごく温かくて、苦しそうなのにそれでも必死に日々を生きている強い貴女に、会いたくてたまらない。
一目で心を射抜かれてしまった、そんな綺麗な彼女に会いたいのだ、私は。
でも、それは無理みたいで心が割れそうになる。
やっぱりここがどこかもわからないし、何が起こったのかもわからない。私は彩葉のいる2030年に戻るはずだったのに、今はいったい地球のどこで、西暦何年なのか。
隕石にぶつかった影響で目的の年代に戻れなかったのはわかるけども、私は過去に戻ったの? それとも未来に間違って進んだ?
あぁ、もう、どっちでもいい。どっちでもいいよ、もう。
だってどちらにしても、結果は一つだけなのだ。今、この場所に彩葉は居なくて。私はどこだか知らない海岸に一人ぼっちで。
そんでもって、こんな、こんな。
変な、身体にもなってしまって……
「調子どうですか、っと、かぐやさん?」
「え……?」
「え……?」
そう言って振り向きながらに驚き固まるウミウシを見下ろしながら、思わず頬が緩む。
私はそんな彼女のことを無視するようにして、その横に腰を下ろした。
「まったく、忙しないヤツだと思ってたけど……。八千年も過去に戻っちゃうとか、どんだけなの?」
「いろ……、は?」
あぁ、もう。そんな泣きそうにならないで。ただでさえウミウシの愛らしい姿になってしまったのに、そこに涙目まで付けてしまっては大問題だろう。キュートアグレッションの気は私には無いし、可愛い子が泣きそうなのを見るとこっちもなんだか泣きそうになる。
「なん、で……。それに、大人っぽく……?」
「そりゃあ大人にもなりますよ。どっかのお姫様がドジっちゃったから、それを解決するのに十年もかけちゃったんだし。私もすっかりアラサーですよ、アラサー」
そう言ってわざとらしく腰のあたりを撫でて老人の仕草をしてみる。「もうすっかりお婆ちゃんなのです」などと、今の彼女は知らない言葉を意趣返しにも言ってみたりしちゃって。
「あ……、う……」
「……ん?」
瞳をその身体の如く白黒とさせながらこちらを信じられない、と見つめるかぐや。しかししばらくして一転、今度はどこかへ身を隠そうと身体をよじり出す。まぁサイズがサイズだから、大した移動も出来てはいないのだけれども。
しかし、そうか、なるほど。言わなくても、彼女の考えていることくらい、私にはわかる。
そんなこと、考えなくても良いって言うのに。
「こ~ら、どこ行くのさ? せっかくの再会なんだから、逃げないの」
「わっ、ちょっと、彩葉!?」
私は両手で横に座るかぐやを掬い上げ、胸の中に抱く。二人で晴れ渡る青空と、どもまでも続く水平線を眺める体勢だ。
「ほんとかぐやってば、いらない気ばかり働かせちゃって。あの時とかもそうだったけど……。イチ高校生にとって、アンタの稼いだお金とか使いきれないっつーの」
こちとらずっと極貧民生活を送ってきたと言うのに、急に通帳の桁が何桁も増えたって困るだけだ。使い切る方が難しいって話。
貧しい日々が私の当たり前だったのだ。たった数か月、あぶく銭が湧いてできるようになった豪勢な日々だなんて、すぐ失っても何ともない。
そんなものよりもよっぽど、失っていたかったのは……
「お金なんかよりもよっぽど、かぐやが居ない毎日の方が辛かったよ。もうっ、たった二か月で私の中の当たり前を変えていってくれちゃってさ。このこのっ!」
「わっ、ちょっ! くすぐったいよ、彩葉!」
たった二か月で変えられない常識もあれば、たった二か月で完璧に壊された毎日もある。
私にとって前者は金銭感覚とか、努力する日々とか、そんなつまらないものばかり。壊れなかった、というより、壊す価値も無かっただけの話のそれらだ。
むしろ私にとって大事だったのは、彼女が壊しって言った後者のほう。
「かぐやが居ないと寂しい、って、そんな私にするだけしておいて消えちゃうとかさ。酷くない?」
うりうり、と自身の鬱憤を晴らすように人差指でウミウシボディをつつく。ひんやり、ぷにぷにとした触感がなんとも言えない快感だ。海岸は暑いし、ヒンヤリして心地いい。
「あのさ、彩葉? 私……」
「あぁもうっ、私が話題を変えようとしているのに気が付かなかったの? ほんと、そこら辺はザ・かぐやって感じ」
「でも……っ」
そう呟きながら気まずそうにするかぐや。その表情は再会に喜んでいる、といったものではなくむしろ陰鬱としたもので暗い。そんな顔はこの明るいビーチにも、太陽の様なお姫様にも全然、似合ってはいなかった。
私はそんな顔を見たくなかったから話題を変えようとしたのに。
しかしそうか。そういえばそうだ。どんなに相手が考えていることがわかるからって、それでも言葉にしなければ伝わらないことがあるのが人間関係の難しさだ。
結局十年前の私たちは、互いが互いの想いを一切口にしないで居たから拗れてしまった。言ってしまえばたった一言、伝えればよかっただけなのに。それすらも私たちはせず、結局八千年もかけてようやくその言葉を吐き出せた。
だから、今度は言った方が良いのだろう。いや、言わないといけないのか。言わないと、伝わらないこともあるのだから。
「……ねぇ、かぐや?」
「……っ」
ゆっくりと、穏やかに。相手を怯えさせないように心がけて声を出す。しかしかぐやはそんな私の声にもビクッと反応し、身をすくめている。私はそんな彼女の様子を見て内心、傷つくも言葉を続ける。
「かぐやが考えていること、なんとなくわかるけどさ? ――それ、全部思い過ごしだから」
「え……?」
彼女の思っていることは言ってしまえばそりゃあ当然、といった考えなのだろう。もし私が彼女と同じ立場になれば、同様のことを思っていたに違いない。
しかし結果論ながらも、私と彼女の立場は現在の状態で確定しているからそんなイフは存在しない。私がかぐやなら、は存在しないのだ。
だから私は偉そうにもポジショントークで言わせていただくのだ。思いの丈を。
「かぐやがどんな姿になっても、私はかぐやのことが好きだよ……」
それがかつてのギャルいかぐや姫のものではなく、八千歳を過ごしたAIライバーのものになろうとも、幼い赤ん坊や小さな女の子の姿であろうとも。
そして――、例え『ウミウシ』の姿になろうとも。
かぐやは、かぐやだ。それになんら変わりはない。
「彩、葉……。それは……」
「あぁもう、言い訳無用! アンタはかぐやなんでしょ! 違う!?」
「あっ、えっと。かぐや、だけど……」
「ならヨシ! アンタがあの、一緒に高二の夏を過ごしたかぐやだって言うんだったら、それで良いの! 私、酒寄彩葉はかぐやが好きで、例えウミウシの姿になったところで全然気にしない!」
むしろウミウシの何が悪いのか。可愛いじゃん、ウミウシ。めっちゃ推すよ、ウミウシ。てかウミウシしか勝たんし。キュートで愛らしくて最強じゃん、ウミウシ。
「それで良い、……でしょ?」
「それでって……。それだけ、じゃないでしょ。全然、ぜんぜん……。そんな、じゃあ」
そう小さく呟きながら、身体を振るかぐや。
あぁ、もう面倒くさい。乙女の一世一代の大告白を受けて、それでも煮え切らないだなんて情けないヤツだ。乙女を名乗るには私はちょっと年を取ってしまったけれども。
まったく、昔のかぐやだったらもっと簡単に喜んで、涙でも浮かべながら発狂していたでしょうに。花火大会に誘った時みたいにさ。
いや、あの反応は反応でだいぶアレだったけれども。
しかし言葉でいくら言っても、この感じでは納得してくれなさそうだ。いやいや、そんなそんな、とのらりくらりと躱そうとしてくるだろう。『聞こえてませんでしたー、だからノーカンでーす!』とか、そんな風に。
そんじゃあ、まぁ。逃げる余裕とかも与えないようにしますかね。せっかくこうして、彼女のことをこの手の内に捉えているのだから。
「ねぇ彩葉っ、考え直しなよ! どうやって来てくれたのかはわからないし、それはスッゴク嬉しいけどさ? でも、やっぱり……、―ッ!?」
瞬間身体に満ちる幸福感と……、そんでもって磯の風味。
この身体にとっての初めては、まさかの海の味でありました。ちょっとしょっぱいけれども、それ以上に私にとってはすごく甘い。きっと彼女が好きであったパンケーキよりも甘いだろう。
「――っ、ふぅ。……、ね、わかってくれた? 私の気持ち」
コテン、と首を横に倒しながら問いかければ、コクコクと呆然としながら頷くかぐや姫。
あぁ、よかった。ここまでしてわかってくれなかったら流石に私も落ち込むし、腹も立てる。さすがに実力行使までして知りません、をされたらダメだもんね。
私はそんな彼女を見つめながら、「よいしょっ」と言いながらその場を立ち上がる。両手で常に持っていては気を抜いたときに握りつぶしかねない、と彼女を片の上に置いて。
さて、それじゃあ話も終わったしさっさと海から離れよう。やっぱり海はこの身体にはだいぶ厳しいモノがある。
「それじゃあかぐや、せっかく過去に来ちゃったんだし――。旅でもしようか?」
私は海に背を向けて歩みを進めた。
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ナンバリングしていますが続きを書くかは未定です
〈与太話〉
過去に渡ったかぐやはこの二次創作では本物のコピー(正確には本物と寸分たがわぬ複製)としており、過去に渡った時の胸中は原作と同様
イロと月人の契約を知らないので本当にミスって過去に戻ってしまった、と自己認識しています