〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~   作:すっごい性癖

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本日一話だけです

ようやくプロットの半分が終わりました


逆転と逆転

 

「おりゃーっ!!」

「うっわ、すご……」

 

 神速で打ち込まれていく無数のコード群が巨体の月人へと割拠する。それらは一つ一つが大砲の弾のようであり、奴の周囲に浮かぶチートコードのポップを砕いていくのを私は、流れ星に見惚れるように眺めていた。

 

「これなら……、ハッ!!」

 

 かぐやの増援に気が付いたらしいイロがこれまで同様、その手に握る刀を振るいヤツを狙う。キラリと翻された刃が輝きながら、流れる水のように淀みなく、穢れなく。

 

 当然アイツも防御を行おうと、空いていた右腕周辺にチートを施し無限の加速で攻撃の邪魔を行おうとする。

 

 だが……。

 

「――ッ!?」

 

 それらのチートたちはかぐやの妨害で無効化。ガラスのように儚く砕け散ったコードが地に落ち、防御の為に動かそうとした右腕は加速することなく、元の巨体特有な緩慢な動きのまま稼働して――。

 

「……やった!」

「ようやく一撃!」 

 

 何にも阻まれることなく振り落とされた絶技の一撃がヤツの胴体に深々と切り刻まれる。

 

 弾かれは……、しない。

 

 先ほどまでの無限の防御力で成した絶対防御も、無限の加速で成した絶対回避も既にアイツの手札からは崩れ落ちた。アイツの無法のズルも今この時に打ち破れたのだ。

 

「――よしっ!!」

 

 ヤツの身体は確かにイロの一撃により抉り取られ、馴染みあるダメージエフェクトを私たちの前に晒し出す。

 

 私はその姿に勝利の二文字を確信し、その場から駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

「フッ――!」

 

 握ったブレードを遠心力を意識しながら振るう。自身を軸にして、刃先に最大の威力が乗った独楽になったつもりで、だ。

 

 ヤツは私のその様子を視界に収め、防御を行おうとチートを施すが……

 

「彩葉の邪魔すんなっつーのッ!!」

「――ッ!!」

 

 後方からかぐやのチート無効化プログラムが打ち込まれ、それら一連の行動は無意味と化す。

 

 私はそんなアイツの隙を見逃さず、奴の右脚太腿のあたりを十字に斬りつけた。

 

「ガハッ!」

「はっ、ずいぶんと余裕無くしてんじゃん!」

 

 刃は一切の抵抗を受けることなく、ヤツの肉体を切り裂きダメージを負わせる。空中にダメージエフェクトを描きながら、アイツ自身も実際に斬りつけられたかのように咳き込みながら仰け反った。

 

 そこを……

 

「油断大敵、なのです……。なんて、ね?」

「グゥ――ッ!!」

 

 そう、かつてどこかで聞いたようなセリフを言いながらニコッ、と笑ってウインクをするヤチヨ。まるで槍でも投擲したかのような体勢ながらも、その立ち姿は嫋やかで美しい。

 

「ナイス、ヤチヨ!」

 

 そう、ヤチヨのアシストに感謝を叫ぶ。事実、彼女の今の一撃は素晴らしかった。

 

 中距離からの攻撃に徹していたヤチヨの投擲傘に狙われ追撃。仰け反ることで曝け出されていた顎部分に、投げられた回転する鉄傘がクリーンヒット。

 

 仰け反った状態で受けた更なる上方向への衝撃だ。既にアイツにこれ以上その体勢を保つ余裕などはない。

 

 彼女のKASSENでの戦闘スタイルでもお馴染みの絶技は、寸分の狂いもなくヤツの、五メートルほどもある巨体の体勢を崩れさせた。まさしく、名アシストといって申し分ない成果だ。

 

 だが、まだだ。まだ私たちの攻撃は終わってはいない。

 

「――ッ、ガァッ!!」

 

 倒れ伏した状態で藻掻く月人。今すぐにでも立ち上がろうとするも、しかし今度はその巨体が邪魔となってすぐには立ち上がれない。

 

 まるで家の柱のように太く、長い両腕を地面につけて立ち上がろうとするも、よろけては失敗の繰り返し。膝を立て、肘を曲げ、いくら工夫しても意味はない。

 

 ようやく立ち上がるのにちょうどよい体勢を見付けたのか、てこの原理を利用しながらその場で立ち上がろうとする月人だけれども……

 

「はーい、まだまだ寝っ転がっててねぇ~!」

「ギギギッ!!」

 

 ヤツが立ち上がるよりも前、その全身の像を象るようにして打ち込まれた無数のクナイに地面へと縫い付けられて失墜。またもヤツの飛躍は防がれた。

 

「お姉ちゃんもありがとうッ!」

 

 そう感謝を述べると「いえーい!」とこちらにピースマークを向けてくるお姉ちゃん。

 

 自身の身体からイロが抜け、すっかりイロ由来の日本刀技術を使えなくなったお姉ちゃんは引退ライブでの身代わりと掛けてか、新しい戦闘スタイルとして忍者のような戦い方を最近では使う様になっていたが、まさか今日、こういう形で敵の制圧に用いられるとは思いもしなかった。

 

「あガッ――、あッ、……あぁっ!」

 

 もはや立ち上がるために四肢を動かすことすら不可能となった巨大月人。先ほどまでは地上から眺めるように上を向かなければ視界に収められなかった奴の頭部も、地に着いている。

 

 だがここで止まってはいられない。もう一分もしないうちに敵の増援がやってくる。一秒でも早くコイツを仕留めないと、こちらの方が押し切られるかもしれない。

 

「イロッ!!」

「わかってる――!」

 

 私はこの場で最もヤツの弱点であろう箇所……、即ち頭部に近かったイロへとトドメの合図を送る。

 

 当然、そんなことはイロも察していたようで準備は万全。既に彼女も最後の一撃への備えを済ませていた様子で落ち着いている。

 

 イロは精神を統一するように一拍の深呼吸を挟みながら、腰に据えた日本刀の柄へと利き手を重ねて――

 

「これで――、最後ッ!!」 

 

 そう言い放ちながら、今日一番の速さで繰り出された一撃をヤツの頭部へと入れ――

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 しかしその一撃が完全に決まり、ヤツの頭部を叩き斬るその手前。

 

 ピシリ、と顔につけていた仮面が割れる音だけを外へと放ちながら、イロの攻撃は止められていた。

 

 いや、正確には……、あれは……。

 

「イロッ! ちょっと、なにやってるの!?」

「嘘、でしょ……? こんな、こんなことって……!」

 

 そう呟き、わなわなと震えながらその場で一歩後ずさるイロ。その表情は青ざめており、まるでお化けでも見てしまったかのように血が退いている。電子の世界で血の巡りなどないだろうに、それほどまでに絶望しているのだ。

 

 いったい何が起きたのか。何が何だか分からない。何かの事故でもあったと言うのか。

 

 私はすぐさまイロのところまで向かおうと、その場で踏み込み――

 

「きゃっ――!!」

 

 しかし後ろから聞こえてきた悲鳴に驚き足を止め、振り返る。

 

 その声を聴き間違えるはずがない。ここ数か月、誰よりも一番聞いてきた声だから。夜の暗闇の中でお淑やかに佇む、そんな月から来たくせに誰よりも明るくて、陽気で、優しくて、喧しくて、そんでもって可愛らしいそんな声。

 

 この声は――

 

「かぐやっ!!」

「あ……っ、いろ……、は……」

 

 振り向いた先でかぐやが喘ぐ。息も絶え絶え、言葉を紡ぐのも難しいといった様子でありながら懸命に私の名前を呼んで。

 

「アイツ……、はっ。なん、で、私……。おぼえて、なか――」

「かぐやっ、かぐや――!!」

 

 私は脇目もふらずに苦しむかぐやへと駆け寄った。バーチャルだから意味がないとわかっていながらも、背中へと手を置き呼吸を整えようと懸命に救命処置に取り掛かる。

 

 意味があるか、効くかどうかなんて今はどうでもいい。やらないで後悔するくらいなら、やって後悔した方が万倍マシだ。

 

「きを、つけて……。アイツ、まだ本気じゃ……。――ッ」

「本気って、何を言って……。って、なんなの、これ……」

 

 かぐやの身体を擦っていたら気が付いた違和感。よく見たらかぐやの全身に真っ赤な泥みたいなものが纏わりついている。

 

 これは……?

 

「あは、はっ、ちょっとドジっちゃった……。アイツってば、私の存在そのものに……、干渉して、きて……」

「かぐやそのものに干渉って、そんなのいったいどうやって……! いや、そもそも――」

 

 彼女の言葉でピンときた。この赤い泥の正体に。

 

 これは……、チートだ。チートコードこそがこの泥の原料。

 

 かぐやはヤツのチートを全て抑え込もうとしてくれていたが、恐らく手が回らなかったものがあったのだろう。傍から見てもヤツは正しく無限にチートを展開していた。おそらくチートの展開そのものにさえ、チートを使っていたのだろう。

 

 それに対し、キーボードへの手打ちで対抗していたかぐやでは処理しきれないコードもあったはずだ。こっちが一つ処理している間に、あっちが二つ産んでいては間に合わない。

 

 だからかぐやはそんなコードを……

 

「ばかっ、なんでそんな無理するの!」

「なん、で、って……。なんで、だろう……。わかんない、なぁ」

 

 えへへ、と苦しそうながらも照れるように笑うかぐや。きっと苦しいだろうに、こちらに心配をかけまいと少しでも気丈にふるまうその姿が、逆に痛々しい。

 

 ……きっと彼女自身、誤算があったのだ。本来ならばヤツのチートコードの余剰を自身の中に収めても問題はないと踏んでいた。あくまでステータス強化のコードを自身の持つ余剰メモリーに移しても影響は少ない、と。

 

 だが実際は違った。どういう訳か、アイツのチートコードは格納されたかぐやの内部メモリを食い破り、彼女自身を侵し始めたのだ。

 

 この身体に纏わりついている泥は、そうして這い出してきたチートコードの残骸だろう。

 

「あぁ、でも……」

 

 そう、何か思いついたかのように呟く彼女。瞳はまるで星のようにキラキラと輝きながらも潤み、頬は赤く染まる。

 

 それは純粋な子供が何かを羨む、そんな様子で……

 

 私はそんな彼女の姿に、場違いにも見惚れてしまっていた。

 

「前は私、後ろでみているだけだったから……。こんどはいっしょに、たたかいたかった……、のかも」

「かぐや……? かぐやっ、かぐや――!?」

 

 そう言い残して腕の中から消え去る彼女の存在。

 

 重みも、温度も、香りも、何もかもが存在しない電子の世界でありながらも、確かに目の前でたった今、私はかぐやを失ったと。そう認識した。

 

 私は……、私は…………。

 

「…………」

 

 私は、その場から動けない。

 

 何も、できない。何も、できなかった。今回もまた、私は、かぐやを――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!?」

 

 だがそんな悲劇を世界は待ってはくれない。

 

「みんなっ、退避!!」

 

 そう告げられるヤチヨの合図を各々受け取り、引き下がる。距離にして十メートルほど後ろまで、跳躍やダッシュを用いて全速力で。

 

 そこへ……、

 

「ッ、弓か――!」

 

 シュンッ、と風切り音を放ちながら流星群のように降り注いでくる矢の大雨。あの場にどまっていたら今頃、弓道場の的になっていただろう。

 

 これは……、クソっ、間に合わなかった!

 

「増援が到着した――!」

 

 私たちは遠方を眺める。たった今、退避した十メートルとそれより更に数メートル先の地点を。

 

 そこには……

 

「あの巨大な月人も救助されちゃったねぇ」

「たははっ、コレは……。マズイかなぁ」

 

 既に地面に縫い付けられていた巨大月人を救出し、立ち上がらせる増援の姿が、見える。ご丁寧にも割られたであろう仮面や、傷があった服は新しいモノに取り換えられているし、万全回復とでも言いたいのだろうか。

 

 しかし……、どうする。

 

 正直な話、増援だけを考慮するのならば問題はない。数こそ多いが、そいつら一人一人を丁寧に攻撃すればまず負けることはない。

 

 だが、あの……。巨大な月人も含めるとなると話は別だ。

 

 そもそもが他の月人と比べてバカみたいに大きく、強力だと言うのに、それに加えてかぐやの退場によってチートコードへの対策もこちらには無い。

 

 先ほどまでの戦闘を振り返ると、私たち四人とチート有りの巨大月人でトントンくらいだし、そこに増援が加わると旗色が悪すぎる。

 

 ここは……、えっ?

 

 なんで、嘘。ただでさえ先ほどかぐやを失ったというのに、今度は貴女なの? 

 

 ねぇ、嘘だと言ってよ……

 

「ヤチヨ、何してるの……?」

「ん~~? 何って、なんだろうなぁ……。強いて言えば、ズル? もしくは、遅延行為、とかかなぁ」

 

 一人、敵の方へと歩いていくヤチヨの背中を視線で追う。

 

 足は……、動かない。まるで凍り付いたかのように一切動いてくれない。おそらくこれは、彼女に細工をされてしまっている。

 

「ねぇ、止めてよヤチヨ! ねぇ、ねぇってば!!」

「ありゃりゃ、イロってばすっごい大きい声。んふふ、ちょっとはあの時の私の気持ち、わかったかなぁ?」

 

 ヤチヨの身体、その全身が緑に輝く。まるでエメラルドや翡翠のように美しく、輝かしいまでに光を解き放つ。

 

「わかった、わかったから! だからっ、そんなバカな真似はしないで! 私がっ、私が今すぐコイツら全部倒すから! だからっ!!」

「あっはは、ヤッチョてば愛されてますなぁ……。普段からそれくらい、わかりやすくデレてくれると嬉しいんですけどもねぇ」

 

 そう言いながらヤチヨはパン! と、その両手を強く叩き合わせる。まるで陰陽道の技の一つのように様になったその仕草で、何かの御業を成すかのように。

 

 一方イロはそんな彼女が何をしようとしているのか察しているのか、必死な表情で食い止めようと叫んでいる。

 

「ねぇ、彩葉……?」

 

 この『彩葉』とは自身のことでないことくらいは、今の私にもわかる。

 

 イロとヤチヨは、やはり名前を変えても八千年の時間を過ごした『彩葉』と『かぐや』であり、周囲からはイロやヤチヨと呼ばれようと、二人の間の中だけではずっと『彩葉』と『かぐや』なのだ。

 

「今度は……、うん。あの夏の日には言えなかったけど、今度はわがまま、言っちゃうね?」

「……、かぐ、や……?」

 

 すぅ、とその場で息を一つ吸い込む。その動作に私は、先ほどまで自身の腕の中で苦しそうにしていたお姫様の姿を幻視する。

 

「助けて、彩葉? 月で、待ってるから……」

「かっ、かぐや――!」

 

 助けて、だなんて簡単に言うなと、私は彼女にそう言った。

 

 それはきっと、別の私も同じなのだろう。母から告げられた残酷な世界の真実に、私も彼女も彼女たちに救われるまでずっと捕らわれ続けていたのだから。

 

「バイバイ、……またね?」

 

 そう最後にヤチヨは呟くと、ひと際眩い光が周囲を満たして……。

 

 そして眼前に居た巨大な月人も、大勢の援軍も、そして――

 

「かぐ、や……」

 

 ヤチヨも姿を消してしまっていた。

 

 




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