〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
ご迷惑をおかけして申し訳ございません
仮想空間〈ツクヨミ〉。
言わずと知れた超絶的な人気を誇るバーチャル上の世界であり、もはや人間にとっての第二の生活圏と呼んでも差し支えないような場所。
建造物や装飾品、アバターの衣装や付随のゲームなどありとあらゆる要素が和風でありながら、あちらこちらでケミカル色のライトが目を焼かんとばかりに散見される超古風的でありながら、超未来的といったまさしくロマンの地。
そんな世界の入り口的な場所に当たる、赤い鳥居の地点に私と彩葉は立っていた。
「ココに来るのも久しぶりだね~」
「半年くらい前だっけ。私がお姉ちゃんを案内したのって」
「そうそう。あれもヤチヨのコスプレをするなら生で一回は見ろ! って言われてね。彩葉に案内してもらったんだったよね~」
そんな時間がたったわけではないけれども、なんだか無性に懐かしい話だ。
ヤチヨと言えば言わずと知れた超人気AIライバー。そんな彼女を見る為に〈ツクヨミ〉をはじめたとしても、初心者のぺーぺーでは彼女を遠くから望むことすらできたいと勘違いしていたのだが。
「まっさかログイン最初にチュートリアル役として会えるなんてねぇ」
「あの時は驚いたんだからね? 待っててもお姉ちゃん、全然出てこないし」
「あっはは、ごめんってば」
いやぁ、あれは自分で考えても酷かった。
外で彩葉が待っていることを知っておきながら、一時間くらいずっと目の前に現れたヤチヨをつぶさに観察し続けてさ。服の質感はどう、とか、肌色は、とか、立ち姿は、とか。
私の中のコスプレイヤー魂がくすぐられたと言いますか、なんと言いますかね。
彩葉曰く、あの場に現れるヤチヨは本体ではなく、チュートリアル用の分身であるらしいから、観察対象としては微妙なのかもだけれども。
最初の方は機械のように私がアレコレと観察し続けていても、アバターの設定を促してきたヤチヨであったけれど、最後の方はなんだか本当に戸惑っているようであって、技術の進歩ってすっごいな~、だなんて感心しちゃった……。というのは、別の話か。
結局、しばらくしてから正気を取り戻した私は急いで自身のアバターの設定を終わらせたから、今の私のアバターはほとんどリアルと同じなんだよね。
「姉はタヌキで、妹はキツネ。家族で好みって似通るんだねぇ」
「言っても、お姉ちゃんのタヌキ要素って頭の上の葉っぱくらいじゃん。……あと目のクマ」
慌てに慌て過ぎたからなぁ。髪色とか、髪型とか、全然弄ってないし。今更ながら尻尾くらいは付けとけばよかったとは思うけども。
ちなみに頭の上の葉っぱはどう動いても落ちないのだけど、こういう細かい部分にどんなにリアルでも仮想空間なんだなぁ、と思わさせられる私であった。
「……家族で好みが似るかどうかはわかんないけど、アバターに関していったらこれくらいがちょうどいいと思う。私は……」
そうやや低い声でボヤく彩葉。その瞳はどこか遠いところを眺めているようで、こちらを見てはいない。だけれども、その視線の先は私にもはっきり、くっきりと見えている。
あの、真っ赤な真っ赤な鬼いちゃんを。
彩葉ってば、お兄ちゃん大好きだったから、いろいろと複雑なんだろうなぁ。インターネット上のキャラクターとは言え、実の兄が俗にいうオレ様系、オラオラ系をやってるだなんて。
別に嫌いになったとかじゃないんだけども、家族のそう言う姿を見るとなんか身体を掻きむしりたくなるような、そんな衝動を感じるってのは、わかるし。
「――おっ?」
「――来たね」
きゅいん、と一瞬付近が光ったかと思うと、鳥居の間から金髪のウサギ娘が飛び出てくる。
勢いそのまま、彼女は前のめりに倒れ込み、足首がつからない程の浅瀬でばしゃんと水しぶきを上げた。
本人は急な出来事で変わらぬ星のような瞳をまん丸にさせて、きょろきょろとあたりを見渡している。ぺたりと座り込んだ姿は、おしとやかなお姫様の様。
「金髪っ、ギャルい、かぐや姫って……っ、ぷふっ」
妹はそんな彼女の姿がどこかツボに入ったのか、口元を抑えて笑って楽しそう。おそらく、彼女の琴線に触れまくりであったのだろう。ギャップで笑うというのは、古今東西、良くある話だ。
これ以上はプライバシーの侵害かもだけど、ヤチヨが推しなところを鑑みるに彩葉には古風と今風のハイブリッドが特攻なのかもしれない。いや、日本人のオタクの中でこの属性が特攻にならない人間の方が少ないかもだけれどもさ。
「うぅん……。もしかして、彩葉と結葉?」
ぱちぱち、と両目を瞬かせて私と彩葉との顔を交互に見つめるお姫様。彼女の眼から見て、リアルと違う姿ではあるが、それでも似通う部分も多い私たちの姿にピンとくるものがあったのだろう。
「はい、手ぇだして」
彩葉はひとしきり笑きったのか、座り込むかぐやちゃんに手を差し伸べ掴み上げると
「ほら、行くよ! お姉ちゃんも!」
そう言って〈ツクヨミ〉の中心地へと向かって走り出した。
現状を一瞬でかぐやちゃんも把握したのか、早められる彩葉の脚に合わせ、彼女も自身の脚を回転させだす。目をキラキラと、夜空に輝く星々のように瞬かせながら「彩葉~、はやいよ~」なんて言ってね。仲良く、手を繋いでさ。
「いやあ、若い子たちは元気だねぇ」
さして年齢は変わらないはずの私だけれども――いや、女子高生からしたら大学四年生はだいぶ年上に感じるかもだが――、まるでおばあちゃんの様な言葉を漏らしてしまう。
二人はぐんぐんと町の方へと近づいていき、今ではすっかり米つぶ位に小さい背中しか見えない。
「あっはは、どうしよう……」
いやぁ、いやはや。ホント、ホントね。私が悪いんだけれどもね?
私自身、〈ツクヨミ〉に来たのがすっごい久しぶりなんですよね。前に来たのは、何か月前であっただろうか。正確に思い出すのも難しいくらいには、朧気だ。
恥ずかしながら、年々物覚えが悪くなってしまっている凡人な私は、すっかりゲーム機のボタン配置なんかも覚えるのが難しくなってきていまして。
はっきりと申し上げますと……。
「走るのって、どうやるんだっけ?」
時代に置いて行かれたような、そんな気がする今日この頃なのでした。
――しばらくして、私が付いてきていないことに気が付いた彩葉がメッセージを送ってくれて、そこで位置情報と一緒に簡単な操作方法を送ってくれたのでなんとかなりましたとさ。
めでたし、めでたし。
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……ちょっと今回も短くなったので、可能なら今日中にもう一話書き上げて投稿します