〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
メチャクチャ短いです その内加筆するかもです
「……居た!」
二人で駆けること十分。
ただでさえあの巨体だ。私たちはさして困ることなく彼女を見付けだせた。
「かぐや……」
丘の上で立つ巨大な月人の影。その後ろには青い星が見えている。私は、彼女があれだけ愛した地球を背に立っているというこの事実だけで泣いてしまいそうになる。
「ちょっと……。感傷に浸ってる時間は無いからね」
「わかってるよ」
そうイロに窘められて私は意識を戻す。わかっているだなんて口では言ったが、実際の内心は落ち着いたものではない。きっとそんなこと、彼女もわかっているだろうけれども突っ込まないでいてくれるのはありがたい。
「それじゃあ……、いくよ?」
「――うん」
間隙は持たない。この場に来た以上、私たちがしなければならないことなど決まっている。私たちは歓談をしに来たわけでも、ましてや彼女の無残な姿を鑑賞しに来たわけでもない。
私たちは、ただ……
「助ける……。ただ、それだけ」
そう。助けるのだ、彼女を。下種な月人に兵器へと変えられたかぐやを一秒でも早く元の姿に戻してあげなければ。あんな人への危害だけを目的とした姿だ何て彼女にはまったく似合わない。
彼女は、そう……。
笑顔以外の顔は似合わないのだと、私が誰よりも知っているのだから。
だから、戦わないと。戦わないと、ダメなんだ。たとえ役者不足でも、戦って見せないと……。
私は自分にそう暗示を込めた。
「ッ――!!」
戦闘は苛烈を窮めた。
恐らく、〈ツクヨミ〉での戦闘時では彼女も本領を出せていなかったのだ。
彼女は〈ツクヨミ〉で自身を強化するためのチートコードを展開するため、ヤチヨの組んだ防衛機構を無効化していた。それは、かぐや本人だから無効化できた特別案件だったのだろうけれども、だからといって一切の苦労がなかったという訳ではないのでもろう。
そして今はというと……、ここは彼女の実家とも言うべき月世界。
当然、防衛機構によるチートコード展開の妨害などなく、むしろ周囲は彼女の活動を補助しようとする。
結果として……
「ちょっと、流石に無法が過ぎるんじゃないの!?」
「――ッ!!」
ブン、と振るわれた右腕が眼前を通り過ぎる。
その速度は〈ツクヨミ〉戦闘時でもただでさえ光に等しいのではと錯覚するほどに早かったというのに、その何段階も速いものへと昇華されていた。
「口を動かしている暇があるんだったら、手を動かす!」
「……ッ!!」
イロがそう私を叱りながらかぐやの足首を狙い一撃を入れる。しかしやはりすぐさまチートコードが展開されその攻撃によるダメージもゼロとなった。
まさしく〈ツクヨミ〉での再演だ。
こちらは紙一重で敵の攻撃を避け、相手は私たちの攻撃の悉くを無力化してくる。こちらが不利な状況のまま続く拮抗状態。
戦闘開始から既に三十分が経過した。
だというのに私たちは未だ有効打と呼べるものを一撃も与えられていない。
いや、それどころか……
(私が……、邪魔になってる)
ギリ、と私は強く歯を嚙みしめた。
この地に居るのは私を含めて三人だけ。当然、私とイロ、そして月のかぐやの三人だ。
このうちイロはそもそもの戦闘能力の高さと、〈ツクヨミ〉での戦闘経験から得たヤツとの戦闘のコツで磨いた動きの改善点が光っていうる。ただでさえ神速と呼ぶにふさわしい身のこなしだというのに、今はさらに磨きがかかっている。
一方でかぐや。かぐやはさっきも思ったが、月と言うホームグラウンドによるバックアップを獲得したことで自身へ掛けるチートのバフが急増している。
そして最後に私。
私は、この場所では実力が足りていないのは悔しいが事実だと認めるしかない。
そもそもがイロほどとは言わずとも、お兄ちゃんにさえ及ばない戦闘能力しかない私だ。そこに多少、戦闘のコツを上乗せしたところで見劣りする事実に違いはないのだ。
むしろ、何故今の今まで私は一撃も被弾せずに戦闘を続行できているのか。そっちの方がおかしいとさえ思えてしまう。
「――ッ!」
振った一撃を再度かぐやに弾かれ後ろに下がる。接敵距離まで目測十メートルの地点まで戻されてしまった。
視界ではイロがたった一人でヤツと戦っている。距離ゼロで、武器を振ってヤツに斬りかかり、そして攻撃を避けていく。
私が後ろに退がり、一人で戦闘をすることになってもなんら問題なく、先ほどまでと同様の戦風景を見せている。
私は……、私は。
(行かなきゃ……、行かなきゃ、なのに)
頭ではわかっている。あそこで戦っているのはかぐやで、私は彼女を救いに来たというのに。そのために私は戦わなければいけないと理解しているのに。
それなのに、一向にこの足が動いてはくれない。
自分があそこに行ったって、きっと邪魔にしかならないとそう怯えて最初の一歩が踏み出せない。
情けない、情けない、情けない。
私は何時だって中途半端だ。お母さんにだってずっとそれを指摘されてきた。中途半端で、甘ちゃんで、そのくせ強情で、わがまま。
あの人の言うことはいつだって私にとって目を背けたい事実であった。多少露悪的な言い方があったとは思うが、それはそれとして事実ではあった。あの人は、嘘は言わなかった。
私は中途半端に何もかもを放置してきた。その一つでも白黒はっきりさせていればこの一歩だってきっと踏み出せたのに。
それは例えば私のかぐやへの想い。私が彼女をどう想っているのかを白黒させておけばこの一歩の勇気になった。
それは例えば私の決意。かぐやを助ける為に命を捨てる様な覚悟があるのならばこの一歩の着火剤となった。
それは例えばイロへの嫉妬。自分なんかよりもよっぽど長く生き、自分なんかよりもよっぽど強い彼女の邪魔にしかならないのではと疑念をどうしても抱いてしまう。
私は、しかし……。それでも、一歩を、踏み出さなければ。
あそこで戦っているかぐやのため、そして地球で意識不明となっているかぐやのためにも、私は、戦わないと。
でも、その戦いに私は本当に必要なのか。目の前で描かれる戦模様に、自身が入り込む隙間はあるのか。どうなのだ。どうなんだ。どうなんだよ、酒寄彩葉。
あぁ、ダメだ。私は昔から考えすぎると動けない悪癖がある。
ダメな方向に思考を進め過ぎて、悪循環を描き、坩堝に自分からハマってしまう悪癖だ。
視界が狭まる、聴覚が閉じだす、呼吸が乱れる。
「――のかぐ…………られるのは、……だけで……!」
遠くでイロの声が聞こえる。私はそれを聞いて一歩踏み出そうとして、それで……
「あ……」
やっぱり一歩を踏み出せないままでいた。
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