〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
『くそっ、捕まったか……!』
「不甲斐ないお姉ちゃんでごめんね……」
懐の中に隠していたFUSHIの言葉に謝罪する。
彩葉とイロとを送り出してから三十分ほど。弱い自分なりに頭を使って立ち回っていたつもりであったのだが……。とうとう敵に捕まってしまった。
そもそもこの作戦自体に無理があったのだ。確かに私はFUSHIの協力のもと敵の円陣の中で上手く身を潜められ、まるで忍者のように暗殺を繰り返せた。
敵を倒しては姿を変え、倒しては姿を変え。まるで薫る煙のように相手にその姿を捉えさせず。
しかしそんなのは所詮、ただの思い付き。敵だって鍛え上げられた戦士であり、兵士としては私なんかよりも何段階も上手の存在。
さらに時間が立てばたつほど隠れられる人数を自分の手で減らしていっているのだ。そりゃあいつかは捕まるってのも自然の帰着だろう。森の中でなら上手くいっても、林までスケールが落ちれば話が変わるのは当たり前だ。
けれども、しかし。
「ちょっと情けないかなぁ?」
あれだけカッコつけてこのざまか。つくづく自身の凡庸さで頭が痛い。
愛する妹たちの為に雑兵の相手を買って出た訳だけれども、ふたを開けてみたら一時間ももたせられないだなんて。
まだ遠くにはイロと彩葉とが戦っているであろう大きな砂埃が見えている。チートを使ったかぐやちゃんの一撃によるものだろう。まるで爆弾でも使ったような地響きもときどき耳をつんざく。
『そんな自分を卑下するな! 結葉は十分よくやったと思うぞ!』
「あははっ。ありがとね、FUSHI。……っ」
『結葉、大丈夫か!?』
ギギギ、と上から万力の様な力で地に拘束される。戦闘中の私の腕を掴み、拘束した月人によるものだ。
電脳世界だから痛みはないが、しかし月に居る今の私は半情報体的な存在だ。強制的に無理のある体勢へとさせられ、変な声が漏れ出てしまう。
「いやぁ、しかし……」
ぐぐ、と押さえつけられた頭をなんとか横にずらして視界を獲得する。とはいっても地面しか見れていなかった状況から、僅かに横が見れるようになっただけだけど。
その視界の中に映るのは最初よりは確かに数を減らしてはいるが、それでも未だに大量といって差し支えないであろう数の月人の姿。
小型も大型も問わず皆、小癪にも三十分ここに縫い留めてきた私と言う存在に苛立っていたのだろう。全員動きを止め、地に伏せられている私のことを見下していた。
「あははっ、月人ってのも悪趣味なヤツらだねぇ……。そんなに私の処刑が見たいのかな?」
そう言って私は押さえつけてくる力に反抗することを止める。再度顔は地面の方を向き、視界には月世界の地肌しか映らない。
いや、正確には……
『おいっ、結葉。結葉!?』
キラリ、と視界の隅にうっすらと輝く細長いものが見える。
言うまでもない。この場に手拘束された不届き者の処刑を行うための斬首刀だ。
私にとっては不十分な時間稼ぎであったが、月人たちにとっては屈辱の三十分だったのだろう。味方に化けられ、嘲るように倒されて。私を補足し倒したと思ったら、味方を切ってしまっただなんてこともあったはずだ。
故の斬首。月世界の出で立ちはどこか古風な日本を思わせるが、どうやら罪人の処罰もそれっぽいものらしい。斬首、さらし首は時代劇でも定番だ。日本において大罪人の末路としてはもっとも有名と言っても良い。
『おいっ、なに落ち着いていやがる!? 今の結葉は普段の人工ボディから抜き出た情報体だっ! そんな状態で電脳世界で首を斬られてみろっ! 下手をすればお前までッ!!』
「大げさだよ、FUSHI。確かに当分寝込んじゃうかもしれないけど、死にはしないから」
『お前はまたっ! この、大バカ野郎がッ!』
さらり、と後ろで纏めた髪が落ちてきたのを視界の隅に確認する。おそらく今頃私の首筋は何にも隠されることなく、恥ずかしくも露わとなっていることだろう。
私自身、この結末に何か異を唱える気はない。もとより、遅かれ早かれこうなるとは思っていた。
唯一惜しむことがあるとすれば、それはやはり、彼女たちの決着まで時間を稼げなかったことだけだ。イロも彩葉も私の自慢の妹たちだ。きっともう少し、あと十分くらいでもいいから時間を稼げたら、全てを終わらせてくれたかもしれない。そう思うと口惜しさは何倍にも膨れ上がる。
(いっそのこと自爆でも出来たらよかったんだけどねぇ)
自爆して、この場で一人でも多く道ずれにできれば最後まで完璧な時間稼ぎであったと言えたのだけれども。実際この作戦を思い付いた段階では真っ先に思案したし。
しかしこの作戦を行う上でFUSHIの協力は不可欠であったからその考えはすぐに却下したのだけども。さすがにFUSHIを巻き込んでの自爆は行えない。自分だけが爆弾になるだけなら話は早いのだけれども……。そうはいかなかったのが現実だ。
「……」
ぎゅっ、と目を閉じる。覚悟は決めた。後悔はしている。二人には懺悔だって唱えたい。
しかしどんなにそう思っても私が捕まってしまっているのも、首をさらけ出させられているのも、下手人であろう月人が得物を構えているのも、全部が事実だ。それはどうあっても覆らない。
だから私はこの結末を飲み下し、後は私なんかよりもよっぽど優秀な妹たちに任せたとある種の諦めを得て。ただ静かに首を断たれるのを待つのだ。
……それから、どれほど待ったか。
一分か、十分か。客観的に観測した数値であるのならばおそらくそんな長時間など経過してはいないだろう。ただ、首を斬られる前の緊張した自分がその時間を何十倍にも引き延ばして感じてしまっただけ。
「……?」
いや、しかし。それにしても長すぎる。いくら私の緊張が生んだ錯覚だと言っても、この待ち時間はおかしいのではないか。
月人たちはようやく捕まえた私を今すぐにでも処刑しようとしていたはず。だというのに未だこの首は断たれず、胴体と頭はつながったままだ。
……私は閉じていた瞳をもう一度開こうとして
――スッ
「……ッ!?」
何か硬いものが空気中を振った様な、独特な風切り音を耳にして目を開くことを止め、再度閉じる。
あぁ、なんだ。やはりただの錯覚であったか。仮想とは言え、死への恐怖の為に時間が何十倍に引き延ばされただけ。
今のはきっと、私の首を断つための刀が持ち上げられた音だろう。先ほどまで地を向いていた視界に写っていた刀身を、天に掲げたことで鳴った空気の破裂音だ。
私は今度こそ自身の意識の終了を覚悟して……
「――ったく。さっさと眼ぇ開けて立ち上がれよ」
「え……?」
そして頭上から聞こえた、この場所では聞くはずのない声に私は驚愕し勢いよく振り向く。今更だが、私の頭を抑え込んでいた月人の腕力は消えていたらしく、なんの抵抗もなくあっさりと。
そこに居たのは……
「よう、元気?」
ニッ、とキザな営業用の笑みを浮かべる大柄な男。額には黒曜の様な硬質の角を二本生やし、髪は燃える炎の様な真っ赤な色。
見間違えるはずがない。私が、私……。酒寄結葉である限り、見間違えるはずがない。そんな男がそこには立っている。
だって……
「おにい、ちゃん……。なん、で……」
どんなに姿かたち、振る舞いを変えたとしても……。
その優しいまなざしは変わらないから。
酒寄朝日改め、帝アキラは……、私のただ一人のお兄ちゃんなのだから。
『おっしゃあ、間に合ったか!』
「もぉ、FUSHIってば緊急連絡とか急に送ってきて、何事かと思ったよ」
「まさか月に討ち入りに行くとは……。前の件と言い、驚かされる」
ふらり、とお兄ちゃんに補助されながら立ち上がる中、二人ほどさらにこの場には似つかわしくない声が聞こえてきた。
「Black OnyXの皆さんも……。どうして……」
よろめきながら周囲を見渡せば声だけではない。そこには確かに〈ツクヨミ〉内でも屈指の人気を誇る配信者兼プロゲーマーの三人。グループ名、Black OnyXの鬼三人衆が立ち並んでいる。
『どうしてもこうしてもねぇ! お前も含めて三人とも、かぐややヤチヨが危ないって冷静さを失いやがって! 他に戦力も集めねぇで月に速攻で攻め込もうとしたから、こっちに来る前に声をかけておいたんだよ!』
「FUSHI……」
懐の中で飛び跳ねながらそう叫ぶFUSHIの言葉を反芻する。
確かにあの時、私たちは焦り過ぎていた。いや、意識不明のかぐやちゃんや消息不明のヤチヨなど時間を無駄に消費してはダメな局面であったから急ぐべきであったのは確かなのだけれども。それでも作戦会議を終えて速攻で月へと来たのは言われてみれば軽率でもあっただろう。
「水臭ぇだろ、結葉。言ってくれりゃあ幾らでも手を貸したっつーの」
「お兄ちゃん……、でも」
バン、と強く背中をお兄ちゃんに叩かれる。まるで、そこから先は言わなくても良いと私にそう言う様に。
「というか、そもそも……な?」
そう言って私の前へと進み出るお兄ちゃん。トレードマークの金棒の様な武器を右手に持ち、臨戦状態と言った風貌で。
そんなお兄ちゃんの姿に倣う様に二人……、乃依さんと雷さんも各々の武器を手にして前へと出た。
「最強で名を通しているオレ達が月のヤツら相手には負け越しとか、そんなダセェこと我慢できるかっての。なぁ?」
「べっつに、オレは悔しくないけど? 帝ちゃんだけじゃないの~~?」
「嘘だな。何度オレが乃依のストレス発散に付き合った事か」
「うっわ、雷ってばデリカシーなさすぎない?」
「……っふ、お前に対してだけだ」
「うっざぁ。最初に雷のヘッドをショットし~~よっと」
「……ホラ。コイツらもみんな、負けっぱなしは気に食わんってよ!」
『まとまりねぇな、コイツら』
そんなコントの様な言い合いを三人プラス一匹で行いながらも、しかし全員が敵を睨みつけている。全員口ではふざけ合いながらも、その闘志は滾らせているのだ。
私は……
「その……、ありがとう」
少しの気恥ずかしさと、申し訳なさを感じながら彼らの横に立つ。武器を構え、敵を睨みつけた。
お兄ちゃんはそんな私の様子を見て少し口元を緩めると……
「よしっ、んじゃあ行くか!」
と、檄の声を大声で放つ。
「幸いここは〈ツクヨミ〉じゃねえ、人様ん家だ! 行儀よくする必要もねぇ!」
瞬間立ち上がる無数のポップアップ。その画面にはアルファベットと数字が規則的に並んでいる。
これは、まさか……
「いやー、逆じゃない普通? 他人様の家ほどお行儀よく……、って」
「うっせ、ウチは余所よりも家のが厳しかったんだよ! なぁ、結葉!」
「あ、うん。……お母さん、そう言うのも厳しい人だったからね」
無数のポップは私の身体の周りにまで群がってきて、腕や脚へと張り付いていく。そしてポップが張り付いた箇所はまるで、重みを失ったかのように軽くなり、部分的な無敵感を得た。
やっぱり、これって……。
『あちらさんだって〈ツクヨミ〉を侵食してきやがったんだ! こっちだって、月を侵蝕したって文句言われねぇだろ!』
そう、なのか。そうなん、だろうか。
……、いや、そうだな。うん。そうだ、きっとそうに違いない。
別にここは地球でも何でもないんだ。ルールや倫理観も未だ定まっていない未開の地。ならばちょっとのオイタくらい、見逃してもらえるだろう。私は自分の中の良心の呵責を無視する。
「それじゃあ、皆さん……。ちょっと、手伝ってください」
私は武器を構える。今度はなんとなくでも、流されるように、でもない。あくまで自分自身の考えで、想いで。
諦めは既に諦めた。
残り十分ほど稼げれば、だなんて考えていたが前言撤回だ。そんな弱気なプランじゃあ叶えられるものも叶えられない。
あぁそうだ。そもそも私は何を甘く考えていたのだ。時間を稼ぐ、だとか、そんな程度で甘えていてはいけない。
ヤツらが手を出したのは誰だ? かぐやちゃんだろう。自分の愛する妹の一人であるかぐやちゃんだ。
月で彩葉に会うために仕事に勤しんでいたかぐやちゃんを奴らは遅い、卑劣にも兵器へと変えたのだ。
許していいはずがない。その存在を許容していいはずがない。
私が狙うのは……、そう。
「アイツ全員、皆殺しにします――!」
ウチの可愛い妹に手を出した月人たちへの処刑に他ならないのだ。
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