〈完結〉超かぐや姫Z!~もうちょっとだけハッピーなエンドを~ 作:すっごい性癖
短いです
そして次回恐らく中編最終回です
荒廃した土地で一人、怯える。
私は、一歩を歩めず――
「なーに、立ち止まっちゃってるの~?」
「そうそう、彩葉らしくないじゃん?」
「え……?」
蹲った私の背中に二つの手が重なる。その触感も、温かみも何にも感じないが、しかし私はその存在感を感じる。それこそまるで、魂同士が触れ合っているような感動だ。
「芦花……、真美……?」
なんで、ここに……。
それはおかしい。ここは月だ。地球ではない。声だってかけてないし、ここはそもそも来ようと思っても来ること自体が無理な地でもある。
だと言うのに。居るはずがない二人の親友の声に私の声が揺れる。
「FUSHIが急に来てね。ま~た無理してるって聞いたから駆けつけてきたってワケ」「いつか急にフラっと消えそうだとは思ってたけど、月にフラっと行くんじゃないっての」
そう言いながら二人は「よいしょっ」と私の肩を左右から抱き上げ、立ち上がらせる。
「まぁこんな偉そうなこと言って、私たちは戦力的には役に立てないんだけどねぇ……」
「彩葉ほど強くないからさ、ウチら」
ごめんね、と小さな声で謝られる。「あぁもう、こんなに膝を汚して」と膝をパンパンと芦花が叩き、「背筋も硬くなりすぎ~、もっと気楽に、気楽に……。ね?」と真美が背筋をほぐしてくれた。
二人が触れる。私に触れる。
それだけで電脳世界には存在しない熱が、私の身体へと流れ込んできた。
冷めきった身体に火が灯り、固まっていた筋肉が動きを欲し、怯えていた心に勇気が宿る。
あぁ、私はいつだって……。それこそ、一人心細く東京での高校生活をはじめたばかりの頃からずっと、今日まで、ずっと、ずっと。
芦花と真美の二人に、こうして助けてもらって……。
心が死ぬことも無く、孤独に凍えることも無く、日々に彩があり、確かに短いながらの安らぎがあった。
学校に行くだなんて当たり前で、それでも私には何時からか重苦しかった習慣を遅れたのだって親友の二人が居たからで――。
あぁ、私は。私は、本当に……。
本当に良い友人を得られた――。
「がんばれ、彩葉! アンタはこんなとこで立ち止まるような軟な女じゃないでしょ?」
「そうそう、さっさとかぐやちゃんを助けてあげて……。またみんなでパンケーキでも食べに行こう!」
立ち上がってすぐの私の背中を二人に押される。
前へと勢いそのまま倒れ込んだ私は体勢を崩さぬよう、右足を前に踏み出し……
「――ッ!!」
そして今度は一切止まることなく、そして揺るぐことなく、走り出すのであった。
「「走れっ、彩葉!!」」
「……で、イロってば彩葉と入れ替わるように退がってきたみたいだけど良いの? 彩葉一人であんな強そうなのと戦わせて」
ようやく若い頃の自分が自分の役割を思い知ったのか駆けてくれたので後ろに退くと、そこに居たのは懐かしい友人二人の姿があった。
「そもそも、あのかぐやと戦って勝てるのはあっちの私だけだよ。私じゃ、勝てない。あくまで拮抗を続けるだけ」
そうだ。あの兵器と変えられてしまったかぐやを救えるのは私じゃない。
それはとても悔しいし、頭に来るけれども……。しかし道理ではある。
「あのかぐやと同じ時間を過ごしたのはあの彩葉であって私じゃないからね。私じゃあのかぐやに呼び掛けても目を覚ましてはもらえない」
私は酒寄彩葉だし、あの兵器とされたかぐやもやっぱりかぐやだ。そこに違いはない。
だけれども、確かに違うものもある。
私が同じ時間を過ごしたかぐやは、今はヤチヨとなったかぐやであり、月で社畜をして居たり、地球でライバー活動を行っているかぐやじゃない。
過ごした時間も、躱した言葉も、想った気持ちもおそらくその総ては似たり寄ったりではあっただろう。
けれどもそれは似ているだけで、同じではない。私は結局、今のヤチヨとあの夏の日々を送って、あのかぐやは私ではなく、あの彩葉と過ごした。
それが全てだ。
あの眠り姫がもう一度記憶を呼び起こし、兵器からお姫様へと戻るのに必要なのは……。私ではなく、あの彩葉。
……だなんて、考えればすぐわかりそうなものを今の今まで気づかずにいた若かりし自分には大分頭を抱えたものだったけれど。
「……それじゃあ、私はもう行くから。ありがとうね」
私はこの場の決着を悟り、その場を去ろうとする。
もうこの場に私は必要ない。後は全てあの自分にまかせても、全ては収まるべきところに収まるだろう。
あのかぐや姫はもうすぐ、自分以外の自分の手で救われる。少しメタな考えだけれども、そもそも地球で意識不明になっているかぐやが存在している以上、今回の件は丸く収まることも既定の路線なのだ。だってあのかぐやは今回の件を踏まえ、その先で労働を終えて地球へと帰還したかぐやなのだから。
私は、私だけのかぐや姫を助けに行かなければ……
「ねぇ、イロ?」
「え――?」
しかし走り出す直前に後ろから声をかけられ、動きを止める。
「アンタに何があったかとか、どんな人生を送ってきたとか、そう言うのは全然ウチら知らないけどさ」
「うんうん。なーんか、イロってば私たちを避けてそうだし」
動きを止めた私に二人が駆け寄り、右と左の手をそれぞれが両手で包み込む。
それは凄く懐かしい感覚だ。それこそ、八千年ぶりの……
「八千年経とうが、なんだろうが、ね。そんなの関係ない」
「そうそうっ。実はちょっと過ごした時間が違う、とかも全然関係なくってね」
私はこの感触を知っている。この温かみを知っている。
だって、この温かさが私を私で居させてくれたから。愚かな私が、今よりももっと愚かで頑固だったころに支えてくれた温もりであったから。
「大切な親友なんだから、たまには気軽に遊びに来てよね?」
「何にもならない時間ってのも、中々にいいものだし」
知っている。
二人と話したり、ゲームしたり、遊んだり。そんな時間はあの頃、勉強やバイトなんかで沢山は取れなかったけれども。それでもその一秒一秒が私にとっては輝かしいものだった。
私は、やっぱり、うん……
「「行ってらっしゃい、彩葉!」」
――これ以上ないくらいに、友人に恵まれている。
私は月面を走り出した。
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