TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「この戦場を蹂躙し、染め尽くせ!!」
フィールドに並んだモンスターをリリースすると同時に巨大なドラゴンが姿を現した。七つの頭と十本の角を持つ大型モンスター『クリムゾン・マザーロット・ドラゴン』は、私こと『サカズキ』のエースモンスターである。
『おーっと! このモンスターが召喚された際! 相手はターン中に効果を発動させることができない! 熱き男達の戦いはここで決まるか!?』
もはや相手は抵抗することもままならないが、この大舞台に立つ選手と言うだけにあって、潔く覚悟を決めていた。
『フハハハ! サカズキ! 決めて上げましょう!』
「アンクリア・ブレス!!」
七つの頭部から同時に黒いブレスが吐き出され、対戦相手を焼き尽くした。勝者と敗者は分かたれた。
『勝者! サカズキ! イイダ選手も粘りましたが、一歩届かず! 通算3度目の防衛だ! このまま絶対王者と君臨し続けるのか! 次の挑戦者は――』
――
「(なんて時代もあったねぇ)」
あれから何年経っただろうか? かつて、人生を、矜持を、全てを捧げた『メイガス・インヴェイション』から離れて暫く経つ。
待機時間中にストレージを調べてみれば、かつて。私のエースとして名を馳せていた相棒『マザゴン』が大量に並んでいた。差し込み溝には『値段の付いていないカードは30円』と書かれたプラカードがハメ込まれている。
「ヒジリ。アレなのが来ている。頼んだぞ」
店長に命じられて、私は表に出る。フリーデュエルスペースの一角がガラの悪い高校生位の連中に占領されていた。隅の方では小中学生達が怯えている。
私を見るなり、従業員のヨシコちゃんも首を横に振っていた。注意しても無駄だったという訳だ。彼らが占領している卓に座った。
「ここはフリーのデュエルスペースなんだ。皆で気持ちよく使ってくれないか?」
「よく言うぜ。ガキなんて占領するだけで碌に金も落とさねーのに。どっちのが太客か分かっているよな?」
学校の制服やカバンを見るに。近隣の学校の生徒だ。
記憶が正しければ、結構いい所の学園で『インヴェイション』関係にも力を入れている筈なのに、態々こんな所に来てまで占領する理由は1つ。
「学校にも居場所が無かったんだろ? ここで位は大人しくしたらどうだい?」
カチンと来たようだ。メンバーの一人がデッキケースを取り出していた。
「店員の分際で生意気言ってんじゃねぇよ。金落してやんだから、文句言うなや。俺に意見したけりゃ、勝ってみろよ」
「良いだろう。相手になるよ」
私もデッキケースを取り出した。何か揉め事があったり、譲れない話が出たら決闘でケリをつける。というのが、古来よりの習わしだ。
「ハンデだ。俺のデッキには環境の誘発から何まで大量に入れてあるからな。それ位は譲ってやるさ。どんな盤面でも捲ってやるよ」
「良いのかい? いやぁ。有難いなぁ」
このゲームに手札交換(マリガン)の概念はない。かつて、存在したゲーム達にはあったらしいが、デッキに戻すにせよセメタリーに送るにせよ。再利用手段やゲームテンポに関わるということで禁止にされた。
「では、私のターン。『一点集中』を発動。この試合中、私は手札からモンスターの効果を発動できない代わりにドローフェイズに引くカードは2枚となり、召喚権も2回に増える」
相手と取り巻き達の顔色が変わる。どうやら、私が使うデッキの性質に気付いたらしい。即ち、先攻を渡した愚に気付いたのだろう。
「続いて『先鋭化』を発動。使用したら、手札のモンスター効果を発動できないが、既にできないからデメリットは意味がない。代りに上級モンスターを召喚するコスト、セットカードの発動にMP(メンタルポイント)コストが不要になる。ついでにモンスターの特殊召喚を封じる、束縛の石像を出して2枚のカードを伏せてターンエンドだ」
縛りの石像は次の自分のターンで自壊してしまうが、対策が無ければ下級モンスターでは撃破することが困難なスタッツである。
周りの子供達が心配そうにしているが、一番テンパっているのは高校生達の方だろう。
「クソッ。召喚権を切って、アルモナイトを――」
「速攻スペル。暗殺を発動。着地と同時にセメタリーにどうぞ」
通常ならばライフを半分も支払わなければならないスペルだが、私は事前に発動させたスペルのおかげでコストを踏み倒している。
「カードを2枚伏せて。ターンエンドだ……」
完全に初動を潰され、ルートを潰されてすることが無くなってしまったのだろう。
私のターンの初めに縛りの石像が破壊されるが大した問題ではない。引き当てた内の1枚を場に出した。
「サイファー・ヴァニッシャ―。このカードも特殊召喚を出来なくするが、私は召喚権をもう1つ使って、ヴォイド・マンを召喚。やはり、これも特殊召喚を封じるカードだ。君の場には誰もいないからダイレクトアタックね」
チクチクと削る。どうやらセットしていたカードも何かに攻撃反応型でも無ければ、事態を打開する程の物ではなかったらしい。
ターンを相手に回す。今度はモンスターを引き当てられなかったのか、そのままターンを渡してくれた。2枚ドローする。伏せる、攻撃する。相手のMPがガリガリと削れて行く。
「き、汚ぇぞ! 正々堂々と勝負しやがれ!」
「何を言っているんだ。私はちゃんとルールに則っているよ。特殊召喚封じも、着地狩りも、メタビートも全部。公式がやって良いと言っているんだ。禁止指定にもされていない」
積み込みやイカサマをしている訳ではない。ただ、相手が嫌がることだけをするデッキだ。カードゲームにおける最善手は『相手に何もさせない』。
そうすれば、自分の要求だけを一方的に通して簡単に勝利できる。まぁ、唯一欠点があるとすれば。
「トドメの一撃。私の勝ちだね」
「二度とやるか、こんなクソゲー!」
「おう! また明日な!」
カッカしながら件の高校生達は店を後にした。暫く、店には何とも言えない沈黙が漂っていたが、例の高校生達は戻って来なかったので元の賑やかな雰囲気へと戻って行った。
ただ、子供達がぼそぼそと何か言っていることは聞こえた『何もしてなかったよね』『俺はやりたくないよ』『クソゲー』だとか。
「(当然だけれどね)」
『メタビート』。環境に対して徹底的に対策したデッキのことをこう呼ぶ。
インヴェは様々なモンスターを特殊召喚して、新たなモンスターをサーチやリクルートしてさらに強力なモンスターを召喚して場を整えていくというのが基本的な流れなのだが、ゲームにおいて必須とも言える展開を全て封殺して、何もできなくするというのが私の戦い方だ。
言ってみれば、ゲーム性の否定にも近い。そう。私は『インヴェイション』というゲームを否定しているのだ。
「(あの高校生もそうだ。こんなゲーム、さっさと止めてしまえば良い)」
この世界において、インヴェは巨大な力を持っているが、やって行かなくても生きていくことはできる。
カードを作る者達の機嫌や流行次第で相棒が紙くずにされてしまう様な遊戯に付き合うなんて実にバカらしい。やることをやったので裏方に戻ろうとした所、1つ。気になる物を見た。
「(何をやっているんだ?)」
たった、1人でデッキを回している少年がいる。態々、デュエルスペースじゃなくて家でやれよと言いたくなるが、覗いてみることにした。使っているカードを見て、一瞬。言葉を失くした。
「君。マザゴン、好きなのかい?」
「はい。サカズキ選手が使っていたモンスターで。僕も彼みたいなチャンピオンになりたいんです」
思わず鼻で笑ってしまった。この少年には現実が見えていない。
「おいおい。知らないのかい? サカズキ選手は3度目の防衛に成功した後、環境の変化について行けずに消えた。皆が適応している中、何時までも古臭いカードを擦って凋落した挙句、姿を消した奴に憧れるなんてやめた方がいい」
正確には、相棒である『クリムゾン・マザーロット・ドラゴン』に愛想を尽かされて出て行かれた挙句『女の恨みを知れ』という呪いを掛けられて、ヒジリとか言う別人になっているのだが。
「……僕の中のチャンピオンは環境なんかに左右されない。相棒と共に戦い続けていたサカズキ選手だけなんです」
本当は嬉しいハズの物言いなんだけれど、少年の憧憬が、尊敬が、酷く癪に障った。お前に、俺の何が分かるんだ。対面の席に座った。
「1人回しだとやりにくいだろう? 私も手伝ってやろう。暇なんでね」
「さっきのメタビートで。ですか?」
「アレ以外は持って来て無いんでね。ちょっと待ってて。ストラクチャーで相手にしてあげるから」
紙束とかパーツ取りとも揶揄される程に完成度が低いストラクチャーだが、現代のカードパワーを考えれば、こんなのでもマザゴン程度なら圧し潰せる。
ピン刺しのカードばかりで初動を潰し、マストカウンターを決めて、最後までマザゴンを出させること無く勝利を収めた。
「コレが現代のインヴェだよ。君が言うサカズキ選手とマザゴンデッキは腐った用なしだ。皆と一緒に遊ぶなら、環境デッキを握りなさい。もしくはストラクチャー3箱買って、動画投稿者のレシピでも見て……」
「嫌です。僕はこのデッキで勝ちたいんです」
ギュッと少年は自分のデッキを握っていた。カードが曲がるから止めなさいとか茶化すこともできたけど、小さな傷の入ったマザゴンのカードが見ていられなくて目を逸らしてしまった。
「強情な子だねぇ。そんなデッキじゃ誰と戦っても無駄さ。本当に勝ち上がりたければ、せめて私を倒してみるんだね」
「それって。次も対戦相手になってくれる。ってことですか?」
ということになってしまう。店長の方を見た。私は用心棒の様な存在だし、そんなことをしていても良いのかと問いかけたが、笑顔で頷いていた。商売っ気あるのか疑問に思う所だ。
「手が空いていたらね。まぁ、こんなクソゲーやるより有意義なことは他にもあると思うけれどね」
我ながら大人げないことを言っているが、少年はパァッと笑顔を浮かべていた。
「シュウ。僕、シュウって言います。もう1戦良いですか?」
「はい、はい。シュウ君ね。……もう1戦する前に、今のバトル。何処がダメだったか。振り返ってみようか」
私はなんで、こんな少年のことを気に掛けているのか? 自分でも分からない。
単なる暇つぶしか。それとも、ガラにもなく昔のことを思い出してしまったのか。……そんな程度で情熱を取り戻せるなら、当の昔に戻っているだろうに。そんな悪態を吐きながら、私はシュウにダメ出しをしていた。