TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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10枚目:そのデッキを握るワケ

「そのデッキ。『レギオン』デッキですよね? 貴方もファンデッカーですか?」

「うん。僕が尊敬する選手が作っていたデッキだよ」

 

 私は全く関係ないダウナーお姉さんなので、彼の言葉にむず痒くなる必要は無いのだが、全身がモゾモゾする。

 

「なぁ。どうして、このお姉さんはクネクネしているんだ?」

「我にも分からん」

 

 チャンピオンだった頃はファンレターとかエゴサとか気にしたことは無かったけれど、やっぱり自分がどう思われているかは気になる。

 

「『レギオン』の中でも『マザーロット・ドラゴン』型ですからサカズキ選手ですね」

「知っているの?」

「えぇ。自分の相棒を貶めた、プレイヤーの風上にも置けない人間です」

 

 浮足立っている中、冷や水をぶっ掛けられた。別に私が怒る必要はない。だって、彼が嫌っているのは『サカズキ』なのだから。

 

「どうして、そう思うの?」

「彼の引退理由は界隈では有名ですよ。相棒である『マザーロット・ドラゴン』で勝てなくなり、環境について行けなくなったからと。自分の相棒を負け犬にしたまま、戦いの舞台から去った臆病者……と」

 

 貶している訳でも嘲笑している訳でもない。彼は怒っているのだ。1人のインヴェプレイヤーとして。

 

「そんなのただの噂じゃないか」

「だとしたら、どうして彼は姿を消したのでしょうか? 病気なら公言すれば良い。他業種に転身したならアピールすれば良い。どれもないということは逃げ出したのでしょう。貴方のように、今も『マザーロット・ドラゴン』で戦い続けているプレイヤーもいるというのに」

 

 『マザーロット・ドラゴン』型のデッキは幾つもの新規を貰えているが、環境に食い込むのは難しい。

 入賞報告は聞かないが、もしかすれば。新規や組み合わせ次第で行けるのではないか? という可能性については日夜討論されている。

 

「なんで。貴方がそこまで……」

「ワタシは、この子達が好きだから。彼女達の世界観で繰り広げられる話を知っている?」

「いや、詳しくは知らないです」

 

 インヴェに出て来るテーマにはそれぞれ世界観やシナリオが存在している。

 特に人気な物はマンガやアニメ化されることもあり、アリスが使っている魔法少女(コントラクター)シリーズは筆頭だと言っていい。

 

「主人公のプリマヴェーラがいる『春』の世界の人達は自分にしか興味が無い人ばかりだったの。外の世界を知りたいと言った彼女は皆に責められるの。『私達は私達の世界だけで良い』ってね」

 

 フィールドにいるスプリームとソルフレイアが彼の方を見た。グランド・スプリームも振り向いたが、多分よく分かっていない。

 

「それでも。外の世界に出て季節を知るの。夏は熱くて辛いけれど、皆が元気に動き回っていたし、秋の世界は物悲しいけれど趣があった。そして、最後に冬と出会う。冷たくて、暗くて他者を寄せ付けない世界だったからこそ。そこにいる人達は絶望を跳ねのけるだけの強さを持っていた。――そんな風に、見知らぬ世界に飛び出していく彼女達に勇気を貰ったから。ワタシも彼女達と一緒に戦いと思ったんです」

 

 女児向けアニメにでもよくありそうな話だ。勇気と理解。角が立たない話にしたと言えば、それまでだが。キチンと励まされ、勇気づけられた人達もいる。

 

「だから、ワタシは彼女達を可愛いだけのマスコットなんかにしない。彼女達を惨めな存在なんかにさせない」

 

 カードパワーを合わせる。という、暗黙の了解がある。

 インヴェプレイヤーは大会で勝ち上がることをメインにしているガチプレイヤーばかりではない。好きなテーマやカードを使って遊びたいというカジュアル勢だって多くいる。

 だが、スタンスは数多くあってもカードパワーには厳然とした差が存在としている。故に、好きなテーマと言うだけで環境やガチに突っ込むのは難しい。故に、分けて遊ぶのが賢いとはされているが。

 

「(強いな)」

 

 私が挫折した道を、この子は突き進んでいる。茨の道だと分かりながらも自分の信じたデッキを握って、こんなガチ環境の中に飛び込んでいる。私よりも立派じゃないか

 

「アリスさん。その考え。すごく良く分かります。いや、尊敬します。僕も、前までは好きなテーマが使えたら、負けても勝ってもどっちでも良いと思っていたから」

 

 思い出す。カードショップの隅っこ、1人でデッキを回していた少年がいた。家でやれよと思いながらも、声を掛けたのは単なる気まぐれからだ

 

「今は違うの?」

「……先日。カッコいい人に会ったんです。いつも嫌がらせみたいなデッキを使って、詰まらなさそうにしている人で。そんな人がふとした切っ掛けで、僕のデッキを使って勝負をしていたんです。とても強い人相手に」

 

 サクタが使っていたドローンデッキは環境に十分食い込めるデッキだ。多分、もう一度勝負しても勝てる自信はない。

 

「結果を教えて貰えますか?」

「その人が勝ちました。まるで、僕の憧れていた人みたいに。――だから、もう好きなテーマを触るだけじゃ満足できないんです! 僕だって勝ちたい!!」

 

 ドロー。カードゲームにおける最強の逆転劇。デッキトップの札による解決というのは、TCGプレイヤー達に長らく語り継がれている神話だ。

 だが、これはフィクションではない。幾人もの人間が目の当たりにしている奇跡だ。デッキが応えてくれるなんて言う表現はオカルトでしかないが、それでも『ある』と思わざるを得ないのだ。

 

「僕はドローした『跋扈するレギオン』を召喚! そして、デッキから同名のモンスターを2体特殊召喚! 続いて、装備スペル発動! 『テストゥド陣形』! このカードはフィールド上に3体のレギオンモンスターがいる場合に発動できる! 指定したモンスター1体に他2体のモンスター装備スペル扱いで装備し、戦闘で破壊されずダメージが0になる効果と戦闘した相手モンスターをデッキにバウンスする効果を得る!」

 

 跋扈するレギオン達が固まり、まるで亀を彷彿とさせる様な堅牢な陣形を築きあげていた。効果破壊も戦闘破壊も無理なら、デッキに押し返してしまえ。

 

「バトルに入ります! 跋扈するレギオンでスプリームにアタック!」

 

 跋扈するレギオンがスプリームに押し寄せ、彼女はデッキへと押し戻されてしまった。続いて、クリムゾン・ドラゴンが攻撃する際に装備スペルのブレイクが発動し、ソルフレイアも破壊された。

 

「バトル終了後のフェイズに。クリムゾン・ドラゴンでクリムゾンカードをサーチ! クリムゾン・ディフェンダーをサーチ! カードをセットしてターンエンド!」

 

 魔法少女(コントラクター)2体を除去して見せた。未だに、グランド・スプリームという巨大スタッツが経っているが、次ターンになれば跋扈するレギオンにバトルを仕掛けられ、バウンスされるだろう。

 かと言って、クリムゾン・ディフェンダーがあるので、このターン中にクリムゾン・ドラゴンを破壊することはできないが。

 

「ワタシのターン! オタムを召喚! 『眷属A・リーブ』をサーチ! フィールドにいるので特殊召喚! セメタリーから『契約成立(ファミリアライズ)』をサルベージ! そのまま、効果発動! 去り行く色に想いを馳せて! 薄れゆく景色を心で色付けて! 『魔法少女(コントラクター)・紅葉』! そして、最後に魔法少女(コントラクター)カード。ウィントをサーチ! このカードは『魔法少女(コントラクター)』モンスターがバトルする際に相手モンスターを指名して、効果を無効化する! バトルに入る! まず、紅葉からアタック!」

 

 紅葉が攻撃を仕掛けたのは跋扈するレギオンだ。当然、バウンスはされるが相手の発動した効果は無効化できないので、クリムゾン・ドラゴンの効果が封じられてしまう。サーチを潰された。

 

「グランド・スプリームでクリムゾン・ドラゴンを攻撃!」

「ディフェンダーを発動!」

 

 ダメージは入るが、破壊はされない。相手の場にはフィールドを間違えたかのようなグランド・スプリームがいるだけ。

 だが、この場で勝負が決まったかの様な顔をする奴はいない。何故なら、アリスのフィールドにはいまだに開かれていないセットカードが1枚。

 

「(反応術式が1枚)」

 

 どうして使わなかったのか。紅葉がいるときに使えば、場のカードを無効化できて、跋扈するレギオンを処理できたというのに。使わなかったということはつまり。

 

「(何かするつもりか)」

 

 まだまだ、盤面の行方は分からない。まだ、固唾を飲んで見守っている。でも、1つだけ違うことがあるから。

 

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