TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「アレ? ヒジリさんが店先の掃除だなんて珍しい」
サッサと店先を掃除しつつ、無茶苦茶に並んだ自転車を整理しつつと。私がショップ店員みたいなことをしているのには理由があった。
「今日も今日とてストレージを整理していたんだけれど、前みたいに『虚無』だったらネガティブ過ぎるからね。今度は『埋蔵』のスペルカードを前面に差し込んでいたら、ストレージにキッズが殺到して『要らねぇことするんじゃねぇ』って怒られて、表に回された」
ストレージの中には君だけの宝が埋まっているというポジティブな意味だったのだが、キッズ達の射幸心を煽るのはよくないことだったらしい。
「ちなみに本当に何かいいカードが埋まっているんですか?」
「汎用札は無いけれど、専用のファンデッキを構築する際にはちょっとだけ値が張る物を混ぜてあるよ。『レギオン』デッキで言う所の『レギオン』とかね。アレ、古すぎて普通に買おうと思うと100円位するんだよ」
昔は再録とかもされていたけれど『跋扈するレギオン』が出てからは再録されるのもあっちばかりになって『レギオン』の姿はすっかり見なくなった。
「でも、アレ。出しにくいから1枚(ピン)挿しで良いんじゃ?」
「展開力次第ではおまけで出力できるから、入れるデッキとかもあるんだよね。他にも、アリスちゃんが使っていた『防御術式』とかね。これも『反応術式』でよくない? ってことで、あんまり無いんだよね」
「すごい。カードショップの店員っぽい」
用心棒業務がメインであるが、カードショップ店員として働けるだけの素養もあるから採用されているのだ。
「用心棒として雇われているけれどね。何も無ければ、店員として働いている位でちょうど良いのかもね」
「僕は嫌です……。ヒジリさんが店員として働いたら僕に構ってくれなくなりそうだし」
シュンとしている彼を見て高鳴る胸の鼓動は、現在の私が『女性』となっているから許されるとして(見た目的な物限定とする)。
おっさんがときめいているという絵面だったら、初手ヴォイド・マンとスペルガン伏せ位に許されなかったことだろう。
「ンフフフ。言ってくれるじゃないか。少年。よし、じゃあ。今日も私は用心棒として、後方でシュウ君を冷かそうかな」
時間的にサクタ君達も来そうだし、さっさと掃除を終えて店内に入ろうとした時のことである。『おい』と声を掛けられた。無礼な奴だなと思いながら振り返った先にいた人物を見て、固まった。
「随分と楽しそうだな」
「え、嘘。この人……」
シュウ君の口を防ぐ。その名前を言ったら、店内が確実にパニックになる。
金髪、蒼眼に加えて長身な上にスタイルまで良い。その上、インヴェまで強いんだから、天が居酒屋で酔いながら作ったパワカとしか思えない。
「あの。『ハルカ』さん? 当店に何か御用でしょうか?」
「用があるのは、お前だ。話がしたいが時間は大丈夫か?」
「すいませぇん。私、今業務中でして。仕事が終わった後でなら良いんですけれどねェ」
仕事が終わったら裏口から帰ろうと決心した。と、2人で会話を進めているのだが、間に入っているシュウ君は疑問符を浮かべるばかりだった。
「あの。ヒジリさんとは、どういうお関係で?」
「どういう関係も何もコイツは」
「一緒に店長に断りを入れて、席を外そうかぁ!」
彼女を連れて裏口から失礼した。客さん達に見つかったら大騒ぎになるので、先に入って店長を手招きしてから、彼女に用件を説明して貰うことにした。
「冗談じゃねぇ。営業が終わってからにしろ。そんな常識もねぇのか」
「さす店」
TCGプレイヤーはゲームの定石は知っていても、社会の定石に欠けている人間も少なくは無いので、常識的な注意がとてもありがたい。
「では、言い換えよう。これも業務の一環だ。先日、シゲマツと言う一人息子を持つ店長のカドショで『奪還戦』を行ったらしいな。これに関してグループから声明が出ている」
口実ケアをしないで頂きたい。それはそれとして、あの時は互いに同意の上で勝負をしたんだから、お気持ち表明は勘弁して欲しいのだが……彼女がスマホで動画を再生した。
『連盟および加入店舗の皆さん。先日、我々が取ったシマが奪還されたという話を聞きました。件の店舗は店主の怠慢も甚だしく、我々が改善に手を付けていた最中だったというのに。如何に顧客のことを考えず、界隈の権益を守ろうという思考が透けて見えます』
フードを被り仮面を付けた、とても痛々しい見た目をした奴が何か喋っていた。できたら学生であってほしい。コレが大人だったら、我々は教育という物の敗北を痛感しなければならないからだ。
「大分思想が強いな……」
「そんなに自信満々に営業できるなら、テメェらが開けってんだ」
店長も悪態を吐いていた。横から口を挟むだけなら誰にだってできる。カズマ達も実際の経営については何処まで理解していたかは疑問だ。
『最近はカードの声が聞こえないプレイヤーも増えてきました。コレは界隈が低レベル化して来ていることの証です。我々はそんな状況に喝を入れるべく、シマ取りを奨励していたのですが。貴方達がぬるま湯を好むなら、良いでしょう。我々は更に喝を入れさせてもらいます』
「界隈を先細りさせてぇのか」
店長が眉間に皺を寄せている。新規の参入ハードルを上げ過ぎたら、どうなるかなんて分かり切っている。
今、カードゲームは『メイガス・インヴェイション』一強であるが、カードゲーム自体がやり辛い物になったら他の遊戯に客を取られるだけだ。味方の面をして、本当はTCG界隈を衰退させたいだけなんじゃないんだろうか。
『特に。今回の件で奪還を行ったカードショップ『フィロソフィー』には懸賞金を掛けてあります。その用心棒『ヒジリ』さんは覚悟していて下さい』
「…………うん?」
なんか、私が指定された気がする。耐性を持っていないので仕方がないとか言っている場合じゃない。表が騒がしくなって来た。
「聞いたぞ! ここには我々グループを潰そうとする用心棒がいるらしいな! そんな嘗めた口を利く奴は、我々『速攻・須磨社(アグロ・スマッシャー)』がヤキを入れてやる! 出てこい! シマにした暁には、利用ごとに2000円以上の使用を義務付ける!!」
早速、名を上げようとする奴らが殴りこんできていた。表を見たら、順番待ち。ということは無いだろうが、多分。時間差で人が来るんだろうなと言う気はしている。営業妨害は止めて欲しい。
「ヒジリさん! 不味いですよ!」
「コレだと他のお客さんが来なくなるかも……」
そもそも、前回の件は店長が私に依頼したから起きたことだ。
だから、今回の事態も突き詰めて行けば彼に責任があると言えなくもない。故に、頭を抱えていた。私はいつも通り、メタビデッキを持ってしばきに行こうと思ったのだが、ハルカが手で制して来た。
「まぁ、待て、待て。ちょっと私が手本を見せて来よう」
メッチャ笑顔を浮かべていた。まるで完璧な手札(ハンド)が来た時のように。イジメ甲斐がある何かを見つけた時のように。
店長が制止するが、時すでに遅し。彼女が店に姿を現した時、皆が言葉を失っていた。どうして、こんな所にいるのかと。
「表が騒がしいからなんだと思ったら……」
「な、な、なんでライドウ選手がここに!?」
「業務的な用事で立ち寄っていたのよ。インヴェプレイヤーとして、皆の憩いの場であるカードショップで騒ぎが起きているのを見過ごせなくてね。このシマ、取りに来たのよね?」
アグロ・スマッシャーの連中は急にゴニョゴニョし始めた。権威に恐れを成して日和る所は学生らしくて可愛いとは思うのだが、リーダーと思しき男が開き直ったのか前に立った。
「そうです! でも、これは自分達とショップの問題なので!」
一応、用心棒を立てている手前。無関係とはいえないが、できるだけ来ないで欲しい存在ではある。犯罪者の来訪を快く思う警備員がいる訳がない。
「じゃあ、代りに私が相手をしてあげる。どう? プロプレイヤーと対戦できる機会なんて滅多にないと思うけれど」
周りのキッズ達がゴソゴソとスマホを取り出した。そりゃ、プロが目の前で試合をしてくれるなら撮りたいと思うだろう。SNSでインプレッション爆発間違いなしだ。
しかも、撮影が始まっている手前。ここで断ったら腰抜けの誹りは免れない。むしろ、ここで勝負に応えて、善戦。あるいは、万が一でも勝利しようものならグループの名は鰻登り、間違いなしだろう。……色々なことに目を伏せたらのはなしだが。
「あの。君、やるの止めておいた方が」
「やります!!」
私の制止もむなしく卓に着いてしまった。とりあえず、ジャッジとして私も卓に着いたのだが、向けられるスマホが銃口めいて緊張感漂っていた。
「では、先攻はショップ側で」
「いいえ。先攻はそっちに上げるから、存分に回して」
「アザーッス!!」
彼女を見た。この女はなんて惨いことをするんだ。私が先攻を取っていたのにはちゃんと理由があるんだぞ。
インヴェは基本的に先攻が圧倒的に有利だ。先に好きなだけ展開して、効果無効などを置きまくって……としたら、もうどうしようもなくなる。故に、後攻は手札から効果を発動できるカードを投げたりして展開を妨害するのだが、それでも先攻が有利であることには変わりない。
「俺のターン! レッド・ソルジャーを召喚! 効果で『ソルジャー』モンスターをサーチして……」
「電光蠅を手札から捨てモンスターを指定して効果を無効化する。なにか、効果の発動はありますか?」
「無いです。じゃあ……」
「効果の発動が無いので、続けて。『電光』モンスターの効果を使ったから『帯電する雷獣』を特殊召喚。着地時の効果で『雷獣』カードをサーチ。『聚蚊成雷獣―スパーキング・フライズ―』をサーチ。このカードはセメタリーにある『雷光』名称の昆虫モンスターをモルグに送ることで手札から特殊召喚できる。着地時の効果でコネクシオンが行えるから、場にある帯電する雷獣とコネクシオン。現れろ! バエル!」
まだ、相手ターンが始まったばかりなのにコレでもかという位に無法に動いている。一体、どっちのターンなのだろうか?
『我が元に集え! 雷電よ!』
「更に、着地時の効果で『雷獣』『電光』カードをそれぞれ1枚ずつサーチする」
「あの。俺のターン……」
「私は『恵み深き雷獣』と『電光鳥』をサーチ。『電光鳥』はドロー以外の方法で手札に加わった場合、手札から特殊召喚できる。『恵み深き雷獣』はバエルの効果で手札に加わった場合、特殊召喚できる。また、このカードは特殊召喚された際にコネクシオンが使える。来て。アームド・ブルー!」
「なんで、この人は相手ターンに最終体まで出しているんですかね」
彼女にターンが回って来ていないので0ターン目でライトニング・ブルードラゴンが召喚されていた。もちろん、3体を揃えて召喚しているので相手のレッド・ソルジャー君は即死である。
「ソルジャーデッキってレッドがいると特殊召喚できるブルーを使ってサーチしたら、通常スペルで手札からモンスターを出してドンドン兵士を派遣していくってスタイルでしょ? 何もできないんじゃない? 粘る?」
ちなみにコレだけ召喚しまくっているのに、ハルカの手札は殆ど減っていない。次のターンで詰めて終わりだろう。あまりに惨い。デッキを信じてスペルを伏せても良いが。
「……降参です」
先攻を渡された挙句、何もできないまま返り討ちにされた。という、あまりに惨い負け方をしてアグロ・スマッシャーはトボトボと帰って行った。
メンバーたちは申し訳程度にカードサプライヤー等を買って行ったが、アレは心を折る戦い方だからよろしくは無い。彼女を後ろに引っ張って行った。
「ライドウ。今のは良くないよ。彼のメンツが丸潰れだ」
「バカなことをするんだから。それ位は覚悟して貰わないと。それとも、共感性羞恥心でも湧いた?」
挑発する様な物言いにイラっとする気持ちもあったが、彼女から早く離れたい気持ちもあった。店長とヨシコちゃんは、騒がしくなって来た表で応対しているし、私だけで対応する必要があるのだが。
「ハルカ。私には、お前がずっとイライラしているように見えるんだ。そんなにシマ取りが気に食わないか?」
「違う。私がイライラしているのは貴方なの。メタビなんて言い訳を与えている貴方に腹立っているのよ。貴方には『マザーロット・ドラゴン』以外の相棒がいるのに、どうして使わないの? ねぇ。サカズキ。いつまで燻ぶっているの?」
突かれたくない所ばかりを付いて来る。使わなくなったことにも理由があるんだよ。と話そうとした所で、人の気配を感じた。
「……取り込み中であったか。所で。サカズキとは誰のことであるか?」
そこには裏口の鍵を持っているサクタ君の姿があった。店長がこうなることを気にして、彼を向かわせてくれたのかもしれないが。今はほんの少し、彼の気遣いを恨めしく思った。