TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
よくよく考えれば、私の店は被害者側だというのに呼びつけられるのはおかしくないか? 移動費は出して貰えるが、私の時間は有限だ。
アリスの伝言を信じて、フィロソフィーにグループの襲撃が来ないことを願いつつ、連盟の本拠地へと足を運ぶ……前にやりたいことがあった。
「(ここら辺のカドショ。今は、どうなっているんだろう)」
『サカズキ』だった頃は連盟に呼ばれることもあったので、この辺りのカドショを見たりしていたのだが、最近はめっきり足を運ぶことも無くなったので寄ることも無くなっていた。
先日、アリスに見せられた動画もある。グループがどれだけカドショに影響を及ぼしているかを見る為に、幾つか店舗を見て行きたかった。とりあえず、適当に入ってみたが。
「よし! 対戦だ! 先攻は俺からな!」
「後攻かぁ。でも、捲ってやるからな!」
グループの影響は皆目見当たらない。さすがに連盟近くのカドショで狼藉を働くほど、連中もバカではないということか。
対戦している子供達はシュウ君と同じ位の歳格好だし、彼らがどんな試合をするかと観戦し始めたのだが。
「いけぇ! ヴォイド・マン! カードを4枚伏せてターンエンド!」
「僕のターン! 行け! ヴォイド・マン!」
「何の! セットしていたスペルを発動! 消滅(ヴァニッシュ)! ヴォイド・マンを破壊!!」
「ひどすぎる」
友達同士の勝負で絶対にやってはいけないメタビ同士のバトルだった。
堪らず口に出してしまったことで、対戦していたキッズ達も私に気付いたのか目を輝かせていた。
「すげぇ! 本物のヒジリさんだ! 噂の用心棒!」
「え? 噂の?」
私は基本的にネットでエゴサや店の評判を見たりしない様にはしているのだが……いや、あれだけグループの連中を撃退していれば、多少は仕方ないか。
頼んでもいないのに少年は無邪気にスマホの画面を見せつけて来た。普通に私の顔が映っている。プライバシーはモルグにでも送られたんだろうか。
「タイトルは『恐怖! メタカス用心棒!』か。少年、こんな動画を見てはいけないよ。碌でもない大人になっちゃうよ」
誹謗中傷として訴えたいと思う反面。カードゲームは煽って、煽られてと言うプロレスも含んでいるし、私もヘイト盤面を押し付けているので何も言えない。
「でも、俺もこんなデッキを使いたい!」
「何か理由が?」
もしや、彼らもまた自分の好きなデッキが現代パワーにボコボコにされた悲しき過去でもあるのだろか? もし、そうだとしたら。ちょっと話を聞いてみたいが。
「だって、相手に何か動かれるの嫌だもん! 楽して勝ちたい!!」
「僕も!!」
「君達。いますぐ、そのデッキを売り飛ばしなさい」
「「ヤダ!!」」
拒否られた。自分が楽して勝ちたいからって、ゲーム性を否定するデッキを使うなんてどうかしている。こんな物が流行って良い訳がない。
とか、そんな遣り取りをしていたらやはり目立つのだろう。コチラの卓にやって来る者達がちらほらと。
「すいません。俺、小規模店舗で用心棒やっているんですけれど。ヒジリさん。メタビのアセン教えて貰って良いですか?」
「自分も。次負けたら、クビなんです。コピーさせて貰って良いですか?」
「止めたまえ。メタビは現代の展開に疲れた人達が使うリラックスデッキなんだ。勝利を追い求める為に使ってはいけないよ」
勝ちたいという邪念が入った瞬間、デッキは途端に回らなくなり、相手にボコボコにされて更なるストレスを貯め込んでしまうのでオススメはできない。
騒ぎを聞いた店員がワザとらしくショーケースにカードを並べていた。何を並べたんだろうと思えば、『高価ノーマルカード』と銘打って『ヴォイド・マン』が並んでいた。値段は500円。たっか。集まって来た用心棒達がショーケースを見た。
「やっぱり。ヴォイド・マン3積ですか?」
「とりあえず、そこまで切羽詰まっているならインヴェから離れて、ゆっくり休もう」
しかし、私の制動もむなしく。切羽詰まった用心棒達は『ヴォイド・マン』の購入に走っていた。ついでと言わんばかりにならんだ関連カードも用意している辺り抜け目がない。店員はコチラを見てニッコリと笑っていた。
「酷過ぎる。一体、誰がこんなことを」
「お姉さんじゃないの?」
将来有望なメタビキッズから容赦のない回答が返って来たが、これ以上いたら店側にも迷惑が掛かると思い、私は1件目にして店回りを中断して、連盟に向かうことにした。
~~
「お待ちしておりました。ヒジリ様。どうぞこちらに」
スタッフに案内されて、入った部屋には連盟の会長以外にも幹部と言っても差支えが無い有力者達が集まっていた。
「お久しぶりです。ヒジリさん。テルアキ店長はお元気ですか?」
「いや、毎日悲鳴を上げているよ。在庫が足りないって」
「おや。ライジング・スターの店舗から幾つか回しましょうか?」
首を横に振った。ライジング・スターのニシダ社長が来ているということは、必然的に雇われているアイツも来ている。長身スレンダーブロンド美女がニッコリと笑っている。他にも関係者と思しき人物も数名。
「では、本題に入りましょう。ヒジリさん。私達は貴方に『グループ』の子達をしつけて欲しいと思っています」
「しつける。ですか……」
排除しろとか。黙らせろとか攻撃的な言葉を使わないが、ニュアンスは似たような物だろう。
「当たり前のことを言いますが、カードショップの運営は我々経営側が行っています。小規模店舗でお手伝いをした程度で店を支配していると勘違いしている子達が多くて、困りますよね」
言動が黒幕とかラスボスっぽいというか。穏やかに喋っているように見えて、内心はブチギレているのだろう。ちょっと怖い。
「ですが、間違った子供達を指導するのも大人の役目です。一定の勢力がある店舗には噛みついて来ない程度に小賢しいですが、そろそろ指導も必要かと思いまして」
「あのぅ、それで。私を呼び出した理由はなんでしょうか?」
私をターゲットにしているという話なら、1人で撃退するだけの話だし。呼び出された理由についてよく分からない。
すると、部屋内にプロジェクターが降りて何かしらの資料が投影された。ここ最近に採ったデータで、右肩上がりのグラフだが。
「コレはメタビートに関するシングルカードの売り上げ推移です。どうして、右肩上がりになっているか。理由は分かりますね? 購入者はいずれも若者ばかりでした」
先程のカードショップでのできごとが思い浮かぶ。いや、まさか。メタビデッキなんて曲芸みたいな物だぞ。
だが、このデータが虚偽でない以上は真実なのだろう。インヴェプレイヤーは想像以上に現代環境に疲れているのかもしれない。
「ヒジリさんはグループの連中にとっては忌むべき宿敵ではありますが、我々連盟やカードショップにとっては広告塔なのです」
「ついでに晒し物になっている気がするんですけど」
何となく話が見えて来た。大型店からすればグループの連中なんて気にする必要も無いのだが、彼らはコレをチャンスと見た。……連盟も気にしているかどうかは疑問だが。
「ですからね。コチラのデッキを用意させて頂きました」
ドン。と机の上にデッキが置かれた。手に取って内容を見る。……渋い顔にならざるを得なかった。
「……最新の環境デッキですね。いずれも新弾の高レア。再録されていない必須級の汎用札。このデッキだけで幾ら掛かるんですかね?」
「内容に関してはライドウ君が監修してくれました。出力、制圧力、捲り能力。全てにおいて高水準にまとまっていると思います」
ライドウの方を見る。彼女は頷いていた。今もプロの世界で戦い続けている彼女が監修するなら間違いないのだろう。……だが。
「お返しさせて頂きます」
「どうしてですか? 勿論、無償でやれというつもりもありません。貴方が一定の成果を残せば、連盟から大型店舗への推薦も出しますよ」
用心棒からすれば垂涎の案件だ。
勝つか負けるか分からない不安定な立場を抜けて、業界で安泰の地位に就ける。というなら、飛びつく人間は幾らでもいるだろうが。
「会長さん。グループの連中が倒したいのは、クソみたいな封殺をして来るメタビ野郎なんです。相手が力を入れて来たからと言って、デッキを変えるなんて女々しい真似はしたくない」
そういうことをするなら。それは、私が『サカズキ』だった頃と何も変わらない。それで嫌でメタビをしているというのに。
「ふむ。ですが、気が変わることはあります。それに相手側が使ってくる可能性もあるでしょう。試運転用にデッキは持ち帰って下さい。どうしても要らないなら売り払ってくれても構いません。それなりの額にはなりますよ」
「……受け取るだけ受け取っておきます」
そこまで言われて、受け取らないというのも具合が悪いし、会長の顰蹙を買うかもしれない。と思って、受け取ることにした。
「サ……ヒジリ。受け取ったのだから、回し方についても指導したいのだけれど。私も同じデッキを使うから」
「あ、いや。使う訳じゃないから。それに私、さっさと帰りた」
「そうなのですか? 高級焼き肉店のお弁当を人数分取ったのですが」
胃袋メタは止めて欲しい。デッキを貰って餌付けまでされたら、出て行くなんてこともできず。届けられた焼肉弁当を食べてしまった。
弁当と言うからショボイと思っていたが、そんなことは全くなかった。肉厚でジューシー。スリーブに入っていないデッキ位の厚さはあるんじゃないかって位のボリュームだったので無我夢中で掻き込んでしまったが最後。
「じゃあ、調整に付き合ってね」
「……はい」
どうして目に見えるトラップをケアせずに突っ込むのか。コレが分からない。
メタビ使いとして、いつも思っていたのだが。今では分かる。だって、掴み取る為には進むしか無いんだもん。
脂マーキングをしない様に、おしぼりで手をよく拭いてから、私はライドウの指導に付き合わされることになった。