TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「着きました! ここです!」
シュウ君と団員君の3人で電車に乗って移動すること1時間位。炸裂団のメンバーに案内されて件の店舗に案内されたが、あまりの異質さに絶句していた。
「なんか。こう。ファンシー。ですね」
そう。カードショップとは思えない位にファンシーで可愛らしい店だった。『リリウム・サンクチュアリ』と書かれた看板の横には『男性客のみでのご利用お断り』の文言。
チラリと覗いてみれば、店内のほとんどは女性客orカップルと言う。カードゲームにあるまじき華々しい光景だ。
「分かります? ここに入ったら、俺はもれなくゴブリンとかオークの類で見られるんですよ。だから2人の力が必要だったんですね」
「ゴブリンとオークはテーマカードも沢山もらっているし、再録もされまくっている良カードじゃないか。もっと、自分に自信を持つと良い」
「多分、そう言うことじゃないと思います……」
これは女性になってから分かったことだが、身体的なメカニズムかどうかは分からないが、男性だった頃と比べて周囲の変化や視線に敏感になっている。
つまり、店内の女性プレイヤーは私達を見るやヒソヒソと何か話している。特に団員君を訝し気に見ている。
「ごめん。団員君。ちょっと席を外してくれる?」
「あ、はい」
幾ら、シマとして支配されている。とは言え、中にいる女性客全員がグループメンバーだとは思わない。流石に彼女らにまで迷惑を掛けるのは気が引ける。
「僕は良いんですか?」
「シュウ君は年齢的に多分大丈夫だと思う」
中学生なら結構危うかったが、彼は小学生なので多分セーフだと思いたい。
店に入る。店の外も可愛かったが、中はもっと可愛い。何よりも良い匂いがする。外から見ていた通り、客層のほとんどが女性だ。偶にいる男性も必ず女性と同伴しているのでカップルか何かだろう。
「あの、ヒジリさん。ちょっと恥ずかしい……」
「おや。君もそう言うのを気にするのかね。大丈夫だ。私が同伴している。お姉ちゃんって言ってくれても良いぞ」
キモすぎる。どうして、その一言を踏み止まれなかったのか。
シュウ君もドン引きしてくれたり、嫌そうな顔をしてくれたら良いのだが、なんだかモジモジしている。
「ヒジリ……お姉、ちゃん」
「ん“ん”」
この興奮。パックを剥いた時に異様に封入率の低いレアが出た時とか。トップに解決札が来ていた時に匹敵する。
「そうだ、シュウ君。店内をキョロキョロしている奴がいたら不自然だろう。店内を利用しつつ、店の様子を探ってサクタ君を探そう」
店内の様子をざっと眺めていたが、サクタ君の姿は見当たらない。
用心棒代わりに雇われているか。あるいは男性店員として裏方の仕事に徹しているのかもしれない。
「あの。大丈夫なんですか? 関係者とかそう言うのって分かるんじゃ」
「逆だよ。私達はこのシマのルールに則り、存分に楽しむことで相手の主張を受け入れる気がある。対話の卓に着く気があるってことを示すんだ。いきなりやって来て『おい、勝負しろよ』なんて、アナーキズム過ぎるだろう?」
つまり、私はグループの連中を大抵アナーキーな奴らとして見ている訳だが、そんな偏見はさておき。客として店を利用しつつ。店内を探るというのは真っ当な捜査方法だとは思う。まず、スタッフに話し掛けなければ。
「すいません。スペースを利用したいんですが」
「はい。まず会員になって貰う必要があり、発行手数料は300円です。利用料は1時間ごとに500円掛かります。また、ご利用の度にグレードが上がって行き、様々な特典が受けられます」
有料スペースにしても高いが、この店は女性だけを集めたい。と考えるなら、納得はできる。とりあえず会員証を作って、シュウ君と私の利用料金も払うとして、結構な額だ。
「ありがとうございます。席にご案内します」
空いている席は幾つかあるが、中央席に案内された。
周りの視線も集まり易く、何か催しがあった場合。ここで繰り広げられるんだろうなと言う予感はある。
「とりあえず。席に座ったし。勝負する? それとも、デッキの確認でもする?」
「デッキの確認は向こうでやりましたし。メタビデッキはまたの機会にして……」
となると。私が使えるのは、連盟から預かった件のデッキだ。
ハルカが監修していた。ということもあり、デッキの内容を見るだけでアイツがどういうプレイングを想定して組んだかが直ぐに分かった。
「やってみるかい? サクタ君が使っている物より。更に強烈なデッキだよ」
「……お願いしますっ! 僕は表で!」
申し込まれた以上。手加減もハンデもいらない。コインを弾くテーブルの上に落ちる。表だ。
「僕のターン! 『女王の召集』を発動! レギオンモンスターをサーチします。効果の発動は?」
「無いよ。好きなモンスターをサーチして?」
「では、僕はレギオン・アクィリフェルを手札に加えます!」
恐らく、無効化や『速攻の猟犬』を危惧して手札から追加で特殊召喚できる『アクィリフェル』をサーチしたのだろうが。遅すぎる。
「私は『静止の観測者―サイレンス・ルーカー―』を手札から捨てて効果を発動。このカードは相手がターン初めのドロー以外で、山札からカードを加えた場合に発動できる。このターン中、お互いはデッキからカードを手札に加えられない」
サイレンス・ルーカーこと。サイルカのサーチを禁じるロック効果は非常に強烈だ。
初めて登場した時はゲームスピード的に話題にも上がらなかったが、現代の高速化した環境では、このカードがぶっ刺さるデッキは多い。
「アクィリフェルの効果でレギオンを特殊召喚。2体をコネクシオンして、ロッソ・バイパーを特殊召喚! 着地時の効果でアクィリフェルを指定してサルベージします。効果の発動はありますか?」
「手札から『アビス・ファーヴニル』を発動。このカードはセメタリーにあるモンスターをモルグへと送って、特殊召喚できある。相手のフィールドにモンスターカードがある場合は、相手ターン中にも発動できる。アクィリフェルをモルグへ」
これで、相手はセメタリーのアクィリフェルを指定できなくなり、効果は不発に終わる。
「ちなみに。ファーヴニルはフィールドからセメタリーに送られた場合、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを直接セメタリーに送れるから」
「カードを3枚伏せて。ターンエンドです」
サーチできないならこれ以上の展開もできない。となったら、ガン伏せするしかない。奇しくも、私がメタビでやっていることと似ている。――が、それで停まるのは中途半端なデッキしかない。
「私は『虚無領域(ヴォイド)・ゴースト』の効果を発動。このカードはお互いのモルグにカードがある場合に発動できる。このカードを特殊召喚する」
「ヒジリさんって『虚無(ヴォイド)』って言葉が好きなんですか?」
「TCGは中二病に陥ってナンボだけど?」
ちなみに。ヴォイド繋がりではあるが、ヴォイド・マンをサーチできる機構は一切備えていない。特殊召喚封じ持ちを持って来られたら大問題だ。
こっちはヴォイド・マンと違って、虚無領域を漂う少女達。という、ファンタジーな存在で、キャラクターも可愛く、効果も強く、人気の高いテーマだ。
「伏せていたバイパー・スラッシュを発動! ゴースト、ファーヴニルを破壊します!」
「正解だ」
どちらにせよ。ファーヴニルは確実にセメタリーに送られていたので、それなら。何かされる前に2体を破壊して展開を潰した方が良い。が。
「手札から『アビス・ニーズヘグ』の効果を発動。セメタリーのゴーストをモルグへと送って特殊召喚。このカードはエンド時に『アビス』モンスターをサーチできる。更に、ゴーストはモルグへ送られた場合。MPを払って特殊召喚できる」
「なんで、コストが特殊召喚のトリガーになっているんですか」
「そうなっているからとしか」
ニーズヘグが着地し、撃破されたゴーストはフィールドに戻って来た。更に、ゴーストにはまだ使っていない効果がある。
「このカードには起動効果がある。デッキから『虚無領域(ヴォイド)』のカードを直接モルグに送る。私は『虚無領域(ヴォイド)・スペクター』を送る。このカードもMPを払うことでフィールドに特殊召喚できる」
「あの。すいません。速攻の猟犬は発動できますか?」
「セメタリーに送る訳じゃないから無理だね」
フードを被ったけだるげな少女が降り立った。速攻の猟犬で引っ掛からないのがあまりに無法すぎる。更に。
「着地時の効果で。デッキから『虚無領域』スペルを直接フィールドにセットする」
「……あの。速攻の猟犬は」
「サーチして手札に加えたり、特殊召喚している訳じゃないから無理だね。『虚無領域・マイニング』をセット。このカードは『虚無領域』モンスターをモルグに送ることでセットしたターンにも発動できる。なので、スペクターを送って発動。デッキから『虚無領域』モンスターをモルグへ送る。『虚無領域・エコー』を送る。これもMPを払って特殊召喚。起動効果でモルグにいるスペクターを引っ張って来てフィールドに4体。3体でコネクシオン。『虚無領域・シェイド』を特殊召喚。このカードは着地時に『虚無領域』モンスターをデッキからモルグへ送って効果を発動できる。デッキから『虚無領域』モンスターを特殊召喚する」
「あの。効果でモルグに落とす訳じゃなくて?」
「うん。コストだよ。コストの支払いは止められないからね。『虚無領域・無名(ネームレス)』をモルグに送って、私は『虚無領域・統治王(レイン)』を特殊召喚。このカードは1ターンに1度。モルグにあるカードを特殊召喚できる。モルグに送られた『無名』はセメタリー・モルグにある『虚無領域』カードをデッキに戻すことで特殊召喚できる。適当に2体戻して特殊召喚。着地した際に『虚無領域』を含むフィールドのカードを除外してコネクシオンできる。私は『無名』と君のロッソ・バイパーでコネクシオンする」
「僕のカードを素材に!?」
無法が過ぎる。速攻の猟犬は引っ掛からないし、なんなら手札に加えたりもしていないのでサイルカのドロー封じも効かない。
「『虚無領域・ファントム』。このカードは相手モルグにあるモンスターの名前、効果、ATKをコピーする。更に、レインの効果で無名を特殊召喚する。後は、もう総攻撃するだけでゲームエンドだけれど、何か効果の発動は?」
「無いです」
ゲームセットだ。もはや対戦相手と遊んでいても、壁と遊んでいても変わらない位の回り方だ。おまけに速攻の猟犬やサイルカですら止められないんだから、本当にどうしようもない。
「今の環境ってこんな風に動くのが普通なんですか?」
「さすがにヤバいから、次の改定で何枚か制限されて、次々回の改定で何枚か死ぬと思う。多分、シェイドは殺される」
コストでデッキからサーチじみた真似は止めて欲しい。そんな物はコストでも何でもない。とか思っていると、パチパチと拍手の音。
「まさか、女性プレイヤーでここまでガチの方を見るとは思いませんでしたわ」
店の奥から現れた女性は店員。という訳ではなさそうだ。
「君は一体?」
「ワタクシ『リリウム・サンクチュアリ』のトップ『サユリ』と申します。サクタさんから話を聞いています。貴女が噂の『ヒジリ』さんですね?」
そっと。私の隣に椅子が用意された。シュウ君を手招きして、席を移る様に促した。空いた席にサユリが座る。
「単刀直入に申します。サクタさんはウチで雇いたいので、関わらないで頂けると助かります」
「その理由を聞かせて貰おうか。なんたって、サクタ君は良い男だ。私も上客として、友人として。彼を独り占めされてしまっては困るのでね」
周りが騒めく。どうやら、乙女の園にちょっとの生臭さが入って来た。果たして舌戦で済むか。……私は、先程の『虚無領域』以外のデッキがあるかどうかを確認していた。