TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
王者の座を退いただけならばよかった。第2の人生を始めるとしても、肩書さえあれば、それなりに社会的地位のある役職に就けただろう。
だが、『マザゴン』が残した呪いは強烈だった。性別が反転するというのは恐ろしいことだ。何故ならば、それは『サカズキ』という存在が消えることを意味していたからだ。
「(かつての記憶を語った所で。誰が信じる?)」
仮令、どれだけ説明を尽くそうと。私のことを『サカズキ』だと認識する人間はいない。コレで腕があれば返り咲くこともできたかもしれないが、現代の環境について行けない私は、懐古するだけの痛々しい女でしかない。
紆余曲折あって、このカードショップで用心棒兼手伝いをしながら日銭を稼いで過ごしている。
『用心棒なんて成り立つんですか?』
と、従業員のヨシコちゃんから言われたことがあるが、十分に成り立つ。一般的には『カード・バウンサー』と呼ばれている。というのも。
「ここは今から『焼却(バーン)同盟』の拠点とする! 勿論、利用するたびにメンバーは1000円以上のサプライ、シングル購入することを約束しよう!」
「ここは子供達も使うカードショップだから、お断りするよ」
インヴェプレイヤー達の間には『シマ』と呼ばれる活動拠点を持っているプレイヤー達がエラい! という価値観がある為、こういう奴らが後を絶たない。
「はい。『ヴォイド・マン』とセットカード3枚ガン伏せ」
「ふざけんな!」
いつも通り、メタを張りまくっての塩試合で追い返している。
昔は、獣(ビースト)じみた凶悪で豪奢なモンスターをエースとしていたが、今の私のエースはコイツだ。当然の様に互いに特殊召喚出来ないというテキストが書かれている。
「ヴォイド・マン。レーア・シュート!」
虚無(ヴォイド)を冠するモンスターというだけあって、人型ではあるが首から上はエネルギー体の様な物が渦巻いているだけで、顔が存在しない。
同じ様に手からも渦巻き状のエネルギーを射出して攻撃するのだが、相手のMPに結構なダメージが入る。
「おかしいだろ! なんで、そんな特殊召喚封じ持っているのに、スタッツたけぇんだよ! コンボ用のモンスターじゃ倒せねぇじゃん!」
「しょうがないだろ。私も特殊召喚出来ないデメリットを背負っているんだから」
「押し付けているだけだろ!!」
私は嫌な思いをしていないから。事態を打開しようにもバーンデッキだったのかロクに動けずにいた。後はもう、本当に塩も塩なので省略させて貰う。ただ、これだけはちゃんと聞いておきたかった。
「二度と来ねぇよ! バーカ!」
「おう! また、明日な!」
バーン同盟のリーダーらしき男が去って行った後。同伴していた舎弟達が謝罪替わりと言わんばかりにサプライやらシングルやらを買って出て行った。ここら辺の潔さがあるから、存在が許容されているんだろう。多分。
連中が出て行った後、小中学生達が再び勝負に興じたり、シングルカードやカードサプライの前でウンウンと唸っている。日常風景だ。隅の方にはシュウ君の姿がある。視線が合ったので、彼の座っている卓へと向かう。
「今の勝負。見ていたかい?」
「はい。その、なんか何も起きていない試合だったというか」
「起こさない様にしていたからね。……勝負自体はどうだった?」
「面白くはなかったです」
そりゃそうだ。やっていることはカードのポン出し、展開もクソもないままチマチマ削って終わる。って言う、黎明期もかくたるやという位の試合だ。
「どうして、あんな試合を?」
「インヴェが好きじゃないからさ。長ったらしい展開を見せられるのも、制圧盤面を見せつけられるのもウンザリだ。そういう物に対する嫌がらせだね」
長々と回された挙句、返された盤面を前にしては何もできない。
カードパワーを上げたり、捲る手段を積むために、どんどん関係の無い汎用カードばかりが増えて、構築が歪められるのが堪らなく苦痛だった。
ならば、相手が何もできない様にするデッキを作る。という流れは、疲れたプレイヤー達にはよくある話だそうだ。それともう一つ理由がある。
「後、マトモに戦って楽しい試合にしちゃったら、アイツら。もう一度リベンジに来るかもしれないだろう? そういう熱い展開はゴメンでね」
「勝負。楽しんでいないんですね」
「そりゃあね。シュウ君は楽しいかい?」
昨日に引き続き、ストラクチャーを握って試合をしているが、マザゴンは圧倒的にパワーが足りないこともあって、負けてばかりだ。
偶にプレイングやドローが光るシーンも見えるが、適切に処理するだけ。今の所、彼は一度も勝てていない。
「楽しい……です。だって、学校では誰も相手にしてくれないから」
なんか聞きたくない事情を聞いてしまった。とは言え、事情は何となく分かる。
「弱すぎて、相手にして貰えないって感じだろう?」
「……はい。やっぱり、弱いことって駄目なことなんでしょうか?」
ここで掛けるべき言葉は色々とある。もしも、私がスポーツ漫画やドラマの主人公ならば『強さだけが全てじゃない』と言っている場面だろう。が。
「うん。駄目なことだね。付いて来てごらん」
彼を引き連れて別卓を見て回る。今の子供達はハッキリ言って強い。
私の時代ではデッキビルドも手探りだったが、今はネットやSNSの発達でレシピも分かっているし、回し方も勉強できる。そう言った予習を済ませた上で、友人や野良試合で腕を磨いている。
「例えば、あの子は現在の環境デッキを握っているけれど、対戦相手もメタを張る練習としてセットビートを回している。どっちもまだぎこちないけれど。シュウ君に無い物があるんだよ。なんだと思う?」
「カードパワーですか?」
「違う。あの二人には『勝ちたい』って気持ちがあるんだよ。見てごらん」
環境デッキ使いのプレイヤーに対して、対戦相手がメタカードをぶち当てていた。そのままターンを明け渡すかと思いきや、直ぐに別のルートに入って盤面を立て直していた。が、メタ側も次の対策を当てている。
「動きが止められても諦めない。勝つって意思があるから、2人はあんなに楽しめているんだよ」
かつての挑戦者達もそうだった。決して、諦めることはせずに最後まで自分のカード達を信じて、戦い抜くからこそ。私にとってのインヴェは尊い物だった。勝てないからって、諦めている様な奴は論外だ。私も含めて。
「一緒にやっても楽しくない奴とはやらないだろう?」
かなり棘のある言い方になったが、お互いに『勝利』という共通の目的があって切磋琢磨するか楽しいのだ。
コレを出せたらいいだとか、コレが使えたら良いだとかと言う考えでやるなら、デジタルでCPUとでもやっていればいい。
「僕には勝ちたい。って意思がないってことですか?」
「そう見えるね」
本当に勝ちたいなら汎用カードでも何でも積むべきだ。シュウ君のデッキは、
私が過去に使っていた物に多少の強化を入れた程度の物でしかない。大人しい子だし、このまま気落ちして帰るのかと思いきや。服の裾を掴まれた。
「僕だって、勝ちたいよ。このデッキで勝ちたいんだよ……!」
有無を言わさぬ迫力があった。その気持ちだけで勝てたら苦労はしないし、私は『ヒジリ』になんてなっていない。
シュウ君のデッキ構築を確認していると、再びカードショップにゾロゾロと集団がやって来た。
「我らは炸裂団! ここに『焼却(バーン)同盟』を追い払った奴が居るらしいな! 奴らを追い出したカドショをシマにできたら、我らの地位も上がる! ちなみに使用するからには1人2000円以上のシングル・サプライの購入を義務付ける!」
コイツら。もしかして、暇なんだろうか? 塩試合で追い返した奴は来ないが、ソイツらと敵対関係だったり、同盟関係の奴らはこうして報復がてらに来てしまうことがある。 思わず、溜息が漏れた。リーダー格と思しき赤と黒の髪色をしたファンキーな少年が、私の卓に着いた。
「我の名は『サクタ レツヤ』! この場で勝負を申し込む!」
なんか勝手にセッティングを始めた。ハッキリ言って威力業務妨害に当たるし、受けるとも言っていない。
「挑戦を受けるにしても。このデッキは私のじゃなくて」
「我の炸裂デッキを見せてやろう!!」
なんということか。このサクタと言う男、急に自分のデッキ構築を晒して来た。
炸裂団の名に恥じない豪快な自己紹介と言いたいが、そういうことではない。私は彼のデッキアセンブルを強制的に知らされた訳だ。
「サァ! 我のデッキを見せた! 今更、メタを張る為にデッキを選び直すなんて卑しい真似はしないな!?」
「カスみたいな方法だな!!」
幾らなんでも盤外戦術すぎる。コレでデッキを選び直したら、私の勝利にケチが付くので。今握っているデッキ――シュウ君のを使うしかなくなるのだが。
「ヒジリさん……頑張って下さい!」
「なんで、君は目を輝かせているんだい?」
申し訳程度の心配と。乗り手が変わったら、自分のデッキが活躍するんじゃないかって期待を込めた視線を向けられた。
どちらにせよ勝たなければ、この子達は出て行かないだろう。私は久方ぶりにマザゴンが入ったデッキを握ることになった。