TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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訂正:19枚目でサクタ君が店内にいることになってしまいましたが、修正するのを忘れていました。彼は今、店内にいないという体でお願いします。


20枚目:理想と現実と報復と。

 まず、目の前にいる少女こと『サユリ』は、経営者側の人間とは思えない。

 ただ、店に対する手の入れ方は『HU-MAN』の連中よりも踏み込んでいる。ストレージの整理だとか多少の変化ではなく、経営戦略の面にまで及んでいる。

 

「ここは君の親族がやっているお店かい?」

「いいえ。店長は赤の他人で、知り合ったのも最近の話です」

 

 シゲマツ君の時と違い、利用客は一般人っぽいので舌戦を繰り広げたり、店長を糾弾したりする訳にはいかない。ならば。

 

「だとしたら、随分と手を入れたね。店長さんは賛同していたの?」

「えぇ、快く。以前までの店は内装が汚いし、スペースが広い訳でもなく、いるのはやる気のない用心棒位。どうせ、何もしなくても潰れるだけの店をシマにしても、誰にも迷惑は掛からないでしょう?」

 

 以前までの店を知っている人間が他にいないので、私は何とも言えない。

 ただ、店長が店先に出て来ないことから、自分の城を守る意思が薄弱なことは伺えた。つまり、守る程の執着も無い場所なのだろう。

 

「そうだね。いや、むしろ。感心しているよ。私も女性プレイヤーだからね。こういった場所なら安心して遊べるよ」

「でしょう? カードゲームと言えば、男性の物と言う風潮は否定しません。ですが、中には女性プレイヤーもいるのです。ライドウ選手の様にね」

 

 アイツはインヴェプレイヤーの中でも外れ値みたいな奴なので参考にならないのだが……と言う言葉は、そっと飲み込むことにした。

 

「しかし、カードショップは上品とは無縁な所です。響く奇声、乗り込んで来る野蛮人共(グループ)、飛び交う煽り合い。……怖いじゃないですか」

「困った。何も言えない」

 

 フィロソフィーではそう言った輩はいないのだが、居る所にはいるらしい。

 そもそも、対戦ゲームの宿命というか。勝敗が掛かると人は下品になりがちだ。私も限りない数の罵倒を受けて来たからよく分かる。

 

「あの。ヒジリさんは割と対戦中も……」

「なるほど。女性でも安心して遊べる場所が欲しいという気持ちは十分に理解できる。だけど、どうしてそこにサクタ君が必要なんだい?」

「万が一の時を考えて、ですよ。表の文言が読めないだけならまだしも、この場所をあらぬ目的で使おうとする不埒な輩もいますからね」

 

 女性客が集まる場所となれば……まぁ、碌でもない考えで来店する奴もいるだろう。幾ら注意しても聞かないクズみたいな奴だっている。

 

「それこそ、店長の出番だろう。この店の方針転換に賛成したなら、提案者達を守る責任がある」

「ありませんでしたよ」

 

 心底失望していると言った具合だった。まさか、店を良い様にされた挙句。その店すら守る気が無いというなら、なるほど。失望するのも無理はない。

 

「追い出した用心棒が報復に来たんだっけ?」

「しかも、私がいない時を狙って。グループの子達もインヴェは強いのですが、そんなヤバい奴と戦う訳にもいかず。その折、ちょうど。彼が来たのです」

 

 彼の甲斐甲斐しさから何をしたかは想像が付く。颯爽と間に入るが、用心棒は多分言うのだ。『不戦勝だな!』という感じで。

 そんな訳の分からない男と勝負をするのは普通に考えたら怖いに決まっている。じゃあ、誰が勝負をするかと言われたら。

 

「『代わりに我が受ける』とね。それはもう見事なプレイングで颯爽とカスを撃退していました。その時、ピンと来たのです。この店には彼と言う存在が必要だと」

 

 経緯は分かった。店長が頼れないとしたら、理解のある彼ピ君が必要になるので、サクタ君に白羽の矢が立ったという所だろう。

 本当を言うなら、この店を経営しているのは君達じゃ無いし、その手配ができないなら、店の経営に口出しするべきじゃないと言いたいのだが。

 

「ヒジリさん……」

 

 シュウ君が周りをチラリと見ている。皆が心配そうにサユリの方を見ている。

 シマとして奪い取ったのは良くない。だが、そうして呼び込んだお客さん達はこの場所を気に入っているんだろうし、少なくとも心配して貰える位にサユリにも人望はあるのだろう。

 

「事情は分かった。お客さんのこともあるし、私からは言うことは無い。サクタ君と話がしたいんだけれど……」

「今はグループの子達と一緒に買い出し中ですわ。帰って来るまで一勝負どうでしょうか?」

「そうだね。じゃあ、私はさっきの『虚無領域』使うけれど大丈夫?」

「望む所です。環境相手に調整できるなんて嬉しい限りですわ。ちょっと、店の奥からデッキを取って来るのでお待ちを」

 

 お店の雰囲気も悪くはないが、店長との折り合いがどうしても引っ掛かる。

 彼女達も相当経営に口出しをしているとしても、本来の所有者を差し置いて我が物顔をしていれば、何処かでしっぺ返しを食らう気はする。

 

「さっきから、店長さんの姿。見ないですね」

「店の奥にいるんだろう。あるいは、店先にも出して貰えない位に低く見られているか」

 

 彼女の話を思い出すに。元・用心棒が報復に来た時も何かしてくれたわけでは無さそうだったし。そんな奴の店を支配して営業しているというチグハグ感がどうしても引っ掛かっていた。

 

「(もしも、店長が機嫌を損ねて店を畳む。とか言い出したらどうするつもりだ?)」

 

 店のつくりや雰囲気をどうこうしようと仕入れなどの経営部分や諸々の手続きは大人がやる所だ。もしかしたら、彼女達は経営学科とかの生徒で心得があるとか、そういうパターンかもしれないが。

 店の奥に引っ込んだ彼女を待っていると。扉が乱暴に開かれた。見れば、明らかに店の雰囲気にそぐわない男が1人。

 

「おい。店長、店長はいるか?」

 

 他の客さん達はビビっているし、サユリちゃんは奥に引っ込んでいる。スタッフを呼んで来るべきだろうが、仕方ない。

 

「すみません。このお店は男性客のみでの入店はお断りしているんです。お引き取りを願えませんか?」

「うるせぇ。俺は、この店を取り戻すんだよ。前回は横槍が入ったけど、今度はそうはいかねぇ! 俺の新デッキで取り戻してやるよ!」

 

 デッキを取り出している。威力業務妨害として突っぱねるという訳にもいかない。客として望ましい行為ではないが、私も店の奥に入った。緊急事態だから仕方がない。……憔悴した彼女と店長と思しき男がいた。

 

「……無い」

「どうしたんだい?」

「私のデッキが無いんです! 店の奥に置いていたハズなのに!」

 

 そんなことがあり得るのかと思ったが、私は表で起きていることを説明した。すると、店長と思しき男が曖昧に頷いていた。

 

「サクタ君が帰って来るまで、待ってもらう?」

「あんなクソ迷惑な客を店に置いといてかい? というか、君が店長だろう。迷惑客に対応するのは君の役目のハズだぞ」

「冗談じゃない。アイツを追い出した私が出て行けば、よりヤバい事態になるかもしれないだろう」

 

 シゲマツ君の所の店長さんって割とまともな方だったんだなぁと思わざるを得なかった。……仕方ない。

 

「サユリちゃん。私が使っていたデッキの回し方。分かる?」

「ごめんなさい。私、自分のテーマしか回したこと無くて。ヒジリさんじゃダメなんですか?」

「それをしたら、私の店に迷惑が掛かる。私も用心棒なんでね」

 

 店同士の問題になるのは心苦しい。かと言って、他の客さん達に対応して貰う訳にはいかないし、居座らせたら他のお客さんに迷惑だ。

 

「サユリちゃん。もしも、やり方に文句を言わなければ対処はできるけれど。どうする? サクタ君を待つ? デッキを探す?」

「……お願いします!」

 

 表に戻る。客さん達も不安そうにしている中、私は例の男の前に座った。

 

「用心棒なら。こういう時、どういう対応されるか分かっているよね?」

「へっへっへ。俺がアンタのことを知らねぇと思ってんのか? 噂の用心棒だろう? もしも、俺とやるってんなら。そっちの店に抗議するぞ」

 

 情けない。用心棒だろうが何だろうが知ったこっちゃねぇと言う気概位は見せて欲しい。そんなことだから追い出されたんだろうけれど。

 

「勘違いしないで欲しい。サユリちゃんは暇じゃないんだ。そこで余興をやらせて貰うことにした」

 

 シュウ君を手招きして、代りに彼を座らせた。例の男と対峙する形になる。

 

「ヒジリさん?」

「彼は私の愛弟子だ。なぁに、防衛戦なんて堅苦しいことは言わない。彼と勝負をして、満足いく試合を見せてくれたら考えるとのことだ」

 

 周りの客さん達の動揺も多少減った。そう、このシチュエーション事態を余興にしてしまえば、悪評は残り辛いだろうし。自然な流れで対戦者を用意できる。

 

「へ、へへへ。良いぜ? 軽く遊んであげるよ、ボクぅ? 余興なら、先攻後攻もコイントスだよなぁ?」

「もちろんだ。どっちにする?」

「俺は表だ!」「では、僕は裏で!」

 

 かなり唐突な振りだけど、シュウ君は頷いてくれた。コインを弾く、テーブルの上に落ちる。……表だ。

 

「先攻は俺からだ! ……俺は手札からコイツを召喚する!」

 

 フィールドに召喚されたモンスターは首から上の姿が無く、下級モンスターにしては高いスタッツを持っていた。私は、コイツをよぅく知っている。

 

「ヴォイド・マンか」

「そうさ! コイツの強さはアンタもよく知っているだろ! 俺は手札を3枚伏せて、ターンエンドだ!!」

 

 ヴォイド・マンとガン伏せ。間違いない。彼のデッキは私も使っているメタビートだ。となったら、シュウ君は――笑っていた。

 

「僕のターン。ドロー!」

 

 私はただ、静かに見守っていた。さぁ、用心棒君。気を付けるが良い。

 君の目の前にいる少年は、元・プロプレイヤーが使っているメタビートの動きを見続けて来た子だ。今、この店内で2番目にソイツの動きは分かっているぞ。

 

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