TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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ついに評価バーが3本目! 20人もの方達に評価して貰って感謝感激です!


21枚目:勝負が人を変える

「ねェ。貴女様、少しよろしいでしょうか?」

 

 シュウ君の後ろで後方師匠面をしていると、1人の少女が寄って来た。

 茶髪のボサボサヘアーでグルグル眼鏡とか言うクラシックオタクガールを体現する彼女は、なるほど。この空間によく似合っている。

 

「なんだい?」

「あの用心棒さんが使っているデッキってメタビート。って言うんですよね? メタとは一体何ですか」

「メタビートか。えっとね……」

 

 メタビート。と言うテーマは『メタゲーム』という用語が語源となっている。

 カードゲームや対戦ゲームにおいて、勝負の場だけではなく、どんなカードやデッキ。戦術が流行っているかというのを分析して、ゲームそのものを超えた視点で有利になる様に駆け引きすることを指す。

 

「例えば、ライドウ選手が使っている『雷電』デッキの様に。相手ターンでも動いて、手札を増やす様なデッキが流行るなら、デッキから手札に加えることをロックする『サイレンス・ルーカー』というカードがよく刺さる。こういった環境(メタ)に対策することを『メタ』る。と、私達は言っている。」

 

 ちなみにそう言ったメタカードはカドショでも高騰しがちなので、ショップに勤める者として把握位はしておく必要がある。

 

「お詳しいんですね。でも、今度はメタに対してまたメタが流行るのでは? それこそ、手札に加えなくても動けるようなカードとか」

「鋭いね。その通りだよ。そう言う環境の変遷を読んで、適応させていく試行錯誤をメタゲームと言うんだ」

 

 ここに来ているからと言って、誰もがインヴェに詳しい訳ではない様だ。いや、当たり前か。誰だって最初は初心者なのだから。

 

「でも。それって、変ではありませんか? 環境(メタ)なんで幾らでも変わるんですから、常に環境に対策出来るデッキ。なんて、テーマが存在するんですか?」

「存在するんだよね。もっと、根幹的な所からメタるんだよ」

 

 デッキからカードを加えるとか、セメタリーから特殊召喚するとか、そう言った次元ではなく。

 

「特殊召喚や召喚。そう言った基本的なアクションから封じるんだ」

「……ゲーム性の否定にも繋がりそうですね」

 

 そう。彼女の言う様にゲーム性を否定する様な動きではあるが――同時に、コレがどういったゲームかをキチンと理解していなければ、否定しきることができないのだ。

 

「僕は手札から『レギオン・ウェリテス』を召喚! 何か効果の発動は?」

「セットしていたスペル『虚無(ヴォイド)』を発動! 効果を無効化だ! そいつを初動札に持って来るってことは、相当に手札(ハンド)が弱いんだろう?」

 

 用心棒と言うだけにあって、概ねテーマの動きは分かっている様だ。

 そもそもの話。レギオンは初動が細い。いずれも召喚権を切らなければ盤面を増やせないので、黒でも白でもないレギオンは弱いと言われている。

 おまけにウェリテスはスタッツとして割と貧弱で、ヴォイド・マンには太刀打ちできない。……このままでは。

 

「では、僕は手札から装備スペル『レギオン・投槍(ピルム)』を発動。このカードはレギオンモンスターのみに装備できる。ATK+500に加えて、装備されたこのカードをセメタリーに送って、相手フィールドのカードを1枚破壊できる」

 

 同じ下級同士なら+500もあれば差は埋まる。相手のモンスターを撃破した後、ピルムをセメタリーに送れば、相手のバックも割れるが。

 

「そうはいくかよ。セットしていたスペル! 『質実剛健牢』を発動! このカードがある限り。自分は特殊召喚ができなくなるが、自分フィールドのカードは効果で破壊されなくなる!」

 

 バックを破壊されない様に防御札を発動させておく。やりたいことは分かるが、正直な感想を言うと。

 

「彼。あのデッキを握って日が浅いね」

「どうして、そう思うんですか?」

「それはだね。えっと……」

「『ヒナコ』と呼んで下さい」

 

 他の客達が不安を隠しつつ、楽しもうとしている中。ヒナコちゃんはジィっと盤面を見ている。彼女だけ纏っている雰囲気が違う。

 

「ヒナコちゃんか。だって、この状態で『質実剛健牢』を発動させたら、シュウ君はピルムを温存してしまう。相手が発動した際に使えば、無駄撃ちさせることができたのに。でも、彼自身に知識はある。つまり」

「本来は、このデッキを使っている人ではない。ということですね?」

「加えて言うなら。焦り過ぎている」

 

 無理もない。用心棒として追い出され、子供相手に負けでもしたら、いよいよ彼のインヴェプレイヤーとしての生命線は絶たれるだろう。

 

「では、そのままバトルに入ります。ヴォイド・マンに攻撃しますが、何か効果の発動はありますか?」

「セットしていたスペル『イリュージョン・ボディ』を発動! このカードは発動後、装備スペル扱いとなりモンスターに装備される! 装備したモンスターは攻撃ができないが、戦闘破壊されなくなる! ダメージは受けるがな」

 

 軽装兵のウェリテスが投槍(ピルム)で、ヴォイド・マンを突き刺そうとしたが、するりと抜けて行った。まるで、幻だったかのように。

 

「ガチガチに固めていますね。破壊も戦闘での対処も無理だなんて。コレはもうどうしようもないのでは?」

「そうだね。どうしようもないよ」

 

 相手が。バトルが終わった後はもう一度、召喚やセットができるフェイズに入る。シュウ君はニコニコとしている。

 

「カードを2枚伏せてエンドです」

 

 ピルムを無駄撃ちしていないので、ウェリテスのATKは未だにヴォイド・マンを上回っている。……最も、相手のデッキを見た時点でシュウ君がピルムを打つなんて迂闊をするとは思えないが。

 

「俺のターン! ドロー! 一点集中を発動! 召喚権が1つ増え、次ターンからドローが2枚になる! 手札からモンスター効果は発動できなくなるがな。俺のヴォイド・マンはここに突っ立っているだけでリードが広がって行く訳だ! カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 『質実剛健牢』と『イリュージョン・ボディ』があるので効果破壊も戦闘破壊もできないが、それだけだ。相手はハンドレスで伏せカードが1枚。

 

「僕のターン。ドロー! 『レギオン・テッセラリウス』を召喚。効果でセットしてあるカードをピーピングします。開けて下さい」

 

 開いたカードは『神告』だった。MPを払う代わりに、相手の召喚・特殊召喚・スペルの発動を無効化にする強力なカードで、メタビのお友達だ。

 

「見たからと言っても何かできる訳じゃないけれどな。俺のフィールドのカードは効果破壊されないからな」

「はい。代りに、ウェリテスで攻撃!」

 

 破壊はされないが小さくダメージは積み重なっていく。テッセラリウスは攻撃力が低いので何もしないで待機状態のままで。

 

「ターンエンドです」

 

 相手にターンを渡した。千日手と言う訳ではない。向こうもロック効果を持つ上級のカードを引けば、ウェリテスも戦闘破壊されてしまう。

 

「(『ヴォイド・エビル』辺りが出て来るかもしれないが)」

 

 ヴォイド・マンの進化体みたいなモンスターもいるのだが、そんな物にデッキを割く位なら他にも入れたいカードがあるので採用し辛い奴だ。私はしばしば『ボーダー・コントローラー』を並べてしまうが。

 

「俺のターン! 2ドロー! ……ヴォイド・マンをリリース! 『ヴォイド・エビル』を召喚する!」

 

 ヴォイド・マンの姿が掻き消え、より邪悪な雰囲気を纏う上級モンスターが出現した。このモンスターもまた特殊召喚封じを持っているが、ステータスは同レベル帯のモンスターより一回り大きい。

 

「その際。ヴォイド・マンに装着していた『イリュージョン・ボディ』はセメタリーに送られる」

 

 戦闘破壊される必要が無くなったからイリュージョン・ボディをセメタリーに送った。という訳ではないだろう。

 

「そうか。もう、用心棒さんのフィールドにはスペルがいっぱいあるから」

「そう。開けないと新しいのが伏せられないんだ」

 

 スペルの発動にはフィールドの空いている場所を使う必要があるので、常に1つは開けておかなくてはならない。それともう一つ。

 

「俺は手札からスペル『奈落の借財』を発動する! 手札が3枚になる様にドローする! 効果の発動は?」

「ありません」

 

 相手が3枚になる様にドローしたが、浮かない顔だった。引きが弱かったのだろう。

 

「俺は『ボーダー・コントローラー』を召喚して、バトルに入る。ヴォイド・エビルでウェリテスに攻撃! 効果の発動は?」

「セットしていたスペル『最小編隊(コントゥベルニウム)』を発動! フィールドのレギオンモンスター2体を指定する。このターン中! 2体のATKはお互いの数値を合計した物になる!」

 

 とにかく。用心棒は勝負を急ぎ過ぎている。メタビートはじっくりと差を広げていく物であって。無理に排除しに行けば、こうしたトラップを食らうことがある。

 攻撃に走ったヴォイド・エビルは止まれない。数こそ力と言わんばかりにレギオンモンスターはお互いに陣形を組んで、敵対者を撃退していた。

 

「ッチ。俺は、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 相手は手札をすべて捨てるという制約があるが、手札は0なので捨てる必要はない。代りに、場には2枚のカードが新たに伏せられた。

 

「僕のターン。ドロー! ヴォイド・エビルがいなくなったからコネクシオンも特殊召喚もできる様にはなったし、相手の場の数よりモンスターが多いから効果の発動もできる」

 

 神告以外に何を伏せているかは分からないが、相手のセットカードは3枚。何が飛んで来るかは分かった物じゃない。

 

「レギオン・アクィリフェルを召喚! 3体のモンスターで攻撃を」

「セットしていたスペルカードを発動! 『命乞い』! このカードを発動したターン。バトルはスキップされ、相手は1枚ドローする!」

「1枚ドローする効果が含まれていますね? 僕は手札から『速攻の猟犬』を発動します」

 

 ウム。メタビなら相手に戦闘破壊されない為に、こういったカードを積んでいる場合もある。奈落の借財の時に使わなかったのは、より確実に相手の盤面を破壊することに専念する為か。

 

「すいません。どうして、命乞いを速攻の猟犬で無効化できるんですか? あのカードの効果はバトルをスキップする。と言う物では? 直接カードを引く訳じゃないのに」

「いや。効果の発動とドローはセットだから。ドローするのも効果に含まれている。だから、速攻の猟犬でスキップの部分も無効化できるんだ」

 

 ~~して、ドローする。というのも今ではアドを取るテキストではなく、速攻の猟犬で無効化されるという危険を孕んだ物になっている。このインヴェで一番働きーヌと言われるだけにある。

 3体のレギオンが押し寄せ、ボーダー・コントローラーが破壊され、ガラ空きになった本体に攻撃が入る。幾ら下級とは言え、集団で攻められては堪った物じゃない。群体で叩く様子は正にレギオン。追加が無ければ、持って2ターン。

 

「ターンエンドです」

「ッチ! ドロー!」

 

 顔に焦りが見える。当然だ。メタビートはサーチやサルベージもできない。1枚1枚を丁寧に使わなければ、一瞬で瓦解する。

 

「俺はヴォイド・マンを召喚して、バトルに入る! テッセラリウスに攻撃だ!」

「テッセラリウスは戦闘破壊されます」

「俺はカードを1枚伏せて。ターンエンドだ」

 

 伏せたカードが何かは分からないが、旗色は良くないのだろう。動揺が顔色に噴き出していた。

 

「ドロー! 僕は装備スペル『レギオン・大盾(スクトゥム)』を発動。アクィリフェルに装備する! このカードがある限り、相手は装備モンスターしか攻撃でない。また、レギオンモンスターが破壊される代わりにセメタリーに送ることができる」

「おい、クリムゾン・ドラゴンは使わねーのかよ! テーマエースなんだろ!?」

 

 レギオンデッキと言えば……な所はあるが、煽った所で意味がない。

 

「このデッキは暴賢龍を勝利に導くためのデッキ。彼女達の臣下であるレギオンは言ってみれば、彼女自身とも言えるんです。バトルに入ります! ウェリテス!」

「セットしていたスペルを発動! カウンター・ウェーブ!」

 

 相手が攻撃して来た時に発動できるカードで、相手のモンスター全てを破壊するというシンプルながらも強カードで一時期は制限されていた位なのだが。

 

「スクトゥムをセメタリーに送って破壊を防いで、ヴォイド・マンを攻撃! アクィリフェルで直接攻撃!」

 

 今は簡単に破壊も回避されるし、破壊されないモンスターも多いので昔ほどの活躍ができなくなった所に悲哀を感じなくもない。残りは1ターン。

 

「俺の……ターン。ドロー!!」

 

 正に乾坤一擲。と言った様子でドローした2枚のカードを見て、用心棒は目を見開いていた。

 

「俺は手札からヴォイド・マンを召喚――と、同時に、MPを払ってセットしていたスペル『神告』を発動。ヴォイド・マンをセメタリーに送る」

 

 態々、MPを削ってまで壁となるモンスターをセメタリーに送る。一見すると自殺行為にしか見えないが。

 

「用心棒さん。勝負を諦めたんですか?」

「いや。賭けに出たんだ」

 

 普通。メタビートにあんなカードは入れない。採用できなくはないが、他にも有用なカードがあると言いきれてしまう様なロマンカードだ。だが。

 

「坊主。俺のメタビートのプレイングはどうだった?」

「『質実剛健牢』を直ぐに発動したこと、初手にヴォイド・マンをリリースしたのが悪手でした。僕なら多少のダメージを負ってでも貼り続けて、相手の手数を減らす壁兼排除要因に使っていたと思います」

「だよな。やっぱり、俺はそう言うデッキは合わねぇんだと思ったよ。だから、コイツを使わせて貰う。俺は手札と場のカードを全てモルグへと送り、スペル『虚数堕界(ゼロ・フォールン)』を発動。セメタリーから3体の『ヴォイド・マン』をモルグへと送り、とあるモンスターを特殊召喚する」

 

 このカードの使用条件は特殊も特殊過ぎてほとんど使えない。

 まず『ヴォイド・マン』は殆どサーチ手段がなく、通常のデッキにおいても3枚も入れたら瞬く間に機能が停止する。

 かと言って、メタビートの様にフィールドにおいて使うにしても。このカードが原因で特殊召喚ができないんだから、結局素材に使えない。

 しかも、手札にあったとしても発動する際にモルグへと送ってしまうのだから使えない。このカードは、3体のヴォイド・マンがセメタリーにある時のみに使える。

 

「虚無の王。いや、全てに敵対し、存在を否定し、無に還せ。『虚数前駆ルシフェル』!!」

「マジか」

 

 思わず、漏らしてしまった。失礼ながら、私は用心棒君のことを噛ませ犬か何かだと思っていたが、このモンスターを特殊召喚したことには感動さえ覚える。

 現れたのは漆黒の3対の翼を持ち、顔の部分だけが深い闇に覆われている堕天使だった。ATKは驚異の5000。2発殴れば相手は死ぬ。

 

「このカードが特殊召喚された時。相手のフィールド・セメタリーのカードを全てモルグに送る。この効果の発動に対し、相手は効果を発動できない」

 

 信じられないどんでん返しだ。シュウ君が積み上げて来た盤面が一瞬でひっくり返された。スタッツとしては最上級クラスで並の打点では突破できやしない。

 

「このカードは相手の効果を受けない。その代わり、特殊召喚を封じる効果もない。ルシフェル! 行け!! 明けの明星!!」

 

 光が奔り、貫いた。シュウ君のMPがゴッソリと削れた。恐らく、こちらも後2発貰ったら終了だ。客達が息を吞んだ。消化試合かと思われた展開が一点、先の見えない展開へと変貌した。

 

「シュウ君。大丈夫ですか?」

 

 ヒナコが心配そうにシュウ君の方を見ていた。こんな状況に追い込まれたというのに、彼の顔には笑みが浮かんでいる。

 

「やっぱり。インヴェってすごいですよね。いれるカードが数枚違うだけで、全然違うデッキになるんですから。お兄さんがトッテオキを見せてくれるなら、僕だって見せて上げますよ」

「来い!!」

 

 そこには店長やサユリちゃんにクレームを付ける卑しい男はいなかった。

 敗北者から一転して、勝利と誇りを取り戻さんとするプレイヤーと彼の奮起を真っ向から受けて立つ、愛弟子の姿があった。

 

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