TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
『タケウチ』というプレイヤーがいた。小さい頃から『メイガス・インヴェイション』が好きで地元では負け知らずだった。
大人になってからもプロの世界で戦い続けていく。と、信じて疑っていなかった。実際に彼はプロの世界に身を置いていたこともあった。
「バエル!!」
『おーっと! タケウチ選手のモンスター達が全滅! もはやどちらのターンか分からない!』
だが、環境は変わる。小さなアドを積み重ねて、大型のエースモンスターを出してフィニッシュを決めるというやり方は通用しなくなっていた。
好きだったテーマも捨てて、戦い方も変えて、動画のおすすめ欄に上がって来るデッキを覚えて些細な改良を加えて。いつしか、彼にとってのインヴェは苦痛になっていた。
「決まりだからな。カドショにやって来るバカ共の為に用心棒は雇っとかなきゃいけない」
だというのに、インヴェ以外の選択肢が無かった。雇われたカードショップは内装も汚く、カードの扱いも雑で、やって来る身内の贔屓も酷い店だった。
それでも、穴場だと思って取りに来るグループを追い払うだけの力はあった。長時間に及ぶ膨大な展開、先攻制圧。多少の妨害を弾くだけで、遣り取りもクソもない。決まったルートを走るだけの一人遊び(ソリティア)。
「――形だけのデッキに負ける筈がありませんわ」
だが、それすら奪われた。当然だ。作業の様にテンプレート的なデッキを回しているだけのプレイヤーと勝つために研鑽と研究と試行回数を絶やさない、若さと情熱にあふれた新芽に勝てる訳がない。
職さえも失くした後に残ったのは、怒りだけだった。自分を追い出したグループや店長。そして、自分が愛していたインヴェを奪い取った環境の変遷。
彼がメタビートを握るのは至極当然の流れだった。何せ、ショップが後押ししていたのだから。並ぶメタビート用のカード、多数のレシピが示されたQRコード。
「ありがとうございます!」
自分が抱えている物も知らずに笑顔でカードをラッピングする店員から目を背けながら、インヴェを否定する為のデッキを考える中。
彼の目に留まったのは『関連カード』と題されたコーナーだった。いずれも実用性は低く、レアリティこそは高いがストレージに眠っていた者達だろう。
デッキの枠は決まっている。メタビートは1枚のカードを如何に上手く扱うかという繊細さが求められる中、コレらのカードは『ロマン枠』と呼ばれる実用性からは掛け離れた物だった。だというのに。
「こちらのカードもですか? はい。分かりました!」
気づけば2枚のカードを買っていた。他のカードを購入する資金が無い為、穴埋めで買った物か。あるいは、かつて彼が愛していたインヴェを彷彿とさせる存在に心を惹かれたからか。今は――
――
「貴女様。あのカードは?」
「出せたら強い。の筆頭カード『虚数前駆ルシフェル』だね。あのスペルでのみ特殊召喚できるカードで。相手の盤面とセメタリーを吹っ飛ばして、なおかつあのスタッツだから突破は難しい」
モンスター効果やスペルで相手の盤面を除去する昨今のプレイヤー達をお仕置きするかのような性能になっている。
「どうやって突破すれば?」
「殴り勝つ。もしくは相手モンスターをリリースするか、相手プレイヤーに行動を強制させるカードがあれば良いんだけれど」
少なくともシュウ君のデッキには入っていなかった。つまり、殴り勝つ一択しかない。古式ゆかしいビートダウンが求められる。……ただ、それもできるか。
「更に。このカードにはもう一つ。1ターンに付き1回。モルグからヴォイド・マンを1体デッキに戻すことで相手ターン中にも相手フィールドのモンスターを全破壊することができる!」
「全破壊の妨害付き……!」
跋扈するレギオンを召喚して横に展開を広げたとしても全滅してしまえば以降の展開はできなくなり、後は順当に攻め込まれて逆転されてしまうだろう。
「あの男の子が展開を広げた瞬間、潰されるんなら。コレはもう詰みでは?」
「……分からない」
そもそも。カードゲームはたらればの連続だ。あのカードを引けていたら、あの時に条件が整っていれば。それらを引き寄せるのは他でもないプレイヤーで。
「僕は手札から跋扈するレギオンを召喚! 着地時に同名モンスターを2体まで特殊召喚できる!」
フィールドに3体の跋扈するレギオンが並ぶ。握っている手札の中にもう1枚『レギオン・大盾(スクトゥム)』があったとしても無駄だ。
「効果の発動は?」
「俺はルシフェルの効果を発動し、ヴォイド・マンをデッキへと戻す! 相手フィールドのモンスターを全て破壊する!!」
再び、ルシフェルから光の一閃が奔った。3体の跋扈するレギオンは全員がセメタリーに送られた。シュウ君のフィールドは空っぽだ。
「召喚権も切っていますし、シュウ君。このままじゃ、もう殴られるだけじゃ」
「……古来より。ローマには『Funus』という葬儀の風習があった。そして、死者は霊として存在し続けると」
戦場で勇敢に戦った兵士には敬意が払われ、使用していた装具等と一緒に埋葬されるという物だ。――死して尚、軍団(レギオン)は女王と共に在る。
「僕は手札からスペル『ディス・マニブスの奉納』を発動します。このカードはモルグにある『レギオン』カードをセメタリーへと戻す! 死者の霊はあるべき場所に! そして!」
モルグにあるレギオンモンスターと装備スペルがセメタリーへと戻る。
死者の魂はあるべき場所から、正式な儀礼を通過してやがて次の魂へと繋がる。フィールドに炎が奔る。
「続いて。僕はスペル『始まりの大火』を発動します。このカードはセメタリーから6体のレギオンモンスターをモルグへ送ることで、デッキから『クリムゾン・ドラゴン』を特殊召喚する」
ロッソ・バイパーを中継としない『クリムゾン・ドラゴン』の特殊召喚。
世界観的なことを言えば。この大火の後から『クリムゾン・ドラゴン』は暴賢龍から、やがて世界を墜とす邪龍へと変貌していく。
「レギオンは彼女自身であり、彼女自身もまたレギオンである。出でよ! 『紅蓮獣・クリムゾン・ドラゴン』! このカードは着地時に相手のバックを全て破壊する効果があるけれど、そっちのバックには何も無いので不発!」
全身を覆う炎がまるで紅の獣を彷彿とさせた。キィンと頭の中に声の様な物が響く。
『あの子の一歩目だ。私達で見守ろうじゃないか』
声の主が何処に眠っているかなんて言わずもがなだ。私達はシュウ君を見守るのだが、隣でヒナコが心配そうに見ている。
「でも。あの紅蓮獣のATKは2000しかありませんよ。このままじゃ、折角召喚したモンスターも!」
私はコレに近しい特殊召喚をするモンスターを知っている。そうだとも、互いにレギオンによって成されるモンスターで姉妹の様な物だから。
「更に。起動効果で、モルグにあるレギオンモンスターをデッキに戻すことで1枚に付きATKは600上がる! 僕は6体のレギオンモンスターをデッキに戻す!」
紅蓮の中でレギオン達の魂がクリムゾン・ドラゴンを形作り、役目を終えた彼らは命の源(デッキ)へと戻って行く。
2体のエースモンスターが向かい合う。きっと、彼女達の声はプレイヤーにも聞こえているハズだ。
『礼を言いたい。きっと、お前達が相手でなければ。私達は虚無のままだった。さて、この満たされた想いをどうぶつけようか』
『正面から来るが良い。貴様にとっては再起の、私達にとっては門出だ』
クリムゾン・ドラゴンの時よりも幾らか貫録を得ている。彼女がここからどの様な存在へと変貌していくかは。
2体がぶつかり合う。ステータスは分かっているので、行われるバトルが演出でしかないとしても、そこに数値では表せない様な意地と想いが詰まっていると。私は思うのだ。
『明けの明星!』
『イグニッション・レギウス!!』
ルシフェルが放った光の一閃を紅蓮の炎が飲み込み、彼らを焼き尽くした。用心棒の残り僅かだったMPが削れ切り、ここに勝敗が決着した。
「勝者! シュウ君!」
店内は控えめな拍手と歓声に包まれた。先程までの険悪な空気は何処へと行ってしまったのだろうか。勝負を終えた後、用心棒が深々と頭を下げた。
「さっきまでの非礼を詫びる。すまなかった。俺は、プレイヤーとして相手を尊重するなんて基本的なことさえ忘れていた」
「いいえ。僕も正直に言うとコピーデッキかと思って、見縊っていた所もありました。あんな風に盤面をひっくり返されるだなんて思いもしなかったです」
スッとシュウ君もお辞儀をした。用心棒を見れば、店内に入って来た時の険はすっかり取れていた。恐らく、アレが本来の彼なのだろう。
「皆さん。お騒がせして、申し訳ありませんでした。以後、この店やお客様達には関与しません。用心棒のライセンスも返却させて貰います」
スッとテーブルの上にライセンスを置いた。用心棒と簡単には言うが、店から信頼を得る為のライセンスを取るには時間も知識も費用も必要だ。
迷惑を掛けた店や客達に何度も謝りながら、店を出て行こうとした時のことである。店の奥からサユリと店長ともう1人。ヒナコだ。
「用心棒さん。いや、タケウチさん。ちょっと待って貰って良いですか?」
彼女の手には華々しいデッキケースが握られていた。横には蔑んだ目で睨み付けているサユリと真っ青な顔をした店長。
「ヒナコちゃん。何しているの?」
「ヒナコちゃん???」
「サユリちゃん。良いんだよ。私とヒジリさんは友達になったからね。うんとね、サユリちゃんのデッキを隠していたの。店長だよ」
私やお客さん達も全員呆気に取られていた。どういうことだ?
どうして、店長が店側の不利になることを? と思ったが、何となく予想が付くことはあった。
「サユリちゃん。そう言えば、君がいない間にタケウチさん? が報復に来たんだっけ?」
「そうですわ。まるで、内側から誰かに知らされていた様に」
グループの人間が裏切るとは思い難い。だが、店長には漏洩するメリットがある。いけ好かない小娘達を追い出せる。
「何を言っているんだ! 私は被害者だぞ! 訳の分からない小娘達に店を取られ! 高い金を払っていた用心棒は役に立たない! どうして、やり返されないと思ったんだ!」
なんてことは無い。元から抱えていた不和が噴出しただけだ。
幾ら、この店が女性向けに居心地よい物にされていたとしても、それは店長から奪い取った訳で、だとしたら何処かで爆発するのは当然だ。
周りの客さん達やシュウ君にも不安が広がる。折角、良い勝負の後を汚された様で、私も気分が良くない。と思っていると、ヒナコちゃんが店長に何かを渡していた。
「コレ。どうぞ」
何を渡されたのかは見えなかったが、店長と呼ばれていた男の顔は地獄から天国へと言わんばかりに変わっていた。
「本当だろうな? これは、本当に行けるんだろうな!?」
「はい。法律的にも保障されていますよ」
「ヒッ、ヘヘッ! なら、こんな店。お前らにくれてやるよ!」
三下みたいなセリフを吐きながら、店長は出て行った。……いや。何か、話にオチが付いたように見えるが。
「ちょっと待って欲しい。彼が出て行ったら、誰がここを経営するんだ?」
「大丈夫ですよ。ヒジリさん。私達が何とかしますので」
ボサボサ芋虫少女が自信満々に言っているが、何をするつもりだろうか?
もしかして、滅茶苦茶ベタな設定でさる大企業の令嬢とかそういう奴だろうか。……変なことを聞いたら、話が長引きそうだな。
「じゃあ、何とかしてくれるならサクタ君も拘束しないでくれると助かるなぁ。用心棒は新しく探してくれたまへ」
「探すも何も。そこにいるじゃないですか」
スッと。店から出て行こうとする用心棒君を指差した。彼も驚いていた。
「お、俺を?」
「はい。元々、この店に雇われていたんでしょう? さっきの戦いは見せて貰いました。今の貴方なら、雇い直しても問題無さそうなので。皆さんは、どう思われますか?」
誰とは言わないが。1人が賛同する様に拍手を送ると、皆が呼応する様に拍手を送った。……予定調和というか仕組まれていた。という気さえする。
「良いんですか?」
「はい。とは言え、変更点は色々とあるので説明させて貰います。サユリちゃん。説明して上げて」
「分かりました」
再び、店の奥に引っ込んで行った。何やら一件落着しそうな所でカランと誰かが入店して来た。『リリウム・サンクチュアリ』のメンバーに囲まれたサクタ君だ。彼は店内の様子や私を見て言った。
「ヒジリ殿。いったい何が?」
「かくかくしかじか」
「そうであったか。皆には迷惑を掛けた。ヒジリ殿、シュウ君。非常に助かった。修行の成果は出ている様で」
「えへへ……」
その照れ顔は私に向けて欲しかったなぁ。シュウ君の可愛さに気付いてしまったのか、グループのメンバーやお客さんのお姉様方に囲まれていた。もちろん、私がディフェンスをする。
「やめたまへ。こんな幼気な少年に寄って、集って。私に勝てたらお話位は許してやろう」
「ヒジリさん。それ、さっき使っていた環境デッキじゃ」
客層がエンジョイ勢多めなのか、全員が躊躇していた。……って、私はこんなことをしに来た訳じゃない。
「そうだ。サクタ君に話を聞きたかったんだ。君はここの店員になって働いて行くつもりなのかい? もう、ウチには来ないの?」
「いや? 偶に手伝いをするだけだと話したハズだが……。普通にフィロソフィーにも通うが」
……どうやら。用心棒とか勝負の下りは全く必要なかったらしい。とりあえず、帰ったら団員君を締めよう。そう決意した。
それから、私はシュウ君防衛するために環境デッキをガン回しして、サンクチュアリのメンバーを千切っては投げて、千切っては投げていた。
「ハーハハハ! 私はすごいだろう! どうだい!」
「へぇ。タケウチさんも昔はクリムゾン・ドラゴンを使っていたんですか?」
「齧ったことがある程度だけどな。もし、良かったら。幾らかパーツを受け取ってくれ。君に渡したいんだ」
私のことを放置して、対戦相手と仲良く話しているシュウ君は可愛いなぁ。
とりあえず、モルグに落とした虚無領域モンスターをフィールドに特殊召喚した。虚無虚無。