TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「『リリウム・サンクチュアリ』には新しい店長が着任したそうだ。ヒナコ殿の知り合いで、信頼できる人物だとは言っていた。我らも遊びに来て欲しいとも」
「ショップ同士の交流があるのは良いことなんだけれどね」
だけど、元を辿ればグループが奪い取り、実効支配したということなので、あまり喜ばしいことではない。
元の店にどれだけの瑕疵があったかは分からないが、それでも成功例が出ればグループも勢い付いてしまう可能性はあった。
「グループも現在は取るシマが無くなって来たのか、共食い状態になっているそうで、いずれ。勢力も統一されて来るだろうと予想されている」
「前に、お互いのメンツを気にして互いに抗争しない。と言っていた割には、シマを食い合っているんだ……」
そんなに小規模店舗がどんどん支配されて行っているのは気になる。支配した後はどうするんだろうか?
この間の『リリウム・サンクチュアリ』程の手入れは無いとしても『カズマ』達がやったこと位の私物化はありそうだ。
「メンツを気にする程、対等の相手とは喧嘩しない。というだけだ。有力候補は『HU-MAN』『リリウム・サンクチュアリ』。他にも『謝花八』『フュージ・ドラゴンズ』等、幾らか名前が挙がっている」
「やめたまへ。そんな説明をされると今後、遭遇しそうな気がするじゃないか」
特に『謝花八』なんてイカれたグループの奴らとは絶対に遭遇したくない。いや、偶々そう言う名前になっただけで普通の奴らかもしれない。
徒党を組んでカドショに来て、シマ取りになんてやる奴らがマトモかどうかは置いといて。
「ここはグループの協定で、最後に挑む関門として設定されているから来ないハズではあるが」
「客としては来る可能性もあるじゃないか。なんかグループの制服やシンボルみたいな物は?」
「そんな物を用意する金はない」
カードとサプライヤーに金を使いまくっているので当然と言えば当然である。
と考えたら、このショップに来ている客が全員グループのメンバーである可能性もあるのか。ちょっとしたホラーだ。よく観察したら、それっぽい奴がいるかもしれない。ちょっと店内の様子を見て回ろう。
「なぁ、今度発売する新弾買う?」
「いや。パック剥くよりシングル買いで良いかなー。光ったら嬉しいけれど、遊ぶカードが手に入れば十分だよ。次のテーマで組みたいのはある?」
「新テーマの『TEN・PULA』で作りたいと思っているんだよな。こういうネタっぽいテーマって動かしていて楽しいしな」
小~中学生位の話題は面白い。対戦ゲームである以上、勝利を目指すのは当然として。目指し方を各々で選べるというのは醍醐味だ。
なんとしてでも勝ちたいということで環境を握ると苦しくなるが、自分のやりたい勝ちが『通る』位のパワーがあれば嬉しいし、楽しいだろう。
「じゃあ、俺は新テーマの『パティシエーラ』を作るかな。『パティシエール』と『山脈(シエラ)』を合わせた巨大美少女モンスターテーマだ。究極の『TEN・PULA』VS嗜好の『パティシエーラ』で勝負しようぜ」
「インヴェで性癖を歪めるな」
『TEN・PULA』は可愛いから良いが、『パティシエーラ』は企画の性癖が詰まり過ぎている。
「えー。小学生男子にベッタリしている人に言われても」
「ベッタリとは何だ。私は空いた時間を使って、将来有望なプレイヤーに指導をしているだけだ。疚しさは一切ない」
「嘘付け―! 指導しているだけの奴が連れ回す訳ないだろ!!」
可愛くないガキ共だな。シュウ君の素直さと真面目さと勤勉さと情熱。そして、何よりも可愛いさを分けてやりたい位だ。
「私は保護者として付き添っただけだから。良いかい? 大人のお姉さんとして見守っているだけなんだ。そこに欲望みたいなのは存在していない。いいね?」
「存在していない割には、すごい気にしているんだね」
「自分に言い訳しているみたいだね!」
可愛くねぇガキ共だな! こんな時はシュウ君の後方で師匠面して穏やかな気持ちになろうと思ったが、気付いたことがある。
「サクタ君。今日はシュウ君が来ていないけれど。何か話は聞いているかい?」
「いや。特に何も」
そもそも、ここに来るのは義務でも何でもないんだから欠席の連絡も必要ないんだけれど。グループっぽい奴らもいないし、ストレージの前面を露出度の高い女モンスターで埋めようかなと考えていると。入店して来る男子が1人。
「おや。シュウ君。今日は遅かったね」
「はい。実は友達が来てみたいって話になって」
ほぅ。友達か。私やサクタ君と仲良くするのも良いことだが、やはり同級生の存在は学生生活に必要不可欠だ。いったい、どんな子が来るんだろう?
やはり、同じタイプだろうか。前にチラリと一緒に遊んでくれる子がいない。と言っていたし、同じ様に物静かな子か。
あるいは、正反対の少年らしい少年が来るかもしれない。どんな子が来るだろうと期待していると、そろそろとやってくる子が1人
「シュウ君。ここが?」
「うん。この人はヒジリさん。すっごい強くてインヴェにも詳しくて。こっちのサクタさんは優しくて物知りなんだ」
私の人物評がステータスに留まっているのに対し、サクタ君が人柄にまでアプローチされているのも気になるが、大したことではない。問題は。
「君はシュウ君の友達?」
「あ、はい。『ナギサ』って言います。私もインヴェをやっていて。シュウ君には何度も。その。話そうとは思っていたんですけれど……」
栗毛のツインテールが可愛らしい女子だ。インヴェの女性プレイヤーは珍しいが、女子小学生となればさらに珍しい。
落ち着け。シュウ君が同級生の異性を連れて来た程度で焦るんじゃない。むしろ、学校でもちゃんと友人がいてくれて嬉しいじゃないか。
「ヒジリ殿。何故、ストレージのカードをスペルとモンスターカードに分けるなんて従業員らしいことを?」
「使いやすくなればなぁと思ってさ。2人は仲が良いのかい?」
「うん。お母さん達の職場が一緒だから、その事もあって」
あ。なるほど。そう言う縁か。つまり、家族同士でのお付き合いがあって、以前から一緒にインヴェをやってみたいと思う女子の友達がいたということか。
「ヒジリ殿。どうして、ストレージのモンスターカードを下級、上級、最上級に分けるなんて丁寧なことを?」
「従業員だからね。うん。2人して心行くまで遊んでいくと良い。ナギサちゃんはどんなデッキを使うのかな?」
背後から『うぉ、このストレージ探しやすっ!』という声が聞こえているが、内心は穏やかではなかった。
もしも、この少女が『クリムゾン・ドラゴン』に並ぶテーマ系のデッキ使いだったらどうしようか。『魔法少女(コントラクター)』とかだったらどうしよう。いや、実は海龍(レヴァイア)デッキとかだったら、すごい白熱しそうだ。
同級生で控え目の女子がライバルになり得るデッキを握っているとかなったら、どうしようかと。ほんの少し未来を夢想した。
――
「ヒジリさん。やっぱり、メタビと環境って言うのは思考停止だと思うんです。僕は『クリムゾン・ドラゴン』を使って、プロの世界でナギサちゃんの『海龍(レヴァイア)』と戦っていきます。今までありがとうございました」
――
「ヒジリ殿。どうして、そんな有用なカードばっかりを集めたストレージを作っているので? 人が集まって来ているが……」
ワラワラとストレージコーナーに人集りができているが、そんなことはどうでも良い。既に2人は卓に着いている。対戦の準備をしている。
「じゃあ、ナギサちゃんから先攻で!」
「ありがとうね。私は『凪禽―風見のハヤブサ―』を召喚!」
フィールドに現れたのは、周囲を薙ぎ払う風を纏った猛禽類のテーマ『凪禽(なぎどり)』の下級モンスターだった。
「このカードがフィールド上に存在する限り。相手はドロー以外の方法で手札に加えたカードを公開し続けなければならない。私はカードを1枚伏せてエンド」
凪禽は結構強めなテーマだ。展開力や突破力は高くないが、彼らの恐ろしさはテーマが持つ効果だ。それは実戦の中で見るにしても気になることがあった。
「ヒジリ殿。アレは」
パチパチと音が鳴っている。音の発生源はナギサちゃんの手元だ。
スリーブを付けたカードを左に持って、親指で弾くようにして右へとスライドさせる。手札(ハンド)は3枚なので、コレを3度やったら再び繰り返す。するとカード同士が擦れてパチパチと音が鳴るのだ。
「シャカパチだ……」
ここで伏線回収は止めて欲しい。しかも、動作の流麗さからして昨日今日で覚えた訳ではなさそうだ。
彼女のシャカパチによる威嚇にシュウ君は戸惑い、私は戦慄し、背後のストレージコーナーに人集りが出来、店長がこっちに向かって来た。