TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
後、この話を書くためにシャカパチを覚えました。一緒に遊んだ先輩が何気なくなやっているように見えて、アレは歴戦の証だったんだなと思いました。
シャカパチ。というのは俗語(スラング)みたいな物で、公式っぽい言い方をするならハンド・シャッフルと言った所だろうか?
手札を混ぜることに意味が無い訳ではない。カードの中には相手の手札(ハンド)を破壊したり、セメタリーに送る効果を持つ物もある。
しかし、『メイガス・インヴェイション』というカードゲームは1枚のカードが持つ意味合いが大きく、それを自由に使えなくするという効果はあまりに強い。
故に。黎明期に登場したピーピングしながら手札破壊(ピーピングハンデス)は軒並み規制され、現代において生き残っているハンデス系カードの大半は手札をランダムに捨てたり、破壊したりする物だ。
「(そんな効果に対して、手札の順番を入れ替えることは意味がある)」
例えば。相手が加えたカードを左端に持って来る癖などがあったりすれば、それを狙い撃ちできる。加えたカードを何処に持っていたか? というのを覚えておけば、ランダムと言えど効果的な破壊ができる。
そう言った、ことを防ぐためにハンド・シャッフルに意味はある。じゃあ、ナギサちゃんがやっている行為に意味があるかと言われたら。
「ナギサちゃん。そのパチパチしているのは?」
「私の生態みたいな物だから気にしないで。シュウ君のターンだよ」
別にシュウ君はハンデスなんて使わないので関係はない。……色々と理由は付けたが、手癖でやるプレイヤーも少なくはない。
パチパチパチパチパチパチ。禁止されている行為ではないし、アドバンテージを生む行為ではないのだが。
「(滅茶苦茶手元が気になる)」
カードを指で弾くのでスリーブもカードも痛むだろうし、せわしなく手元が動いているのを見ると、こちらもソワソワしてしまう。
「おい。ヒジリ! テメェ、何。売り物のカードでシャカパチしてやがる!」
「すまない。シャカパチを見ていたら、手癖が……」
ちなみに。オチを先に言っておくと、シャカパチしたカードは買い取らされた。当たり前だが、売り物のカードでやってはいけない。
「僕のターン! ドロー! スペル『女王の召集』を発動! デッキからレギオンモンスターを手札に加える! 僕は『レギオン』を手札に加える」
「風見のハヤブサの効果で、シュウ君は手札に加えたカードを公開し続ける必要がある。見せて?」
チラリとレギオンが公開された。パチパチパチ。気のせいかシャカパチの速度が上がっている様な気がする。
「僕は跋扈するレギオンを召喚! 着地した時の効果でデッキから任意の数だけ跋扈するレギオンを特殊召喚する!」
「セットしていたスペル『凪禽の領域』を発動! このカードは相手が凪禽の効果によってカードを公開している場合のみ発動できる! 相手が効果を発動した時、公開しているカードをセメタリーへと送る!」
そう。凪禽は無条件でハンデスできる訳ではないが、公開したカードは既に狙われている。という、プレッシャーを相手に与えるテーマだ。
故に、手札で効果を発動するカードは狩り取られてしまうし、使うのに準備が必要なカードも狩り取られてしまう。……のだが。
「跋扈するレギオンをコネクシオン、ロッソ・バイパー。着地時の効果で跋扈するレギオンを拾い上げて、2体でコネクシオン。『クラウディアス・クリムゾン・ドラゴン』を特殊召喚。効果を使って、女王の勅命(クリムゾン・クイーンズ・クリムゾン・オーダー)をサーチ。公開します。そして、使います」
「投了します……」
弱っ。アレだけシャカパチが上手いから熟練プレイヤーかと思ったけれど、ビックリするくらいに何も無かった。巧みなハンデスデッキを使いこなしてくれるかと思ったが、そうでもなかった。
シュウ君も困った顔をしていた。相手の行動を制限しながら、立ち回って来るテクニカルなデッキかと思ったら全然違ったからだ。
「ナギサちゃん。それ、君のデッキ?」
「えぇっと……実は。お兄ちゃんに作って貰ったデッキで」
やはりか。あまりにシャカパチが堂に入っていたから誤解していたが、彼女は初心者だ。……まぁ、凪禽なんて準備が必要なデッキで棒立ちにも近い盤面だった時点で察するべきだったが。
「よければ、私がデッキを見てみようか?」
チラリと不安そうにシュウ君を見た。彼が小さく頷いたのを見て、ナギサちゃんは私にデッキを渡してくれた。ざっと内容を確認する。……うん。
「ナギサちゃん。このデッキ、君が握るには少し難しいデッキだ。結構、練習が必要になる」
「え? でも、お兄ちゃんはすごいグルグル動かしていたのに」
「それは君のお兄さんがすごいんだ。どうする? 1つ買えば始められるストラクチャーとかもあるけれど」
念の為、サクタ君を手で制した。ナギサちゃんは少し悩んだけど、首を横に振った。
「ううん。お兄ちゃんが組んでくれたデッキで戦いたい。けれど……」
自身が初心者でプレイングが拙いことが分かっているから、そんなことに付き合って貰えるか。と、不安そうにシュウ君を見ていたが。
「大丈夫だよ! 今日はナギサちゃんと一緒に遊ぶって約束したから。凪禽のデッキも面白いから、僕も動きを見てみたいな!」
素晴らしい。あまりに眩い光景だ。この気持ちを自分の中に押し込めていたら、碌でもない形で噴き出しそうなので、サクタ君に向けて放っておくことにした。
「見なよ、サクタ君。私の愛弟子を」
「最近のヒジリ殿は明るくはなったが、ヤバい言動も多くなっているから注意するように」
どうやら、既にロクでもない形で噴き出していたらしい。チラリとシュウ君が私の方を見て来たが。
「おっと。凪禽の回し方は一旦、自分達で考えてみると良い。見た所、お兄さんが組んでくれたデッキはよくできている。どうやって回せるかも含めて2人でじっくり考えてみると良い。教えて貰っただけでは覚えないよ」
「分かりました!」
暫し、2人が回すのを眺めていた。プレイングは滅茶苦茶だが、この模索している感じが愛しい。でも、シャカパチだけは異様に上手い。
「すまない。ナギサちゃんはどうして、そんなにシャカパチが上手いんだい?」
「お兄ちゃんの真似をしていたら、コレだけは上手くなったの。もっと上手くなったら、静かにもできるし、大きく音を鳴らすこともできるけれど」
そんな物が上手くなっても何のアドバンテージも無い。そして、聞くのは嫌だけれど。しっかりと、伏線は改修しておこう。私の誇大妄想だということを祈りながら尋ねた。
「もしかして、お兄さん。グループとか言う団体に所属している?」
「はい。『謝花八』って言うそうですけれど」
美しい。ロッソ・バイパーでレギオンモンスターを釣り上げて、クリムゾン・ドラゴンを特殊召喚する様に。虚無領域(ヴォイド)モンスターがコストでデッキからモルグに送る様に。
分かり切っていた展開が明示されるというのは案外気持ちが良い物だ。これ以上は深堀をするのを止めて、やるべきことをやろう。さて……。
「店長―! このストレージのキャンペーンまたやってー!」
「すっごい良かったよー!」
「どうするんだよこれ」
「……月一位なら頑張ります」
無駄に自分で仕事を増やしてしまったことを後悔しながら、改めてストレージを覗き込んで半裸モンスターを前面に持って来た辺りで止められた。