TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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25枚目:カードの声

「『HU-MAN』と『リリウム・サンクチュアリ』の連中が例の用心棒とコンタクトを取ったそうだな?」

 

 薄暗い部屋の中。中央にある円卓を囲むようにして、数人が腰掛けていた。いずれも仮面を被り、素顔を覆い隠している。

 

「はい。ちょうど、ウチで良いトラブルがありましたので。ショタコンっぽいだけで、他に変わった所があった様には思えませんでしたね」

 

 ボサボサ茶髪ヘアーの少女が、場にそぐわないようなおっとりとした声で報告していたが、別の方から声が上がった。

 

「あの用心棒は強いとは思いますが、貴方が注目する程だとは思えませんね。『アセッション』計画の支障にもならないと思いますが?」

「……この場に集まった者達はいずれも『グループ』の人間だ。私が認めた、ハイレベルなプレイヤー。いずれもカードの声を聞ける者達だ」

 

 この場を取り仕切っている男がデッキから1枚のカードを取り出した。

 円卓の上にカードを置くと、フィールドが作動してモンスターのホログラフィックが出現した。通常はこうしてモデリングが映し出され、決まったセリフを喋るだけなのだが。

 

『マスター。この、リヴァイサンめに御用でしょうか?』

「いや、呼んだだけだ」

『そうですか』

 

 ホログラフィックはまるで自分の意思を持っているかのように喋り、周りを見ている。こんな動きやセリフは登録されていない。

 

「この様に。我々が玩具として使っているカードには意思があり、コミュニケーションも取れる。だが、現状ではここが限界だ」

「十分じゃん。自分の相棒と一緒に戦えて、お話ができるならとっても楽しいと思うよ」

 

 ボサボサ女子の場違いな程にのどかに言ってみせるが、男は否定した。

 

「否! 私が目指すのは先! 例の用心棒『ヒジリ』は我々の一歩先を行っているのだ。奴は、現実に干渉させられるレベルでカードの力を引き出している」

「何を根拠にぃ?」

「非合法の手段で手に入れた情報だから諸君らには開示できん。ただ、一つ言えることは……奴の本来の性別は『男』だ。だが、あのヒジリと言う女は法律的と言うだけではなく、生物学的にも『女』になっている」

 

 フィクションなどでよくある設定だが、現実で性転換をしても生物学的な物までは変えられない。故に、この男が吐いていることが妄言だとするのが常識的な結論ではあるが。

 

「私は、そんな物はどうでも良い。『アセッション』計画さえ進めて貰えれば良い。その過程で協力できることはする」

「今はそれで良い。計画の最中に、お前達の力は引き出されるだろうからな」

 

 男が席を立つ。と、同時に他の者達も席を立ち始めた。

 この会議に明確な結論も終わりも無かったが、主催と思しき男の退室こそが一つの契機と言わんばかりに、全員が部屋を去って行った。

 部屋内では円卓状のフィールドに走っていた電気が落ちて、元の静寂な空間へと戻っていた。

 

~~

 

「うーん」

「シュウ君。何しているの?」

 

 シュウ君がフィールドに『クリムゾン・ドラゴン』のカードを置いて、何かを確認している。ピンと来た。

 

「クリムゾン・ドラゴンのモデリングが見たいのかい?」

「違います。ほら、時々。勝負をしていると声が聞こえて来るので、話したりできないかなと思って」

「あ、そっちか」

 

 いわゆる『カードの声』という奴だ。コレはオカルトとかそういう類ではない。

 一定の力量を持つプレイヤーだけが聞き取ることができる物で、プロと呼ばれる人間は大抵『相棒』となるカードの声が聞こえる。

 

「サクタさんがマシンテッド・ドローンを召喚した時には声が聞こえましたよね?」

「アレはフィールドの『補助装置』があったからだね。普段は使わないけれど」

 

 電源を入れる。すると卓上のディスプレイにはモンスターゾーンなどが表示され、手元には残りMP等が映し出された。中央には『練習モード』の文字。

 

「このモンスターゾーンに特定のカードを置くとだね」

 

 試しに、私のメタビデッキからヴォイド・マンを置いた。すると、彼のホラグラムが映し出された。

 

『話せるかどうかは入れ込み具合や相性にもよりますがね』

「あ。本当に喋るんだ」

 

 横のゾーンに『サイファー・バニッシャー』を置いてみる。ホログラフィックが表示されたが、特段動いたり喋ったりはしない。

 

「デッキごとによる『相棒』って奴だね。どういう基準で選択されるかはよく分からない。ただ、使用率でないことは確かだ。理由は分かるね?」

「そうしたら、皆の相棒は速攻の猟犬ばかりになっちゃいますからね」

 

 今や、あのカードが入っていないデッキは存在していない。

 それ位、必須カードなっている犬なのだが、デッキの構築的には不健全と思わざるを得ない。

 

「あの。すいません。僕もクリムゾン・ドラゴンをやってみても?」

「良いよ」

 

 シュウ君が自分のデッキからクリムゾン・ドラゴンを置いてみた。ホログラフィックは表示されるが、それまでだ。

 

「喋ってくれない……」

「まだ、シュウ君達は歩き始めたばかりだからね。コレから活躍の機会を増やして行けば、きっと心も通じ合うさ」

 

 その果てに何があるのか。とまで言い掛けて、私は言葉を呑み込んだ。彼らの結末を勝手に想像して、悲観する権利などあるはずがない。

 

「ヒジリさん。どうして、普段はフィールドの電源を切っているんですか? 真剣勝負とか防衛戦の時だけ使うだなんて勿体ない」

 

 フィロソフィーだけではなく、導入している店舗でも常に起動状態という所は少ない。コレには事情があるのだ。

 

「まず電気代だね。迫力はあるしちょっとした集客効果もあるけれど、やっぱり電気代がね。嵩むのがね。結構しんどいんだよ」

「じゃあ、どうして導入を?」

「カッコいいでしょ?」

 

 キラーンと格好つけた。ちらっと店長の方を見た。親指を立てていた。こういうことには理解があって助かる。

 

「ついでに言うと。電源を付けている状態で動かした記録は全部残るからね。後々、ルール違反が無いかと。ログを調べる上で重要だから。ショップ大会とかやる場合は使用が推奨されているよ」

 

 どうしても勝ちたい。負けたくないという人間がイカサマをすることは十分にあり得る。そうでなくても効果処理がミスっていたり、人間である以上ヒューマンエラーも挟まって来るので、この機能は割と便利なのだ。

 

「結構。厳格な機能なんですね」

「と言っても。身内でワイワイやったりする分では無くても大丈夫だけれどね。アレを使うと規定の位置にちゃんとカードを置けとか、効果処理をちゃんと全部やらないと次の処理に移れないとか。後。電気が入っていることもあってカードが反れたりする気がするし」

「……折角だから、電源入れてやってみません?」

 

 とてもワクワクしている。ただ、私はどうにも気が進まない。モンスターを場に出したら、勝手に喋るから余計なことを話しかねないのだ。

 

「分かった! 私はメタビか環境を使うね!」

「そんなに嫌!?」

「違うんだ。私、デッキはこの2つしか持っていないんだ」

「ちょっと意外です。色々と知っているから沢山デッキを持っている物だと」

 

 昔は40個位デッキを持っていたが、バラして売ってしまった。……今、思うと勿体ないことをしたなと思う。

 

「どうする。やる?」

「……やります!!」

 

 なんて勇気だ。シュウ君の意思に答える為に卓上の電源を入れて、コイントスをした。先攻は……。

 

「私のターン。『一点集中』を発動、『ヴォイド・マン』を召喚。『ボーダー・コントローラー』を召喚。『紅蓮の家車』を発動。2枚ドローして、手札から『サイファー・バニッシャー』を捨てる。カードを2枚伏せてターンエンド」

『マスター。私が言うのもなんですけれど、シュウ君がやりたいことの主旨を理解していますか? 貴方の脳みそ虚無(ヴォイド)ですか?』

「しょうがないだろ。勝負するときに手加減するのは失礼なんだぞ」

 

 幾ら、シュウ君と言えども接待する気はない。むしろ、コレ位は打ち破って貰わねば困る。

 

「僕のターン! ドロー! 跋扈するレギオンを召喚したいのですが……」

 

 セットしたカードを指で摘まんでパカパカする動作をしてみせた。『消滅(ヴァニッシュ)』を伏せてあるので、着地した瞬間に爆散する。

 

『可哀想なシュウ君。これだけ成長して良い勝負もして来たのに。対戦相手の不満と負け惜しみをオカズにご飯を食べられるマスターが相手なせいで何もできない。マスター! 今晩も良い夢見れそうですね!』

「ヒジリ君。コイツの言うことは全て虚無(ホラ)だから気にすることは無いよ。私はいつだって全力で勝負しているだけだから」

 

 最近、コイツのテンションが高すぎて困る。いったい、誰に似たというんだ。シュウ君も若干引きつった顔をしている。

 で、勝負の方はと言うと。もはや語ることもない位の塩試合だったので戦況を解説することは無いのだが。

 

『展開できなくて泣け! その涙を掛け湯にしたい!!』

『頑張って事態を打開しようとしてえらいね♡ おい、神告しろ』

『環境 殲滅!』

『虚~無! 虚無虚無虚無虚無!!!』

 

 もはや何も言うまい。

 

「ヒジリさん。電源落しましょうか」

「そうだね」

 

 虚無を自称する割には中身にクソがたっぷり詰まったモンスターの戯言に付き合う必要はない。同時に私の品性も危ぶまれるので保身に走らねば。

 

「そうだ。私もストレージから適当に見繕って、何かデッキを作ってみるよ。やっぱり、カードゲームはラリーがあってこそだからね」

「はい!」

『やれやれ。また、私への差別ですか? メタッパリらしいですね』

 

 フィールドの電源を切っても、コイツは私に言いたいことが山ほどあるらしい。しかし、普段から役に立っているので耳を防ぐことはできなかった。

 

「今日はシュウ君のことがたくさん聞きたいなー」

「……掛け湯にしたりとかですか?」

「学校生活とかのことだよ? ナギサちゃん以外にどんなお友達がいるのかなって。後、現代の小学校の環境とか学校がどんな風になっているかも聞きたくて」

 

 品性下劣な声を聞くより、シュウ君の声を聞いている方が耳にも心にも良さそうなので、私はメタビデッキをケースに入れて。しっかりと蓋を閉じた。

 

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