TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「『凪禽―高天のオオタカ―』の効果を発動! 『クラウディアス・クリムゾン・ドラゴン』の効果で加えた『紅き女王の勅令(クリムゾン・クイーンズ・オーダー)』をセメタリーに送る!」
今日もシュウ君はナギサちゃんと対戦していた。最初の頃は回すのがやっとだったけれど、今の彼女は止め所や効果の打ち所なども理解していた。が。
「『賢聖鷲―セネカー』を手札から捨てて効果を発動。フィールドに『クラウディアス・クリムゾン・ドラゴン』がいる場合に使える。相手が発動したモンスター効果を無効化する!」
オオタカの効果が無効化されたので、クイーンズ・オーダーはサーチされてロッソ・バイパーがフィールドに戻って来た。
「2体で『クリムゾン・マザーロット・ドラゴン』を特殊召喚! そのままダイレクトアタックを決めてリーサル!」
「負けた!!」
やはり経験の差は物を言う。特に『凪禽』は相手のデッキに必要なカードは何か、どのタイミングでなら捨てさせられるか、妨害札は飛んでこないかを考える必要があるので、やはり回すのは難しい。
「ナギサちゃん。お兄さんに相談したりはした?」
「相談はしたけど……難しくて何を言っているか分からなかった」
カードゲームあるある。回し方や効果の打ちどころの難しさは時に学問めいた知識が必要になる。凪禽のテーマは特にそう言った知識が求められる。
「でも、お兄さんが作ってくれたデッキは手放したくないんだよね?」
「うん! だって、お兄ちゃんが私の為に。って」
「仲が良いのであるな」
フッとサクタ君が微笑んだ。思い入れが強いデッキを変えたくないという気持ちは十分に理解できるし、プレイヤーのモチベーションにも関わって来るので強制はできない。のだが。
「だけど、普通のテーマの動きが分からなければ『凪禽』の特徴は活かしにくいとは思う。今のままでは、シュウ君に対する動きが上手くなるだけだろうし」
ナギサちゃんが今後。活発にインヴェをプレイしていくかどうかは分からない。ひょっとして、シュウ君と接点を持ちたい為にやっているだけかもしれないので、おススメしてみるのもどうかと思うのだが。
「普通の動き。って言うのを自分でやってみるのも良いんじゃないかな?」
ストラクチャーコーナーを指差した。企業から出ている構築済みのデッキで、昔は再録だのパーツ取りだの言われていたが、近年はクオリティも上がって十分使用できるレベルになっている。……実戦には3箱分欲しいが。
「とりあえず1箱だけでも動けるよ」
2人して迷っている。ストラクチャーデッキは入門用と言うこともあって廉価ではあるが、それでも小学生の子にとっては少し値が張る物だ。
シュウ君ならばつぎ込めるだろう。何故なら、彼には私を始めとして対戦相手や改良のアドバイスをくれる人間と関係が築けているからだ。だが、ナギサちゃんはどうだろうか?
「……すいません。サクタさん。俺、ストラクチャーデッキが1つ余っているんですけれど」
彼女が考え込んでいると。炸裂団のメンバーの一人がサクタ君と私に耳打ちをして来た。恐らく、小学生の財布事情を鑑みての提案だろう。だが。
「駄目。人から簡単に貰った物だと扱いが雑になる」
「申し出はありがたいが、無償で物が貰えるという体験は簡単に植え付けるべきではない」
サクタ君も同意してくれた。人は無料で貰える物の扱いはどうしても雑になる。彼女がインヴェを続けていくと言うのなら、自分でお金を出した方が良い。
別に今のままでもシュウ君と遊ぶことはできる。ただ、当たり前のことだが勝てないカードゲーム程、面白くない物はない。
「(シュウ君と遊びたいか。それとも、インヴェで遊びたいか)」
ここは彼女が決めるべき所だ。特に女子小学生なんて、男子よりも出費が嵩むだろうし。暫しの熟考の後、彼女は席を立った。
「……買う」
「よぅし。じゃあ、軽く説明だけしとこう」
彼女と一緒にレジに行ってデッキの解説をした。
一つ。『メタル・ビースト』。メカ+野獣をモチーフとしたテーマで、速攻で勝負気をめるアグロ型のデッキだ。回しやすさならコレだろうか?
一つ。『サイバー・ディーヴァ』。電子の歌姫と言う、絶対にアレだろ。と言いたくなるのがモチーフになっているが、展開とリソース循環によるミッドレンジ型のデッキだ。モチーフがアレだということもあって、一番人気はある。
一つ。『マグヌス』。錬金術をモチーフにしたテーマで大量の罠で封殺するという、メタビート寄りのデッキだ。
「もしも、お姉さんが買うなら。どれを買うの?」
「私なら『マグヌス』だね。やっぱり、メタビートは良いぞ。ちなみに3つの中では一番人気が無い」
伏せパカデッキだの封殺が得意な錬金術士だの。ネットではあらん限りの暴言が吐かれているが、私は知っている。……皆して、コッソリと伏せパカデッキから有用なスペルやモンスターを抜きまくっていることを。
「じゃあ、私。ディーヴァのデッキにする」
「分かった。店長」
代金を貰って、直ぐに使うからJANの部分にシールだけ貼って、卓上に戻って開封する。廉価と言うこともあって、光り物は1枚だけ。
「凪禽よりは回しやすいとは思う。どういう風に回すかというのは自分でやってみると良い。分からない所があれば教えて上げよう」
「う、うん」
時に。自分が好きなデッキを使う為に、環境デッキが何をするか? ということを知る為に自分でも使ってみるということはある。
このデッキを回している時に、この動きを止められると展開が停まってしまう。嫌だなぁということや、あるいは手札(ハンド)が悪い時に妥協して動くときはコイツを出すしかない。みたいな動きも使ってみれば分かる。
「えっと。『青の歌姫(ブルー・ディーヴァ)・マリン』が召喚・特殊召喚した場合、自分フィールドに他のモンスターがいなければ『赤の歌姫(スカーレット・ディーヴァ)・ルビー』を手札・デッキから特殊召喚!」
赤と青の歌姫は見目も良いので、魔法少女(コントラクター)と同じくアイドルカード的な人気がある。そして、カードパワーもキチンと現代的だ。
「2体でコネクシオンして『姉妹探偵(シスター・ディテクティブ)・ルビー』を召喚! 着地時の効果でセメタリーからマリンをサルベージ! 今度はマリンとルビーでコネクシオン! 『姉妹探偵(シスター・ディテクティブ)・マリン』を特殊召喚! 探偵の方のルビーを釣り上げる!」
最近のストラクチャーはこういうテーマの動きがきちんとできるんだからすごい。それでいて、手札消費は最初に『マリン』を出した時の1枚だけだからすごい。
「ルビーの効果でフィールドにマリンがいるときに特殊召喚に成功した時。1枚ドローする。更に姉妹探偵2体でコネクシオンして『姉妹探偵・I(アイ)』を特殊召喚! このカードは相手ターン中にリリースすることで、セメタリーからルビーとマリンモンスターを特殊召喚できる! カードを3枚伏せてターンエンド!」
「始めてなのに良い動きだね」
直感的に動かせるというのもプレイヤーとして必要な要素だ。伏せた3枚のカードは概ね予想できるが、シュウ君としては動きづらいことこの上ないだろう。
「僕のターン。ドロー! ……跋扈するレギオンを召喚。効果の発動は?」
「私は虚無(ヴォイド)を使って、レギオンの効果を無効化します」
「では、手札からスピードスペル『呪詛返し』を発動します。このカードはデッキから除外したカードの効果を無効化します。自分は『虚無(ヴォイド)』を除外して、効果を無効化します!」
「それに反応して、伏せていた2枚目の『虚無(ヴォイド)』を発動します」
シュウ君も対抗札を入れるようにはなったが、元の線が細いんだから仕方ない。1枚目の虚無は無効化できたが、2枚目の虚無は無効化できず。初動が潰されてしまった。
「シュウ君。ターンエンド?」
「カードを2枚伏せてエンド」
「じゃあ、エンド間際にI(アイ)をリリースしてセメタリーから、ルビーとマリンを特殊召喚! 同時召喚されたからルビーの効果で1枚引いて、マリンの効果はルビーがいる状態で特殊召喚された場合。相手フィールドのカードを1枚破壊できるからセットしたカードを破壊するね」
セットしていた『ディス・マニブスへの奉納』が破壊された。このカードはレギオンモンスターが破壊された場合に発動できて、レギオンモンスター2枚サーチして1枚捨てるという便利な物だが、破壊されたのは痛すぎる。
「ヒジリ殿。やはり、彼女はキチンと動かし方が分かっている。動きも展開の方に合っている。やはり凪禽が合っていなかったのだろう」
「あのデッキはどちらかと言うと私みたいな奴が使った方が合っているからね」
デッキを変えるだけでここまで勝負が違ってくるのか。凪禽を使っていた時から一転して、ナギサちゃんの動きは非常に輝いていた。
じゃあ、押されているシュウ君が詰まらなさそうにしているかと言えば、そんなことはない。
「僕は『紅蓮獣・クリムゾン・ドラゴン』を特殊召喚! バックを全破壊する!」
「そうはいかないよ! 伏せていた『禁忌の法術』を発動! フィールドのマリンを送って、効果を無効化! このカードの発動に対して、送ったカードと同じ種類のカードは使えない!」
「まだだ! 手札のスピードスペル『クリムゾン・ガード』を発動! クリムゾン・ドラゴンモンスターの発動にチェーンした効果を無効化する!」
こういった何気ない日常で同じ年頃の人間と楽しく盛り上がれる時間と言うはとても貴重だ。私達は暫く見守っていた。…………ただ一つ、私達は忘れていることがあったのだ。
「やるね。シュウ君!」
パチパチパチ。スリーブに入っていないカードでもお構いなしにナギサちゃんはシャカパチをしている。そう、彼女は『謝花八』の人間を身内に持っているということをすっかり失念していた。それがどういった形で何を起こすかというのは翌日以降に分かることになる。