TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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27枚目:保護者面2人。ただし……

 最近の『フィロソフィー』は平和だ。他所ではシマ取りだのなんだのが行われていたり、グループ同士がシマ取りをしているんだろうけれど、私達には関係の無いことだ。……将来的に私も引っ張り出されるんだろうけれど。

 

「(それでも。その日までは平穏にショップ店員でいたいね)」

 

 デッキビルドを兼ねてストレージを整理しているが、私が現役だった頃の高額カードも見掛けるんだから、時の流れを実感せざるを得ない。

 

「(『メタル・ビースト』のデッキにストレージのカードを幾つか加えて、新生『メタビ』デッキだ! とか言って、驚かせるのも悪くはないかな。いや、そしたらシングルのカードも欲しいな)」

 

 コレがストレージの恐ろしい所である。ここで揃える努力をしたら、足りないキーカードがシングルで売られていても買ってしまうのだ。

 デッキは完成したがっている。本当に高額のカードなら止まってしまうけれど、500円以下のカードを数枚集めれば日の目を見るんだと思うと、プレイヤーは止まれない。

 

「(言ってみれば。ストレージ自体が呼び水なんだよね。フフフ。今日は珍しくマトモにストレージを整理してやるか)」

 

 テーマごとのカードを前方に少しだけまとめておいて『もしかして、このテーマで作れるんじゃね?』と錯覚させて、最終的にはシングルカードの購入に導く高度なマーケティングをしていると、入り口には数人のお客さん。

 

「ウチの妹に『凪禽』以外のデッキを握らせた奴は誰だ?」

 

 平和のターンエンドだ。店長が面倒臭そうな顔をしているので、私が応対せざるを得ない。途中まで揃えていたが、一旦置いといて。

 

「私だけど。凪禽と言うことは、君がナギサちゃんのお兄さん?」

「そうだ。僕が『謝花八』のトップ『ナギト』だ。答えろ。何故、妹に凪禽以外のデッキを握らせた?」

 

 まさか、関係者がいるとは思っていたけれど。トップの妹だったとは。サクタ君の伏線はキッチリと回収してしまった。

 数人で来ているということから、グループとして来ているというよりかは『兄』として来ていると言った具合だろう。ならば、普通に対応するまでだ。

 

「君が『凪禽』の遣い手なら分かるだろう。あのデッキは回し方がかなり難しい。相手のデッキがどう動くかをキチンと分かって、展開をする上で必要な札を抜いて行く必要があるから、初心者が握るデッキとしては適当ではない」

「知っている。僕だって、凪禽を回すのにはかなりの時間が掛かったからね」

 

 その苦労を知っているなら別のデッキを勧める物だと思うが。

 あるいは、テーマ自体が非常に気に入ったのか。英才教育的な物として、デッキを握らせたのだろうか?

 

「だったら、どうして?」

「回し方が分からないなら、僕に聞くだろう? でも、難しいから分からないだろう? そしたら、もっと僕に聞くだろう?」

「雲行きが大分怪しくなって来た」

「その時、改めて僕の強さ、偉大さ、頼り甲斐が分かるのさ。簡単に回せるデッキを握ったら、1人で先に進んじゃうだろ!!」

 

 カスみたいなお兄さんだった。ここは私も大人としてビシッと言わなければならない。

 

「全く。自分が優位に立ちたい、尊敬を集めたいからって突破が困難な課題を設けてマウントを取るだなんて。恥を知るべきだよ」

 

 決まった。この上ない説教をしてやったが、周りの目が冷たい。変なことは言っていないハズだが。

 

「そこのお兄さん。この女の人、いつも来ている子にメタビぶつけて、マウント取っているから気にすること無いよ!」

「素行ピーピングはやめたまへ」

「なんだ。貴女も僕と同じですか。尊敬を集めるって気持ちいいことが分かっているなら、どうして僕から取り上げるんですか?」

 

 善意の少年のせいで話がこじれてしまった。コイツがヤバい奴だってことは分かっているけれど、私も一プレイヤーとして。いや、どちらかと言うとインヴェはあんまり好きじゃないけれど。

 

「負けてばかりのゲーム体験は良くないからね。彼女にも勝つ楽しさを知って欲しかったのさ」

「そしたら、勝てるデッキを握る様になるじゃないか! すると、環境用のシングルにお金を掛ける様になって、もっといい対戦相手を見つけて、僕から離れていくんだ……」

 

 ハイテンションなのかローテンションなのかハッキリして欲しい。情緒不安定なのが怖いし、かと言って正論でぶちのめしたら尾を引きそうだから。

 

「それじゃあ、君が凪禽を使って他の強い人を倒し続けたら、ナギサちゃんも君のことを尊敬するんじゃないかな?」

「そうっすよ! ナギトさんの『凪禽』はすげぇンすから!」

「自信持ちましょう!」

 

 取り巻きも良い具合に激励を送り始めた。よし、よし。コレで良い感じに話は収まりそうだ。

 

「(よくあるオチとして。目の前に強い奴が居る! というネタも、シマ取りの協定もあるから挑まれないだろうし)」

「そうかな。そうかも……」

 

 後は、このまま帰って貰うだけだ。私の巧みな話術で見事にケアして見せた。とか思っていると、再びお客さんが入って来た。

 

「シュウ君。早く、早く!」

「待って。ナギサちゃん」

「ン“ン”ン“」

 

 まさかの当事者入店である。時間帯的にそろそろ来るだろうな~とは思っていたけれど、タイミングを選んで欲しかった。

 

「アレ? お兄ちゃん?」

「やぁ、ナギサ。お前が話していたショップを見てみたくてね」

 

 先程までのおかしな様子は鳴りを潜め、爽やかなお兄さんがいた。

 私だけでなく周りの者達も全員訝し気に見る中、彼の視線はナギサちゃんと一緒に入店して来たシュウ君に注がれていた。

 

「もしかして、君がシュウ君?」

「はい。ナギサちゃんのお兄さん。ですか?」

「そうだよ。僕はナギトって言うんだ。よろしくね。いつも妹と仲良くしてくれてありがとう。お母さんの話もよく聞いているよ」

 

 豹変と言う言葉がしっくり来る位の変わりように恐怖さえ覚える。こんな優男がさっきまで妹への拗れまくった想いを吐露していたなんて。

 

「僕もナギサちゃんからよく聞いています。インヴェも強くて、お母さんの代わりに家事もなんでもやるすごいお兄ちゃんだって」

「ちょっと。シュウ君、恥ずかしいよ」

 

 コレにはナギサちゃんも照れていて、周囲のギャラリーも朗らかな空気になるが、取り巻きと私には分かった。ナギトが興奮のあまり小刻みに震えていることが。シュウ君に良くない視線を送っていることが。

 

「フフッ。兄として誇らしいね。シュウ君もインヴェが好きなのかい?」

「はい。最近まで一人で回していたんですけれど、ここに来てからは色々な人に良くして貰って」

 

 フフッ。後方師匠面として彼の眩さが誇らしいよ。周りから『今日はヤバいのが2人かぁ』という呟きが聞こえて来るが、大した問題ではない。

 

「誰か良い対戦相手に巡り合えたのかい?」

「はい。こちらのヒジリさんに色々と指導して貰って」

 

 ナギトがスゥーっと目を細めていた。なんだ。私を責めるというのか。

 

「さっき、チラっと聞いたけれど。メタビを使われているって」

「普段はストラクチャーのデッキで相手をしてくれているんですけれどね。メタビを使っている時とか本当にすごいんですよ」

 

 アハハハと苦笑いをしている。まだ、私の尊厳大丈夫よ。少なくともナギトにとやかく言われる筋合いはない。……と思っていたが。

 

「そこなお兄さん。これ、メタビ使っていた時の動画」

 

 もはや私に対するメタとして存在しているんじゃないかって位に的確に証拠を引き出して来る、店内のガキAが動画を再生した。この間、ヴォイド・マンを使った時の奴だ。

 

 

『展開できなくて泣け! その涙を掛け湯にしたい!!』

『頑張って事態を打開しようとしてえらいね♡ おい、神告しろ』

『環境 殲滅!』

『虚~無! 虚無虚無虚無虚無!!!』

 

 

「ナギサ。シュウ君。こんなヤバいカードを使う奴がいるカドショに来るのは止めて、僕が推薦するショップに来なさい」

「なんだと」

 

 コレには私も異議を申し立てざるを得ない。それにヤバいのは私じゃなくて、カードが勝手に言っただけだから。

 

「全く。自分が優位に立ちたい、尊敬を集めたいからって突破が困難な課題を設けてマウントを取るだなんて。恥を知るべきだと思わないかい?」

「コピペ止めてね。そんなことはさせないぞ。どっちがマトモか。コイツで決めようじゃないか。今回は防衛戦でも何でもないからな」

 

 腹が立ったから環境デッキの『虚無領域(ヴォイド)』の方を引っ張り出して来た。メタビみたいな封殺型ではなく、先攻でも後攻でもどっちでも対応できる奴だ。

 

「いいよ。個人での戦いならギリOKだからね。シュウ君、ナギサ。僕が凪禽の使い方を見せて上げるよ」

 

 卓上のフィールドに電源が入り、勝負をする為の舞台が整う。今、お互いの尊厳を掛けた譲れぬ戦いが始まろうとしていた。

 

「ナギサちゃん。お兄さんっていつもこんな感じなの?」

「うん。保護者面談の時もすごかったよ」

 

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