TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「なるほど。そのようなことが」
いつもより遅れて来店したサクタはシュウ達から事情を聞いた。
シマ取りは行われないハズだというのに勝負していること。そして、ヒジリがメタビート所か環境のデッキを使っていることに納得していた。
「ねぇ。サクタさん。私達には何が起きているかよく分からなくて。コレはどういう勝負が起きているの?」
ナギサが説明を求めた。傍らにいるシュウもよく分かっておらず、この盤面を理解できる親しい人間と言えば、サクタを置いて他にいなかった。
「……『虚無領域(ヴォイド)』は環境の最先端を走るデッキだ。速攻の猟犬が引っ掛からず、あらゆる場所から展開して『サイルカ』も食らわない展開力が特徴的で、『葬送のヴァルチャー』が唯一のメタカードとしてあらゆるデッキに投入される位に強い」
その恐ろしさはシュウも味わったことがある。デッキからセメタリーに送ったり、手札に加える訳ではないので『速攻の猟犬』では止められない。更に言えば、コストで展開の引き金を引くので止めようがないのだ。
「でも、モルグに送るのを止めたら停まるんですよね?」
「……シュウ君。たかが、1枚のメタで止まる程度のパワーしかないデッキが君臨できる程、環境は甘い所ではない」
――
当然、ハルカがメタカードである『葬送のヴァルチャー』について考慮していない訳がない。故に、サブプランに展開を切り替える。
「フィールドにいるスペクターとニーズヘッグでコネクシオン。『電脳領域(ビット)の魔術師(メイガス)』を特殊召喚する」
「まぁ、積んでいるよね」
次の改定で確実に死ぬと言われているインフラモンスターだ。最後の輝きを存分に発揮して貰おう。
「このカードは自分のセメタリーにある『領域』と付くモンスターを蘇生することができる。この効果の発動後『領域』と付くモンスター以外特殊召喚出来ない。私はスペクターを拾ってくる」
盤面にスペクターとメイガスが並ぶが、この動きはこんな所で止まったりはしない。
「更に私は手札から『電脳領域—アクセスノード』の効果を発動。コネクシオンされた『電脳領域』モンスターがいる場合、手札から特殊召喚できる。このカードが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。デッキから『電脳領域』モンスターを1枚手札に加えて、1枚捨てる」
虚無と電脳が共通している『領域』とは即ち、ネット上の電脳空間のことである。『領域』と入るだけで様々な恩恵が受けられる故『領域村』とか言うスラングが出る位にシナジーが強い種族だ。
「私は『電脳領域—ウェイバック・アーガイブ』を手札に加えて『虚無領域・ゴースト』を捨てる。更に、アクセスノードを単体でコネクシオン『電脳領域―パケットランナー』を特殊召喚。パケットランナーとメイガスでコネクシオン。現れろ。『電脳領域—オーバーライト・コア』。更に、パケットランナーはコネクシオンでセメタリーに送られた場合、1ターンに1回。このカードをフィールドに特殊召喚できる。」
現在の盤面は、スペクター、パケットランナー、オーバーライト。手札にはまだウェイバックもいる。が。
「オーバーライトの効果でMPを1000払って1ドロー。効果の発動は?」
「無いよ。いや、全然止まらないね。メタを投げたはずなんだけれどなぁ」
「残念ながら、私の手札(ハンド)が完璧だったということだ。もしも、アクセスノードをぶち抜かれていたら、さすがにヤバかった」
展開はまだまだ続く。ウェイバックの効果もあるし、ドローしたカードも中々に悪くない。チラリと投了を促してみたが、首を横に振っていた。
「じゃあ、展開を続けるね。『電脳領域—ウェイバック・アーガイブ』の効果を発動する。セメタリーにある『電脳領域』モンスターとこのカードを特殊召喚する。アクセスノードを指定して、特殊召喚」
一体、このターンだけで何体のモンスターを特殊召喚したんだろう? だというのに、まるで息切れが起きない。むしろ、走れば走る程展開が広がるという、あまりに理不尽なパワーだ。
「スペクター、パケットランナー、アクセスノードでコネクシオン。『虚無領域・シェイド』を特殊召喚する。更にシェイドとウェイバックでコネクシオン。『電脳領域—バレー・ドラゴン』を特殊召喚。このカードは自分フィールドにあるコネクシオンモンスターの数だけバウンスできる。このカードを含めて2体。レイヴンとヴォルフをデッキにバウンスする」
「道中の展開でやって良い行為じゃないよね」
しょうがないだろ。できるんだから。効果破壊はされなくてもバウンスで戻されてはどうしようもないだろう。しかし、コレで展開は終わりかと言われたら否。
「更にバレー・ドラゴンとオーバーライト・コアをコネクシオン。現れろ。『電脳領域—アブソリュート・ゼロコード』! このカードは着地時の効果で累計素材3体以上のモンスターをセメタリーから特殊召喚できる。対象は『オーバーライト・コア』『虚無領域・シェイド』『電脳領域―バレー・ドラゴン』! 更に。この時。特殊召喚されたモンスターの数×500分ATKが上昇する!」
なんということでしょう。素材に使った大型モンスター達が帰って来ました。相手のフィールドはがら空きなので。
「リーサル取ります。何かありますか?」
「いやぁ、メタで止まらないのは酷過ぎるよ」
両手を上げていた。私の勝利なのだが、店内の空気はどうだろうか。スマホを構えたりしていた皆がチベットスナギツネみたいな顔をしていた。
「やっていることメタビートよりひどいじゃん……」
「アレでも手加減していたんだな……」
「壁と遊べばいいのでは?」
酷過ぎる。いったい、私が何をしたって言うんだ。とは言え、メタビートよりは罪悪感が揺らぐのか、何人かはシングルをチラ見して値段に驚愕して肩を落とすか、財布の中身をチラチラと見比べるだけだった。ふぅ、さて。
「シュウ君。これが環境の力だ」
キリッと見事に出来るお姉さんをやってみたが、肝心のシュウ君とナギサちゃんはサクタ君と共にナギトの方に行っていた。
「ナギトさん。残念でしたね。もしも、アクセスノードを抜けていたら、また違った展開があったかもしれませんね」
「いやぁ、ヴァルチャー来ているから止まると思ったんだけどな。ハハハ」
「凪禽で『領域』村の相手をするのは大分きつい物があるとは思うが、きっと。ナギサちゃんの参考にはなっただろう」
「うん! 私もやってみる!」
ワイワイ。キャッキャ。何故だ。勝利したハズの私が誰よりもぼっちだ。そっとデッキケースにカードを仕舞って、頬杖をつくことにした。
と、こうして拗ねておけばサクタ君辺りが構ってくれるかなと思っていると。スマホが鳴った。相手は『ハルカ』だった。何故? 連盟関係かもしれないので、バックヤードに行って電話を取ることにした。
「どうしたんだい。ハルカ?」
『今日の領域展開。私はちゃんと見ていたぞ。本当によく頑張ったわ。ついに低速環境のゲートボールは終わりを迎え、好き放題に特殊召喚しまくる環境が訪れる。この機会に逆戻りしてしまえば、全ては水の泡よ』
「電話切っても良いか?」
『冗談よ。でも、私のデッキを調子よく回してくれていたこと。本当にうれしく思うわ。やっぱり、戻って来ない?』
電話口から上機嫌な様子が伝わって来るのだが、本当に一つ。一つだけ、聞きたいことがある。
「なんで、私がお前の作ったデッキを回したことを知っているんだ?」
『見ていたから』
全身から血の気が引いた。夏はまだ遠いハズなのだが、怪談はご遠慮願いたい。恐る恐る、表に出てみたが壁に張り付いているとかそういうのではない。
「怖いから、止めろ。マジで」
『でも、コレは連盟の意向でもあるのよ。グループを始めとした連中が貴女に注目しているから、安全の為にも監視しているのよ』
「できたら、プライバシーとかは……」
『大丈夫よ。貴女がストレージの前面にしょうもない細工をしようとも。小学生に構いまくるショタコンでも、私は永遠のライバルだから』
店辞めようかな。いや、そんなことをしたら逆に囲われる。とりあえず後で店長に相談することにして、電話を切ろうとした所で。
『あ、本件だけれど。連盟がまた集会するから出席する様にですって。後で、店長にも連絡が行くと思う』
「その連絡だけしてくれたら助かったんだけれどなぁ」
『嫌よ。そうだ、この間。改装した『リリウム・サンクチュアリ』に2人で行ってみない? グループの調査という名』
「じゃあな!」
そっと電話を切った。念の為、用心しながら表に出てみたが監視カメラとかこっちにスマホを向けて来る奴。みたいなのはいないハズ。
「あ、ヒジリさん」
パタパタとシュウ君が駆け寄って来た。一頻り話して満足したのか、ナギトも上機嫌そうだ。
「良い試合だったよ。ここまでダイレクトに環境のパワーを身に受けられることは無いので貴重な機会でした」
「組むと高いからね。こっちもこっちでハラハラしたよ。後、このデッキは普段使わないから、なんだかんだで楽しかったね」
(壁遊び)。とか付きそうだが、相手がもっと妨害を搭載したデッキなら試合らしい試合になっていたかもしれないが、ここら辺は凪禽の新規に期待するしかない。サクタ君も何か考え込んでいる。
「ヒジリ殿。もしも、『エクスキューショナー』が完成したら我とも一戦。頼めるか?」
「作れそうなの? アレも結構値が張るけれど」
「ようやく、目途も付いて来た」
環境で『虚無領域』に対抗する唯一の勢力が『エクスキューショナー』と呼ばれるマシンデッキだが、アレもかなり最新のテーマ。というか『虚無領域』と同期なので『稼ぎに来やがった』とか揶揄される位のパックだった。
「まぁ、その時は」
とは思いつつ。やはり、内心は寂しい気持ちになる。私のメタビートやマザゴンデッキなんかに誰も期待していなくて。対戦して欲しい、遊んで欲しいデッキはやっぱり環境のデッキなのかと思ってしまう。
「じゃあ、今度はシュウ君から先攻で!」
「うん! 僕はレギオン・アクィリフェルを召喚!」
いずれ。ナギサちゃんやシュウ君も環境デッキを握って、凪禽もレギオンのことも忘れてしまうのかと思うと。ちょっとだけ、ポケットにしまってあるデッキケースの中身が憎らしく思えた。