TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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31話目:ようこそホームに

 もしかしたら。という可能性に掛けていた。あの悪役(ヒール)めいた言動はグループの特色を表す為にやっていたのではないかと。

 実際のプロレスでも悪役(ヒール)は礼儀正しい人が多いと聞いているし、話してみるとサクタ君的な子である可能性も捨てきれない。

 

「ここが彼らのシマよ」

 

 既に私達は件の店に辿り着いていた。外観からは店が損耗したり、荒れていると言った印象は受けない。何なら、店先にはキチンと自転車が並んでいる。

 意を決して店に入る。実は真面目にデッキを回していたり、今後の自分達のプロデュースについて話し合ったりしているんじゃないかという妄想で現実を覆い隠そうとしていたが、実際はと言うと。

 

「〇ね! それとも〇されたいか!」

「早くサレしろ! 今サレしろ!」

「お前を引退させるのが当面の希望!」

 

 あまりに惨かった。店内は普通。いや、むしろ『HU-MAN』が支配していた店の様に綺麗なのに、プレイヤー達があまりに口汚い。聞くに堪えない罵詈雑言を吐き合いながら、インヴェをプレイしていた。

 

「いらっしゃいませー」

 

 そんなことは1つも気にしないで店員もスタッフもニコニコしながら働いている。もしや、私はインヴェ界のヨハネスブルクにでも迷い込んだのだろうか? 

 それとも、この店内では治外法権でも適用されているのだろうか。辛うじて正気を保ちながら、質問した。

 

「あの。マナーもクソも無いんだけど、店員として注意するつもりは? お客さん寄り付かなくなるんじゃ?」

「当店のメイガス・インヴェイションは盤面の効果処理さえ守ってくれたらルール無用ですよ!」

「駄目だ。店員もイカれている」

 

 どうして、店ぐるみでおかしくなっているんだ。店内を観察すればモニタが設置されているのが見えた。販促用のアニメでも流されているのかと思ったが。

 

『教授! 本当に、この『殺戮恐怖虐殺死遊園地(ジェノサイド・テラー・カルネージ・デスパーク)』のアトラクションをクリアしたらレアなカードが貰えるんですか?』

『えぇ。そうよ! 時価10000000000000円のカードが手に入り、モテまくり、勝ちまくりで人生バラ色よ! 一緒に挑みましょう!』

『うぎゃああああああああああ! カードバトルで負けたら殺されるなんて聞いてねぇぞ。ギャアアアアアアアア!』

 

 男子大学生と美人なお姉さんの横でモブプレイヤーが断末魔の悲鳴を上げて死んでいる。そんな名前の遊園地に挑戦する時点でほぼ自己責任だろ。

 

「店員さん。もしかして、全員。ヤバいクスリか何かをキメていたりする?」

「失礼な人ですね」

 

 店内のBGMは、プレイヤー達の煽り合いと猿叫。インヴェに唾を吐きかけるような販促ならぬ反則映画から垂れ流される絶叫に支配されていた。

 回れ右して帰りたいが、ハルカは特に気にした風もなく店内を観察していた。偶にアイツの精神力が羨ましく思う。

 

「シングルカードの品揃え、値段、状態。いずれも良好。他にも限定プレイマットやスリーブ。再録されていないカードの特設コーナーやゲートボール環境のラインナップ。関連商品の書籍や映像ソフト。ゲームまで。強いだけじゃなくて、遊び心にも溢れている。素敵ね」

 

 すごい。私が店内の連中をヤバい奴だと断定している中、アイツはキチンと店の良い所と創意工夫を見抜いているなんて。

 

「あ、お客さん。分かってくれます? やっぱりね。楽しむには全力でやらないとね。ありとあらゆる楽しみ方にアプローチするのが当店のウリなんで」

 

 身内感もここまで行くと逆に強みになるかもしれない。リリウム・サンクチュアリとはまた別方面の魅力ではあるのだが。

 

『ウワァアアアアアア! 俺の体がカードになって行く!! タスケテクレー!!』

『う、うわぁあああ…。ま、負けた相手がカードになって……あ。強いな、このカード。デッキに入れとこ』

「こんな映画を流すことがインヴェへのアプローチになるんだろうか……」

 

 映画では主人公が打ち倒した相手がカードへと変貌して、そのままデッキに加え入れられていた。少しは葛藤を見せろよ。販売促進所か不買運動目的で撮影されたんじゃないかって気さえする。……待てよ?

 

「店員さん。もしかして、この映画もインヴェ関係の映画だったりする? それで、特典でカードが付いていたりしたタイプ?」

「そうだよ? 皆、カードだけ抜いて円盤はフリスビーだけど?」

「こんな物に協力したメーカーの神経を疑う」

 

 もしかして、メーカー側にクソ映画好きの人が居たかもしれないが、せめて監修はしろよ。監修してコレだったら、もうお手上げだが。

 ロックな店員さんから事情聴取をしていると。私達に興味を持ったのか近付いて来る大学生位の男性が1人。

 

「おいおい。幾ら、グループから注目されている用心棒さんだからって、俺達のバイブルに対する悪口はよくねぇなぁ?」

「もっといい物をバイブルにするべきだよ」

 

 こんな物をバイブルにする時点でイカれた連中だと分かるが、シマ取りで台頭しているグループなのだから強いのは確かなのだろう。

 

「ヤレヤレ。この映画の良さも分からないなんて、お子様過ぎるぜ。さっさと家に帰ってイケメンが紙しばきするアニメでも見ているんだな」

「なんだと」

「貴方って怠そうに見える割には直ぐにカッカするよね」

 

 普段はあまりテンションが高くはなく、反応するべきところで反応しているだけなのに心外だ。こういった時に分からせてやる手段は1つ。

 

「ふん。私が本当にお子様なのか、試して見るかい?」

「そう言う感情剥き出しの所がな。でも、方針を決めるのはボスだからな。ボス! どうしますか!?」

 

 と呼びかけた所。何処から出て来るかと思いきや、トイレから出て来た。用を足していたのか、待機していたのか。後者だったら笑えるけれど。

 

「はい! どーもー! タツヤでーす! お姉さん、俺達のホームまで足運んできてくれたんですね。嬉しいなぁ」

「君がボスなら仲間はもっと躾けといてくれ。御大層なビデオレターが送られて来たから、挨拶に来て上げたけれど」

 

 コレで荒れ果てていたら嘲笑うこともできた。コレでピッシリ整っていたら逆に感心していた。……だというのに。

 

「どうして、荒れているのと整っているのが両立しているんだ?」

「自分達楽しむのがモットーなんで? 片付けもできないし、利用方法も分からないとかマジ恥ずくないっすか?」

 

 ハルカも頷いているし、私も大いに賛同する所だけれど。正論は言っているんだけれど。

 

「だったら、この店内の動物園めいた様相はなんだい?」

「コレはね。情熱(パッション)のぶつけ合い! テキスト読んで恥ずかしがりながら、召喚口上を述べるとか。虚無(シャバ)いっすから!」

「召喚口上を述べるのは最高にカッコいいが?」

 

 もしかして、私達が召喚口上を述べる時に恥ずかしがりながらやっていると思っているのか。と、私の返事が気に入ったのか、タツヤは膝を叩いていた。

 

「お姉さんなら俺らのパッションも分かってくれると思うんだよね。だって、勝負している時『なんて強いんだ!』『見事なプレイングだ!』なんて思わないっしょ?」

 

 今度は否定できなかった。後方師匠面をしている時や親しい相手と勝負を五する時は幾らか礼儀正しくはなるけれど、基本は……。

 

「そんなことは無い。私が断言する」

「ハルカ?」

「アンタは。……へぇ」

 

 タツヤは理解したようだが、他の奴らは疑問符を浮かべていた。インヴェをやっていてもプロのことを知らない。なんて人間は別に珍しくもない。

 

「彼女と勝負している時は絶え間ない程の情熱(パッション)が伝わって来るのよ。『私の相手はコイツしかいない』『一生の戦友』とかね。感じた私が言うんだから、間違いない」

「すべてを間違えているよ?」

「なんだ。やるじゃねぇか。やっぱりメタビを使う奴はこうでねぇと」

「君達は私のことを何だと思っているんだい?」

 

 もしや、疑問に思っていないだけで私が今まで信じていた常識という物が、何かしらを切っ掛けに変容しているのかもしれない。自分の正気が怪しくなって来たので、そろそろ店を出るべきかと考え始めた時のことである。

 

「待ってくれよ。折角、俺達に会いに来てくれたんだろ? 歓迎するぜ」

「お。勝負? やっぱり、プレイヤーたる物は勝負だよね。うんうん。分かっているよこの流れ。協定の関係上、私の代わりにハルカが勝負してくれるんだろう?」

 

 そして、グループの小僧達に灸を据えて、私達は大人としての威厳を示して帰る。連盟の方達の溜飲も下がる訳だ。

 その証拠と言わんばかりに、グループのメンバーが机を固めて来た。店員達も奥の方へと引っ込んだ。

 

「へっへっへ。映画の方も停止させとかなきゃな」

 

 私に絡んで来た奴が例の映画を停止させていた。ハルカも席に座る。向かい合ってタツヤも座る。

 

「準備は良いか?」

「いつでもね」

 

 その割には、お互いにデッキを取り出さない。何のつもりだろうかと思っていると、引っ込んでいた店員が飲み物やら菓子を引っ張り出して来ていた。

 

「はい。鑑賞会、2名入りました!」

「え?」

「あ。飲み物代は歓迎ってことでいらないから。堪能して行ってね」

「え? え?」

 

 そして、モニタには再び例の映像。配給会社のテロップから始まった。

 先程、停止していたのは最初から見る為だったのか。全員がデッキをケースに仕舞って、モニタの方を見ている。ハルカもだ。

 

「ヒジリ。何しているの? 『殺戮恐怖虐殺死遊園地(ジェノサイド・テラー・カルネージ・デスパーク)』が始まるんだから、席に着きなさい」

「当たり前の様に、頭のおかしいノリに巻き込まないでくれ」

「私達は対話に来たのよ。ならば、彼らの文化に触れるのは当然のこと。郷に入っては郷に従えという言葉もあるでしょう?」

 

 どうして、筋が通っているんだ。自然な動作でポップコーンを摘まみながら、コーラを飲んでいる所作に腹が立たないまでも無いが、物は考えようでもある。

 

「(勝負をして力づくで制圧するよりも。相手の文化に理解を表した方が、共感も得られるって言うのはあるかもしれないしね)」

 

 というか。あの煽り合いの中で勝負をしたら、私もどんな暴言を吐いてしまうか分からない。仕方がない。私も一緒に映画を見るとしよう。カードショップは映画館めいた物に早変わりしていた。

 

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