TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
内容はB級映画と呼ぶ外ない。恐らく舞台はアメリカ辺りをモチーフにしているのだろう。主人公は女教授の助手をしており、研究内容はずばり『レアカード』収集と言う物だ。教授と言うが、トレジャーハンターの方が近いかもしれない。
彼女らが訪れたのは、究極のレアカードが眠ると噂されている『殺戮恐怖虐殺死遊園地(ジェノサイド・テラー・カルネージ・デスパーク)』だ。以下、デスパと表記する。
「レアカードの前に来訪者達が永眠しているんだよなぁ……」
こんな施設の運営が許可されている辺り、舞台となる国の政治は腐りきっているのだろう。カタカタと不気味なマスコットが注意事項を話す。
『当施設にチャレンジすることで起る弊害については一切、クレームを認めていません! また、全アトラクションをクリアするまで脱出できません!』
『助手君。コイツは危険な臭いがするねぇ』
『多分、コレで危険な臭いがしないなら耳鼻科行った方が良いですよ』
金髪グラマーのステレオタイプとも言える美女と冴えないギーク目の助手はデスパに入園していく。入ってすぐに見えたのは、来園者達の墓場だ。
大量の墓石が立てられており、デスパと言う施設の過酷さと危機管理もできないバカが大量にいたのだという足跡が残されていた。
『第1アトラクションは『デス野球』だよ! さぁ、早く! ミット型デッキホルスターを装備して!』
無理矢理ミット型デッキホルスターを付けた向かった先は球場だった。
ただし、グラウンドは血と臓物に塗れており、両チームのベンチには大量の骨が転がっていた。
「この映画の撮影を許可したインヴェ関係者はクビにしろ」
「デス野球。いったい、どんな恐ろしいスポーツなの……」
何故か、ハルカは固唾を飲んで見守っている。他の奴らも同じ様に勝負に挑むプレイヤー張りに真剣な表情をしているので、多分ツッコんでいる私の方がおかしいのだろう。
『ピッチャー! マウンドに上がりました! 登板しましたのは、キラー投手! 調子に乗ったインヴェプレイヤーを血祭りにあげることが至上の悦びだ!』
とか、考えているとイカレたアナウンスが響いて選手が登板して来た。全身返り血塗れで、頭陀袋を被り、背番号666のユニフォームを着ている。
『インヴェが憎い!! なんでかんでもやることを無効化して来やがって! お前達の生命活動を無効化してやる!!』
『馬鹿を言え! ちょっとやそっと無効化した位で腹を立てるんじゃないよ! 助手君! やっておしまい!』
教授が果敢に言い返していたが、もはや問題はその程度で済む話ではない気がするのだが。生命活動を無効化するとか言うワードは、この映画以外に聞くことは無さそうだ。
彼女の無茶振りにより、助手君が代わりに勝負をするのだが、少し意外だったことがある。
『自分のターン! 『デッド・エスケーパー』は自分が発動した効果に対して相手が効果を発動した場合、あるいは。このモンスターを対象とした効果を発動した場合! お互いにダイスを2回振る!』
キラー投手もルールは守るのかちゃんとダイスを振っていた。彼は『1.5』が出たが、助手君は『6・6』が出ていた。
『出した数値の合計が高かった方のモンスターの効果と発動は無効化されず、低かった方の効果は無効化され、破壊される! また、数字の高かった方がゾロ目を出していた場合は1枚ドローする!』
キラー投手が使ったモンスターの効果は無効化され、破壊された。相手の場はがら空きで、デッド・エスケーパーには『大ナタ』の装備スペル。
『ダイレクトアタックだ!!』
『ギャアアアアアアアア!』
期待を裏切ることなく、デッド・エスケーパーが振るった攻撃は実体化してキラーの腹を切り裂いていた。もう、すっごい勢いで血が噴き出ている。視聴している私の意識も飛びそうになった。
「ヒジリ? 大丈夫? 最後まで頑張って耐えてね」
「そこで視聴を中断させてくれる選択は無いのかね」
マジでこの映画の上映を許可したインヴェ関係者を問い詰めたい。
このカードゲームは9歳以上が対象だって言うのに、こんなR-18映画の題材に使うなんて企業倫理はどうなってんだ。
『教授! 倒した相手がカードに!』
『どういうことなの?』
こっちが聞きたい。落ちていたのは『キラー・ピッチャー』というモンスターカードだった。効果は『破壊または無効化して来たカードを破壊する』という、現代インヴェへの憎しみが噴出した様な効果だった。
『俺のデッド・エスケーパーがブレイブ・エスケーパーに!』
『深化しているというの? 一体。何が……』
教授と助手が疑念を抱いたのも束の間。球場の一部が変形して、次のアトラクションへと向かうゲートになっていた。彼らは進む。この狂気しかないデスパを。
――
視聴を始めてから3時間後。現代パワーにデッキを殺された殺人コック、アイドルカードをメタメタにされたアイドルカードのドール、自分達でアニメの熱い死闘を繰り広げようとした、自分を主人公と思い込んでいる異常者たちを打ち負かして、カードに替えまくって進んだ先。ついに、教授達は黒幕と対面していた。
『よくも、ここまで来たな――娘よ!』
『父さん!?』
どうして、このお店は碌な営業もせずに、こんな人払い映画を3時間も垂れ流しているんだ? 何が腹立つって、この映画。画面はスプラッターでグロくてキモイ映像ばっかり流れる癖に。
『私がこの施設を作った理由はもう分かるだろう。そう、インヴェに対するメタパークなのだ。プレイしている奴を〇すのは最強のメタだ』
そう。この映画、変な所でインヴェが抱える問題定義をエンタメにしようという姿勢があるせいで見てしまうのだ。
「くっそ。まさか、そんな最強の解決方法があるだなんて。私にすら思いつかないメタだ……!」
「犯罪よ?」
どうやら、私の思考もデスパに冒されているらしい。むしろ、こんな映画を3時間も視聴しておいて正気を保っているコイツは何なんだろう?
『どうして、そんなことを!?』
『私が愛したインヴェを取り上げた世界に対する復讐だ! この施設で吸い上げた命を用いて、世界を改変する!! 無効化ばかりの世界を無効化する!』
デスパが鳴動して何かが起ころうとしている中、崩れ落ちる教授の前に出たのは助手君だった。
『何を……』
『教授、俺。貴女のお父さんの気持ちが分かるんです。好きなカードが使えない苦しさも。でも、だからこそ。俺は彼に希望を示したい!!』
彼が持っていた『ラスト・エスケーパー』が更なる輝きを見せて『ラスト・ホープ』へと変わっていた。
『君の戦いは見せて貰った! だが、無駄だ! このデスパを象徴する『デスパイア』デッキの前では、お前の希望など無効化してやる!』
『だったら、俺はアンタの絶望を打倒してやる!!』
かくして、デスパでの最終バトルが始まった。絶望(デスパイア)と言う大層な名前だが、テーマ自体は現代インヴェにおいては普遍的な効果無効と破壊を持ったモンスターが並ぶと言った具合だ。
むしろ、大仰でもなくポンポンと何気なく並ぶことが嘆かわしいのかもしれない。ドラマチックな展開の末の大型モンスターではなく、露払いの様に相手の妨害を弾ける展開ができてしまうのが教授・父の嘆きなのだろう。
『俺にはアンタが勝ちたがっているように見えないんだ』
『フハハハ! サレンダーでも期待するか!』
『違う。俺にはアンタが自分を倒して欲しい様に思えてならないんだ』
自身が理不尽の象徴になることで誰かに止めて欲しいという展開はある種の王道なのかもしれない。どうして、前半であんなクソみたいな映像を見せておきながら、後半でこんな燃える展開を持って来るのか。
『だったら、この絶望を打ち破って見せろォ!』
『俺のターン! ラスト・ホープ! 『キラー・ピッチャー』! 『マッド・コック』! 『イミテーション・ドール』! 『フェイク・ヒーロー』! これら4枚のカードをモルグに送って、効果を発動! 手札、デッキ、墓地、モルグから『THE・ONE』を特殊召喚する!』
『ほざけぇ! 『デスパイア・モノクロ』! 効果を発動! 白は黒に! 貴様の効果を無効にして破壊する!』
『ラスト・ホープの反応効果! さぁ、このダイスが俺達の未来を決める!』
ダイスを振る。教授・父は『6・6』。最強の数字だ。もはや、勝つ術はない。対する、助手君の出目は『1・1』だ。最悪と言っても良かった。
『ハハハハハ! 所詮、貴様が言っていることは絵空事に過ぎんと言う訳だ!』
『パパ! 見て!』
モルグに送られた4体の殺人鬼の魂がフィールドに降り立つ。
すると、どうだろう。助手君のサイコロに取りつくとメリメリと分解して拡げ始めた。2個とも同じ様に立体から平面になる様に開かれた。バイオレンス過ぎるが、何の意味があるんだろうか。
「いいえ、意味はあるわ! 見て!」
完全に教授とシンクロしたハルカがモニタを指差した。そう。盤面には開きにされたサイコロが2つ。1~6の数字が表に出ている。
『俺の数字は『21・21』だ! 更に! この効果で特殊召喚した『THE・ONE』のATKに出た目の合計×300のATKをアップさせる!!』
『ば、バカな!』
コレには教授・父も驚かざるを得ない。こんな方法で最強の数を上回るなんて、誰も予想だにしていなかったからだ。
「そ、そうはならないだろう……」
「なっているでしょ!」
だが、ルールは21の方で適用されるらしい。『デスパイア・モノクロ』の効果は無効化され、超攻撃力となった『THE・ONE』が攻撃してぶち破って、教授・父のMPまで0にしていた。
『グハッ!!』
『パパ!!』
今までは、相手を惨殺しまくっていたのに。教授・父が頑丈なのか体が吹っ飛ぶということもなく、五体満足で口の端から血を流していた。
「ここまでやっといて娘になんか言い残そうとするシーンを設けるダブスタ嫌い」
「どうやら、ヒジリもこの映画にすっかり馴染んだみたいね」
何も良くない。ちなみに親子の会話は、このテーマパークに来た理由だとか、レアカードは世界を変える力を持っていたとか。ドバッと設定が開示された。
『私が間違っていた。こんな、こんな方法では私の好きなインヴェが帰って来る訳も無かった……』
さっさと気付け。だが、なんか良い雰囲気のままそっと助手君が語り掛ける。
『でも、感じましたよ。貴方のインヴェを楽しもうという心を。もう一度、もう一度やり直せるなら。俺は―――』
と、彼は世界を変えるカードを手に取った一つのことを願った。
そして、画面は暗転。大学の構内で講義の準備を進める教授と彼に付き従う助手、そんな二人を眺める1人の青年。彼の手には『モノクロ・ホープ』というカードが握られていた――。
「素晴らしい映画だったわ」
「何が?」
ハルカは感動して拍手まで送っていたが、3時間以上も見せられて、綺麗にまとめました感が滅茶苦茶腹立つ。
「コレが俺達のバイブルだ。勝負に大切なことが分かったと思うが」
「コレで学んだというのなら、君達を犯罪者集団だと認識せざるを得なくなるんだけれど」
一体、あのクソ映画の何に学ぶところがあったんだろうか? 勝負のシーンはガチで監修されているのが分かって、なおのこと腹が立ったが。
「そっちのお姉さんは良いけれど。用心棒さんには分かって貰えなかったみたいだな。仕方ない」
チャっとタツヤがデッキを取り出していた。私は協定の関係上勝負ができないと認知されているハズなんだが。
「無理。こんな映画3時間以上も見せられて、グロッキーになっているんだ。帰らせてくれ」
インヴェ以外の部分が見るに堪えない位にグログロだったので、結構げっそりはしている。というか、そもそもこんな上映会をしていたせいで外も暗い。
「本当に調子悪そうね。貴女、意外とナイーブなのね」
「むしろ、お前はなんで大丈夫なの?」
「映画なら、アレ位は普通にあるでしょ?」
コイツと映画見に行くの絶対にやめとこう。とは言え『フュージ・ドラゴンズ』には好感触だったのか『また、来てね!』とは言われた。……できれば、行きたくはない。
「よかったら、このまま家に送りましょうか?」
「大丈夫。お前も、さっさと帰れ。お前はプロなんだから、私に構っている暇なんかないだろ?」
忘れがちだけれど、コイツはプロで多くの人から期待されている存在だ。私みたいな木っ端な用心棒とは価値がまるで違う。シッシと手で追い払ったが、逆に詰められた。
「暇じゃない時間を使って会うほどに、執着しているのが分からない?」
「ヤダコワイ……」
「ガキに鼻の下伸ばしていないで、さっさとこっちに来なさいよ。私のライバルは、貴方だけなんだから」
感情が重い。勘弁して欲しいけれど、突き放す程嫌いにもなれないのでモゴモゴするしかない。
「分かった、分かった。戻るつもりはないけれど、今日はこの辺りでな」
「……えぇ」
納得いってなさそうな顔だったが、納得してもらうしかない。歩く気力も無かったので、私はタクシーを拾って自宅に帰るとした。最近のアイツはどうにも距離感がおかしい。