TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「おぅ、昨日はどうだったって……」
翌日。何とか遅刻せずに出勤できたが、店長がギョッとしていた。私の顔は相当に酷い物だったのだろう。
「向こうのホームに行ったら『殺戮恐怖虐殺死遊園地(ジェノサイド・テラー・カルネージ・デスパーク)』とか言う、訳の分からない映画を見せられた……」
「そ、そうか」
よく見たら、店長の顔には張りとツヤがあった。そう言えば、温泉施設の優待チケットを貰っていたな。あの時は、普段の労いも兼ねて見送ったけれど。
「そっちはどうでした?」
「イヤァ、最高だったぜ。腰にもよく効くし、はしゃぎ過ぎて年甲斐もなくフルーツ牛乳なんかも飲んでよ。その後はマッサージチェアに座りながら、マンガ読んで。一頻り満足したら、施設内でラーメン食って帰って朝までグッスリよ」
『普段からお世話になっているし、根無し草の自分を拾ってくれた恩人が満足しているんだから笑顔でいるべきよ』という天使の声。
『こちとら気持ち悪くて、グロい映画を見せられた上で相方が変人だったせいで苦しみが理解されない所か、追い打ちを掛けられたんだぞ』という不満の声。どちらを選ぶべきかと言われたら。
「私も温泉の方に行きたかった……」
「コレやるから、次の機会にでも行ってこい」
と、クーポンを渡された。行きたいとは言ったが、中身が男なんで女湯に入って良い物かという呵責はあるが、店長のレビューを聞いたら行きたくなるに決まっている。
今日は休日なので、いつもより早めに開店の準備を進めている傍ら、昨日に見たカードを思い出した。確か『デッド・エスケーパー』というカード群だが、私も記憶にない。環境で見たこともないし、カジュアルでも聞いたことが無い。
「店長。ウチで『デッド・エスケーパー』ってカードを取り扱っていましたか?」
「お前が見た映画で使われていたカードか。アイツら再録もされていねぇから、ウチみたいな中規模店じゃ回ってこねぇな。それに、カード自体がそこまで強い訳でもねぇし」
相手の妨害に対して反応するというカード群だった記憶はあるが、確かに使い難いだろうし。性質上『後攻』の捲りデッキになるだろうし、余程のパワーを持っていなければ使われることはないだろう。
「後攻だと、少し前に『牌九』をモチーフにしたドラゴンのデッキが流行ったよね。誘発投げまくって、先攻の盤面貧弱にしてから捲る奴」
「つっても、やっぱりやるパターンが決まっているからメタ貼られちまうんだよな。結構、デッキやパーツを売りに来た奴も多かったよ」
勝ち筋が決まっているのは安定して狙いに行きやすいけれど、逆に言えば相手も何をすればいいか分かってしまう。
そして、カードパワーの上昇は止められないから、現代の捲りデッキでも捲れない位の盤面を作られることは十分ある訳で。そう考えたら、訳の分からん映画の特典カードなんて見向きもされないか。
「(あんな映画を見せて来た。ってことは、まさかタツヤの奴は『牌九』デッキを使うのか?)」
流石に現代基準に満たないデスパデッキを使ってくるとは思えない。とは言いたいが、ナギトが使っていた凪禽のデッキも微妙に足りていない気がするし、実際には何のデッキを使うか位は見てから帰れば良かったな。
とか思いつつ、準備を進めている内にヨシコちゃんも出勤して来たし、店の開店時間も近付いて来た。店前で待っている客がいないかと覗き込んでみれば。
「ども~」
なんか、昨日見た奴が待機していた。追い返したい衝動に駆られるが、私にそんな権限はない。開店時刻が訪れた。
「分かりますよ。その顔、もう『デッド・エスケーパー』を回している様子が見たくて仕方がないって顔していますよ。お姉さんの顔にね。昨日の感動が色濃く浮かんでいるのが分かるんっすよ」
「そうなんだ。私は内科に行くから、君は眼科に行ってね」
人が苦しんでいることの何がそんなに面白いんだと多少の怒りを滲ませていると、同じ様に入店して来る一団があった。
「おや、ヒジリ殿。いったい誰と……」
「あ、サクタちゃんじゃん。久しぶり~!」
タツヤは気さくに挨拶をしていたが、サクタ君は固まっていた。周囲のメンバーも戸惑っていることから、当事者しか知らない何かがある様だ。手招きした。
「ちょっと、サクタ君を借りて行くよ」
と、言うと。メンバー達は示し合わせたかのように店の一角に向かっていつも通り、色々と始めた。そして、私が居座る後方の卓にはタツヤとサクタ君の2人。
「やはり。『フュージ・ドラゴンズ』のトップは貴様だったか」
「ウチは休止中の『炸裂団』と違って活動中だからね。何をしているかと思えば、行儀よくホーム決めている所とか。サクタちゃんらしいね」
馴染みはあるが、単に仲が良いというだけではない複雑な感情の行き交いを感じる。
「サクタ君とタツヤ君はどういう関係で?」
「一時期、同じグループにいた。それだけだ」
「そんな釣れないこと言っちゃう? 『フュージ・ドラゴンズ』は2人で立ち上げたグループなのに?」
ちょっと驚いてしまった。私の中にあるサクタ君のイメージは礼儀正しく、で初心者にも優しい優良グループだと思っていたのに、あんな無法地帯で傍若無人で動物園なグループの創設者だって言うのは意外だった。
「そんな。サクタ君があんな掃き溜めの創設者だなんて」
「……タツヤ。ヒジリ殿が滅茶苦茶怒っているが、何をした?」
「ちょっと。俺達のバイブル見せただけだよ。サクタちゃんもアレ好きでしょ?」
ゾッとした。タツヤやハルカがデスパ好きだって言っても驚かないが、サクタ君がアレを見てウキウキしている光景を思い浮かべようとして、脳が拒否した。
「そんな。サクタ君はディ〇ニーとかジブ〇を親戚の子と一緒に見ながら、微笑ましく見守っている傍ら、深夜に〇ンダムを見てテンション上がっているタイプだと思っていたのに」
「ヒジリ殿の中で我のイメージは一体……」
「そんなのサクタちゃんじゃないから! サクタちゃんは画面がバーッとなって、グチャーってなっているのが好きで、ついでに美女のシャワーシーンがあればチラチラ見てニヤけているタイプだから!」
私に迷惑を掛けるだけでなく、サクタ君に対するデマを発信するとは。なんて悪質なプレイヤーなんだ。
「サクタ君。もちろん、違うよね? 画面がバーッとなっているのが好きなのは分かるけれど、グチャーってなってシャワーシーンで興奮する様な性質(タチ)じゃないよね?」
「いや、それは……」
何故、否定してくれないんだろうか? いつもなら『我にそんな趣味はない』と断言してくれる所なのに、言葉を濁すということは……。
「昔、相性も良くない美少女モンスターとメカをコネクシオンして『ドッキングンンンンン!』って言っていた頃のサクタちゃんはもっと輝いていたぞ!」
「タツヤ。デッキを出せ。昔の我と今の我は違う。それを理解(わか)らせてやる」
「ねぇ。ドッキングってどういう意味で言ったの? ねぇ?」
私の目には、今のサクタ君は道を違えた友人と決着を付けようとしているプレイヤーではなく、恥ずかしい秘密をバラされたくないから無理矢理黙らせようとしている思春期BOYにしか見えない。
「サクタちゃん。昔も含めて、今なんだよ。過去は決して消えないんだ。認めないことで傷が深まるんだ」
「そうやって、貴様はいつだって独り善がりで!」
ドッキングはどういう意味なの? と、もう1回聞こうかなと思ったけれど、さすがに聞ける様な雰囲気でも無かったし、タツヤのデッキを見られる良い機会だと思った。……と言っても不安なことがあるとすれば。
「(こういう時のサクタ君って、よく噛ませ犬になるんだよなぁ……)」
前回の時は相手がハルカと言う超格上だったから仕方ないにしても、今回は台頭中のグループのボスということでやはり格上な気がする。彼らの因縁も気になるが、ひとまずは勝負に目を向けてみることにしよう。