TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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36枚目:カードゲームに風呂は付き物。

 私が用心棒を務める『フィロソフィー』は不定期に店を閉めることもあるが、基本的には無休である。というか、私も別に休む必要がない。休んでもすることがないからだ。……そんな、私が言うのだ。

 

「店長。この日を休ませて下さい。理由は連盟に色々言われたり、連れ回されたりして、リフレッシュしたいからです」

 

 店長の表情が固まった。多分、私を見捨てたことが引っ掛かっていたのもあったのだろう。普段は見せない穏やかな表情で言った。

 

「おぅ、休んで来い」

 

 かくして、私は極上の休日を取る為に滅多に取らない休みを取った。クーポンの期限が割と近かったこともあるのだが。

 そんな期待に胸を馳せ、いつも通りに後方でシュウ君達を見守りつつ、ストレージを弄り倒す業務を終えて、家に帰った時のことである。スマホに着信。『ライドウ ハルカ』と書かれている。

 

「(取りたくねぇ……)」

 

 と言っても、連盟や業務の話もあるので取らないという訳にはいかないのだ。電話に出た。

 

『ヒジリ。フュージ・ドラゴンズのトップともやり合ったそうね』

「直接、私がやり合った訳ではないが……」

『そうなの? 実はね。連盟の方に例の4グループからメッセージがあったのよね。貴殿らの要求を聞く気はないけれど『フィロソフィー』の用心棒。ヒジリを寄こすなら、話は聞いてやるって』

「もちろん、突っぱねたよね? テロリストに応じないのは交渉の基本だよ? まさかね。界隈を守ると豪語している大人達だもんね。そんなこと位は分かっているよね?」

 

 一度でも要求を飲めば、相手は学習してしまう。第一、私は連盟の所有物と言う訳ではないのだから。

 

『話は変わるけれど、ヒジリ。偶々、温泉施設の優待券が2枚入手できたんだけれど、一緒に行かない?』

「ねぇ。どうやって入手したの? ねぇ?」

『そんなことはどうでも良いじゃない』

「よくないよ!? そもそも。この間、私に温泉施設に行くなって言ったばかりじゃないか!?」

 

 恐らくだけれど、コイツには私の中身が分かっている。幾ら、見た目などを変えても『サカズキ』だった頃の物は未だに使用し続けている為だ。

 

『だから、私が行くんじゃない。私と一緒なら変なことさせないから』

「そもそも、お前はプロなのにどうしてそんなことをしている時間が? もっと、デッキの調整や対戦相手のスカウティングに時間を割くべきでは?」

『大丈夫。ちゃんと、デッキの調整、ライジング・スターとの契約業務、連盟との提携、他にもやることやって時間を作っているから』

 

 そうだった。コイツは私よりも遥か高みにいるプロだった。……ちょっと気になることがある。

 

「その時間は、お前が捻出した貴重な余暇だろう? 私に当てるより、もっと有意義な相手がいるだろう?」

『例えば? ちなみに。元・プロプレイヤーとして同じプロ選手と会うのがあまり好ましいことじゃないのは分かるでしょう?』

 

 これはカードゲームという性質上、どの競技よりも八百長等が行いやすいことも起因している。極端なことを言えば、相手と談合さえすれば試合の流れから、何まで演出することさえできるからだ。……さすがにそんなことをする奴がいるとは思えないが、可能性がある以上はやるべきではない。

 もっと言えば、ハルカはプロプレイヤーの中でも数少ない女性選手だ。他のプロに会ったりすれば、あらぬ噂が立つ可能性もある。

 

「その割には、俺には結構会いに来ていた様な……」

『サカズキはもう。永遠の相棒みたいなモノだし』

「きもい」

 

 コイツは多分性別を間違えて生まれている。いや、男がコレをやったら更にキモいのでやっぱりデバフも兼ねて、この性別なのかもしれない。

 

『あの頃はゲスなゴシップが鬱陶しかったけれど、今なら問題ないしね。優待券の期限も近付いているし、連盟の人の御厚意を無駄にするのもどうかと思うの』

「今、連盟って言わなかった?」

 

 やっぱり、袖の下を受け取っているじゃないか。しかも、話の流れ的に私に無断で承認が降りている気がするんだけど。

 

『普段から頑張ってくれている私達に労いだってさ』

「そう言うことにしておくよ。ちなみに私も行くつもり、この予定日で……」

 

 ハルカが空けてくれた時間と被っているかどうかは分からないが、元々行く予定だった日を伝えてみた所。

 

『バッチリよ。最初から私と行くつもりだった?』

「いいえ。じゃあ、現地集合で」

『OK! 当日を楽しみにしているから』

 

 プッとスマホが切れた。あまりの電光石火ぶりに私の理解もやや追い付いていないでいると、部屋内にあるデッキから脳内に直接語り掛けて来るかのような声が響いて来た。

 

『ショタ攻略の次はライバル攻略ですか。後はサクタ君を攻略して、ガッツリ築きましょう! ヒジリんハーレムを!!』

 

 最近は妙に結びつきが強くなっているのか。とにかく『ヴォイド・マン』の声がよく聞こえて来る。カードショップではコレだけで済むのだが。自宅だと話が違ってくる。

 

『いーや。今こそ、先達としてレギオンデッキの使い方を見せるべきだよ。サカズキ。プロでも環境でも無いんだから、もういいだろう?』

 

 弄っていないストラクチャーがあったり、崩した残骸があったりするが、ちゃんと組んだ物と言うことで言えば『メタビ』と『レギオン』の2つだけだ。もう1つはフィロソフィーの金庫に仕舞っている。

 

「プレイングで身元が割れるかもしれないから嫌だ」

『だそうですよ。今のマスターには私が付いていますので、昔の女は用済みです。私がいるから、貴方は特殊召喚できませーん』

『このクソガキ!!』

 

 自宅に戻ると、私の脳内を舞台に言い争いが絶えない。

 残念ながら、他のカード達は、この2体ほど結びつきが強くない為か声は聞こえない。なので、仲裁役がいない。

 

「当日に持って行くデッキでも作るかな……」

 

 黒レギオンは使いたくないし、メタビは木っ端みじんに砕かれているので、シュウ君と遊ぶ為の新規デッキを試すにはちょうど良いかもしれない。

 『メタル・ビースト』のストラクチャーは買ってあるので、山ほど眠っているパーツを使って……と、ゴソゴソ整理したカード達を探していると次から次へと色々なカードが発見されて行く。

 

「(このスペルは『マグヌス』でも使えるかな。それなら、マグヌスのデッキを組んでみるのも良いかも。いやいや、私は今メタビ(メタル・ビースト)のデッキを組んでいて。お、この相手をリリースするモンスターはタツヤ君を思い出すなぁ)」

 

 新しいカードやピンと来るカード。あるいは剥いたパックのカードを整理しながらがテキストを見ているだと、テーマとデッキが頭の中で絡み合っていく感覚は何事にも替え難い。

 

『見てごらんなさい。貴女のマスターは直ぐに他のカードに浮気する不埒な輩です。カードで浮気し、小学生に唾を付け、ライバルの女性を誑かすだらしなさ。これも全て、貴方のせいですよ!!』

『じゃあ、責任を取ろうじゃないか』

『紙切れの中にいる奴がどうやって責任取るんですか!!』

 

 最初は温泉に浸かって、疲れでも取ろうかなと思っていたけれど、いつの間にか頭の中はインヴェでいっぱいだった。

 アレだけ環境の変遷とか嫌っていた癖に。カードに使われているのが嫌だったというのに。どうして、自分はここに帰って来るんだろうか?

 

『誰の顔。思い浮かべていますか?』

 

 今までの様に煽り立てる様な感じではなく、語り掛ける様にヴォイド・マンが問うてきた。……作ろうとしているデッキと共に。一緒に遊びたい人の顔が浮かんで来た。なるほど、辞められない訳だ。

 

「まぁ。2体とも当日は使わないんですけれど」

『『は???』』

 

 この後、私は眠るまでの間。2人から猛烈な自己PRを聞かされるのだが、特に気にすることもなく布団に入った。

 

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