TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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38枚目:入り口

 珍しく、ヒジリのいない『フィロソフィー』は特段変わった様子もなく営業していた。敢えて言うなら、少しだけ珍しい客としてナギサの兄であるナギトが来ていたことか。ちょうど、勝負を終えた所だったのか。2人はデッキを片付けていた。

 

「助かった。ちょうど、エクスキューショーナーが形になったから試遊を頼んでしまったが」

「こちらこそ。やっぱり、対策とかは実際に動かしてくれる相手とやった方が憶えやすいから、むしろ助かったよ」

 

 傍らで見守っていたシュウとナギサも先程までの内容を反芻するかのように、無言だった。壁に掛かっている時計を見れば、既に時刻は18時。ナギトが立ち上がった。

 

「それじゃあ、シュウ君。ナギサ。一緒に晩御飯を食べに行こうか」

「あっ、はい」

「うん。それじゃあ、サクタさん。皆。ばいばい」

 

 ナギトが2人を連れて店を出て行った後、炸裂団のメンバーの一人がサクタに話しかけて来た。

 

「サクタさん。今日はシュウ君、随分遅くまで残っていたっすね」

「どうやら。父親が会社の付き合いで遅くなり、母親がナギト兄妹の母と一緒に温泉施設に行く。ということで、一緒に夕飯を食べに行くことになったらしい」

「へぇ。ヒジリさんも温泉に行っているみたいですし。温泉日和なんすかね」

「それもあるだろうが……」

 

 サクタはスマホの画面を見せつけた。表示されている『スーパーワールド』のサイトに掲載されている『イベント』のページ。

 そこには『スーパーワールド杯』という、インヴェの催しと概要が表示されていた。優勝賞品は該当施設で使える『お食事券』。それと、もう一つ。

 

「『レギオン』のスリーブっすか。なんか、えらい絵が芸術的というか」

 

 見本として掲載されているスリーブに描かれているイラストは芸術的というか。カードゲームで扱う物としては、あまり相応しくない物だった。

 分からない人間からすれば、芸術的に描かれたレギオンのスリーブでしかないが、分かる人間には分かるのだ。

 

「(さては、ヒジリ殿。このスリーブを取りに行ったのか? だが、その下の注意要綱を読んだのだろうか?)」

 

 カジュアル向けの大会である為、ガチすぎるカードを使わない様に専用のレギュレーションが組まれている位には本格的だった。ちなみにリストにはしっかりと『虚無領域』と『ヴォイド・マン』の名前が記載されている。

 きっと、ヒジリならこれらに引っ掛からない上で強いデッキと言うのは作れるだろう。だが、そんな彼女でも乗り越えられない問題が記載されている。

 

――

 

 参加する以上は概要を調べるのは当然のことだ。

 この複合レジャー施設で開かれる『スーパーワールド杯』のは、サユリちゃんから説明された通り。家族連れを対象とした物で、子供や彼らにせがまれて始めた親子連れが対象であるらしい。

 専用のレギュレーションまで組まれているのは聞いていた。虚無領域とヴォイド・マンが追い出されているのも分かる。ただ、見過ごせない項目が一つ。

 

「※大会出場経験があるプレイヤーや一部プレイヤーの参加は御遠慮お願いします。……だと?」

『また、私が出禁ですか? これだから、カジュアルは』

 

 デッキから『ヴォイド・マン』の不平不満が飛んで来るが、コイツに関しては残念でもなく当然だった。

 

「お姉さんが出場したら砂場を破壊しつくす伝説のインヴェプレイヤーとして有名になるかも」

 

 ヒナコちゃんがとんでもない奨励をして来るが、そんなことをしたら『フィロソフィー』への電凸がすごいことになるだろう。

 じゃあ、他の奴らに参加を頼めるかと言われたら……。ハルカやサユリちゃんに頼む訳にもいかない。

 

「クッ。こんな時、シュウ君と一緒に温泉に来ていたら」

「お姉さん。結構ヤバいこと言っているけれど、大丈夫?」

 

 仕方がない。大会の経過だけ見守って、優勝した子に交渉を持ちかけてスリーブを譲って貰うというのが妥当なラインだろうか。

 

「でも。本当の価値を知っている貴方が交渉できるかしら?」

「うっ……」

 

 ハルカからの指摘が痛い。別に金自体は用意できる。

 ただ、もしも。何も知らない家族に『そのスリーブを譲ってくれ!』と大金を出して交渉するのも良くない。

 では、普通のキャラスリと同額位を渡して譲って貰うのも『シャークトレード』に当たるというか、半ば詐欺めいた物を感じる。

 

「どうすれば良いんだ」

「諦めては?」

 

 サユリちゃんから順当な提案がされるが、賞品を知ってしまったらどうにもできない。ワンチャンスを掛けて、私が無名扱いであることを期待して会場へと向かってみれば、インヴェの特設会場があった。

 意外なことにキッズばかりが対面していて、親が後方で見守っている。という構図ばかりだと思っていたが、親と子が一緒に遊んでいるという構図も目立っていた。

 

「よし! お父さん。実は立ち寄ったカードショップで強いって言われているカードを手に入れたからな! 今回は負けないぞ!」

「へぇー。なんてカード?」

「ヴォイド・マンって言うらしい。相手が何もできなくなるから強いって、ヨシキと同じ位の子達が言っていたぞ!」

「パパ。それ禁止カード!!」

 

 今日ばかりは子供がお父さんやお母さんに教えることもあれば、逆に昔はプレイしていた親が最新の子供と一緒に遊んでいたり。

 

「微笑ましい光景だね」

「貴方が拡げたヴォイド・マン被害から目を背けては駄目よ」

 

 ハルカから釘を刺された。色々な卓を見ているが、やはりというか。回しているデッキはTier3以下の物が多く、ストラクチャーデッキから多少の改造を加えた物や型落ちのデッキが多い。

 

「(デッキ的な物で言えば、この間作った『メタル・ビースト』なら行けるか)」

 

 バッグから『メタル・ビースト』デッキを取り出して、中身を確認した。レギュレーションに違反するカードの類は入っていない。『マグヌス』はメタビ寄りだったので駄目だった。

 

「……お姉さん。そんなに、あのスリーブ欲しいの?」

「まぁね。『レギオン』にはちょっとした思い入れがあるんだ」

 

 ヒナコちゃんがジィっと私の方を見ている。……ふと、とある可能性が思い浮かんだ。

 

「確認しておきたいんだけど。ヒナコちゃんは結構なインヴェプレイヤー?」

「ううん。インヴェに関わる仕事はしているけれど、プレイヤーとしては大したものじゃないね」

「だったらさ、私に代わって出場して欲しいなー……」

 

 彼女と会うのはコレで2回目だというのに、何をお願いしているのだろうか。だが、そこまでして例のレギオンスリーブは欲しいのだ。

 

「あの? ヒナコさん?」

「無料(タダ)で出場するのは嫌だなぁ。やっぱりさ、誠意ってモンが必要じゃない? あ、お金は要らないからね」

「……何か望みが?」

 

 私に差し出せる物は多くない。『リリウム・サンクチュアリ』との勝負の時に便宜を図るみたいなことなら突っぱねる。私が持っているカードを渡せとか、そう言うのであっても突っぱねる。

 

「もしも、私が優勝したら、1日。お姉さんに付き合って貰いたいな」

「付き合って貰うって。何に?」

「楽しみにしておいてよ。じゃあ、デッキ借りてくねー」

 

 私からメタル・ビーストのデッキを受け取ると、ヒナコちゃんは受付の方へと行った。すかさず、ハルカが問うた。

 

「サユリちゃん。ヒナコちゃんのインヴェの腕は?」

「え? どうでしょうか。オホホホ」

「そんな明らかに誤魔化さなくても」

 

 トップと知り合いって時点で弱くは無いんだろうが、実力は未知数だ。

 それに最近の子供も決してバカにできない位に強いし、大人も顔負けする位に強い子もいる。ヒナコちゃんが戻って来た。

 

「登録して来たから、お姉さんも期待しといてね」

「うん。期待しているよ。でも、その前に」

 

 優勝したら。とは言ったけれど、こんな無茶振りを引き受けてくれた時点で、彼女の要求には応えるつもりだが、それは彼女が勝ち上がってからにしよう。その前にやるべきことがあるとすれば。

 

「ちょっとでも回せるように。始まるまで、私との練習に付き合って貰うからね」

「いいね。パワーは同じ位のでお願いね」

 

 今回のレギュレーションやリストを見るに、参加敷居の低さからストラクチャーデッキのテーマがメインとなるだろう。マグヌスは禁止にされてしまっているので、別のデッキを使うことにする。

 

「じゃあ、この姉妹探偵(シスター・ディテクティブ)を使わせて貰うことにするよ。多分、似たようなデッキと対戦することになるだろうしね」

「アタシが優勝できるようにご指導をお願いね」

 

 ぺこりと頭を下げてきた。釣られて私も頭を下げた。さて、どう言うデッキが参加して来るのか。

 環境ではないし、リストも網羅できていないからまるで予想もつかないが、だからこそ。どんな試合が待っているかと思うと、ワクワクしていた。

 

「(私が参加できたらとは思うけれど、ここは初心者の場だからな)」

 

 ガチンコの勝負があっても良いが、楽しく遊ぶ為の場があっても良い。温泉も良いけれど。インヴェプレイヤーとして心が温まる空間が広がっていた。

 

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