TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
カジュアル向けの大会。ということもあって、プレイングは緩やかな物だった。私から見ればプレイミスとしか言えない物やケアの甘さなども目立ったが、終始和やかな空気が流れていた。
「対戦ありがとうね~」
「いえいえ、こちらこそ」
面白いのは、参加選手に『母親』が多いことだ。
カードゲームと言えば、男性の遊びというイメージがあったのだが、感想戦で興味深い話を聞くことができた。
「へぇ、子供と一緒に遊ぶために?」
「そうなんですよ。ほら、最近のテレビゲームって難しい物が多くて。それにネットに繋いでやることが多いじゃないですか。だから、インヴェは子供と話をしながら遊べるから、私もやっているんですよ」
昨今はカードゲーム以外にも娯楽物は多い。遠く離れた人とも一緒に遊べるということは、身近な人間との接点が薄れがちになってしまうこともあるだろう。
その点、インヴェはカードという物理媒体で遊ぶ以上、必ず近くに相手を必要とするから、コミュニケーションも生まれる。という正に理想的なテーブルゲームの在り方と言える。
「もしも、細胞培養技術が発達して子供を作れたら、私も息子に雷電デッキを握らせたい物ね。ヒジリは?」
「何を言う。私には『魂の息子(でし)』であるシュウ君がいるから問題ないぞ」
「お2人の会話に正気らしき物が見当たらない気がしますが」
サユリちゃんから酷いことを言われた。カードゲームをやっている癖に正気を保とうなんて熱意の足りない娘だ。
私達の思想は兎も角として『スーパーワールド杯』はサクサクと進んでいた。全体的に大味で進んでいる為、1回の試合時間が短いからだ。現在、準決勝が終わり、次が決勝戦だ。ヒナコちゃんは見事に勝ち進んでいた。
「(サユリちゃんがはぐらかすからすごい実力者かと思っていたけれど)」
ここに来るまでの間の『メタル・ビースト』デッキの回し方を見たが、普通のインヴェプレイヤー。というのが、私の感想だ。一通りの動かし方は分かるが、細かいケアや効果の打ち所はザックリしている。
「アレが彼女の実力なら、サユリちゃんが追従している理由が分からない」
私はサユリちゃんが回している所を見たことが無いが、少なくとも。4大グループの内の一つにトップとして君臨している以上は、相応の実力者なのだろう。
となると、彼女が追従している理由はスポンサーだとかそう言った経済面での理由だろうか? だとしても、グループのトップとして毅然としているべきだとは思うのだが。チラリと彼女を見る。
「どうなの?」
「……先に言っておきますけれど。ワタクシはスポンサーだから、OGだからと言って尊敬に値しない人物に平身低頭する気はございません」
と、なると。あんなフワフワ毛虫に見える彼女にも尊敬されるだけの何かがある訳だ。……今度、彼女から借りられる場合に聞いてみようかな。
ヒナコちゃんの対戦相手は誰になるのかと会場を見渡した所、進んで来たのはキッズ。ではなく、これまた若い女性だった。彼女の後ろにはヤンキー系の女性がエールを送っていた。
「うぉおおお! 『シュクコ』さん! やっちまいなよ! シュウ君に『レギオン』のスリーブ持って帰りなよ! ついでに美味い飯食って帰ろう!」
「『ナギカ』さん。ちょっと、恥ずかしいかも……」
なんか。今、聞き逃せない名前が出て来た。シュウ君。とは、あのシュウ君だろうか? だが、名前的には珍しい物ではない。
「(いや。でも……)」
態々『レギオン』のスリーブを狙っている辺り、あのシュウ君としか思えない。
しかも、応援しているヤンキー系の女性の名前が『ナギカ』というのも気になる。そう言えば、ナギサちゃんのお母さんとシュウ君のお母さんは職場が一緒なので、家族ぐるみの付き合いがあるとも言っていた様な気がする。
「あの『シュクコ』さん。何処となくシュウ君に似ていない?」
「やっぱり? ハルカもそう思う?」
何よりも。シュクコと呼ばれた女性にはシュウ君の面影がある。
だが、選手に直接話しかける訳にはいかない。試合のメンタルに影響するからだ。……何よりも。
「(本当にシュウ君の母親だった場合、ヒナコちゃんに余計なことを言っちゃいそうだし。……それは、インヴェプレイヤーとして。やりたくはない)」
私は『負けて良い』という言葉が嫌いだ。本気で勝利を狙いに言った末に負けた場合、気負い過ぎない様に、次に繋げる為に言うのなら良いが、保険的に掛けるのが嫌いだ。
「(負けたくない。勝ちたいという思いが無い勝負に意味は無い)」
準決勝も終わり、決勝戦に向けての準備が始まる。自分の関係者が負けて興味が無いということで人も去って行き、決勝戦だというにも関わらず観客は程々と言った具合だった。
「はい! 皆さま『スーパーワールド杯』も決勝戦まで来ました。コレを切っ掛けに、皆さんも『メイガス・インヴェイション』は如何でしょうか? この施設の物販コーナーにも置いていますのでね。ぜひ、この機会に!」
先程までの試合を見て、親に強請る子供がいたり、自分達も始めて見ようかと軽い気持ちで買いに行く者もいたり。……不思議なことだが、カードショップという専門の場所じゃないからこそ、カジュアルで健全な光景が広がっていた。
「お待たせしました。決勝戦です。湯上りのひとときの中で繰り広げられて来た勝負の数々。最後まで勝ち抜いたお2人による決勝戦です。インヴェを始めたばかりの人達も、経験がある方達も。肩の力を抜いて最後まで楽しんでいただければ幸いです。それでは『シュクコ』さん『ヒナコ』さん。準備をお願いします」
司会に促され、卓に着く。彼女が何のデッキを使うのか。
少なくともTier2以上のデッキが使われることはないと思うのだが、いや。それよりも聞かねばならないことがある。シュクコさんを応援していた女性の方へと歩み寄った。彼女も私の存在に気付いた様だ。
「お、アンタはあの子の友達さん?」
「そうだよ。ちょっと聞きたいことがあるんだけれど良いかな? ……『フィロソフィー』ってカードショップ。知っていますか?」
「『フィロソフィー』。あぁ、知っているよ。娘が友達とよく一緒に行っているからね。そういう聞き方をするってことは……アンタ、ひょっとして。店の?」
「用心棒です」
意外性も何もない答えが返って来た。やっぱりという感想以外何も浮かばなかった。まさか、シュウ君達のお母さんに会うことになるなんて。向こうも驚いている様だった。
「へぇ~。話に聞いていたけれど、実際に見れば綺麗な人だね」
「それはどうも。……娘さんや息子さんは私について何か言っています?」
基本的にエゴサはしないと言ったが、やはり身近な人間や子供からの評価は気になる。もしや、シュウ君にベタベタする変な女とか思われていないだろうか。
「ナギトからは面白い人だって聞いたよ。ナギサからはデッキを選んでくれた優しいお姉さんだって聞いたよ」
ンフフフ。もしかして、シュウ君だけじゃなくて小さい子が全般的に好きなのかもしれない。ここで下心マックスの笑いを浮かべるのを我慢して、クールに返そう。
「そう言って頂けたら幸いです。……シュクコさんもインヴェプレイヤーなんですか?」
「覚えたのは最近だけどね。シュウ君があまりに楽しそうに、店のことを話すから、私もやってみたいだってさ」
どうやら、今日は体だけじゃなくて心まで温まる日であるらしい。こうやってインヴェの輪が拡がって行くことは、一プレイヤーとして望ましいことだ。
「そうですか。でも、決勝戦まで進んだ。ってことは才能が?」
「あるんだろうね。どう? 試合がどうなるか楽しみになって来ただろ?」
「そうね。気になるわ」
いつの間にか、ハルカとサユリちゃんも隣に来ていた。シュウ君のお母さんが何のデッキを使うか。……先攻を取ったのはシュクコさんだ。
「私のターン。私は手札から『メタル・ビースト・アイギス・ライオン』を手札から特殊召喚します。このカードは自分フィールドにモンスターがいない場合特殊召喚できる。このカードがフィールドに存在している場合、自分フィールドの他のメタル・ビーストモンスターは効果破壊されません。更に手札から『メタル・ビースト・スパイラット』を召喚! 効果でデッキから『メタル・ビースト』モンスターをサーチ、私は『メタル・ビースト・エンジニアオウル』を手札に加えます。更に、アイギス・ライオンの効果で手札からメタル・ビーストモンスターを特殊召喚します。私はエンジニアオウルを特殊召喚して、着地時の効果で『メタル・ビースト』スペルをサーチします。『メタル・ビースト・アタック!』を手札に加えて、カードを2枚伏せてターンエンドです」
メタル・ビーストというテーマには2つのカテゴリーが存在する。
シュクコさんが使っているのは防御力やリソースの回復力に優れた『ガーディアン』と呼ばれる側で、セットカードも併せて堅牢な盤面が築かれている。
「アタシのターン。手札から『メタル・ビースト・ダイナソー』を特殊召喚。このカードはそっちのライオンと同じで、自分フィールドにモンスターがいない場合。特殊召喚できる。ダイナソーは召喚・特殊召喚された場合。デッキから『メタル・ビースト・イーグルスクリーム』を特殊召喚する」
ヒナコちゃんに渡したデッキは『レイダー』と呼ばれる、ガーディアンと敵対する組織の物で、このデッキは展開力と突破力に優れている。分かりやすい矛と盾と言えるだろう。
「イーグルスクリームは特殊召喚された場合『メタル・ビースト』モンスターを手札に加えることができる。アタシは『メタル・ビースト・サウンドバット』を手札に加える。ただし、このカードは自分のターンのエンド時に相手フィールドにモンスターがいない場合、このカードより攻撃力の高い自分フィールドのモンスターを全て破壊する」
野心に燃える2番手という立ち位置にいるらしいが、大抵はコネクシオンの素材に突っ込まれてセメタリーに送られるので、ダイナ様のおやつとして愛されているモンスターだ。
ただ、コイツも割とATKが高いのでウッカリ場に残したとしてもダイナソーが破壊される位なので、プレイヤー達から『コント』と呼ばれている。
「アタシはイーグルスクリームをリリースして『メタル・ビースト・サウンドバット』を召喚する。このモンスターの召喚に成功した場合、自分フィールドに3体のトークを特殊召喚するよ」
イーグルスクリームは速攻でセメタリーに送られた。代りに盤面には4体ものモンスターが一発で並んだ。この展開力は反則過ぎる。
「でも、このトークンは『メタル・ビースト』モンスターのコネクシオンにしか使用できない。トークン2体をコネクシオンして『メタル・ビースト・アタックジャガー』を特殊召喚。更に、アタック・ジャガーと1体のトークンをコネクシオンして『メタル・ビースト・エリートコンドル』を特殊召喚! このモンスターが特殊召喚された場合、セメタリーにある『メタル・ビースト』モンスターを蘇生させる。アタシが選ぶのはアタック・ジャガー」
4体のモンスターが並ぶ。相手の盤面には3体のモンスター。こっちは4体かと思いきや。
「更に。サウンドバットとダイナソーをコネクシオンして『ダイナソー・バッツキャノン』を特殊召喚! このカードが特殊召喚された場合、セメタリーにある『サウンドバット』を装備スペル扱いで装備しても良い。更に、サウンドバットを装備スペル扱いとして装備しているモンスターはATKが+500され、2回攻撃できる。さぁ、レイダー・アタック。始めようか!」
特に予想外でも無かったが、決勝戦もメタル・ビースト同士のバトルになった。果たして、どっちのメタビが勝つだろうか。
『まぁ、最強のメタビは私なんですけれどね』
「ガーディアンも良いなぁ」
『相手に何もさせないのが最強の防御なんですけれどね』
何故か、さっきからやたらと頭に声が響いていた。もしかして、メタビという単語が気に入っているんだろうか。