TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
昨日はガラにもなく盛り上がってしまったが、おかげで私は大人気用心棒として皆から注目を置かれる存在となった! ……と言うこともなく、客として来ている小中学生は今日も今日とて仲間内で盛り上がっている。実に健全だ。
「ヒジリ殿。この辺りをシマにしたい奴らが『焼却同盟』。我ら『炸裂団』以外にも結構おってな」
「いや、聞いてないけれど?」
そんな健全なカードショップにシマだの何だの、一昔前のヤンキー漫画みたいな話を持ち出して来たのは炸裂団のリーダー『サクタ』だ。
取り巻き達も隅っこの方で、他所に迷惑を掛けない程度に固まって楽しく遊んでいるし、カードサプライやシングルカードを物色しているので、店長はゴキゲンだった。私としては迷惑なので出て行ってほしいが、どうこうする権利はない。
「実はあの勝負を動画撮影していた同胞もおったのだ。少しばかり話題になっていてな」
「聞いてないけれど???」
なんで、勝手に撮影しているんだろうか。気になって動画を見てみれば『なっつ』だとか『ゲートボールめいている』だの、懐かしむ声が多いが。特に気になった話題を拾い上げるとしたら。
「『サカズキ』チャンピオンを思い出した。って、やっぱり今も憶えている人は覚えているんですね」
「ウム。『インヴェイション』の黎明期を支えた人間であるからな。ヒジリ殿は何かご存じないか?」
滅茶苦茶チラチラと見て来るのがややウザく感じたが、ここは素直な感想を述べさせて貰う。
「環境に適応させる努力もせずに消えて行った怠け者だ。彼と同一視されるのは不快だね」
「いやはや、手厳しい。だが、環境について行けずふるい落とされるプレイヤーも少なからずはいる。仕方あるまいよ」
サクタの言葉に実感が伴っていたのは、引退して来た同胞を見て来たのだろう。昨日までの相棒が改定次第では役立たずになることだって珍しくはないし、掛けて来た金銭が無駄になることだってある。
「そう言う事情も知っているのに。どうして、サクタさんは続けるんですか? プロを目指しているとか?」
「楽しいからだ。環境に翻弄され、新規のカードに弄ばれ、やがて我らが操り、乗りこなした末に見える世界を好いているからな」
そう語る、サクタは実に楽しそうで。眩い物の様に思えて、私はそっと目を逸らしてしまった。正視することができなかった。
「程々にね。さて、折角2人が揃ったんだし。今日は私じゃなくて、サクタ君とやってみようか。何がダメだったか、都度教えて上げるよ」
「心得た。彼のデッキは?」
「昨日、私が使っていた奴だよ。さぁ、シュウ君。卓に着きなさい」
「よ、よろしくお願いします!」
ストラクチャーデッキで現代パワーを教え込むのも悪くは無いが、やはり上手くなるために必要なのは実戦あるのみだ。
「ヒジリ殿。カードパワーはどれ位に調整しようか? ガチもカジュアルも持っているが……」
「カジュアルで。シュウ君。昨日、勝つ気でやりなさい。負けても良い。なんて言わないからね」
彼の顔にも緊張が走った。卓に着き、デッキをシャッフルして相手に渡す。シュウ君が首を傾げた。
「コレは一体?」
「カット。と呼ばれる、動作だな。儀礼的な物ではなく『積み込み』などのイカサマを防ぐ意味もある」
「ちなみに。積み込みの意味は考えてみてね」
なんでも、かんでもホイホイ教えていたら中々定着しない。自分で考えてみて、答えを出すことができてようやく身に着くのだ。意味は読んで字の如くだ。
「えっと。もしかして、自分が有利になる様に山札のトップの上にカードを積み込む。ってことでしょうか?」
「正解。シャッフルしているように見えて、そう言う細工をしたりする奴もいるからね。それを防ぐために、こうして山札を3つほどに分けて」
順番を入れ替えて積み直す。こうすることで、相手がトップの操作をしていても意味が無くなる。お互いの山札をカットして、相手に返す。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。頼もう」
シュウ君のデッキは一重スリーブしかしていないが、子供らしさを感じる。最近はスリーブもバカにならないんだから仕方ない。
一方、サクタのカジュアルデッキのスリーブには使い込まれた跡が見えた(マーキングにならない程度に)。きっと、彼が長らく使っていたデッキなのだろう。
「今日はシュウ君に先攻を譲ろう。とりあえず、動いてみるとよい」
「ありがとうございます! じゃあ、僕は」
手札を見て固まっていた。一体何が来ているのだろうかと覗き込む。
・レギオン
・クリムゾン・ストライク
・クリムゾン・ディフェンダー
・挺身
・ウェリテス・レギオン
「ヒジリさん。コレは?」
「そういうこともあるよ」
クリムゾンスペルはクリムゾンモンスターを召喚していないと使えないし、レギオンは単体じゃ貧弱なスタッツだ。出す意味は薄い。挺身は展開を広げられないので使いようがない。
ウェリテス・レギオンに召喚権を切ることで後続をサーチすることができるが、初動としてはあまりに細い。幾らでも止められる。でも、やるしかない。
「ウェリテス・レギオンを召喚! 効果でレギオンモンスターをサーチして……」
「手札から『速攻の猟犬』を発動。相手が山札からカードを手札に加える、セメタリーに送る、特殊召喚する。のいずれかを含んだカードを発動した場合、効果を無効化する」
召喚された軽装兵の偵察は何も効果を使えず、しょんぼりしていた。
「……ターンエンドです。あの、コレ本当にカジュアルのカードですか?」
「そうだよ? 私が買ったストラクチャーには入っていなかったけれど、あっちのストラクチャーには入っている位に『猟犬』は有名カードだよ?」
出た当初はエグい位に価格が高騰して、コレが無ければ戦えないってことで皆がパックを購入しまくって、カドショは乱世、乱世だったなぁ。
シュウ君も相手にターンを渡す外なく、フィールドはもうスッカスッカ。出力次第ではワンターンキルされかねない位に貧弱だった。
「我のターン! 侵攻兵器ガルガンを召喚! 召喚時の効果で山札から『侵攻兵器』装備スペルをサーチする!」
「うぉ。ガルガン久しぶりに見た」
ガルガンは一昔前に流行った装備ビートのデッキだ。侵攻兵器と呼ばれるモンスターにどんどん装備を積載して行って、相手を撃破していくという。
フィールド上で装備スペルによってカスタマイズしていく。というのがテーマのデッキだが、展開と制圧を主とする現代では物足りない。
「サーチした装備スペル。ダブルチェーンソーを発動! このカードは侵攻兵器モンスターのみに装備可能だ! 装備しているモンスターは2回攻撃できる! ウェリテス・レギオンを攻撃!」
可哀想な偵察兵は抵抗する術を持たなかった為、普通にチェーンソーで切り裂かれて消滅した。
「追加でダイレクトアタック!」
壁が消失したので、シュウ君はそのまま攻撃された。
通常の勝負におけるMPの初期値は10000だ。多い様に思えるが、現代のカードパワーだと割とすぐに吹き飛ぶ数値だ。
「そちらの残りMPは8200。カードを2枚セットしてエンド」
「僕のターン! ドロー!」
早いこと、展開札を引かなければボコられるだけだ。シュウ君が引いたカードは何だったかと言うと。
・バイパー・スラッシュ
「どうして」
「勝負ってのは上手くいことばかりじゃないんだ。いや、むしろ上手くいかない時にどうするかなんだ」
「レギオンを召喚……。ターンエンドです」
壁モンスターとして建てられたレギオンは目の前にいる侵攻兵器を見て呆然としていた。どう見ても、俺らやられますやん! って顔をしている。
しかし、これはよくない。負けるパターンの中でも最悪な奴だ。何もできないまま負けるって言うゲーム体験的にもよくない奴。
「今回は事故について学べたね!」
「ウム。これもまた経験よ。ドロー! 我のターン! 侵攻兵器『Ⅳ/Ⅴ』を召喚! このカードは相手モンスターをATK500上昇の侵攻兵器装備スペル扱いにして装備できる。レギオンを指定!」
踏んだり蹴ったりとはこのことである。憐れ壁モンスターとして召喚されたレギオンまで侵攻兵器に駆り立てられていた。
「更に! 『兵器製造工場』を発動! デッキから『侵攻兵器モンスター』というテキストを含む、装備スペルをサーチする! 我が手札に加えたのは『月光剣(ムーンライト・ブレイド)』だ。装備したモンスターのATKを+500。更に侵攻兵器モンスターのATKを+500! 全員でダイレクトアタック!」
ガルガンは怪獣めいた見た目をした侵攻兵器だが、Ⅳ/Ⅴをスタイリッシュでスリムな人型の侵攻兵器モンスターだ。ガルガンのダブルチェーンソーを食らい、月光剣を食らって、残りMPは800まで削れていた。
「あの。その。まだ4ターン目なんですけれど」
「4ターンも経って、まだ生きているのか。すごいな」
「どういう世界なんですか!?」
実際、3ターンで決着が着くことが日常茶飯事となっているので、場が更地なのに4ターンも生き残っていることは素直にすごいと思っている。
「フィールドにスペルカードは5枚までしか置くことができない。装備スペル3枚とセットカードで2枚埋まっているので、ターンエンドだ」
「僕のターン! ドロー!!」
シュウ君、迫真のドローである。トップで解決というのはカードゲームの醍醐味であるが、引いたカードは何かといえば。
・跋扈するレギオン
「跋扈するレギオンを召喚!! 効果発動! デッキから任意の数だけ跋扈するレギオンを特殊召喚する!」
ここで引き当てる辺り、やはり運を持っている。並んだ3体でコネクシオンをすれば、ロッソ・バイパーからのサルベージと再度コネクシオンでクラウディアス・クリムゾン・ドラゴンまで行ける。……と言うのは、相手の妨害が無い場合での話である。
「セットカードを発動する。『スクラップ・キャノン』はフィールドの装備スペルをセメタリーに送った数だけ、相手のフィールドのカードを破壊する。我は3枚の装備スペルを送る」
「……ヒジリさん。こういう場合って『挺身』は使えます?」
「挺身でリリースするカードまで指定されているから無理だね」
折角引き当てた跋扈するレギオン達が無慈悲に破壊された。もう、後の展開は言わずもがな。奇跡が起きる訳もなく。
「全モンスターでダイレクトアタック!!」
「ひ、ひどい」
何もできずにやられていた。とは言え、これはこれで語るべきことはある。
「シュウ君。初動札が少ないと、こう言うことになるんだ。何もできなかっただろう? こういうのを『事故』と言うんだ」
「でも、ヒジリさん。昨日は物凄く回していたし」
「こういうのは嫌なんだけれど。アレだけブン回っていたのは、滅茶苦茶運が良かっただけなんだ。普通はあんな風には動けないんだ」
ドラマチックなバトルの下には数えきれない位の塩試合やクソ試合が折り重なっている。動けない苦しみを分かってこそ、動ける尊さを知ることができる。というのが、今日のまとめだろうか。
「サクタ君。シュウ君に『クリムゾン』デッキの初動札を案内して上げて欲しい」
「む? それは、ヒジリ殿がやった方が……」
親指で入り口の方を指差す。そこには、再びリーダーと思しき男性と取り巻き達。しかも、どういう訳か全員の髪型がアフロだった。
「俺達は『爆爆爆爆爆・爆ー爆爆(ボンバー)グループ』! このショップをシマとした暁には、利用する度にメンバーに1500円以上のシングル、カードサプライの購入を義務付ける!!」
またもや変な奴らが来た。が、周りのキッズ達は私に期待にも近しい視線を向けていた。ならば、応えるしかない。
「分かった。私のメタビデッキでお相手しようか」
一気に回りのキッズ達の視線が冷たい物になった。いったい、何がいけなかったというのか。と思いつつ、私はいつも通り用心棒の仕事をすることにした。