TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
『ヒジリ! 貴方も小海老りましょう! これからのインヴェは大かき揚げ時代よ! 大丈夫。貴女の分の小海老も確保』
「SNSもすごいことになっている」
翌日。すっかり小海老の虜になったハルカからの電話は一旦置いといて、サクタ君がスマホの画面を見せてくれた。
現在、凄まじい勢いで小海老出張セットによる展開ルートが開拓されており、新弾のカードだが、次回の改訂で規制は間違いなしと言われている程だった。
「あの。ヒジリさん。そんなに小海老出張セットはすごいんですか?」
「そう思って。プロキシを作って来た。とりあえず見て欲しい」
『TEN・PULA』内だと程よく伸びるカードと言う位だが、これを他のデッキと組み合わせたら、どういう動きになるか。
「虚無領域とは嚙み合わせが悪いから『メタル・ビースト』で見せて上げよう。まず『ダイナソー』を特殊召喚して『メタル・ビースト・イーグル・スクリーム』をデッキから特殊召喚。『メタル・ビースト・サウンド・バット』を手札に加える。そして、ここからの展開が違う。この2体をコネクシオン。『TEN・PULA・TALE』。このカードは汎用性を意識してか、効果モンスター2体で特殊召喚できる」
なんで、テーマカードを素材にしないんだ。と思いたいが、天ぷらに掛けるタレが天ぷら素材と言うのもおかしな話だし、天ぷらに風味を付けるという意味ならばコレが正しい。……正しいけれど。
「このカードが特殊召喚された場合。『天麵航路』か『天丼甲板』を手札に加える。ここで『天麵航路』を加えて発動。発動した時の効果処理として『TEN・PULA・KASユニット』をサーチできる。サーチして、効果を発動」
特殊召喚が容易なテーマだったら、コレで爆発の準備は完了と言った所か。モンスターを2枚並べただけで、爆発の準備になるのは酷い。
「さらに『TALE』の効果で、『TEN・PULA』モンスターを1枚セメタリーに送る。当然、小海老を送る。デッキからセメタリーに送られ、送られた時の効果で同名カードを送る。この時KASユニットの効果でフィールドに2体のKASユニットを特殊召喚。更に3体でコネクシオン。『TEN・PULA・極麺戦艦―ウドニア』を特殊召喚。TALEがセメタリーに送られたのでKASユニットを1体特殊召喚」
「あの。召喚権、切って無いんですよね?」
シュウ君が息を呑んだ。そう。テーマのカードをちょこっと使ったが、今は殆ど出張セットだけで展開を続けている。
「『ウドニア』の効果でセメタリーの『TEN・PULA』モンスターを効果を無効にして特殊召喚。『ウドニア』と『小海老』と『KASユニット』の3体でコネクシオン。汎用モンスター『天弓のサジタリウス』を特殊召喚。このカードは素材にしたモンスターの数×1000がATKとなり、相手がモンスター効果を発動した場合。ATKを1000下げることで、効果を無効化することができる。同一チェーン上では1度しか発動できない」
「ターン1は無いんですね……」
「さて、露払い用のモンスターは用意したから、今度は『メタル・ビースト』の展開を……」
「もういいです」
シュウ君も参ったと言わんばかりの様子だ。とりあえず、モンスターが2体並んだら、その時点で『TEN・PULA』展開へと変貌する。
「でも、『速攻の猟犬』を挟む隙もあれば『サイレンス・ルーカー』を挟む間もありましたよね?」
「シュウ君。そういうたらればはあまり頼りにし過ぎない方が良い。それに、速攻の猟犬で潰せるとしても、あのカードは1ターンに1度しか使えないからね。『TEN・PULA』ルートが潰されたら、メインテーマの展開をする。って言うのも十分にあり得るんだ」
今日はごった返すということは無かったが、店内は盛況している。
SNSや動画などで広まったのだろう。『TEN・PULA』出張セットはあらゆるテーマを油まみれにしていた。
「『パティシエーラ』と『TEN・PULA』の夢のコラボだいっけぇー!」
「お腹壊しそう」
近くの席にいた子供達がとんでもないコラボレーションをしていた。スイーツに使う材料と天ぷらを揚げる調理場を一緒にする衛生観念はさておき。
現代ではモンスターを2体並べる展開は何ともないし、むしろ、セメタリーに行った時に効果が発動するモンスターもいる位なので『TEN・PULA』とメインテーマが競合しないどころか手を組んでいる有様だ。
「サクタ君的にはどう?」
「我は、現代のパワカでぶつかり合うのは好きだが、構築の幅が無くなるのは好きではない」
「分かる。同じテーマだけになったら、詰まんないよね」
控え目に言って、コレからインヴェが突き進もうとする環境は私が最も嫌っている物だ。構築幅は極端に狭くなり、『それ○○でよくね?』と言われる。
遊びに最も必要な自由さが無くなり、環境(メタ)によってすべてが拘束される環境は正に忌むべき物と言う外ない。
「おかげで、私はパティシエーラを安く買えたんだけれど……」
ナギサちゃんも不安そうにしている。基本的に、私達は身内だけで回しているにせよ、炸裂団にも『KASユニット』出張セットを組み込んでいる者はいたし、勝とうと思う気持ちを否定するまでは無いが。……目下深刻な問題があれば。
「だが、これは不味い」
「ウム。不味いな」
私とサクタ君が頭を痛め、シュウ君も何となく事情を察して戸惑い、ナギサちゃんだけが疑問符を浮かべていると、私のスマホが震えた。また、ハルカかと思ったら違った。相手はヒナコちゃんだった。
『やっほー。ヒナコちゃんだよ』
「……どうしたの?」
『新弾の売れ行きはどう? もう、あっちこっちから悲鳴が上がっているけれど』
「おかげさまで。電話を掛けて来た。ってことは、何か用?」
『うん。結構重要な会議があるの。来て』
付き合って欲しい。とかではなく、強制力が少し強い。コレは先日のスーパーワールド云々とか。そういう感じでは無さそうだ。
「私一人だけで?」
『うん。他に誰も連れて来ないでね。予定は……』
数日後であるらしい。わずかの間だが、新弾の買取やら何やらで忙しいことを汲んでくれての事だろうけれど。
「全く。私はただの用心棒だというのに」
『そう思っているのは、お姉さんだけだよ。じゃあ、また後日』
と、短く用件だけ告げて電話を切った。皆して、私のことを暇人か何かだと思っているんだろうか? こうして、カードショップで後方師匠面をするという大事な仕事があるというのに。
「ヒジリさん。また、何処かに?」
「そんな所。ここ最近、色々な人に振り回されているんだよね」
シュウ君が若干不安そうにしている。……本音を言うと、もう少し彼に構いたい気持ちはあるし、色々と連れ回したいとも思うのだけれど、彼の母親と会ってしまった以上、邪な願望が過ると。どうしてもセーブが掛かる。
「色々な人に頼りにされているんだなって思うけれど。……ちょっと。寂しいです」
「…………しょがないなぁあああ。今日は忙しさも幾分かマシになったし、一緒にインヴェしようかぁ」
パァっとシュウ君の表情が明るくなった。……思えば、サクタ君やグループの子達と関りを持つようになったのは、この子が始まりだったんよね。
「じゃあ、久々にメタビを使うね」
「嫌です……」
ちゃんと嫌って意思表示をされる位には信頼されていると思ってもいいだろう。『虚無領域』も『TEN・PULA』も拒否られたので、私は仕方なく『メタル・ビースト』デッキを回すことにした。