TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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47枚目:庇を貸して母屋を取られる

『お姉さん。今日はどうだった?』

 

 退勤した後、家でプチ贅沢を楽しんでいるとヒナコちゃんから電話が掛かって来た。再生中の動画のボリュームを下げて、通話に応じる。

 

「怒涛の如く、シマ取りが来たよ。全員返り討ちにしたけれどね。おかげで、店内のサプライヤーとストレージは気持ちいい位に無くなって、無くなり過ぎて店長が頭を抱えていたよ」

『それはよかった』

「良くないよ。これが続いたら、他のお客さんが入り辛くなるじゃないか」

 

 グループの連中は短期的に見れば金を落としてくれるが、長期的に居座られたら、インヴェのメイン層と言えるカジュアル勢が離れてしまうので、あまり望ましい所ではない。

 

『でも、店内の様子を見るに。カジュアル勢の子達も楽しそうにしていたけれど』

 

 ピッと。動画のURLが張られたので、PCの方で再生する。今日は勝負が多すぎて、ギャラリーが何を言っていたかまるで記憶にないが……。

 

『すげぇ塩試合だ! エビは塩で締めるのが一番ってことか!』

『なんで、毎回。回す為の札が来るんだよ!? 積み込みじゃ無ければ、もはやオカルトの領域だろ!』

『うぉ。海老も落とせなくて可哀想。不良共のプレイが不漁だな!』

『この試合、さっきも見た』

『ニュークイーン(笑)だけじゃなくて、ニューリーダー(愚)も誕生だな!』

 

 アレ? ウチの店って、こんなに治安悪かったっけ? というか、ギャラリーの中には敗北したグループの面々もいたりするし、もしや他のグループが負ける所を見に来ているんだろうか。

 

「何だ、この映像は。治安悪すぎだろ」

『でも、コメントは好評だよ』

 

 コメントには『楽しそう』だとか『ここに行けば煽る練習ができる』等。店長が頭を抱えそうな書き込みがされていた。まさか、コレで本当に来る奴はいないだろう。……多分。

 

「コレだけ拡散されて、なおかつ煽られまくるって分かったら、挑戦しに来る奴も減るに違いないね」

『本当? 負けてもめげない、しょげないが基本のインヴェプレイヤー達が思い留まるとでも?』

 

 何が困るって。反省はするってことだ。ただし、プレイングだけで己の素行は含まれないのだから質が悪い。

 更に、小海老出張セットは外付けで展開力を上げるという性質上、時間が経てば経つほど、メインデッキの外付けパーツとして猛威を振るうことになる。……と、考えたら減りそうにない気がする。

 

「電話して来てくれた。ってことは、アレだろ? 協定とかそう言うので、新しい取り決めがあって、私の負担を減らしてくれるとかそう言うのだろ?」

『そんな直ぐに取り決められる訳ないじゃん。ウチのニュークイーンちゃんも『再戦すんで!』って意気込んでいるし』

 

 どうやら、あの挑戦者ちゃんはちゃんと『ニュークイーン』の称号を授かったらしい。次も再戦してきたら、もっとひどいあだ名を付けよう。というのはさておき。

 

「じゃあ、なんで連絡を?」

『……実はさぁ。ウチの系列店でちょっと売り上げが芳しくない店舗があってさ。お姉さんを招待してだね。期間中は、該当店舗のみで挑戦できて、勝っても負けても色々と買い物をして貰って……』

「じゃあ、私。寝るから」

『あ! 切らないで! でも、在庫無くて困ることってあるんじゃないかな? 発注しても、問屋から卸されるまでのラグでチャンスロスはしたくないでしょ?』

 

 ここら辺は経営の話になって来るから、何とも言えない。ただ、客が来ているのに売る商品が無いという状態は惜しいと言わざるを得ない。

 

「悪いけれど。そう言った話は私じゃなくて、店長にして欲しい。用心棒に経営のことはよく分からないから」

『そう言う提案もあるってことを話しておきたかったんだ。恐らく、別口でも連絡か営業があるだろうからね。それじゃあ、お姉さん。お休み』

 

 電話が切れた。プチ贅沢のハーゲンダッツ(マカデミアナッツ)を口に運びながら、ヒナコちゃんの話を考える。

 

「(昨日だけで、カードサプライヤーも大量に売れていたし、他の店舗から見れば、垂涎の状況ではあるんだろうけれど)」

 

 ただ、売れ方としては歪という他無い。健全さは皆目見当たらないし、こんな商法は頼りにしないで欲しい。

 売る物が無くなったら、頭を下げれば良いだけだ。店長もバカじゃないし、コレを機に大量入荷。なんてバカな真似はしないだろう。

 

『どうだろうね。あの店長さん、不愛想だけれど誠実だからね。折角、来た客をがっかりさせないように無茶するかもよ?』

 

 普段は『ヴォイド・マン』ばっかりが話しかけて来るが、プレイが絡まない時ならマザゴンもしばし話しかけて来る。しかし、こういった時に茶々を入れる奴もいる。

 

『いいえ。どちらかと言うと、こういう時は店長さんの人柄に付け込んで来る奴がいるんです。私は詳しいのです。……と言うか、マスター? 正に、今。ヒナコさんに付け込まれようとしていましたよね?』

 

 そもそも。経営側の視点がある人間なら、今回の事態位は簡単に予想できる訳で。……いや。

 

「(グループが挑戦を解禁するって取り決めを知っていなければ、そんなにすぐには動けないハズだよな?)」

『意図的に動かした訳ではないにしても。結果的にこうなる。と分かった上で、ヒナコさんは交渉を持ちかけて来たのかもしれませんね』

 

 ムーヴが武器商人めいている。彼女がグループの活動に協力しているのは、そう言うことだろうか?

 ハーゲンダッツ(マカデミアナッツ)の空き容器を捨てて、次にハーゲンダッツ(クッキー&クリーム)を開けようとしたが。

 

『デブ活をしてないで寝な』

『そうですよ、マスター。メタビはしても良いですが、メタボは駄目ですよ』

 

 仕方なく。私はアイスクリームを冷凍庫に直して、シャワーを浴びながら歯磨きをしてベッドに潜った。明日はどうなることやら。

 

~~

 

「サクタさん。どうして、グループの人達はシマ取りの後に必ず物を買っていくんですか?」

 

 翌日のことである。今日も今日とて『ヴォイド・マン』とメタビの品々によってグループの挑戦者達を血祭りにあげ、観客は大いに盛り上がり、サプライヤーからシングルまで在庫が枯れていく中、シュウ君が尋ねていた。

 

「理由は幾つかあるが、我が一番感じた理由があるとすれば。『気が引き締まる』からに尽きる。対価の無い挑戦は、1度の勝負が軽くなってしまうからな」

「店側としても。時間とスペースを取られる上、金まで落としてくれないとなれば出禁にしたくもなるしね」

 

 店側とグループ側のやんわりとした合意の上で行われている。見方を変えれば、挑戦権を買っているとも言えるのだ。

 

「でも、そんなに毎回買うものが?」

 

 ここに来て、インヴェ歴の浅いナギサちゃんから素朴な疑問が来た。彼女のデッキはようやく二重スリーブになり始めたばかりので、わかり辛い所だろう。

 

「ナギサちゃん。インヴェプレイヤーと言うのは常に欲しい物が沢山あるんだ。スリーブ以外にもね。ほら、手ごろな価格でシングルカードが並んでいるだろう?」

 

 当然だが、新弾が出ると大量に剥かれる訳で。一時期は高騰するが、話題に上がったモノ以外は売られて、100円で買えたりする物もある訳で。

 『TEN・PULA』も出張セット以外は手ごろな価格だし、『パティシエーラ』は更にお買い求め易くなっているので、これを機会に買って組んでみようという人間だっている訳だ。イラストアドもデカいだろうが。

 

「そんなに沢山デッキを?」

「インヴェプレイヤーは沢山のデッキを使いたいのさ。もう、サプライヤー以外にもショーケースまでガラガラだけど」

 

 マジで何かしらの襲撃を疑う様な空き空きだ。利用者達は通常運行なのだが、ショップとしての機能は大部分が機能していないだろう。

 

「あのぅ。ヒジリさん」

 

 見れば、ヨシコちゃんが制服から私服に着替えていた。退勤するにはまだ早い時間だとは思うが。

 

「どうしたんだい?」

「すいません。店長から、もう今日の仕事は無いから早上がりしても良いって。お先失礼します。お疲れ様です」

 

 と。ヨシコちゃんが先に帰って行った。……まさか、そんなに売れまくっているとは。カウンターを見れば、店長が手招きをしていた。

 

「ヒジリ。バックヤードに来い」

 

 店長に招かれ、バックヤードに向かう。

 裏口を見れば、見慣れないバンが2台。私の記憶にある限り、この時間に搬入されたことは無かったハズだが。

 

「やっほー。お姉さん、そろそろ困って来た頃じゃない?」

 

 助手席からヒナコちゃんが顔を覗かせていた。……昨日の今日なので、用件は何となく分かる。

 

「もしかして。サプライヤーとかシングルカード。積んできている?」

「ご名答。直ぐに手配できる訳じゃないだろうし、ウチにある在庫を分けて上げようと思ってね。もちろん、お金は貰うけれど」

 

 店長を見る。普段ならきっぱりと首を横に振ってくれるところだが、ヨシコちゃんを帰す位に商品が無くなっているんだから、正に渡りに船。と言わんばかりのタイミングなので断りもできないだろう。では、もう一方はと言うと。

 

「連盟から連絡を受けましてね。業界の大手としてサポートすべきだと考えて、馳せ参じました」

 

 どうして、ライジング・スターの社長が直々に来ているんだろうか?

 連盟からの通達と言うことであれば納得はできるが、助けに来たというよりかはビジネスチャンスを見込んで。としか思えない。

 

「連盟から連絡を受けて。って、どう見ても体よく在庫処分の為に持って来た。って風にしか見えないんだけれど?」

「そう言う、貴女は『リリウム・サンクチュアリ』のスポンサーでしたね。私の目にはマッチポンプで売りつけようとしている風にしか思えませんが?」

 

 バチバチと火花が散っている。なんでこんな面倒臭いことになるんだ。

 

「店長。とりあえず、店の営業的に考えて両方受け取っておきましょう。交渉の方は閉店後に……」

 

 と言いかけた所で、スマホが震えた。見れば、退勤したハズのヨシコちゃんからだった。電話を取る。

 

『すいません! グループの人達がシマ取りに来ていて! 帰る直前に忘れ物を取りに来たら、2人共いなかったので!』

「了解。ありがとうね。店長」

「……分かった。ただし、買い取るって形だ!」

 

 タダより高い物はないというし、金を払うということで一つの区切りはできる筈だ。……ただし、一つ問題がある。

 

「ありがとうねー」

「では、搬入、陳列はウチのスタッフが行いましょう」

 

 ニシダが乗って来たワンボックスカーから数人のスタッフが出て来た。そして、テキパキと商品を運び入れて行く。明らかにベテランの仕草だ。

 店長も苦い顔をしている。商品を搬入できても、人手までは補えないからだ。私も用心棒の仕事をしに行くしかない。

 

「(何だろうな)」

 

 グループの言う遊びのシマ取りじゃない。搬入や陳列等、店の内臓とも言える部分を代替されている感覚がシマ取り以上の侵略行為を感じずにはいられなかった。

 

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