TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
店内は正に戦争と言った状態だった。シマ取りに来た有象無象共との戦いによって。ではない。
「おいおい、なんかメッチャ商品入って来てない?」
「てか、あの人。ライジング・スターの店員さんじゃないのか?」
客達も気付いている。ヘルプに入ってくれている店員さん達は無地のエプロンを付けているが、TCG界隈と言うのは思ったよりも狭い。ウチに来ている客さんの中に、顔を知っている者がいても不思議ではない。
加えて、並んでいる商品も強かった。こういった時、不良在庫とかを持って来られる物だと思っていたが、そうではない。
「おいおい、このオバスリ。ライスタの本店でも売り切れていた奴だぞ。ここに入って来るのかよ」
「嘘でしょ? なんで、あの限定プレマが?」
あからさまに人気商品や価値の高い物をぶち込んでいる。
撃退したグループの連中もとりあえず程度で買うのでは無く、欲しい物を吟味しているし、観戦していた客達も群がっている。
「ニシダ社長。サブ立てますね」
「プリンタ持って来たよ」
裏から出て来たヒナコちゃんが小型のプリンタ(レシート用)を持って来た。
ここら辺はイベントなどにも出店するチェーン店のノウハウや強みを感じる所で、店長も渋々頷いていた。
「ありがとうございます」
そして、やはり私が注目するのは接客だ。とにかく確認も早く、それでいて丁寧だ。声の抑揚やラッピングも含めて、本当に精鋭が連れて来られたんだと感じる。タブレットによって増設されたレジも滞りなく使用できており、客が続々と商品を手にしていく。
「ヒジリさん。これって」
「よくないね」
シュウ君も店内に漂う異様な雰囲気を感じ取っていた。子供によるシマ取りじゃなくて、大人による実行支配をヒシヒシと感じる。常連の少年がコチラに近付いて来る。
「ねぇ。今日みたいな入荷とかイベントって。これからもやるんですか?」
「……うーん。ごめん。私は営業に関してはちょっと分からない」
聞き耳を立ててみれば、レジの所では客と出張店員が今後もやってくれるのかとか。そういうことを話し合っていた。
ライスタの店員達は『今回は急遽と言うことで』。と、話してくれているが客達の期待の眼差しが、そこはかとなく店長に向けられていた。
「ヒジリ殿。不味いことが起きている」
スッと。サクタ君がSNSを見せてくれた。案の定というか、フィロソフィーの情報が拡散されていた。即ち、客も増えるし。中には。
「我ら『疾風(ゲイル)隊』! この店は何やらとてつもない変化が起きようとしているようだな! 兵は神速を貴ぶ! 今の内に取って、シマ取りのトップだ! 負けたとしても。色々と買っていくがな!」
「インヴェプレイヤーが負ける前提で話すんじゃないよ」
買い物がてらにシマ取りとか言うクッソ迷惑な連中まで現れた。既にグループメンバーは買い物を始めており、勝負は勝てばラッキー位の浮ついたスタンスが駄々洩れだった。正直、かなり不快だ。
『なんでしょうね。カドショ内の主役を奪われている様で、面白くありませんね』
フィールドに出したヴォイド・マンからそう言った嘆きが聞こえた。この賑わいは閉店の時間まで途切れることは無かった。
――
「つ、疲れた……」
今まで、溜め込んでいた用心棒の仕事が一斉に降り掛かって来たかのような忙しさだった。私が座席でグッタリしていると、目の前によく冷えたコーラが置かれた。
「お姉さん。お疲れ様。いや、ちょっとPOSの方を覗かせて貰ったけれど。今日の昨対比400%だってさ」
「去年の同日と比べて、4倍売れているってコト?」
「そうそう。アレだけ補充したのに、店内カスカスだもんね」
ヒナコちゃんとニシダ社長が急遽持って来てくれた品々は見事に売り切っていたし、何ならあの後に追加も来たが、それでも売れ続けていた。
「正直に言うと。善意でやってくれていたかもしれないけれど、ちょっと迷惑な領域だったかな」
「キャパオーバーしていたからね。でも、明日はもっとすごいことになると思うよ。SNSや動画でも拡散されているしね。―――お姉さん。明日、耐えられる?」
無理だ。挑戦自体は耐えられないことも無いが、今日みたいに客が殺到したら捌き切れない。
「耐えられなくする為、あんな商品持って来たんだろう? 品薄だったり、限定品だったり。あんなのを入手できたら、また来るに決まっている」
「それは誤解だね。私達は不良在庫を押し付けるつもりはない。ってことで、ちゃんと売れる商品を持って来ただけだから」
そう言われたら、私も非難することができない。渡されたコーラをチビチビ飲んでいると、バックヤードから店長とニシダ社長が出て来た。
「ヒジリさん、今日の用心棒としての御活躍。見事でした。ハルカさんが期待するだけにあります」
「それはどうも。コチラもニシダ社長達のおかげで、お客さん達にも満足して貰えましたからね」
普段、こんな皮肉を言わないのだけれど。それでも飛び出してしまう程度には、私もイライラしていたらしい。
「はい。カードショップに携わる者として、界隈の発展とお客様のご満足は何よりも大事にするもの。ですが、現在のテルアキさん達に捌き切る為の能力がないことは明白」
店長が苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
本来なら、こんな状況を作ったグループや過剰に売れる状況を作ったニシダ社長やヒナコちゃんに悪態の一つも吐いて良いだろうに、押し売りみたいな形だとして、商品を届けてくれたことに恩でも感じているのだろうか。
「なんだい? まさか、次回の改訂が来るまで。この店をライスタの出張店にでもするつもりかな?」
「それでは、後が続かないでしょう。私達のやり方で染め上げても構いませんが、そうなれば傘下に入って貰う他ありません。お二人が同意してくれるなら、歓迎いたしますが」
「断る」
取り付くシマもない。私も店長に同意するし、この店は大手の手土産にする為に開いた物ではない。
「なので、この店の独立性を守りつつ。お客様にも満足していただく方法があるとすれば、ヒジリさん。貴女がウチに来れば良いのです。そして、当店でフィロソフィーのシマ取りを掛けた戦いをして貰えば良い」
「おいおい。それじゃあ、ライスタが得するばかりで、この店に得なことが無いじゃないか」
用心棒はグループや与太者を迎撃する役目が主だが、そう言った奴らを打ち負かして金を落として貰う。という集客装置的な側面もある。
店の混雑は無くなるかもしれないが、同時に『フィロソフィー』の売上にも響いて来るので引き抜きには応じ難い物がある。
「売上の6%。ヒジリさんがウチに来てくれた場合、この店に売上の6%をレンタル料として渡しましょう。そして、貴女に2%を報酬として支払います」
パーセンテージだけを聞くと少なく聞こえるかもしれないが、ライスタなんて言う大型チェーン店における1日の売上の1%……。果たして、小型店の何か月分に相当するだろうか?
「ニシダ社長。それは、私を買い被り過ぎでは?」
「コレでも経営者として養って来た目があるので。直ぐにとは言いません。連盟からの達しもあります。数日の間は、ライスタからスタッフを貸し出しましょう。……その時の店の状況で判断してください」
判断。という部分も含めて、テストなのだろう。そして、またもバックヤードに引っ込んだ。店長も付いて行こうとして、一旦立ち止まった。声をかける。
「店長……」
「お前が判断しろ。……って、責任を擦り付けるつもりはねぇ。正直に言うと、ここまで騒ぎが肥大化するとは思っていなかった」
当然だ。私だって、この事態には戸惑っているんだから。グループのシマ取りなんて子供の遊びごとがここまで力を持つなんて思っていなかった。
「……今のウチじゃ、お前を扱ってやれるだけの能力がない。ニシダは売り上げの6%云々っつっているが、ソイツはお前が持っていけ」
「嫌だ」
「あ?」
なんか、湿っぽい雰囲気で私を追い出そうとしているが、私は雰囲気で押し流される人間はないぞ。
「この店じゃないと嫌だ。シュウ君やサクタ君。ナギサちゃんとも遊べないし、第一。ここが家から一番近いんだ。それに」
「それに?」
「ストレージで遊べないじゃないか」
暫しの沈黙の後。ひじょ~に珍しいことだが、店長がカラカラと笑っていた。
「違ぇねぇ。そんなバカなこと出来んのはウチ位だな」
「だろ? でも、暫くは店も大変だろうし。一旦出張位はするよ。でも、また戻って来るからね。私の代わりの用心棒とか雇わないでね」
「おぅ。行ってこい」
憑き物が落ちたような感じで、店長はバックヤードに向かった。私も後でニシダ社長に申し入れをしないといけないだろう。
「お姉さんが、そんなにこの店を気に入っているなんて」
「君にとっての『リリウム・サンクチュアリ』みたいな物だよ」
照れ臭くて、あんなことを言ってしまったが、行き場の無かった私に居場所をくれたことにはずっと感謝しているし、『ヒジリ』としての心は、この店と一緒にある。
「そっか。……じゃあ、気が向いた時はウチに遊びに来てよ。じゃあね」
「うん。ヒナコちゃんも今日はありがとうね。商品以外にも色々と持って来てくれていたし、POS周りも弄ってくれていたんでしょ?」
「接客部分はベテランに任せた方が良いからね」
あまり経営に詳しくはないが、POS位は分かる。商品の在庫や管理状況に関するデータで、コレが無いと何があるか売れたかも把握できないので、経営をする上では欠かせない情報だ。
今日は大量の入荷もあったので、そう言ったのを管理するのも大変だっただろうから、ヒナコちゃんがまとめてくれていたらしい。
「……なんで。こんな大事になるかな」
「お姉さんが、それだけの人だからだよ」
元を辿っても大した存在。というほどではないのに、一体どうしてこんなことになっているのか。コーラの空き缶を捨てて、私はバックヤードへと向かった。明日からは、一体どうなることだろうか?
環境が揺れ動いているが、私の環境まで左右されるとは思わなかった。私の人生には、きっと何処までもインヴェが付いて来るんだろうなという確信があった。