TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
フィロソフィーの客が雪崩れ込んで来てから数日。店頭に張り出されている告知に客達が集まっていた。
「『用心棒である『ヒジリ』とのフリーマッチは大変ご好評につき、店舗の許容量を超えた客入りが慢性化している状況を受け、混雑が緩和するまでの間。該当プレイヤーは『ライジング・スター』本店へと一時移籍しております。ご用件の片はそちらへどうぞ』。……だって」
「やっぱり、あの時。ライスタの店員が来ていたのは、移籍ありきだったんじゃ?」
ネットや公式サイトを確認するに、フィロソフィーおよびライジング・スター本店にも同じ通知が出されていた。
グループにも通達が行っているのか、ここ数日はピタリとやんでいた。と、同時にライスタのスタッフや商品も引き上げられていた。
「ヒジリさん……」
いつも、背後で薄ら笑いを浮かべながらストレージを弄ったり茶々を入れていた店員がいない。というだけで、日常にポッカリと穴が空いてしまった様な気がしていた。……店内がいつもより静かな気がした。
「素行やデッキは兎も角として。ヒジリ殿は、この店に欠かせない存在だった。ということは、間違いあるまい」
サクタの言葉に炸裂団の面々も頷いていた。最近はグループ関係が忙しかったのか、あまり構って貰えないまま居なくなられたので、シュウの中にあるモヤモヤした感情は大きくなるばかりだった。
「シュウ君。店長さんも一時的な物だって言っていたし、帰って来るよ」
ナギサから慰められたし、子供である自分にできることは限られている。だからと言って、何もせずにはいられなかった。
「サクタさん。お願いがあります」
「ウム。何をしたいか、聞かせて欲しい。友人として力を貸そう」
――
移籍は段階を踏んで行われた。まず、私が『フィロソフィー』を去った後に起きるであろう混雑とクレームを避けるために最初の数日はライスタの店員が業務を代替して、その間に色々と取り決めをしていた。
「貴方はあくまで用心棒としての仕事だけをしてください。他の仕事はウチのスタッフが行いますので」
「分かった。でも、良いのかい? グループが挑戦に来たら、治安の面でも関わって来るけれど」
「ウチが誰を相手にした商売をしていると?」
大型店なので当然そういう奴らも多いのだろう。スタッフさん達の苦労が偲ばれる。……しかし、大型店で負けるということはその分、大勢の人間に晒される訳で、そんな中で挑戦して来る奴がいるとは思えないが。
「我々は『ジュラシック帝国』! インヴェをダイナソーに染め上げる集団だ! 俺達のシマは消滅してしまったが、お前さえ倒せばジュラ紀の再来だ! ……確認しておきたいけれど。俺達が勝てば、フィロソフィーをシマにして買い物して、負けたらライスタで買い物すれば良いのか?」
なんで、店側の迷惑を考えない集団の癖に売上とかそう言うのは気にするんだ。その認識で良いと返すと、向こうのリーダーと思しき男が席に着いた。
いつもと変わらない流れではあるが、環境は大きく違う。特に違うのは周りの目だ。単純に客が多いので、見に来る人が多い上。
「へぇ。コレがウワサの用心棒とグループの!」
ライスタを利用する客と言うのは個人店を使わない者も割といるのか、グループと用心棒を始めて見る。という様子の客も確認できた。……仕方ない。
「えー。確認するけれど、用心棒とのシマ取り戦のMPはスタンダードルールの半分。そして、防衛側が必ず先攻になる。OK?」
「ギャラリー向けへの説明と言う訳か。こんな特殊ルールだから不覚を取った。なんて言い訳には使わせんからな! さぁ、勝負!」
いつも通り、シャッフルして、相手に渡してカットを入れて。
実は私が毎度つよつよな引きをしていたのは、フィロソフィーと言う空間に根付いた不思議な加護のおかげだったので、アウェーで行う防衛戦は目も当てられない位にボロ負けしてしまう……
『イェーイ! イェーイ! お前の『TEN・PULA』。カブトガニ味―! この場の空気ヒェッ、ヒェッの氷河期! 絶滅待った無しだな!』
なんてことは無く。いつも通り、メタビはスッパリ決まってジュラシック帝国を名乗りながらも、甲殻類に媚を売る不埒な輩をメタビでボコボコにしていた。
「マジかよ。動画で見ていたけれど、なんでこんなにメタビが回るんだ?」
「積み込み。じゃないよな? カット入っていたハズだし……」
「もしかして『小海老』のメタにも……」
やはり、メタビが回ることが不思議に思われている様だ。そんなことを言われても欲しい札が来るんだから仕方がない。
「ヒャハハハハ! 俺らのグループをボコってやがった、ジュラシック帝国がボロ負けしてやがる! 気分が良い!!」
「グループのテーマに縛られず、新しい力を積極的に手に入れようとする貪欲な姿勢はえらいね♡ 魂を捨てた恥知らず共がよ」
「うぉっ。すっげぇ、塩試合。海老塩かな?」
そして、案の定というか客が多いので治安も悪くなっていた。大勢の前で赤っ恥を掻かされて、ジュラシック帝国リーダーのメンタルはボロボロに朽ち果てていた。グループのメンバーは薄情なことに、自分達の買い物をしていた。
「ど、どうして勝負を仕掛けたんだ。負けたら、死ぬほど煽られて尊厳がボロボロにされる位は分かっていたハズだろうに」
「いや、でも、ホラ。俺なら勝てるんじゃないかって。それを大勢のギャラリーの前でやれば、こう。伝説になるかと思って」
一発逆転思考が成功した試しは殆どない。大体は夢を見せるだけ見せて、搾取されるのがオチだというのに。
でも、グループの連中もそんなバカな奴ばっかりじゃないハズだ。ジュラシック帝国は先走ってしまっただけなんだ。とか思っていると、入り口の自動ドアがガーッと開いた。団体さんだ。
「自分達は『雷牙群』であります! ここに来れば、件の用心棒と戦えると聞いたのであります!」
「もしかして、君達のメンタルはとんでもなくタフなのかい?」
思ったよりも私は目の敵にされているらしい。と、同時にフィロソフィーでやらなくて良かったと思った。ライスタと言う大型店舗の在庫に凭れ掛かりながら、やって来るグループを千切っては投げていた。
――
フィロソフィーとライスタの本店は地理的には結構離れている。シュウとナギサを引き連れたサクタは電車に揺られていた。
「あの。ライスタって、どんな所なんですか?」
「業界大手と言うだけにあってイベントも多いし、品揃えもすごい。我もデッキを作るときは、そちらに向かう」
サクタも場所として利用する傍らパックやカードサプライヤーを買ったりはするが、シングル買いをしている所はシュウ達も殆ど見たことが無かった。
「サクタさんから見て、フィロソフィーって品揃えはどうなの?」
「店の規模にしては欲しい物が置いてある。と、言った印象であるな」
質問したナギサとしてもイマイチ理解し辛い回答だった。電車が停まり、改札を潜り、駅を出て暫く歩き目的地に到着した。……のだが。
「負けろ負けろ負けろ負けろ。他の奴ら負けろ」
「『HU-MAN』の奴らに目に物を見せてやる! 一発逆転だ!」
「ここに集まった我々はシマ取りのチャンスを与えられた強き者達」
全員が道端でデッキケースを取り出して中身を確認するなど、バッドマナーをかましまくっていて異様とも言える光景が広がっていた。
そして、店からゾロゾロと集団が出て行く。彼らの手にはビニール袋やら何やらが握られていた。そして、別の団体が入店していく。もはや、何が起きているかは言うまでも無かった。
「ヒジリさんは一体、何に巻き込まれているんだろう?」
もはや、シマ取りとか用心棒と言うレベルを飛び越えて、もっと別の要因で執着されている様な。そんな気さえした。